こっから激戦続きになりそうで気合い入りますねぇ。
マカロフとS級魔導士昇格試験の出場者、そしてそのパートナーを乗せてハルジオン港を出た一隻の船。試験会場であり、妖精の尻尾の聖地である天狼島に向かうその船の上で、最初は馴れ合わないようにとしながら朝食を食べ雑談をかわしていたが天狼島が近づくにつれてある異変が起きた。
「アツい!!」
それは冬にも関わらずの真夏のような暑さだった。
「あたし溶けちゃうかも………アイスになって食べられちゃうんだ………」
「まずそうだね。」
「ルーちゃん、だらしないよその格好………リュークが不機嫌になってるし………」
「………ムスー。」
「そんな顔されても………何とかできないの?」
「攻撃用の氷魔法なら少しあるけど………生憎好きな人を氷漬けにして愛でるとか、雪女みたいな趣味は無いので。」
「えー、ケチー。」
「ケチって何だよケチって………ふわぁ。」
「ホー………」
天狼島の周辺は海流の影響で常夏の気候であり、半数の人は水着に着替えていた。ルーシィは水着姿のだらしない格好で椅子に座っており、リュークはその光景に少し不愉快な表情をしていた。
「あ。」
「見えてきたようだね。」
すると、間もなく目的地が見えて来た。
「着いたのか!!」
「あれが天狼島!?」
「スゲー形してんな。」
「島の上に………島?」
「いや、あれは………木だ。樹齢数千年はくだらない巨大な樹木が、島の頂に根付いている………」
木々に覆われた緑の島に、樹齢数千年から数万年もあろう巨大な樹木が根付き、その樹木の上に木々が生い茂って島のようになっていた。これが目的地である天狼島である。
「あの島にはかつて、妖精がいたと言われていた。そして、妖精の尻尾初代マスター、メイビス・ヴァーミリオンの眠る地。」
アロハシャツに着替えていたマカロフが天狼島について説明を行い、続けて"一次"試験の説明に入った。
「島の岸に煙が立っておるのが見えるか?」
「………あれですか。」
島の方に目を凝らすと、島の一角の浜辺に焚火の煙が上がっていた。
「まずそこへ向かって貰う。そこには9つの通路があり、1つの通路には1組しか入る事はできん。そして通路の先はこうなっておる。」
するとマカロフの横に画面が現れた。そこには9つの通路の先が書かれ、2つの通路が繋がった"闘"と書かれた道が2つ。エルザ、ミラ、ギルダーツの顔が書かれ"激闘"と書かれた道が3つ。そして"静"と書かれた道が2つあった。
「"闘"のルートはこの9組の内2組がぶつかり、勝った1組のみが進めるルート。"激闘"は先行して待ち構えた現役S級魔導士を倒さねば進めぬ最難関ルート。"静"とは誰とも戦わずこの一次試験を進めるルート。」
そしてマカロフはあおいでいた団扇をビシッと前に突き付けた。
「一次試験の目的は"武力"、そして"運"。」
「「「(う、"運"て………)」」」
「………そうだよな。予想外の死地に巻き込まれる可能性も高い、ならそこから切り抜ける"運"も捨てきれないよね………」
「何か妙に実感籠もってるわね………」
「理論的には最大で7組が合格できるって事ね。」
「でも最悪の場合4組しか突破できないのか………」
すると、マカロフが更に声を張った。
「さあ始めい!!試験開始じゃ!!」
まだ海上であるのにマカロフは試験開始を宣言し、大半の者はポカンとしていた。
「そう言う事か!!行くぞハッピー!!先に通路を選ぶんだ!!」
「あいさー!!」
そんな中、いち早くマカロフの意図を察したナツがハッピーに掴んで貰い空から飛んで行こうとした。
「んがっ!?」
「な!!」
「"術式"!?」
「安心しろ、5分後には解けるようになっている。」
だがナツとハッピーはフリードがあらかじめ仕掛けていた"術式"によって阻まれ、そのフリードはパートナーのビックスローと共に一番乗りで天狼島へと向かった。
「あんなのアリかよ!?」
「まぁレースじゃないし。」
「あいつを先に行かせたら島が"術式"だらけにされちまう!!」
「そうだ、レビィなら!!」
"術式"で出られなくなった他の参加者。すると、BOFの時にフリードの"術式"を解除した経験のあるレビィに注目が集まった。
「うん、書き換えられるよ………でも私とガジルだけ!!」
「ギヒッ!!」
「何ぃーーー!?」
「じゃあねー、皆お先ー。」
しかしレビィは自分とガジルの分だけ書き換え海に飛び込み先に泳いで行った。
「フフ、私もフリードと付き合いが長いからね、このくらいの"術式"なら書き換えられるわ。さぁ行くわよエルフマン!!」
「うおおお漢ォォォ!!」
