戦闘は次回までお待ち下さいませ。
実家である、遺跡と化した故郷ソラネルの里に帰って来ていたリュークは、依頼で偶然立ち寄ったルーシィと遭遇し、一晩を過ごす事になった。そして晩ご飯を食べている間にリュークが自分や故郷の話をする事になった。
「じゃあ、どこから話そうかな………なら、このソラネルの里に住んでいた、"ソラネルの民"についてから、かな。」
ルーシィが耳を傾ける中、リュークは話を始めた。
「俺の先祖は異界出身って前に話したね………とある世界の、四つの王国と一つの聖地からなるエレオス大陸。その聖地を管理していた神竜族の王様………この人が、俺達の"起源"だ。そして指輪に宿る英雄………紋章士も、エレオス大陸が起源だ。」
「なら、その神竜族の王様………神竜王が、紋章士を持ち込んだのが始まり?」
リュークは首を横に振り否定を示した。
「エレオス大陸には神竜以外にも竜族がいた………長い戦いの末に、治めていた国もろとも封印された邪竜。ある時、この邪竜が復活し、若かりし頃の神竜王は仲間や紋章士と共に激しい戦いを繰り広げ………最後には勝利し、エレオス大陸は長きに渡る平和を手にした。だけど、その最後の戦いで紋章士は力を使い果たし、エレオス大陸から消えてしまったんだ。」
「……………」
「その戦いが終わってからしばらく経った頃………神竜王の末子が僅かな供廻りと共に聖地を、そしてエレオス大陸を出たんだ。」
「………もしかして。」
「
「そして紋章士を見つけたのが、この世界だった………。」
「しかし、本当はエレオス大陸に戻りたかったみたいだけど、時間と力をかけ過ぎて戻る事はできなかった。ならば、かつて
「………異界由来の予想で合ってたんだ。どうりで文献に無い建築様式な訳だわ。」
話している内に食事を食べ終えていたリュークとルーシィ。だが、話は続いた。
「それにしても、ご先祖様からお人好しなのね。故郷に帰れないからその場所の人の助けになろう、なんて中々じゃないかしら。」
「相当悩んだみたいだけどね。俺が同じ場面になったら、そんな決断できる気がしないな。」
「そうかしら。リュークこそ迷い無くそんな決断しそうだとあたしは思ったけど。」
「………そう言ってくれると、嬉しいな。代々続いたその血筋も、心も、初代から数えて9代目の俺で最後だけどね。」
「………悲しく無かった?」
「そりゃあ悲しんだよ。滅んだって理解したその瞬間も、母さんが死んだ時も、三日三晩わんわん泣いたよ。」
「………楽園の塔の戦いの後みたいに?」
「いちいち君は俺の恥ずかしいところを………!!まぁ、そうだけど、流石に200年、400年も経てば気持ちの整理はつくもんだよ。」
「ふーん。」
「信じてねぇな、これは。まぁいいや、次は何が聞きたい?」
「じゃあリュークの小さい頃、妖精の尻尾に入る前の話が聞きたいかな。」
「了解。」
リュークは一息ついてから話し始めた。
「俺は8代目の神竜王、ルミナの末っ子として生まれた。きょうだいは俺の知ってる中では兄と姉が1人ずつ。父さんと俺の知らないきょうだいは、俺が赤ん坊の時に戦いで亡くなったらしくて顔を知らないから、俺の家族って言ったら母さんと兄と姉の3人だ。んで俺がどんな子かって言ったら………まぁ、泣き虫で寂しがりな子だったよ。」
リュークは照れ臭そうに頬をかいた。
「いつも母さんや兄さん姉さんの後ろから離れないような子で、1人がとにかく嫌いで寂しいとピーピー泣いてたなぁ………いやぁ今思い出しても恥ずかしい。」
「チキも前そんな事言ってたわね………じゃあ、昔は戦うのもダメだった?」
「うーん、苦手ではあったと思う、昔は血が全くダメだったし。ただ、「紋章士のような英雄になりたい」って願望は強かったから、鍛錬には前向きだったかな?全部そこそこ止まりだったけど。」
「そこそこ止まり?」
「母さんは魔道の腕が圧倒的だったけど武器戦闘はからっきし。兄さんは武器戦闘の達人だったけど竜化は下手っぴ。姉さんは竜化が一番上手かったけど魔道は暴発まみれ。俺は全部が3番目、全てがそこそこだった。」
「なら、リュークでも連戦連敗のボロ負け続きだった?」
「うーん、勝率は3割から4割の間かな。」
「あれ、意外と勝ってる。何で?」
「紋章士のおかげだよ。まだ紋章士の力を十全に発揮できない時から、俺だけはほぼ完全な状態で引き出せたから少しは渡り合えたんだ。………だから400年前、ルーシィのご先祖、アンナさんが来て皆が紋章士の力をより引き出せるようになってからは全然勝てなくなったんだけどね。」
「ここで出てくるんだ、あたしのご先祖様。」
