FAIRY EMBLEM   作:jyosui

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11章 悪魔の空

氷漬けになったデリオラを巡る騒動は終結した。しかしナツ達がこの"悪魔の島"、ガルナ島に来た本来の目的は解決していなかった。

 

「魔導士どの!!一体いつになったら"月を壊して"くださるのですかな!?ほがーっ!!」

「ひえーっ!!」

 

しきりに"月を壊してくれ"と、紫色に輝く月を指差してルーシィに詰め寄る、悪魔に変貌した村長。するとエルザが衝撃発言をした。

 

「月を破壊するのは容易い。」

「おい、とんでもない事を言ってるぞ………」

「だが村長、その前に確認したい事がある。皆を集めてくれないか?」

 

エルザの言葉に応じ、村長は月によって異形化した村人を集めた。

 

「整理しておこう。君達は紫の月が出てからそのような姿になってしまった、間違いないか?」

「ほがぁ………正確には、月が出ている間だけこのような姿に………」

 

するとエルザは歩きながら話を続けた。

 

「話をまとめると、それは3年前からという事になる。ちょうど"月の雫"の儀式が行われていた時期と、リオン達から聞いた話と合致する。儀式の行われていた遺跡からは、"月の雫"の光が見えていた………きゃあ!!」

 

だが歩きながら話をしていたエルザは不意に落とし穴に落ちたのだった。

 

「きゃ、きゃあ、って言ったぞ………?」

「か、可愛いな………」

「え、落とし穴?何でここに………?」

 

村のど真ん中という、普通作らない場所に作られた落とし穴。何故こんな所に?とリュークが見回すとルーシィが冷や汗をダラダラとかいていた。

 

「あたしのせいじゃない!!あたしのせいじゃない!!」

 

零帝一味対策として落とし穴を作ったルーシィが慌てているのをよそに、エルザは何事も無かったかのように這い出て来た。

 

「つまり、この島で一番怪しい場所である筈だが………何故、調査しなかった?」

 

エルザの一言に、村人は一斉にざわつき始めた。

 

「そ………それは村の言い伝えであの遺跡には近づいてはならんと………」

「でもそんな事言ってる場合じゃ無かったよね。死人も出てるし、報酬の高さから見ても………」

「本当の事を話してくれないか?」

 

そこで、ついに村長が重い口を開いた。

 

「そ、それがワシらにも分からんのですあの遺跡は何度も調査を試みました。………ですが、近づけないのです。」

「!?」

「何度遺跡に向かっても、気がつけば村の門。我々は遺跡に近づけないのです。」

 

遺跡に近づけない。村長の言葉に、異形の姿になった他の村人達も次々と続けた。

 

「どーゆう事?」

「俺達は近づけたぞ?」

「こんな話信じられないでしょうが………本当なんです!!」

「遺跡には何度も行こうとしたんだ、だが辿り着いた村人は一人もいねぇんだ!!」

 

村人達が思い思いに話し始め、場がガヤガヤとしだしたがエルザは落ち着いて一言。

 

「やはり、か。」

「え?」

「ナツ、ついてこい。これから月を破壊する。」

 

==========

 

「お、リュークも準備ができたか。」

「ああ。この"魔法の大筒"を出すのは久しぶりだけど、今しがた調整を終えたところだよ。」

「ホーっ。」

 

月を破壊する為にエルザはナツを連れ村の物見櫓へと上がった。するとそこにはリュークがフェルトを頭に乗せ、手持ちタイプの大筒を調整していたところだった。

 

「"クラスチェンジ"、マージカノン。"ブレイクシェル"装填。よし、準備完了だ。」

「では始めようか。換装、"巨人の鎧"、そして闇を退けし"破邪の槍"。」

 

リュークは魔法大砲を使うマージカノンに"クラスチェンジ"、エルザは投擲力に優れた"巨人の鎧"に換装した。

 

「私の槍の投擲と、リュークの大砲で月を破壊する。しかし、砲撃はともかく私の投擲ではあそこまでは届かんだろう………そこでナツ、お前の火力を借りたい。」

「俺の?」

「私の投擲のそのタイミングで槍の石突を思いっきり殴るんだ。"巨人の鎧"の投擲力とお前の火力を合わせるんだ。」

「よしきた!!」

 

