FAIRY EMBLEM   作:jyosui

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10章 時を刻む氷

かつて北の大地で暴れ回ったゼレフ書の悪魔デリオラを巡る戦いが起きている"悪魔の島"ガルナ島。そんなガルナ島の遺跡の最下層、氷漬けになったデリオラの目の前ではリュークが、敵の参謀として暗躍していた仮面の老人ザルティと戦っていた。

 

「ほっほっほ。」

「"旋風槍"!!」

 

ザルティは水晶を操りリュークに飛ばし、リュークは"手槍"で水晶を破壊した。だがすぐに砕け散ったはずの水晶は元通りになり、再びリュークに襲いかかった。

 

「あっぶなっ!!そらっ!!」

 

反撃とばかりに"手槍"をザルティに投げたリューク。しかしザルティの目の前で"手槍"はピタリと止まり、朽ち果てたのだった。

 

「っ、ベレト!!」

『ああ、"天刻の拍動"!!』

 

"天刻の拍動"を発動し、時を巻き戻したリュークは"手槍"をしまい、"サンダー"の魔法を放とうとするも、今度はザルティがリュークの足下の時を進め崩した事で攻撃を外すのだった。

 

「ちっ!!」

「ほほー、時の巻き戻しによる因果律の操作ですか。」

「………!!」

『落ち着くんだ、リューク。やりようはある。』

 

変わらず仮面の下で飄々と笑みを浮かべるザルティに対して顔をしかめたリュークはすぐに紋章士ベレトに視線を向けた。

 

「………どのみち時間はかけられない、ここで決める!!」

『承知した。』

「『"エムブレム・エンゲージ"!!』」

 

"エンゲージ"状態になったリュークは直ぐ様"天帝の剣"を振りかざした。

 

『"神祖破天"!!』

 

赤黒いオーラを纏い、蛇行しながら伸びる刀身をザルティへ向かって伸ばしたリューク。

 

「ほっほー、それがあなたの真の力ですか。ですが………」

 

だが、"天帝の剣"の刃はザルティの目前で止められたのだった。

 

「我が"時のアーク"にかかればこの通り。」

『だろうな。』

「!?」

 

しかしリュークも無策では無かった。"神祖破天"の副次効果で強化された"天刻の拍動"を応用し、リュークは"天帝の剣"を手放してザルティの懐まで接近していた。

 

『その身で学べ!!』

「ぐほっ………!!」

 

そしてザルティが体勢を立て直す前にリュークは渾身の右ストレートをザルティの鳩尾に当て、更には追撃の前蹴りで蹴り飛ばしたのである。

 

「ほう、蛇腹剣は囮ですか………ですが距離を縮めたいのであれば、蹴り飛ばすのは悪手でしたな。」

 

だがザルティもやられっぱなしではなく、距離を取ってリュークの射程外まで逃げた上に水晶球と瓦礫をリュークに飛ばしたのである。

 

『"トロン"!!』

「ほう、これも防ぎますか。ですが射程が足りないようですな?」

『そいつはどうかな。"クラスチェンジ"、ダークメイジ。』

 

ダークメイジに"クラスチェンジ"したリュークは新たに奇妙な形の杖を手にした。そしてその杖を振るいながら魔法を唱えると、"トロン"の雷の光線が届かなかったザルティの頭上に無数の闇の針が浮かび、一斉に降り注いだのである。

 

「射程を伸ばす杖か!!」

『気づくのが遅かったな!!"ダークスパイクΤ"!!』

「ぐおおっ!?」

 

"テュルソスの杖"により魔法の射程を伸ばしたリュークは上手くザルティの虚を突きダメージを与えた。

 

「ほほう、ここまでやるとは………それに、闇まで操るとは興味深い。」

『やはり。見たところ生物は操れないみたいだね。操れるのならば"天刻の拍動"も止められただろうし、そもそもグレイの師匠だった氷も既に解いてデリオラを出していただろうからね。』

「………洞察力もさることながら、"紋章士"、でしたか?………所詮はおとぎ話の英雄と侮っていましたが中々の力と見ました………私と同じく時を操る事も、この地の魔力の流れを操る事も………!!」

『!!』

 

すると、リュークが先程紋章士カミラの力で"龍脈"を起動した事で発生した上空の暗雲が晴れてしまった。

 

『("龍脈"がバレた………!!)』

「あなたと戦いながら仕組みを解くのは骨が折れましたが………これで"儀式"を再開できる。」

 

そして、雲が晴れたタイミングで上空に昇っていた月から細い光が降り注ぎ、氷漬けのデリオラに当たり始めた。

 