「星霊魔導士であり、同時に身寄りの無い子供達にものを教える教育者だったみたい。どうやら竜について調べていたみたいで、どこかでここの噂を聞いてやって来たんだ。」
「噂って………隠れ里じゃなかったの?」
「僻地にあるだけで、交易やら何やらで外との交流は積極的だったからね。それで、そのアンナさんの来訪はこの里にとっては革命だった。」
リュークは紋章士の指輪をテーブルに置いた。
「一族が何千年かけても引き出せなかった紋章士のポテンシャルを、星霊魔導士の視点からあっさり解明して引き出した。おまけに、この世界に眠っていた紋章士を見つけ出したんだ。」
するとルーシィの指輪から紋章士フィヨルムが現れた。
「わっ。」
『それで、私達4人が初めて、エレオス大陸にいない紋章士として生まれたのです。』
続けて紋章士アルム、紋章士リリーナ、紋章士シェズも現れた。
『長い眠りから覚めたかと思ったら、まさかセリカと会えるなんて思わなくてビックリしたよ。』
『私も、ロイやお父様と会えて嬉しかったわ。』
『私の場合はちょっと事情が違ったけど、それでも顔馴染みの人がいるのは安心したわね。』
さらに、リュークの指輪からも紋章士エリウッドが現れた。
『そこから僕達みたいに次々と紋章士が生まれたんだ。そして、アンナさんのおかげで里の誰もが紋章士を使えるようになって、特に神竜王ルミナから信頼されている者に渡されたんだ。』
「それで、エリウッド達は神竜王………ルミナさん?の臣下だったアーロンに渡されたのね?………じゃあ、何でフィヨルム達はあたしのご先祖様に?」
「そりゃあ、"恩人へのお礼"だよ。里の悲願を叶えてくれた大恩人への、こちらから出せた最大の敬意………そして、その大恩人にもし危機が迫った時に守ってあげられるようにという"護衛"、"お守り"として託したんだよ。」
「そっか………じゃあ、そのルミナさんには感謝を伝えないと。あたしのご先祖様に託してくれたから、今のあたしがあるもの。」
「そうだね。明日、母さんのお墓まで案内するよ。多分、喜ぶんじゃ無いかな。」
「………あれ、でも。」
ふと、ルーシィは止まった。
「あたしのご先祖様がここに来たのは400年前。でも、ここが滅んだのも400年前だった、って………」
「………そうだね。じゃあ次は、そこの話をしよう。」
リュークの顔が真剣なものに変わり、つられてルーシィの表情も変わった。
「400年前って言うのは戦乱の真っ只中でね、それも竜族同士の。」
「竜族同士の………?何で………?」
「人との共存を望むか否か。人を"共に生きる仲間"と認める竜族と、"餌かそれ以下の虫けら"としか見ない竜族。俺が生まれる遥か前から争いはあって、父さんが亡くなったのもこの争いの一つなんだけど、400年前のは最後にして最大の戦いだったんだ。」
「………勝ったのは、共存を望む竜族なのよね?」
「………そう、なるのかな?」
「煮え切らない言い方ね。」
「途中まで互角だったのが、ある時期から共存派に戦局が一気に傾いたのは事実なんだけどね。」
「何があったの?」
「異界の神竜王ナーガが自らの牙を鍛え、"ファルシオン"の剣として人間に授けたように………どこかの国の共存派の竜が、人間に"魔法"を授けた。」
「竜が、人間に、魔法を………あっ、まさか!!」
「………うん、滅竜魔法だ。どこが発祥かは分からないけど、共存派の竜は共に生きる人間に滅竜魔法を授けた。共に戦って欲しいからか、あるいは人間に自分の身を守って欲しいからか、想いは様々あったと思う………だけど、結果だけ言えば拮抗していた戦況の中、共存派の竜のみが戦力を数割増しにできたんだ、そりゃあ戦況も動く………だけど、思い通りにはいかなかった。」
「………?」
「竜の力に心体が耐えられなくなり、廃人となって暴走する滅竜魔導士が急増したんだ。その結果、敵味方の区別がつかなくなり味方であるはずの共存派の竜族も次々と殺されていった。」
「………という、事は。」
「………アンナさんを母さん、アーロンと共に見送りに里を出ていた時だった。黒い滅竜魔導士が、この里を襲った。」
「……………。」
「俺達が戻って来た時には惨状が広がっていた。兄さんも、姉さんも、里の外に出かけていた者以外は全員殺され、そして死体の山の中心に、仲間の返り血にまみれた黒い滅竜魔導士がいた。」
「……………。」
「あいつの事は忘れた事が無い………特に、あいつの目は。そして………腹を貫かれた痛みは。」
「!?」
