FAIRY EMBLEM   作:jyosui

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不穏なサブタイトルにしましたが誰も死にゃせんのでご心配無く。

しかし比翼総選挙、ペース早くない?もうヘクトル&エフラム、セリカ&ヴェロニカ出した結果メガフィヨルムちょい空気になってませんこと?でも今回のストーリーは好きだった。

それはそれとして、
ヘクトル「俺槍より斧の方が得意なんだけど」
エフラム「奇遇だな、俺は槍の方が得意だ」
の会話は笑った。確かに逆だわあんた達。


100章 涙のわけ

2日目を迎えた大魔闘演武。昨日の闘技パートで得た勢いに乗っかりたい妖精の尻尾だが、そうはいかないのが大魔闘演武。

 

「「「「「……………。」」」」」

 

妖精の尻尾はAチーム、Bチーム、応援席の全員が目を点にし、口をポカーンと開けて呆然としていた。その理由とは。

 

「何故ナツを出した!?」

戦車(チャリオット)って競技名の時点で予想できるよね!?」

「どうしても出ると聞かないモンでな………」

 

競技名、戦車。クロッカスの観光名所を巡りながら会場であるドムス・フラウまで走る、連結された戦車の上を落ちないように走り抜ける、マラソンのような競技である。そう、戦"車"………乗り物である。

 

「お、おお………おぷ………」

《先頭より遥か後方、妖精の尻尾Aのナツ選手グロッキー状態です!!》

 

よりによって乗り物がダメなナツが意気揚々と参加したのである。そして惨事は連なる。

 

「な………なぜ、おれ、が………!!」

「おおお………」

《そのすぐ近くで妖精の尻尾Bのガジル選手と剣咬の虎のスティング選手までもがグロッキーです!!》

 

対抗心を燃やして立候補したガジル、そしてついでに剣咬の虎のスティングもナツと同じように今にも吐きそうな顔でヨタヨタと走っていた。

 

「ガジル君、「乗り物酔いは火竜(サラマンダー)のアレだから問題ねぇ。ここで蹴散らしてやる。」って息巻いてましたが………」

「………俺は止めたんだがな。アレは滅竜魔導士特有だって。」

「あら、つまりラクサスも………?」

「………誰にも言うなよ?と言うかリューク、お前は平気なのかよ。確か魔導二輪普通に乗ってた記憶があるが。」

「………ああ、そう言えばちゃんと説明した事あったかな?」

 

Bチームの控室でリュークが、そして応援席で同じ質問を投げかけられたアイズが説明を始めた。

 

「滅竜魔法の本質は"その身を竜と同一の特性を持たせる"事にある。普通の人間と比べて五感が優れていたり、身体が丈夫なのは、アイズの言葉を借りるなら"人の身でありながら竜になる"って言えるわけだ。」

「………ですがその五感の強化に、どうやら人間の三半規管が追いつかないようで、その"ズレ"が乗り物酔いに繋がります。そしてそれは滅竜魔導士として成長………つまり"竜に近づく程"顕著になります。」

「一方で俺やアイズ、あとはお姉ちゃんもか、は分類としては竜人族………最初から人と竜の両方の姿を持って生まれて来てるから滅竜魔導士の"ズレ"が無く、乗り物酔いしないって話………と、長々と話したけど結論は"後天的か先天的か"の違いだけだよ。」

 

話をしている内に過半数のチームはゴールイン、その遥か後方でグロッキーの3人の滅竜魔導士はほぼ戦車に乗せられているだけも同然のぐだぐだっぷりだったが、最後の最後にナツ、次いでガジルが根性を見せスティングより先にゴールインした。

 

==========

 

「ごめんね、わざわざ手伝って貰って!!」

「厄介事押し付けてるのはこっちだ、このくらいはするさ。」

 

お昼時になり、リュークはマグノリアのアンナや老アンナと共に物品の搬入の手伝いをしていた。昨日の今日で闘技パートに呼ばれる事は無いだろう、と言う判断のもとマークを匿ってくれているせめてもの礼として手伝いを申し出たのがきっかけである。

 

「昨日一番活躍した魔導士にこんな雑用を任せるなんて、申し訳ないわ。」

「でも助かったわよ。ウチはどうしても女ばかりだからね………」

「だから、どうしても余計な筋肉ついちゃうのよね………」

「でもそれが長く続けられる秘訣にもなってるんじゃないですか?」

「そうかもねぇ………今でも、そこらのチンピラくらいなら、訳ないわよ?」

「………お祖母ちゃん、流石にもう無茶はやめて欲しいわ。」

 

