「X777年7月7日、何をしていたかって?」
「ホー?」
ウェンディがギルドに来てしばらく経ったある日。この日のマグノリアは生憎の大雨で、妖精の尻尾の魔導士もほとんどが仕事に出ずギルドで駄弁っていた。そんな中、呑気にご飯を食べていたリュークとフェルトの横のテーブルでルーシィとウェンディがお話をしていた。
「その日って確かイグニールがナツの前からいなくなった日だったっけ?」
「はい。グランディーネも同じ日に………」
「そう言えばガジルの言ってたのも同じ日だったか………?」
「3頭のドラゴンが同時に………遠足だったのかしら?」
「ルーシィさんもたまに変な事言いますよね………」
「ホー………」
「ところでリューク。あんたその日何してた?」
「むぐ………何してた!?7年前ってまた絶妙に思い出しにくいところ聞いてくるな………フェルトと会う前だしなぁ。」
「ホホッ。」
「となると大絶賛ぼっちでふらふら放浪してた時期だけど………あるいは墓参りに故郷に帰ってたか?いずれにしろ分からないなぁ。」
「うーんヒント無しかぁ………本当、どうしたんだろうね。あれ?そう言えばナツはそこでいびきかいてるけどガジルがいなくなってるわね。こんな雨にどこ行ったのかしら?」
「ん、ガジルならさっき出て行ったよ。何か"相棒………"とか呟いてたけど。」
「相棒?」
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「くそっ!!何でだ!?」
少しやつれた鬼の形相で路地裏を歩き回っていたガジル。そんな彼の顔にはいくつもの引っかき傷を受けていた。
「
同じ滅竜魔導士であるナツとウェンディにはネコのハッピーとシャルルが、竜であるリュークにはフクロウのフェルトがいる。だが妖精の尻尾の中の竜に連なる者で唯一相棒となる者がいないガジルは焦りを感じながら相棒のネコ探しに奔走していた。だが中々お眼鏡にかなうネコがおらず、ようやく見つけたネコにはフラれ引っかき傷をもらったのだった。
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そんな"相棒達"。
「ありがとう、フェルト。」
「ホッ、ホホーッ。」
「シャルル〜!!」
ハッピーは自分でとった魚に、フェルト協力の下でリボンを付け、シャルルに持っていっていた。
「これ、オイラがとった魚なんだ。シャルルにあげようと思って………」
「いらないわよ。」
同じ"喋るネコ"であるシャルルに一目惚れしたハッピー。だがシャルルはあまりギルドのメンバーと交流を持とうとせず、特にハッピーに対しては冷たい態度を取っていた。
「私、魚嫌いなの。」
「そっか………じゃあ何が好き?今度………」
「うるさい!!」
「……………」
「私につきまとわないで。」
そう言い捨てるとシャルルは雨にも構わずギルドの外へ出て行ってしまった。
「ちょっとシャルル、今のはひどいんじゃないの!?」
「待ってシャルル〜!!」
そしてシャルルを追いかけ、ウェンディとハッピーまでもが外に出てしまった。
「何かシャルルって妙にハッピーに冷たくない?」
「元からウェンディ以外とは積極的に話そうとしていなかったけど………確かに、あの態度は明らかにハッピーの"何か"を気に入ってない感じがあるね。」
ご飯を食べ終えてリュークは読書、フェルトは昼寝に入っていた。
「気に入ってないって、何を?」
「そこまでは分からない。ただ、ギルドの皆に隠し事をしていた俺に詮索をする資格は無い。」
「……………」
「今は心を開いてくれるのを待つ時だ。大丈夫、彼女にはウェンディがいる。」
「そんなものか………」
ルーシィは呟きながら窓の外を見た。空は暗雲が立ち込め雨足はさらに強くなっていた。
「雨強くなったわね………」
「あの3人大丈夫かな………しかしここまで強くなるとギルドに泊まるのも考えないといけないな。ミラ………はリサーナの墓参りか、ちょうど本を読み終わったし、食材の確認をしておこうかな………」
「リューク何読んでたのよ?」