続いてフリードと同じ雷神衆のエバーグリーンも"術式"を解き、エルフマンを連れ海に飛び込んだ。
「あと何分!?」
「あと4分です。」
「じゃあエバーグリーンはともかくレビィの奴、たった1分で………!?」
すると、リュークがフェルトを頭に乗せたまま立ち上がった。
「焦る必要は無いからこのまま待ってても良いけど、地の利を得るチャンスなら待つ意味も無い。なら、やってみるか。」
そうしてリュークは新たに紋章士の指輪として嵌めている"炎の紋章"を掲げた。
「
彼が顕現したのは紋章士セリカ。それを見てルーシィが彼の意図を察した。
「まさか!!」
「そのまさかさ。"エムブレム・エンゲージ"!!」
その場で"エンゲージ"したリューク。
『ちょっともったいないけど………"ワープライナ"!!』
そして即座にエンゲージ技"ワープライナ"を使うとリュークとフェルトの姿が船から消えた。
「やられた………って、紋章士?」
口惜しそうにその光景を見ていたルーシィだが、ふとある事に気付いた。
「魔法を禁じられている訳じゃないなら………でも他の皆も出られるように………」
「何ぶつぶつ言ってんだい、ルーシィ?」
「ううん、背に腹は代えられない。」
するとルーシィも"炎の紋章"を掲げた。
「
ルーシィはその場で紋章士ヴェイルを顕現。
「ヴェイル、この"術式"なんとかできる!?」
『この結界ね………やってみる!!』
紋章士ヴェイルの"魔封じ"の応用で"術式"の解除を試みた。
『んん………できた!!』
そして紋章士ヴェイルの力で"術式"を解除、全員でヨーイドンとなった。
「よし、行くわよルーシィ!!」
「うん!!」
しかし、カナとルーシィよりも他のペアの方が早かった。
「ハッピー!!」
「あいさー!!」
「"アイスメイク・
「リサーナさん、ついてきてます!?」
「もちろん!!」
「まずい、このままじゃ………」
「任せて!!ヴェイル、ありがとう!!そして………
「!?それって確かリュークの紋章士じゃあ………?」
「今は互いの紋章士も顕現できるの!!あたしに掴まって!!」
ルーシィは紋章士ユーリスを顕現。
「行くわよ………"トリック"!!」
紋章士ユーリスのスキル"トリック"によりルーシィと彼女に掴まったカナはリサーナ、ロキ、ナツの順番に位置を入れ替え前に出た。
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「うーん、ルーシィにヒント与えちゃったか。先行できたメリットが少なくなっちゃったなぁ………」
「ホー………」
"術式"が解除されデッドヒートが繰り広げ始めた光景を見て頭をかいたリューク。
「ん?」
すると、自分のすぐ横に、誰かが同じようにワープして来たのを見た。
「今の………メストとウェンディか。」
それはメストとそのパートナーとなったウェンディだった。
「(そう言えばメストとウェンディって関わりあったのか………と言うか俺メストの事あまり知らないんだよなぁ………)って、そんな事考えている場合じゃあ無かった。」
既にフリードペアとメストペアが入ったルートは閉鎖。すぐ後ろにはレビィペアとエルフマンペアにナツペア、その後続に他のペアも僅差で続いていた。
「じっくり考えている暇は無いか………なら、さっさと入って戦闘準備だ!!」
リュークは一番近い通路に飛び込んで先に進んだ。そして間もなく他のペアも僅差でそれぞれの通路に入り、全員が一次試験の本番へと進んだ。
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「ありゃ、これは予想外。てっきり戦うつもりだったんだけど。」
「ホホッ。」
リュークの辿り着いたルートは"静"だった。
「魔力を温存できて良かった………と言うより。」
リュークは前に進みながら、強めに足踏みをした。
「魔力が回復してる。それも自然回復とは比べ物に………と言うか、上限突破してないか?」
全快を越えた魔力回復に、只事では無いと感じたリューク。
「魔力に満ちている………だけじゃない。これは………"加護"の類?」
『………恐らく、そうですね。』
リュークの隣に紋章士リュールが現れ、リュークの推測に頷いた。
『1度目の邪竜との戦いの後、私は千年の眠りにつきました。眠り続ける私を守ってくれたのは母であった、先代の神竜王とその"気"による"加護"でした。この魔力の流れには、その"気"に近しいものを感じます………初代マスターと言う方は、それほど慈悲深い人だったのでしょう。』
「やはりそうですか………どんな人だったんだろうか、初代マスターとその仲間は。」
『もしかしたら、この試験を通じて知る事もあるかもしれませんね。』