作戦会議は終了し、リュークは大砲を構え、エルザも投擲の構えを取った。

 

「ナツ!!」

「おう、そらぁ!!」

「"ブレイクシェル"、発射!!」

「届けェェェ!!」

 

ルーシィ、グレイ、ハッピー、そして村人達が見守る中リュークの放った砲弾と、エルザとナツの合わせ技で放たれた槍は空高く、紫色の月へと打ち上げられた。そして数秒後、砲弾と槍は無事炸裂したようで月にヒビが入った。

 

「「「「「うおおおおおおっ!!」」」」」

「「うそだぁーーーっ!!」」

 

月に入ったヒビはだんだんと大きくなり、やがて"空ごと"割れた。

 

「え!?」

「月が割れたら月が出て来た!?」

「なんと………!!」

「割れたのは月じゃなくて………空だったの?」

 

困惑が広がり場が騒然とする中、エルザは種明かしを始めた。

 

「この島は邪気の膜で覆われていたんだ。」

「膜?」

「"月の雫"によって発生した排気ガスだと思えばいい。それが結晶化して空を覆う膜となっていたんだ。だが膜は破れ、この島は本来の輝きを取り戻す。」

 

すると"本来の"月の光が村人達を照らし、元の姿に戻す………はずが、村人達は異形のまま変わらなかった。

 

「………あ。」

「………あれ?」

「元に戻らねぇのか?」

「それは違うね、グレイ。」

「あ?リューク、どういう事だ?」

「邪気の膜が悪さをしていたのは彼らの姿ではなく、記憶だったって事。」

「リュークの言う通り。彼らは"夜になると悪魔になってしまう"、という間違った記憶をしてしまったんだ。」

 

すると、状況を察したルーシィが震えながら言い出した。

 

「ま、まさか………」

「その、まさかだ。彼らは元々悪魔だったのだ。」

 

明かされた衝撃の事実に、エルザとリューク以外の妖精の尻尾の者達は驚き、特にルーシィは悲鳴をあげながら座り込んだ。

 

「彼らは人間に変身できる力を持っていたが、"月の雫"の影響で変身している自分を本当の姿だと思い込んでしまったのだ。」

「でも、ならばリオン達が平気だったのは?」

「彼らは人間だからな。この記憶障害は悪魔にしか作用しないようだ。」

「遺跡に行けなかったのも、月由来の聖なる光が近づけさせなかったからだろうね。」

 

すると、浜の方から一人の悪魔が歩いて来た。

 

「流石だ、君達に任せて良かった。」

「ボボ………!!」

「幽霊!!」

「船乗りのオッサンか!?」

「グレイ、知ってる人?」

「あ、ああ………俺達をここまで送ってくれた船乗りのオッサンだったんだが、急に姿を消してよ………それに、墓も立てられてたし………」

「あの時は本当の事を言えなくてすまなかった。それに墓だ?胸を刺されたくらいで悪魔が死なねぇだろ!!」

 

ナツ達をガルナ島まで案内した船乗りで、村長の息子のボボは高笑いしながら悪魔の羽を広げた。

 

「俺は一人記憶が戻ってしまってこの島を離れたんだ………自分達を人間だと思い込んでる皆が怖くなってな。」

 

自分が殺したはずの息子が戻って来た事に、村長は涙を流しながらも喜びの表情を浮かべ、羽を広げてボボのもとへと飛び立つと再会の抱擁を交わした。それに続いて他の村人達も悪魔の羽を広げて歓喜と共に空を舞った。

 

「悪魔の島………か。」

「でもよ、皆の顔見てると悪魔ってより天使みてーだな。」

 

そのまま悪魔達の歓喜の舞は夜が明けるまで行われた。

 

==========

 

「皆様、ありがとうございました!!」

「いつでも遊びに来いーー!!」

 