「ん?ちょっと前に出た"灯火の星"って本。40シリーズの物語の登場人物が一同に登場する群像劇だよ。シリーズとその登場人物だけ見るととんでもない闇鍋だけど、作者がいい塩梅で混ぜていて読み応えのある作品だよ。」
「ええっ、それ一時期社会現象にまでなった奴で今でも中々手に入らない本じゃん!?読み終わったら貸して?」
「それは先客次第。俺はどっちでもいいから相談して決めて。」
「先客?」
「私だよ、ルーちゃん。」
「やっぱりレビィちゃんかぁー。」
「それじゃじゃんけんで決める?」
「いいの!?それじゃあ3回勝負で………」
「それじゃ、ここに置いておくから。」
本をテーブルに置き、ギルド裏の食糧庫に向かったリューク。
「うーん………これだけあれば何とでもなるか、少しなら失敗してもガジルが喜んで食べるだろうし。よし、作るか。何人分作るかを確認してから準備に取り掛かると………」
そう言って戻ろうとしたその時、リュークの視界が突如真っ白になった。
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「ん、今………?」
一瞬視界が白み、意識が飛んだような錯覚を覚えたリューク。だが意識が戻ったリュークは目の前の光景を見て愕然とした。
「は」
食材に囲まれたギルド裏の食糧庫にいたはずのリューク。だが今彼が立っているのは一面真っ白の何も無い空間になっていた。
「は、ちょっと待て。何が起こった?」
辺りを見回したリューク。
「雪………じゃない。何だ、これは?」
竜化して空へ飛び、再び周囲を見回したリューク。
『ウソ、だろ………?マグノリアの街"だけ"が、無い………!?』
別の空間への転移も考えたリューク。だが周辺の山々や隣町は変わらず、マグノリア周辺"だけ"が綺麗さっぱり無くなり真っ白の広野に変わっていたのだった。
「……………」
再び降り立ったリュークは一瞬の沈黙の後、力いっぱいに叫んだ。
「おい。誰か………誰かいないのか!?」
リュークの声が響くも、返事は無かった。
「フェルト!!ルーシィ、ナツ!!グレイ、エルザ、ハッピー、ウェンディ、シャルル!!レビィ、ガジル!!」
再び叫んでも、返事は無かった。
「誰でもいい………答えてくれ!!誰かいないのかっ!!」
何度声を張り上げても、返事は無かった。
「………何で。誰が、何をした………?」
頭を整理しようとしながら、唇を噛んだリューク。
「誰でもいいから、返事をしてくれ………!!」
唇から血が滲む程強く噛み、平静を保とうとするリューク。
「誰かッッッ!!」
再び、ありったけの声で再び叫んだ。
「……………!!」
何度叫んでも、何をしても返事が帰って来ない。訳も分からず仲間も街も消えた事実に、膝をつこうとしたその瞬間。
「パッポー!!」
「!?」
突然、リュークの足下から柱時計が迫り上がって来た。思わず尻もちをついたリュークだが、柱時計の正体を見て思い詰めた表情が和らいだ。
「君は………ホロロギウム!?」
「空間の歪みを感知しました。」
「空間の、歪み………?」
「残念ながら時間です。それではごきげんよう。」
ホロロギウムはその場で消えた。その代わりに、ホロロギウムの中に入っていたルーシィが出て来た。
「ビックリした………急に何が起きたって………きゃっ!?」
ホロロギウムから出たルーシィが周囲を見渡そうとしたその瞬間、リュークがルーシィに飛び込むように抱きついた。
「ちょっとリューク!?急に………!?」
「良かった………」
「………?」
「誰かいてくれて良かった………本当に、良かった………!!」
「……………」
引き剥がそうとしたルーシィだったが、肩に雫が落ちたのを感じてやめた。
「………チキの言ってた事、本当なんだ。………じゃなくて!!」
やっぱりリュークを突き飛ばして引き剥がしたルーシィ。突き飛ばされたリュークは慌てて目を拭い、姿勢を立て直した。
「っっっ………ごめん!!」
「それよりも、何これ………さっきまでギルドにいたわよね?」
「分からない、だがギルドも皆も、急に消えてしまった!!さっきホロロギウムは"時空の歪み"って言ってたけど、一体………」
すると、2人の背後から声がした。