『"月の雫"………まだ残っていた仲間が儀式を!!』

「一人での儀式では効果は薄いですが、もう既に十分な量は集まっていたのですよ。なので、キッカケさえあればこの通り………」

 

ザルティの言う通り、一筋の細い光が当たってしばらくするとデリオラを封じていた氷が一気に溶け出し始めたのだった。

 

『マズい!!』

「何をするつもりですかな?」

 

リュークはデリオラの方向へ走り出したが、それを見逃すザルティでは無く追撃を仕掛けようとした。

 

「オラアッ!!」

「ぐおっ!?さ、火竜(サラマンダー)!?」

「お前の相手は、この俺だァーーッ!!」

『ナツか………今のうちに!!』

 

ナツの乱入でザルティの追撃は未遂に終わったのを見計らい、リュークは氷漬けのデリオラに接近し、そのまま衝突した。

 

『そらっ!!』

 

渾身の体当たりで氷漬けのデリオラにぶつかったリューク。すると氷漬けのデリオラが少し動き、"月の雫"が当たる場所がずれ氷が溶ける時間が少し収まった。

 

『"ぶちかまし"で時間は稼いだ、後はこいつを片付ける!!』

 

デリオラをずらしたリュークは"テュルソスの杖"を再度構え巨大な炎を繰り出した。

 

『"ボルガノン"!!』

「そう何度も食らいますまい。」

 

だが"ボルガノン"は"トロン"や"ダークスパイクΤ"よりも出が遅い。それ故にザルティは"ボルガノン"の炎に対応し、時を止めて爆炎を止めたのだった。

 

「2対1になったところで、今更そのような遅い攻撃で当たるとでも?」

『無駄打ちだろうね………目の前にいる相手がナツじゃ無かったらの話だけど。』

「!!」

 

時を止めた爆炎は確かにザルティには届かなかった。だが、そのザルティのすぐ側にいるのはナツ。炎を"好物として食べる"存在である。時の止まった炎はナツにとってはご馳走が動かず目の前に置かれているのも同じであり、ナツはそれを直ぐ様がっついた。

 

「がぶっ!!がつがつ、むしゃっ、ズズーッ………ぶはっ、ごちそうさま。」

「しまった、狙いは火竜に火を食べさせる事………!!」

「おっしゃあ!!食ったら燃えて来たァーーー!!」

 

リュークの"ボルガノン"を食べ切ったナツは炎を周囲に放出した。炎の凄まじい勢いを前にザルティは飛び退くしかできなかった。

 

『逃がさない!!"ルナΛ"!!』

 

だがザルティが飛び退いたその先にリュークは"ルナΛ"を繰り出し、闇の力でできた月によって吸い寄せられ動きを制限したのだった。

 

「ぐっ、ぐぬぬ………!!」

『時の概念が無い闇も魔法の対象外みたいだね………ならば、お前達の大好きな月に呑まれるがいい!!』

「こうなれば………天井よ、時を加速し朽ちよ!!」

 

するとザルティは天井の時を加速させる事で崩して大小様々な岩石を作り出し、リュークに飛ばした。

 

「我が"時のアーク"をなめない事だ!!」

「………アークだかポークだか知らねぇが………」

「!!」

「さっきからゴチャゴチャと邪魔なんだよ!!」

 

だが岩石は炎を食べて強化したナツが焼き尽くし、さらに土煙を発生させた。

 

「ぬぅっ!!………い、いない!!」

「時を操るんだってな、お前。」

「上か!!」

「俺にも時が操れるんだ、未来をな。」

「は!?」

「3秒後に、お前をぶっ飛ばす!!」

「く………天井よ、戻れ!!」

 

足から炎を射出してザルティの頭上に飛んだナツは渾身の炎を右手に纏った。それを防ごうとザルティは崩した天井の時を戻してナツの前に壁として形成した。だがその瞬間、リュークの"ルナΛ"による月の引力が消失した。

 

「な………!?」

『高みの見物に慣れ過ぎて戦場の見方がなってないね………戦場でどう立ち回るのが正解か、その身で学べ!!』

 

上から来るナツに気を取られ、ザルティはリュークが真下に移動しているのに気づけなかった。

 

「(これは、防ぎ、切れない………!!)」

『"バンシーΘ"!!』

「"火竜の鉄拳"!!」

「きゃあああわわあああっ………!!」

 

下から湧き上がる闇の奔流と、上から振り下ろされた炎の鉄拳の挟撃を受けザルティは吹き飛ばされた。

 