「ですね………では、進みますか。」
こうしてリュークとフェルトは"静"のルートを進んだ。
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「ん。」
道を進むと、9つの分かれ道が集まる場所に辿り着いたリューク。
「あ、リュークだ!!」
「レビィにガジルか。てっきり一番乗りだと思ってたよ。」
「私達とリュークが"静"のルートだったんだね。ラッキーで良かったよ。」
そこにいたのはもう一つの"静"のルートを当てたレビィとガジル。レビィは戦いをせず突破できた事に喜んでいたがガジルは対照的な対応を見せていた。
「ケッ、どうせなら2つの"静"のルートを"闘"にまとめてくれりゃ良かったのによ。」
「勘弁してよ、リュークと戦うなんて!!」
「ははは、俺もガジルは絶対に勘弁願いたい。」
「何でだよ!?」
「
「滅竜魔法擬きの技や武器はお前も持ってるからおあいこじゃねぇか。何ならここで一戦やるか?」
「ガジル!!」
すると、次の突破者が来た。
「リュークにレビィちゃんだ!!」
「ルーちゃんとカナ!!」
「"静"を通ったのは俺達とレビィ達、と言う事は………」
リュークの言葉にルーシィはドヤ顔を見せた。
「ふふん、無事勝利したわ!!しかも紋章士を温存しての大勝利よ!!」
「フリードとビックスロー相手に隙をついて何とかね。」
「話が食い違ってないか?」
「いいのよ、とにかく勝ったんだから。」
次に来たのはナツとハッピーだった。
「……………。」
「ナツ………?」
しかしナツは考え事をしているのか、落ち込んでいるのか、終始下を俯いて無言だった。
「ハッピー、何かあったのか?」
「ギルダーツと戦って、ちょっとね………」
「ギルダーツと………」
その後、グレイとロキが到着。
「おっと、一次試験を突破したのはこれだけか!?」
「グレイとロキだ。誰と戦って突破したんだ?」
「メストとウェンディだ。」
すると、このタイミングでマカロフが歩いて来た。
「さて………これで全員か?」
「えーと、"静"ルートは俺とレビィ、"動"はフリードを倒したカナ、メストを倒したグレイ、"激闘"はギルダーツを突破したナツ………つまり残りのエルフマンとジュビアは"激闘"………」
「先程連絡があった………ジュビアとリサーナは奴と………あの手の抜けない女騎士と当たり敗退した。」
「あーあ。」
「となると、エルフマンとエバーグリーンが当たったのは………」
「ミラジェーン………これは………」
その時、残っていた通路の1つから大声が轟いた。
「ちょっと待てーい!!」
「!!」
ボロボロになり、互いを支えながらエルフマンとエバーグリーンがやって来た。
「俺達も姉ちゃんを倒して来たぞ!!」
「一次試験突破よ!!」
「何と!!」
「でもどうやって………?」
「そ、それは………それは言えん、漢として!!」
「………一瞬のスキを突いた、とだけ言っておくわ。」
「(何をしたのかしらー………)」
ともあれ、一次試験を突破したのはこの6組となった。
「オホン。では、二次試験の内容を説明する………この島の何処かにある、妖精の尻尾初代マスターであるメイビス・ヴァーミリオンの墓を6時間以内に見つけ出せ。ワシはそこで待っておる。」
そう言い残し、マカロフは転移魔法で姿を消した。
「じゃあ、動き出すか。」
二次試験はもう始まった。各チームが動き出そうとした時、俯きっぱなしだったナツがすくっと立ち上がった。
「グレイ!!カナ!!レビィ!!エルフマン!!そしてリューク!!」
そしてナツは皆へ指差した。
「誰がS級魔導士になるか勝負だ!!」
ナツの宣戦布告にそれぞれが答えた。
「お前だけには負けねぇよ。」
「私も負けられないんだ。」
「私だって。」
「その勝負、受けて立ーーーつ!!」
「………いいよ、返り討ちにしてくれる。」
それぞれの宣言の後、二次試験である初代マスターの墓探しに各チームが散った。
==========
「………さて、この広い島から1つの墓を見つけなければいけない訳だが………」
今度は道なき道を行方リュークとフェルト。リュークは思考を巡らせながら目的の墓の場所を探していた。
「うちの里みたいに日当たりの良い方角………とはならないよな。ここまでの"加護"があって、"聖地"とまで呼ばれるなら………神聖視するに値する場所、となると魔力の集まる龍脈の類か、あるいは。」
と、リュークは天狼島の特徴である、天を突く程大きな大樹を見上げた。
「この大樹の根元か。」
だがいまいち確証は得ていない。
「………何と言うか、推理の方向性が違う気がする。こう言う推理はなぁ………」