「"アニマ"だ。」
「「!?」」
振り返ると、そこにいたのは複数の杖をせおった、ジェラールと瓜二つの男だった。
「ジェラール!?あんた牢獄に捕まってる筈じゃ………」
「………いや、この服………ミストガンか。」
「ミストガンって、あの………?」
「俺も顔を見るのは初めてだ………でも、顔があまりにもジェラールそのものだ。」
敵意は向けていないが警戒は解かずミストガンを見ていたリューク。するとジェラールがリュークの疑問に答える形で話し始めた。
「紋章士を………異界の英雄の力を使う君達ならこう説明すると早いか。俺の本名はジェラール………エドラスという異界の生まれ………言うならば"異界のジェラール"だ。」
「異界の、ジェラール………?」
「………じゃあ、街が消えたのはそのエドラスって異界の者の仕業か?さっき言ってた"アニマ"って奴が関係あるのか?」
ミストガン………異界、エドラスのジェラールは頷いた。
「時間が無い、簡潔に説明する。エドラスの魔法、"アニマ"によってこの世界………エドラスの人間がアースランドと呼ぶこの世界のマグノリアと妖精の尻尾は吸収されてしまった。」
「何のために?」
「エドラスは魔力が有限の世界だ。その魔力不足を解消する為に、エドラス国王は魔導士ごと街を魔力として吸収した。」
「………マグノリアと妖精の尻尾を"薪"に使うつもりか。………だが、そんな事話していいのか?」
「………というと?」
「こと次第では君の故郷を滅ぼすよ。」
だがミストガンは即答した。
「たとえ顔を見せなかったとしても、俺にとっても妖精の尻尾の皆は間違いなく家族だ。」
「良いんだな。」
「ああ。」
「分かった。なら次の話だ。エドラスにはどう行けばいい?」
ミストガンはリュークの問いに、空を指差した。雨はとうに止んでいたが、一箇所だけ雲が渦を巻いているところをミストガンは指していた。
「あれは………"異界の門"か。」
「御名答。」
「じゃああれに飛び込めばいいんだな?」
「その前にこれを。」
ミストガンはリュークとルーシィにそれぞれ丸薬を1つずつ渡した。
「これは?」
「"エクスボール"と言う。エドラスではそれを飲まないとアースランド………こちらの魔法は使えなくなるから注意してくれ。」
「分かった。」
「本当はガジルに伝えたようにもっと伝えたいが………まさか滅竜魔導士とエクシード以外にも生存者がいるとは思わず、すまないが準備も時間も足りなかった。」
「いや、十分だ。滅竜魔導士………ナツ、ウェンディ、ガジルを探せばいいんだね?」
ミストガンは再び頷いた。
「じゃあ、あの"異界の門"が閉じる前に、行ってくる。」
「俺もやることを済ませてから向かう………頼む、皆を救い………エドラス王の目論みを止めてくれ。」
「任された。」
そう言うとリュークは竜化し翼を広げた。
『乗って、ルーシィ。皆を助けに行こう!!』
「うん!!」
『しっかり捕まっててよ!!』
「大丈夫!!お願い!!」
ルーシィを乗せて飛び上がったリュークは雲の渦の中心にある、エドラスへ繋がる空間の歪み目掛けて速度を上げた。
『最高速度で突っ込む!!絶対に手を離さないでよ!!』
「うん………!!」
最高速度に達したリュークはそれを保ったまま渦の中心、エドラスへ繋がる"異界の門"へと迷い無く突っ込んだ。
続く
・"灯火の星"
著者:M・サークライ(代表作:"星の戦士"シリーズ、"亜空の使者"など)
"炎の紋章"シリーズを含め古今東西様々な作品シリーズから総勢80名以上の登場人物が出演する一大群像劇。登場人物だけを一覧で見るとジャンルも作風もバラバラなキャラクターが一同に介するとんでもない"闇鍋"なのだが、それを絶妙なバランスで両立させているのがウケ、一大ブームを巻き起こした。そのため発行から数年か経っても入手困難な作品………
と、ここまで長く書きましたが要はあれだよ、ス◯ブラだよ。著者もあれだよ、そのままサークライさんだよ。
これから異界巡りさせるにあたり、まんまるピンク玉が仲間集めに異界飛び回る物語読ませました。因みにルーシィとレビィのジャンケン勝負はレビィのストレート勝ちで終わりました。