人手、特に男手が欲しい搬入作業と言うタイミングでの手伝いの申し出だったのでアンナ達はリュークを歓迎したのだが、昨日一の激戦を繰り広げた魔導士が裏に来ると予想できるものなどおらず、他の作業員やスタッフからはすれ違う度に驚きの表情と共に振り向かれていた。

 

「………そう言えば。リューク、あなた昨日一体何をしたのよ?」

「………と言うと?」

「昨日からマークちゃん、ずっと泣いてたの。あなたの試合を観てから日が暮れるまで泣いてたし、夜中にあなたが連れて帰って来た時もずっと泣いてたのよ?」

「………昨日のアレはやっぱりそうだったんだ。でも、ええ………?」

 

大量の荷物を抱えながら困り顔になったリューク。

 

「………まだ、彼女の正体に辿り着けていないみたいね。」

「………それはヒントですか?」

「そうとも言えるわね。」

「………涙の、わけ………か。」

 

==========

 

「………あら?」

 

その頃のルーシィ。医務室でだいぶ元気になったウェンディや、逆にグロッキーになって運び込まれたナツを見舞ってから出ると、目立たない所に1人ポツンと座っているマークを見つけた。

 

「隣、いいかしら。」

「………!!」

「安心して、戦うとかそんなつもりは無いから。それよりも………お腹空いてない?」

 

マークの隣に座ったルーシィ。すると弁当箱を取り出し、中に入っていたサンドイッチを自分とマークの間に置いた。

 

「どうぞ。あたしが作った訳じゃないけど。」

「………いただきます。」

 

恐る恐る手を伸ばしてサンドイッチを取ったマーク。だが一口食べるとピタリと止まってしまった。

 

「……………。」

「どうしたの………って、まさか!?」

 

マークが口をつけたサンドイッチの反対側を一口分ちぎって口に入れたルーシィ。

 

「違うなぁ………リュークが作ったやつだから、もしかしたら鋼の味になってたかも、って思ったけど………うっ!?」

 

首を傾げながら自分のサンドイッチにかじりついたルーシィ。だがそっちが"当たり"だった。

 

「こっちだったかぁ………!!って、それよりも大丈夫だった!?口に合わなかった!?」

「………ごめんなさい、勘違いさせてしまって。おいしいです………とっても、おいしくて………」

 

するとフードの隙間からポロポロと落ちるもの。それは水滴だった。

 

「おいしくて………懐かしくて………!!」

「……………。」

 

自分の手にある鋼味のサンドイッチをさっと飲み込むと、ルーシィはマークを優しく抱き寄せた。

 

「………あんたの、両親は?」

「………母さんは、ここに来る直前にはぐれました。たぶん、今はこの街のどこかに………そして、父さんは………恐らく………」

「……………。」

 

ルーシィはより強くマークを抱擁した。

 

「何かあったら、あたし達を頼って。」

「………でも。」

「昨日も泣いてたのは、あたし達から"懐かしい雰囲気"を感じたからでしょ?」

「……………。」

「何でかは知らないけど、この際は何でもいいわ。あんたがお母さんに会えるまでは、あたし達が守ってあげる。」

「………ごめんなさい。」

「謝らないで、あたし達が好きでやってるんだから。………残りのサンドイッチ、食べる?多分、大丈夫なハズだけど。」

「………いただきます。」

 

残りのサンドイッチを完食した2人。幸いこれ以上鋼味のサンドイッチは出て来なかったが、別の問題が発生した。

 

「おう、ねぇちゃん。」

「!?」

「ちょっと一緒に来てもらおうか。」

 

2人を囲んだのは、仮面をつけた怪しげな集団。

 

「なんなのよあんた達。」

「おっと、この数でやるつもりか?」

「………!!」

 

思ったよりも数が多い。どうしたものかと思考を巡らせ始めたルーシィ。

 

「大人しくついてくるなら………あ?」

 

すると、マークがルーシィを守るように前に出た。

 

「………この人には、手を出させない。」

「何だぁ?このチビは?」

「大人の話し合いにお子様が入って来るんじゃねぇ!!」

「………ルーシィさん、ここはあたしに任せて………」

「いやよ。」

 