「"そいつ"と目が合って、身体が竦んで動けない所をね………普通なら死んでたと思う。母さんが10日間付きっきりで治療と看護をしてくれたおかげで一命は取り留めたけど………その代わり、魔力を使いすぎた代償で竜族の力を失った。」
「……………」
「俺にも母さんにも生き残りをまとめる力は残っておらず、ソラネルの民は解散して滅亡。母さんは俺が独り立ちできるようにと無理しながら色々教えてくれたけど、200年前に亡くなった。俺は王位を継いでないし、そこでソラネルの里の歴史は幕を閉じたのさ。」
話は終わりだと言わんばかりにリュークは一息ついた。
「………ありがとう。話すのも辛いはずなのに、教えてくれて。」
「感謝するのは俺の方だ。………誰かに話せて、凄く気が楽になった。聞いてくれてありがとう。」
真剣な顔をしていたリュークの表情が綻んだ。
「しかし気づけばこんな時間か………ルーシィはここまで歩き詰めで疲れてるだろうし………あ。」
「どうしたの?」
「水が足りない。誰か来ると思って無くて1人分しか用意してないから、このままだと風呂やトイレの分が無い。汲んで来るから、飲み物とか適当に出して寛いでてー。」
「はーい、じゃあお言葉に甘えてー。」
そう言ってリュークは近くの川へ水を汲みに行った。竜化すれば2人分の水を運ぶのも容易で、さして時間はかからなかった。しかし。
「ホホーーーッッッ!?」
『ん!?フェルト!?何があった!?』
突如家から聞こえたフェルトの怒号にも聞こえた悲鳴。水の入った桶を置き、大急ぎで家に入ったリューク。
「大丈夫、か………?」
「ホホー!?ホー、ホーッ!!」
「えへへ〜、どうしたの〜フェルト〜?あそぼ、あそぼ〜っ。」
「……………は?」
寝ていたフェルトを叩き起こしてじゃれているルーシィ。それを見て、何か様子がおかしいと思いリュークは周囲をサッと見回した。するとテーブルの上にはお菓子と、嵩の減った酒瓶。
「(………まさか、酔っ払った?思えばルーシィが酒飲んでるの見たこと無かったけど、弱かったんだ………)」
だが、リュークに分析している暇は無かった。
「ホーッ!!」
「ああ〜いっちゃった〜………あ。」
「ん?」
「………じー………」
「………?」
「リュークがふたりいる〜、へんなの〜!!」
「………ひっどい酔い方だな。」
「………ホー。」
「知らんがな。日持ちするから酒持って来ただけであって、人が来る事もその人が悪酔いするのも想定外だよ。さてどう醒めさせ………」
「リューク〜。」
「る、か………?」
「あそぼ〜っ!!」
「ギャーッ!?」
焦点の合わない目に、上気した頬。完全に酔っ払った姿のルーシィはリュークを見るとふらふらと千鳥足で近づいてかリュークに飛び込み押し倒した。
「いでっ!!」
「ねぇ〜ねぇ〜、あそぼ〜よ〜。」
「頭思いっ切り打った………!仕方ない。で、何して遊びたいんだ?」
「ん〜?分かんない!!なにかないの〜!?」
「あいにく、持って来てないよ。」
「ええ、つまんないの〜。なんかだしてよ〜!!」
「また無茶を………」
「………あそんで、くれないの?」
「(………やり辛ッッッ!?)」
キャッキャはしゃいでいたかと思うと急に不貞腐れる。いつも以上にコロコロと表情を変えるルーシィに、リュークはやり辛さを感じていた。
「(外から見れば面白いんだろうけど………!!フェルトは………ダメだ、期待するだけ無駄っぽい!!)」
ふと視線を逸らすと、フェルトはルーシィの手の届かない所に止まり、クスリと笑ってから寝息を立て始めた。リュークを助けるつもりは全く見られなかった。
「(どうするんだよこれ!?ってか意外と力もかけてるし、ほどけん!!)」
「ねーねー、ゴロゴロ〜ってして〜?」
「はい?」
「ゴロゴロ〜って。」
「……………」
「………してくれないの?」
顎を指差すルーシィ。ついには涙目になるので、
「(めんンンンどくせぇ!!)」
と心の底に叫びを押し留め、言われるがままに撫でたリューク。するとルーシィは文字通りの猫なで声を発した。
「にゃ〜っ。」
「(ッッッ!!マズい、これはマズい!!)」
この先は色々とマズいと悟ったリューク。
「(かくなるうえは………一か八か!!)」
「?」
「〜〜〜♪」
「ん〜?どしたの〜?」
「〜〜〜♪」
「リュークって、うたうまいんだ〜………これって、こもり、う、た………?」
突然歌い始めたリューク。ゆったりと、優しい曲調で歌い始めた事に、最初はゆらゆらとリズムに乗って揺れていたルーシィだがやがて動きは鈍くなり瞼も重くなり始めた。
「ん………」
「………やれやれ。母さんの歌ってくれてた子守唄。うろ覚えだったけど、効き目あって良かった。」