『出直して来るんだな。』

「ったく、何だったんだ?あいつは?」

『さあね。それよりもデリオラの方を………』

 

と、ザルティの事は頭の片隅に追いやりデリオラの対処をしようとした、その時だった。

 

「グオオオオオッ!!」

「!!」

『遅かった、か………!!』

 

確かにリュークはデリオラを"ぶちかまし"でずらし、"月の雫"の解氷を遅らせた。だがあくまでも"遅らせた"だけであり、"止める"ことはできていなかった。故に、デリオラの解氷を最後の最後で許してしまったのだった。

 

「ナツ、リューク………」

「グレイ!!」

「連戦だがこうなったら仕方ない、倒すぞ!!」

 

ここで零帝ことリオンを倒し、合流して来たグレイがボロボロの状態で合流。ナツは炎を纏い、紋章士ベレトとの"エンゲージ"が解けたリュークはランスファイターに"クラスチェンジ"し、魔物特攻の"聖なる槍"を構えた。

 

「ククク………」

「次は誰だ!?」

 

次に現れたのはリオン。グレイに敗北し、グレイ以上にボロボロの身体を吐くように引きずり、荒い息をしながらデリオラに向かってゆっくりと進んだ。

 

「お前らには、無理だ………!!ウルを超える為、俺が………ハハハ。」

「リオン!!」

「オメーの方が無理だろ、引っ込んでろ!!」

 

ナツの制止を聞かず進もうとするリオン。

 

「ウルが、唯一倒せなかった、怪物を………俺が………!!」

 

よろよろと立ち上がったリオン。だが、立ち上がって魔法を繰り出そうとしたリオンの首に、グレイは手刀を当てた。

 

「ぐ………っ」

「もういいよ、リオン………デリオラは、俺が封じる!!」

 

そう言うとグレイは腕を交差し、魔力を溜めた。

 

「"絶対氷結(アイスドシェル)"!!よ、よせグレイ!!」

 

"絶対氷結"。他ならぬウルがデリオラを封印する為に自らの身体と引き換えに絶対零度の氷で相手を封印する魔法である。

 

「これしかねぇんだ、今奴を止めるのは………!!」

 

だが、"絶対氷結"を使おうとするグレイの前にナツとリュークが立ちはだかった。

 

「ナツ、リューク!!」

「あいつは止めねぇ。俺はあいつと戦うぞ。」

「右に同じく。そう言う魔法は戦って抗って足掻いて、それでもダメな時に使うものだ。」

「二人共邪魔だ、どけよ!!」

 

頑なに"絶対氷結"を使おうとするグレイに、ナツとリュークはため息をついた。

 

「死んで欲しくないからあの時止めたのに、俺の声は届かなかったのか。」

「ウルがお前を生かしたのは、"それ"を使わせない為じゃないのか?」

「………だが!!」

「なに、同じゼレフ書の悪魔だったララバイを倒してるんだ、デリオラも何とかなる。」

「ああ。俺達は最後まで戦うぞ!!」

「ガァァァァァァッ!!」

 

拳を振り上げたデリオラ。

 

「やるぞ、ナツ!!」

「よっしゃあっ!!」

「避けろーーーッ!!」

 

そしてその拳がナツとリュークに振り下ろされようとした、その時。

 

ゴボッ。

 

鈍い音と共に振り上げたデリオラの肘が砕け、腕が落ちた。

 

「え!?」

 

さらに、それを皮切りにデリオラの全身にヒビが入り、ボロボロとデリオラの全身が砕け始めたのだった。

 

「ば、バカな………そんな、まさか!!」

「デリオラは、既に死んでいたのか………」

 

"絶対氷結"はデリオラを封印するだけの魔法では無かった。10年の時を経てウルの氷はデリオラの命を徐々に奪い、そして今ウルの弟子達の目の前で因縁の悪魔を粉々に崩したのだった。

 

「ウルは時間をかけてデリオラの命を奪った………そして、その最後の瞬間を見ているのか………」

 

そう呟いたリオンは倒れたまま拳で地面を叩いた。

 

「かなわん………俺には、ウルを超えられない。」

「………スゲーな、お前の師匠は!!」

 

そしてグレイは、片手で目を抑え涙を流した。

 

「………ありがとうございます、師匠………!!」

 

ウルの氷は溶けて水となり、海へと流れていった。だが海に流れたウルは弟子を見守り、生き続けていくのだとグレイや、後で話を聞いたルーシィは思うのだった。

 

 

続く

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