だがルーシィはマークに守られる気など更々無かった。

 

「あたしが守られてばかりのお姫様だと思ってるなら、大きな間違いよ………一気に蹴散らすわよ。」

 

そして指輪を掲げた。

 

「力、貸してくれる?」

 

マークは静かに頷いた。

 

瞬閃ろ(かけぬけろ)、双影の紋章士(エムブレム)!!」

「………教導えよ(おしえよ)、風花の紋章士(エムブレム)。」

 

ルーシィは紋章士シェズを顕現し、マークは紋章士ベレトを顕現。

 

「「"エムブレム・エンゲージ"。」」

 

そして"エンゲージ"を行うとルーシィは"キルソード"二刀流に、マークは"天帝の剣"を出した。

 

「やる気か!?」

「なら、少し痛い目にあってもらおうか!!」

 

仮面の集団が向かって来たのを見てルーシィとマークは構えると、まずマークが動いた。

 

『はあっ!!』

 

"天帝の剣"の不規則に伸びる刃で怯ませた所に今度はルーシィが突撃。蛇行する刃を紙一重ですり抜け、集団に"切り込み"を入れた。

 

『せっ!!やっ、とぉっ!!』

 

"切り込み"で敵集団と位置を入れ替わりながら通過したルーシィ。その結果敵集団はマークの目の前に集められ、

 

『"魔拳"!!』

「「ぐは………っ!!」」

 

武器を"ヴァジュラ"の籠手に切り替えたマークの魔力の籠った正拳突きで一気に攻め立てた。

 

『せいっ!!』

「「ぎゃあっ!!」」

 

そのマークの背後から数人がしかけたが、"無間の瞬動"で戻って来たルーシィがカバーし二刀流で返り討ちに。

 

『その身で学んで!!』

『その身に刻んで!!』

 

そして隊列が崩れたそのタイミングで、2人は勝負を決めに入った。

 

『"真祖破天"!!』

『"アスラの連閃"!!』

「「「ぎゃあああっ!!」」」

 

大技を決め、仮面の集団を蹴散らした2人。

 

『ふうっ………ケガは無い?』

『………はい。ルーシィさんも、無事で何よりです。』

 

襲撃を乗り切り一息ついてから"エンゲージ"を解いたルーシィとマーク。

 

「ルーシィ!!無事か!?」

「ナツ!?一体どうしたの!?」

 

==========

 

「………つまり、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)を名乗る仮面の集団がルーシィを狙っていたが、一部が勘違いしてウェンディ達を攫おうとした、と………」

 

ルーシィ達が襲われていた間、医務室ではウェンディとシャルル、そして医務室で臨時のドクターとして常駐していたポーリュシカが攫われかけた。だが午前の競技の乗り物酔いで医務室に休んでいたナツがそれに気づき、未然に防いだのだった。

 

「それで、お前がルーシィを助けてくれたんだな!?」

「………は、はい。」

「ありがとうな!!あん時はよく分からんかったけどいいヤツだったんだな、お前!!」

「い、いえ………」

「ところでお前、顔隠してるけどどんな………」

「やめんか!!困ってるだろうが!!」

「ごはっ!?」

 

フードの中を覗こうとしたナツに鉄拳制裁を下したエルザ。その後、相手は本当に大鴉の尻尾からの差し金だったのかどうか、や今後雷神衆やフェルトが盤外戦術対策の警護に回る、などと話が進んだのだがそれをそっちのけで考え込んでいるのが2人。

 

「(………崩壊する城、そしてその中で何かを歌っているルーシィ………)」

 

1人目はシャルル。断片的な予知夢を見るようになった彼女はクロッカスの王城メルクリアスの崩壊と、その中で泣きながら何かを歌っているルーシィを見た。だがここに来て情報が追加された。

 

「(その横に、見慣れない女の子………ウェンディや、チキと同じくらいかしら。靄がかかって顔も何も見えないけど………もしかして、この子なのかしら?でも、だとしたらこの子は何者………?)」

 

そしてもう1人はルーシィだった。それは先の戦闘についてだった。

 

「(………マークとの共闘、凄く戦いやすかった。でもリュークの時みたいに合わせてくれた訳でも、あたしがマークに合わせた訳でもない………でもこの感じ、覚えはあるんだよなぁ………)」

 

