先に謝っときます、ごめんなさい。
あと戦闘は皆無なのでそちらを期待された方も申し訳ありません。
S級魔導士昇格試験が発表される数日前。妖精の尻尾の、特に若手の魔導士は自分が選ばれるようにアピールしようと躍起になっていたのだが、この日は少し違った。
「……………。」
「ナツさん、頭を出し過ぎです………。」
風の冷たい早朝のマグノリアの公園、その茂みから顔を出していたのはナツとウェンディ。その足元にはハッピーとシャルルもいた。
「全く、何でこんな事を………」
「そう言う割にはシャルルも乗り気じゃなかった?」
すると、ナツとウェンディの背後から彼らに声がかかった。
「何をしているんだ?」
「エルザさん………!!」
「エルザ、今は隠れろ!!」
「コソコソと怪しげな行動をしているが………」
「しーっ!!今は隠れて………!!」
「一体何なんだ………?」
「あれよ。」
ナツ達と同じように茂みの陰に隠れるように引き摺りこまれたエルザ。困惑した表情を浮かべる彼女の疑問に答えるように、シャルルが指を指した。
「……………」
「あれは、ルーシィか?」
公園の噴水の近くで立っていたのは普段と少しだけ様子の違うルーシィだった。と言うのも妙にソワソワしていたり、しきりに凍りかけの噴水の水面を見ては前髪をいじったりしていて普段とは違う落ち着きの無さだった。
「なんか落ち着きが無いな………何かあったのか?」
「ルーシィの落ち着きが無いのはいつもの事だけど、今回は一味違うよ。表情見てよ。」
ハッピーの言葉に応じてルーシィの顔を見たエルザ。少しだけ不安そうで落ち着かない表情が2割程。残りの8割は、ニヤけそうな顔を必死に、恥ずかしそうに抑えている表情だった。
「……………ああ。そう言う事か。」
「あい………今日がリュークとルーシィの、初デートだよ。」
そう。この日は付き合い始めたリュークとルーシィの、初デートの日だった。
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「(………大丈夫かな。変じゃないかな。)」
もはや挙動不審と言うレベルでソワソワしているルーシィ。舞い上がって変な表情になっていないか。気合いが空回りして服装や化粧が乱れていないか。準備万端で家を出た筈なのに気になってしょうがないルーシィは凍りかけの噴水の水面を鏡代わりにしきりに確認していた。
「へくちっ。」
小さくくしゃみをしたルーシィ。
「(うう………調子に乗って早く来すぎた………)」
集合時間より明らかに早く出てしまったルーシィ。相手である"待ち人"はギルドで一番朝に弱く、早朝の待ち合わせで早く来るタイプでは無いにも関わらず、である。
「おはよう。待たせちゃったかな?」
「!!」
背後から声をかけられ振り向いたルーシィ。すると彼女は声をかけた人の顔を見て、赤面しながらも表情がパァっと華やいだ。
「ううん、今来たところ!!」
「………ごめん。鼻水垂らしながら言われても説得力が皆無だよ。」
「うう………」
「何で寝坊助と待ち合わせるのに早く来ちゃうかなぁ………」
「しょうがないじゃん。そう言うリュークだってどうしたのよ?てっきり遅刻するかと思ってたのに。」
「………君と同じだよ。いくら寝坊助でも、千年生きてれば1日2日くらいは早起きするさ。」
"待ち人"たるリューク。いつもの服、つまりは先祖である紋章士リュールの装いににた服装で来た彼は珍しく早起きしてルーシィと合流したのだった。
「それじゃあ、風邪ひく前に行こうか。」
「うん!!」
ルーシィはリュークから差し伸べられた手を取り、手を繋いで歩き始めた。
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「………全く、なんて浮かれた顔なのかしら。ところでだけどハッピー、何で今日がデートだって分かったの?」
「ナツと一緒にルーシィの部屋に入ったら、机に置いてあったカレンダーの今日の日付に大きなマルが書かれてたから。」
「彼氏持ちの女の子の家にズカズカ入れるってどんな神経と根性よ………」
「それにデートの尾行など………デリカシーと言うものは無いのか。」
「エルザさん、その格好で言われても説得力が皆無です………」
「1周回って怪しいわよ、それ。」
ナツとハッピーのデリカシーの無さを指摘したエルザ。しかし彼女の格好はどこで揃えたのか鹿撃ち帽子にコートと、絵に描いたような探偵姿になっており尾行する気満々であった。
「ところでだが、グレイはいないのか?」
「あ、あはは、グレイさんは………」
「シャルルとウェンディと一緒に誘ったんだよ?でもね………」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
遡る事昨日。
「リュークとルーシィのデートを尾行する?あー、悪ぃ、面白そうではあるが俺はパスで。」
「えー、なんでー?」
残念そうに首を横に振ったグレイ。その理由を聞こうとした、その直前。
「グ〜レ〜イ〜さ〜ま〜♡♡♡」
「………これで尾行は無理だろ?」
「………ああ、うん。」