夜が明け、妖精の尻尾の皆はボボの船でハルジオンまで送って貰う事となった。ナツの独断で遂行された、正式な依頼では無かったので報酬の700万Jは受け取ら無いとエルザが判断したものの、村長からお礼無しでは申し訳ないという事で追加報酬である星霊の鍵だけを受け取り、一行は帰路につく事となった。

 

「うっぷ………やっぱり、ダメだ………」

「申し訳ない。これ以上揺れを抑えるのは俺にはできねぇ。」

「いーや、気にしなくてもいいぜ。こいつはいつもこんなもんだ。」

「………試してみるか。ナツ、これを飲んでみて。」

 

相変わらず船酔いでダウンしているナツ。するとリュークは丸薬を一つ取り出し、ナツに服用させた。するとあら不思議、ナツの船酔いが治ったのだった。

 

「うおおーー治ったーー!!」

「あいさーー!!」

「………スゲェ、ナツの乗り物酔いが治った。」

「一体何を飲ませたんだ?ナツの乗り物酔いが治るとは………」

「アンナ………知り合いの商人から買った酔い止めの薬だよ。相当な値段しただけあって効いてくれて良かったよ。」

 

アンナの店で買った酔い止めの丸薬。効果てきめんであった事に安堵したリュークは一息ついた。

 

「さてと………それじゃあナツ、ハッピー、ルーシィ、グレイ。」

 

すると厳しい表情に豹変したリュークが、ドスの利いた声で短く言い放った。

 

「座れ。」

「えっ、と………?」

「座れ、と言った。正座でそこに直れ。」

「「「「あい。」」」」

 

船の上で正座をさせたリュークはつらつらと言葉を並べた。

 

「"悪魔の島"の住民の悩みが解決し、更にゼレフ書の悪魔の復活を防げました、めでたしめでたし………だからと言って君達のやらかしはチャラにはならないよ。」

 

島に乗り込んだ時と違い、一切声を荒げ激昂する事は無かった。だがひたすら理詰めで、ぐうの音も出ない出させないように淡々と説教を行った。その説教はリュークがナツに与えた酔い止めの効果が切れるまで続いたが、その時にはハルジオンの港が目の前に見えていた。その一部始終を聞いていた船頭のボボは、

 

「普通に話しているのに明らかにブチギレている、という不思議な光景だった。器用な事をしているな、と思った。」

 

と述べていた。

 

==========

 

魔法評議会会場ERA。そこのとある一室にて二人の男女が密談を交わしていた。

 

「『人の心に悪の心がある限り、我が分身は再び現れるであろう。

心せよ、闇は光ある限り永遠に消えはしないと。』………か。」

「何を読まれているのかしら、ジークレイン様?」

「"炎の紋章・暗黒竜の章"のクライマックスだ、ウルティア。」

「"炎の紋章"………確かそれは。」

「そうだ。"青燎"のリュークが操る紋章士の原典となる話だ。」

 

そこにいたのはジークレインとウルティア、若くして評議員の席に座る魔導士である。しかしウルティアの方は片方の頬が腫れており、彼女はそれを痛そうにさすっていた。

 

「"火竜"………ナツに殴られた箇所が痛むか?」

 

ウルティアの腫れた頬の原因はナツから受けた一撃であった。ウルティアは、ガルナ島でリオンの側近として暗躍していたザルティの正体なのだった。

 

「………ええ。力を半分も使っていないとは言え、ナツとリュークには完敗したわ。」

「無理も無い。あの炎竜イグニールの息子と、50年ものの"災害"を解決した男だ。ところで………"(うろ)"については何か分かったか?」

「………いいえ。"洞"に該当しそうな魔力の痕跡は無かったわ。」

「つまり、紋章士とは異なる"何か"という事か。」

「ええ。でも彼、私達に勘づいていたみたいだからこれ以降の調査は難しくなるわよ。」

「………構わないさ。光か闇か、はたまたそれ以外の何かか………"青燎"は何かを、俺の理想に使える大きな力を隠している。探っているのをバレたところでやる事は変わらないのさ。」

 

 

続く




これでガルナ島での話は終わりです。
次回はチェンジリング回に行く予定です。
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