初めてにしては不自然なくらい上手くいった共闘。そこに違和感と既視感を感じ、その正体を考えていた。

 

「(………分かった、ジェミニだ。ジェミニが変身した、あたしと一緒の感覚だ。でも、どうして………?)」

 

==========

 

午後のバトルパート。この日はリュークの出番は無かった。訂正、少しだけ出番はあった。

 

「「……………。」」

「どう?会心の1枚だと思うんだけど。」

「「……………。」」

 

2日目終了後、マグノリアのアンナから渡された1枚の写真を前に、カチンと固まったままのリュークとルーシィ。写真に映っていたのは花婿衣装のリュークとウェディングドレス姿のルーシィの2ショット写真。ケーキ入刀のイメージで、2人でリュークの"絆剣リベラシオン"を構えている写真だった。

 

「以前にもご案内したけど、"本番"の際は是非ウチにご相談を!!」

「「……………。」」

 

それは第3試合、妖精の尻尾Bのミラジェーンvs青い天馬のジェニーの対決での一幕。どちらも週ソラで一時代を築いたグラビアモデル同士と言う事でグラビア対決となったのだが途中から他ギルドの女性魔導士が乱入。そのまま水着からコスプレ大会が始まり、花嫁衣装となったタイミングで

 

「花嫁がいるなら花婿もいないと!!」

 

と言う誰かの鶴の一声で男性陣まで投入された。その中で、とりあえずルーシィの隣に行ったもののどうすればいいの?と困り顔のリューク。そこに撮影班と称して乱入していたアンナがあれよあれよと言う間にポーズを取らせ写真を撮り倒したのだった。

 

「それじゃ、他の人にも渡して来ないと!!それとこの写真、今度週ソラにも掲載する事になったからまたその時も見てね!!」

「「は?」」

 

抗議する間もなく去って行ったアンナ。リュークとルーシィ、そして警護任務を終えてリュークの頭の上で休んでいたフェルトは改めて写真を見た。初々しさと言う名のぎこちなさと、照れ臭くも幸せそうな笑顔の2ショット。

 

「………"本番"、かぁ………」

「………落ち着いたら、考えてみる?」

「落ち着くって、いつよ。」

「………それ言われたらおしまいじゃない?」

「………ホホー。」

 

2人の"本番"はまだ先の話だろう、とフェルトはこの時思ったのだった。

 

因みにこの日の結果は以下の通り。

第1試合の大鴉の尻尾、クロヘビvs蛇姫の鱗、トビー。クロヘビが"擬態(ミミック)"の魔法で終始トビーを翻弄して勝利。

 

第2試合の妖精の尻尾A、エルフマンvs四つ首の番犬(クワトロケルベロス)、バッカス。変幻自在の酔拳使いのバッカスに攻撃が当たらず翻弄されていたエルフマンは攻撃を諦め、リザードマンの硬い鱗で守りを固め応戦。結果、エルフマンが粘り勝ちした。因みに試合前の"賭け"の結果、敗者となった四つ首の番犬はしばらく四つ首の仔犬(クワトロパピー)と名乗る羽目に。

 

第3試合のミラジェーンvsジェニーは脱線に脱線を重ねた後、最後は戦闘形態での勝負にジェニーが持ち込んだが応じたミラがこれを瞬殺。更に"賭け"の結果、敗者のジェニーは週ソラにてヌード写真を掲載する事になった。

また完全な余談だが、ジェニーのヌード写真が掲載された週ソラの大魔闘演武特集号。その別冊としてミラやジェニー、乱入した他の魔導士達の写真をまとめた写真集が発売されたのだがこれがまた好評で飛ぶように売れ、写真を提供したアンナはボロ儲けしたそう。

 

そして第4試合は人魚の踵(マーメイドヒール)のカグラvs剣咬の虎のユキノ。ユキノは黄道十二門の星霊の2体同時開門や、更には"十三番目の門"と呼ばれる未知の星霊、蛇遣い座のオフィウクスまで召喚するもカグラはそれを抜かずの刀で一刀両断し、ユキノ本人も沈めた。ユキノは"命を賭ける"と"賭け"に出たが勝者のカグラは命を預かったまま処遇は保留となった。

 

==========

 

「………すまない、更に手狭になるだろうけど………」

「仕方ないわね。リュークとウェンディなら他の皆みたいにドタバタ騒がないし………」

「また宿は探しておくよ。」

 