と言いかけて頬をバシンと叩いた。
「………バーカ、今更後悔してどうする。君と辿り着くと決めたんだから、失礼になるよね、フェルト。」
「ホーッ!!」
「あの大樹に向かいつつ、フェルトの偵察で空からも探す。それで行くには………」
リュークは周囲を見回した。
「グルル………」
「ギャーッ、ギャーッ!!」
「豊富な魔力を身に受けてとんでもない進化を遂げているな。」
リュークを取り囲んでいるのは、天狼島の豊富な魔力を一身に受けて独自の進化を経た、強力な猛獣達。
「………あんまりこのやり方は好きじゃないんだけど、このままじゃあ満足に空からの偵察もできない。………やるか。」
と、猛獣達を睨み付けたリューク。だがリュークと言う"人間"が睨み付けたところで猛獣には効かない。
「「「グオオオッッッ!!」」」
「………!!」
猛獣が一斉に向かって来たその瞬間、リュークは懐の"竜石"を手に取り、魔力を流し込んだ。するとたちまりリュークは姿を変え、1頭の竜へと変身した。
『……………』
「「「ーーー!!」」」
翼を広げ飛び上がると自分に向かって来た猛獣達を再び上から睨み付けたリューク。若いとは言え竜種、その中でも神竜族が1頭。生物としての"格"は猛獣達とは比べ物にならず、それを本能で理解した猛獣達はリュークに襲い掛かるどころか近づく事すら能わなかった。
『失せろ。』
「「「………!!」」」
その言葉は猛獣達を追い払う威嚇には十分だった。
『………ふぅ。』
猛獣を追い払えたのを確認したリュークは竜化を解いた。
「さて、これで空からの偵察がやりやすくなったね。」
「ホーッ。」
「それじゃあさっきの手筈通り………」
「ホ、ホホーッ!?」
フェルトの鳴き声は新たなる敵襲の報せだった。
「………はぁ。敵を追い払う為に竜化したんだけど、逆効果かぁ。」
「ギヒッ。」
「………最悪だ。考えうる中で最悪の相手だ。」
現れたのがガジルとレビィだと判明し、リュークは憚らずに盛大な舌打ちとため息をついた。
「聞いたこともない舌打ちだ………」
「ここまで血に飢えた"天敵"を前にしたらこうもなるよ。」
「ちょうど暴れ足りなかったところだ………勝負だリューク。」
「ちょっとガジル………」
「戦わねぇなら下がってな。今まで避けられたが、滅竜魔導士として
「何よ………私の事はどうでもいいって事?」
「……………。」
先程より更に大きなため息をついたリューク。バックステップで逃げようとしたが、ガジルが腕を剣にして伸ばし、リュークの退路を断った。
「ギヒッ、逃がすかよ。
「………だから嫌なんだよ。」
するとリュークはガジルを冷たく睨みつけた。その寒気に、直接睨まれていないはずのレビィが思わず身震いした。
「お前にしろ、ナツにしろ………"殺す"って思わないとこっちが死ぬから嫌なんだ。」
「………!!」
「フェルト、レビィを見張ってくれ。この状況でそっちまでは面倒見切れない。」
「ほ、ホホーッ!!」
その指示でフェルトはレビィの前で翼を広げた。そしてリュークは"銀の弓"を取り出すとそこに"炎の紋章"を当てた。
「"クラスチェンジ"、スナイパー………"神器錬成・始まりの弓"。」
すると"銀の弓"と"炎の紋章"が光り輝き出し、間も無く"銀の弓"は金色の弓、"パルティア"に変化した。
「安心しな、手は抜かないし抜けない………その代わり、殺しても殺されても恨むなよ?」
続く
・紋章士の共有
"炎の紋章"に切り替えた結果、リュークとルーシィは互いの持っていた紋章士も顕現できるようになりました。
ただし、一方が顕現もしくは"エンゲージ"している時はもう一方が顕現もしくは"エンゲージ"する事ができない。
ただしリュークとルーシィ、それぞれがより適性の高い紋章士がいるのであまり"顕現のタイミングが被って紋章士を顕現できない"なんて事は起きない。
・リュークの"最大の天敵"、ガジル
武器は食われて強くなる、高威力の武器はむしろご馳走、数少ない非金属製の武器である訓練用武器だと攻撃を通すのに苦心する、徒手格闘は滅竜魔法を食らうリスクが高い、などとリュークが苦手な要素しか無いので、ブッチギリでリュークが戦いたくない魔導士No.1ですね。No.2はナツ。
エンゲージ武器も、「万一食われて使えなくなったらどうしよう」と言うのがあるので、未知の素材()でできていて食べられる可能性が少しだけ低い英雄の遺産以外はそもそも出したくないとまで思っている(尚、英雄の遺産の修復に使うものはダーク"メタル"なので普通に食われる可能性アリ)。
次回はそんなガジルとの戦いです。
次回、69章 横槍