眠気に支配され、拘束が弱まったタイミングでリュークは何とか抜け出した。
「はぁ………分かってやってんのかこの酔っぱらいのお転婆は………!?知らんぞどうなっても………!!」
小声でぶつくさ言いながら、リュークはルーシィをベッドに運んだ。
「未練がましく取っておいた母さんのベッドが役立つなんてね………ご飯作る前に準備しておいて良かった。」
あらかじめ準備しておいた、かつて自分の母が使っていたベッドにルーシィを寝かせ、布団を被せたリューク。
「さて、後は片付けをして………」
と寝室を出ようとしたリューク。だがその時、ルーシィが布団の下から手を伸ばしリュークの手を掴んだ。
「!?」
「さむ〜い。」
「どわっ!?あぶっ、力強っ!?」
不意に引っ張られたリュークは抵抗する隙が無く、ベッドに引きずりこまれたかと思うとルーシィはリュークを抱き枕の要領で抱きついた。
「今度は何を………!?」
「ポカポカ………」
「こんのお馬鹿さんは………!!」
「こんどは、あたしのばん〜」
「………まさか。」
「ママが教えてくれた、こもりうた………」
「マズ………っ!!」
「〜〜〜♪」
「このっ………!!………あー、ダメだこりゃ。」
そしてリュークに抱きついたまま子守唄を歌い始めたルーシィ。ここでリュークは抵抗を諦めた。
「ふわ………ヤバ、眠くなって来た………どうにか………しなくてもいいか。なんか、落ち着くし………今日は、もういい…か……………」
そしてルーシィに抱きつかれたまま、リュークは意識を手放した。
==========
「ふわぁ………っ。」
目を覚ましたリューク。外を見ると既に朝日が昇っていて、ルーシィの姿は無かった。
「しっかし不思議なものだ。ここ数年で一番目覚めがいい。ルーシィは一足先に起きてるね………よっと!!」
珍しくスッと起きられたリュークはベッドから飛び起き、寝室を出た。
「おはよー。」
「ホー。」
「!?」
「?」
「お、おおお、おは、よう………!!」
そこには顔を真っ赤にしながら昨日の片付けをしていたルーシィ。
「………昨日の記憶は?」
「………。」
「どうなの?」
「途中から、全然………」
「………今後、お酒は控えるように。」
「はい………反省します………。」
「よろしい。………2度とごめんだ、こんな危険な目に遭うのは。」
「ホホー?」
「うるさい。」
その後、顔を僅かに赤らめながらも気を取り直して朝食の準備を始めたリューク。だが、より大きな危機が迫っていたのを、リューク達は知らなかった。
続く
・ソラネルの民の歴史
エレオス大陸の神竜王の息子が、「紋章士に会いたい」の想いから紋章士を探す異界巡りの旅に出る(???年前)
↓
長い旅の末、アースランドに到達。戻る事ができない事を知り、この地で生きる事を決意。自らが生まれ育った場所から名前を取り、ソラネルの民と名乗る(約数千年前)
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リューク、当時の神竜王ルミナの末子としてソラネルの里で生まれる(約千年前)
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ルーシィの先祖、アンナがソラネルの里を来訪。紋章士の力を完全に引き出し、新たな紋章士も顕現させる(約四百年前)
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黒い滅竜魔導士の襲撃により里は潰滅。リュークも致命傷を受け、神竜王ルミナの献身的な治療により一命を取り留めたが代償として竜の力を失い、里を存続できなくなったので解散する(約四百年前)
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最後の神竜王ルミナ、亡くなる。1人里の跡地に残っていたリュークも旅に出る(約二百年前)
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現在。
・リュークと酒
普通に飲めるが、"身体を暖める為"だの"寝つきを良くする為"だの、実利的な理由で飲む事がほとんどで娯楽として飲む事はあまり無い。
今回酒を持ち込んだのは、インフラのイの字も無いところで保存しやすい飲み物が欲しかったからである(ノリとしては大航海時代の船乗りが真水の手に入らない環境で水の代わりにラム酒積んで飲んでたのと同じ)。
尚手持ち無沙汰なルーシィが飲んでしまった事でとんでもない事に。