日が暮れ、結局宿が見つからなかったリュークと、魔力欠乏症から復活したウェンディも最強チームの泊まっていた宿に入る事となった。ナツとウェンディ、そしてハッピーとシャルルと合流したリューク、ルーシィ、フェルトはルーシィの案内で宿に向かった。だがいざ宿に着くと、来客が待っていた。

 

「お前、剣咬の虎の………」

「星霊魔導士。」

「ユキノ………だったか。」

 

==========

 

剣咬の虎の星霊魔導士、ユキノはとある用事でルーシィを訪ねたのだった。

 

「セイバーが何の用だよ。」

「ナツさん、話くらいは………」

 

初日でのスティングとローグとの確執からか、剣咬の虎の魔導士と言うだけで警戒心を放つナツをウェンディがなだめたところでユキノは本題に入った。

 

「用事と言うのは………厚かましい申し出ではあるのですが。」

 

とテーブルの上に置いたユキノ。それは2つの鍵だった。

 

「双魚宮の鍵と天秤宮の鍵………この2つをルーシィ様に受け取っていただきたいのです。」

「え!?」

 

ユキノの用事、それは星霊の鍵の譲渡だった。

 

「無理よ、受け取れる訳が無い………なんで?」

「………最初から決めていたんです、大会が終わったらお渡ししようと。」

「大会まだ終わってねーぞ。」

「私の大会は終わりました。代わりにミネルバ様が入り、剣咬の虎の"最強の5人"が揃います。私はその代理で出ていたにすぎません。」

「でもどうしてですか?あなたの大切な星霊ですよね?」

「だからこそです。私より優れた………いや、恐らくは"最強の星霊魔導士"であるルーシィ様の許に置いていただいた方がいいのです。」

 

唐突な申し出に戸惑うルーシィに対してユキノは意味深な言葉を述べた。

 

「あなたは既に10の黄道十二門を揃えています。この2つを合わせれば十二の鍵全てが揃い………"世界を変える扉が開く"。」

「"世界を変える扉"………?」

「古い言い伝えです。意味は私にも分かりません。ですが星霊魔導士はこの数年で激減し、ゼントピアの事件がトドメとなり最早星霊魔導士は私達のみかもしれない………なら、最も星霊を使いこなせ、何より星霊に愛し愛されているあなたが持つべきなのです。」

 

ユキノの言葉を聞いたあと。ルーシィはニコリと微笑んでから改めて断った。

 

「やっぱり受け取れないよ。星霊魔法は絆と信頼の魔法………簡単にオーナーを替えていいものじゃないもの。」

「………では無いのですが。」

「?」

「いえ、あなたならそう言うと思っていました………また、お会いできるといいですね。」

 

そうしてユキノは差し出そうとした鍵を回収して宿を去って行った。

 

「……………」

 

==========

 

「ちょっと待った。」

「リューク様?」

 

少し経ってから、スーツケースを引くユキノをリュークが追いかけ、呼び止めた。

 

「単刀直入に聞こう………何があった?」

「………質問の意味が分かりかねます。」

「星霊魔導士が星霊を手放す時なんて、魔導士廃業レベルの異常事態じゃないか?」

「………!!」

「こう見えて、星霊魔導士とは同系統の魔法の使い手なんでね。」

「………そっか。リューク様の魔法は、リネンさんと同じ………」

「そう言えばリネンの親友って君の事か。なら話は早い………そう言う事だ。」

「……………」

「それで、何があったのか………話してくれるか?」

「………!!」

 

するとユキノはボロボロと泣きながらへたり込んでしまった。ナツとハッピーが来たのはこのタイミングだった。

 

「な、なんで泣いてんだ………?」

「リュークが泣かしたんだー!!」

「ちげぇよ!!てかナツ達はどうして!?」

「いやー、こいつ剣咬の虎の魔導士だからてっきり悪者かと………」

「………すみません。私はもう、剣咬の虎の魔導士では、無いのです………!!」

「「「!?」」」

「………剣咬の虎は、私の憧れでした。去年、リネンさんと一緒に加入してから私は一生懸命頑張って来ました………でも、私はもう、あそこには帰れない………!!」

「………まさか。」

「………はい。一回の敗北で、やめさせらられたのです。」

 

だがリューク達の開いた口が塞がらなかったのはここからだった。

 

「大勢の前で裸にされて、自らギルドの紋章を消さねばならなくて………悔しくて恥ずかしくて、自尊心も思い出も全部壊されちゃって………!!それなのに、私には帰る場所も無くて………!!」

「「………!!」」

「………リネンは、この事を知っているのか?」

「………いえ。リネンさんは、その場にいなかったので………それに、もし彼女が知ったら………」

 

==========

 

その頃、剣咬の虎の宿舎では騒ぎが起きていた。騒ぎが起きていたのは一回の広間で、異変に気づいたスティングとローグが、それぞれの相棒のエクシードであるレクターとフロッシュを連れて向かうとそこには何人ものギルドメンバーが倒れていた。一様に衣服を裸同然になるまでズタズタに引き裂かれ、ギルドマークに引っ掻き傷をつけた状態で倒れるギルドメンバー、その近くに佇んでいたのは隻眼の狼。

 

「………何のつもりだ、リネン。」

 

ローグが声をかけると、隻眼の狼は"化身化"を解き、怒り心頭のリネンと隻眼の女性の紋章士が現れた。

 

「見れば分かるでしょ。"親友"を笑った奴等に同じ気持ちを味わわせただけだよ。」

「リネンさん、こんな事をしてマスターが黙ってるとは………」

「そんなもの承知だよ、レクター。安心して、辞表ごとあのクソジジイの顔面殴りつけて出てってやるから。」

「おいおい怒りすぎだろリネン。」

「………スティング。」

「あいつは命を賭けておいて負けた。敗者は脱落して勝者だけが生き残る、それが"弱肉強食"ってもんじゃ………っ!?」

 

次の瞬間、リネンがスティングを睨みつけると彼の身体が急に硬直して動かなくなった。

 

『確かに、あの娘は"命を賭ける"などと宣って敗北した。脱退そのものは致し方無しとも言える………だが敗者の骸を辱め、弄ぶのを"弱肉強食(自然の理)"と呼ぶのならば………貴様は自然を舐め過ぎだ、小僧。』

 

スティングが動けなくなったのはリネンが顕現している紋章士………死の砂漠に隔たれた幻の国を統べた狼女王、紋章士ニケのスキル"邪眼"によるものだった。

 

「………私がなんでキレてるか分からないって顔だね。」

「分からないね。ユキノは弱かったからいなくなっただけだろ?」

「………だったら。」

 

リネンは化身化すると更に鋭く睨みつけた。

 

『私が今ここでレクターを殺しても、弱いからって納得するんだね?』

「!!」

 

その言葉に、今までヘラヘラと軽い表情だったスティングも憤怒の表情で睨みつけ返した。

 

「レクターに手出してみろ、お前の命は無いぞ。」

『"邪眼"で睨みつけられてどこまで動けるか、見せてもらうよ。』

「2人とも頭に血が上り過ぎだ!!滅多な事を言うな!!」

「スティング君、リネンさん、落ち着いてください!!」

「フローもそう思う………!!」

 

一触即発の物々しい雰囲気で睨み合うリネンとスティング。それをローグ、レクター、フロッシュが止めようと仲裁に入った時だった。

 

「侵入者だーーーっ!!」

「「『「「!?」」』」」

 

轟音と共にギルドメンバーの誰かの叫びが聞こえ、一触即発の雰囲気が解かれた。

 

「侵入者だと!?剣咬の虎全メンバーがいる宿だぞ!?何者だ!?」

「さあな………だが、生きて帰るつもりは無いんだろうな。」

「……………。」

 

侵入者を探す事自体は簡単だった。騒ぎの方向へ向かうだけだったから。そしてその先にある、マスターを含めた大多数の魔導士がいた広間に到着して、双竜やリネンはその侵入者の正体を見た。

 

「マスターはどこだあああっ!!」

「……………。」

 

剣咬の虎の魔導士複数人を蹴散らしながら入って来たのはナツ。そしてその背中を守るようにリュークが剣を構えながら入って来たのだった。

 

「………ワシに何か用か、小童。」

 

騒ぎを聞きつけ前に出て来た剣咬の虎のマスター、ジエンマ。

 

「お前がマスターか。たった一度の敗北でクビだって?随分気合い入ってんなぁ………」

「……………。」

「ア?」

「それじゃあお前も、こいつらも………俺に負けたらギルドやめんだな?」

 

ナツはジエンマを睨みつけながら拳に火炎を纏わせた。

 

 

続く

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