「何と言うか………頑張れ。」
リュークとルーシィの交際宣言を境に、
「次はジュビアの番です!!」
と、更にグレイへのアタックが積極的になったジュビア。それに追いかけられては尾行なんて出来たものではない、と言う事でグレイは見送ったのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………確かに、あれでは尾行どころでは無いな。」
「最近ジュビアさん張り切ってますから、余計にですね………」
「それよりも、そろそろ追いかけないと見失うわよ。」
「よーし!!それじゃあ………」
「大声を出すな!!」
「あい………」
==========
尾行されている事などどこ吹く風、手を繋ぎながら歩くリュークとルーシィ。2人がまず向かったのは一軒の洋服屋。
「ん?ここでいいの?ハートクロイツって女性用のイメージしか無かったけど………」
「確かに女性ものがメインだけど、男性ものも取り扱っているわよ。」
「そっか。それじゃあ、よろしく頼むね。」
「ふふん、このあたしに全て任せなさい!!」
ハートクロイツ。女性に人気のファッションブランドで、ギルド内でもエルザを始め多くの女性が愛用するブランドのお店に来たのはリュークの"服選び"だった。
「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか?」
「この人に合う服を探しに来たの。」
「なるほど………彼氏さんのお召し物ですね。メンズの売り場はこちらです。」
「か、彼氏………えっと、はい、ありがとうございます!!」
先祖であるリュールの衣装を元にした神竜族の衣装や、出自を明かす前に着ていた白いフード付ローブの他にも数種類の服を持っているリューク。しかしそのどれもが数百から数千年前にデザインされた"民族衣装めいたもの"しか無く、どうしても浮世離れしたイメージを抱くものしか無かった。そこで、ギルドで一、二を争うおしゃれさんであるルーシィに服選びをお願いしたのだった。
「うん。やっぱり髪と目の綺麗な青と緑は活かさないと。となると帽子やサングラスはあまり使いたくないし、色を使い過ぎると霞んじゃう………それで、シンプルだけど地味じゃない塩梅のファッションで行くとなると………これだけ試してみよう!!」
そして試着用にルーシィが持ってきたのは服の山。そこからリュークは着せ替え人形のように服を取っ替え引っ替えで試着し続けた。
「……………」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫、初めての事だからビックリしてるだけ。ルーシィに任せるって言ったのは俺だから、気の済むまで頼むよ。」
「分かった。それじゃお言葉に甘えて。」
もうしばらく試着を続けた後、ルーシィは数組のコーデやコート、マフラーなどを選んでリュークに渡した。
「こんなところかしら」
「分かった。それじゃあ店員さん、これだけまずお願いします。」
「じゃあ、次はこれ………っと。」
次にルーシィが持ってきたのはレディースの服が数組。だが普段ルーシィが着ているような露出度の高めな服では無く、ロングスカートなどの露出を抑えた服ばかりだった。
「何か、普段選ばないタイプの服装じゃない?」
「うん、だってリュークに着て貰おうかなって。」
「は?」
「大丈夫、ゆったりサイズのやつだから、リュークでも着られるわよ。大丈夫、絶対に似合うから。」
「そこを聞きたいんじゃ無いんだけど。」
「えー、あたしに任せるって言ったのに反故にするの?」
「………君は俺をどうしたいんだ?」
「………ファンタジアの時の女装が思いの外似合っていたのが頭に残ってて………別に毎日着て欲しい訳じゃなくて、たまの余興とか、どこかに潜入する時とかに着て欲しいなー、なんて。」
「………急に何を言い出すかと思えば。」
額に手を当てやれやれとするリューク。トンチキな事を言い出すルーシィを止めてくれないだろうかと店員に目を向けたのだが。
「ああ!!去年のミス・フェアリーテイルコンテストに女装で優勝された方じゃないですか!!それならきっと似合いますよ!!」
「………これが"梯子を外される"、って奴か。」
店員がルーシィについたのを見てリュークは諦めた。
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「お買い上げありがとうございましたー!!」
その後いくつか女装をする羽目になったリューク。興が乗ってルーシィと共にリュークの女装服を選び始めた店員が女装の沼にハマり始めると言う二次災害を尻目に、ルーシィの服も数着買った上で2人共買ったばかりの服を着て店を出た。ニットにジーパン、そしてロングコートのリュークとニットにデニムスカート、そしてロングコートのルーシィと、服装を揃え再び冬の街を歩き始めた。
「………覚えてろよ。」
「女装服の分はこっちで出したんだから許してよー。」
「………しかし服を揃えてみて気づいたけど、そう言えば初めてじゃ無かったね、ペアルック。」
「そうだったわね。六魔の時とエドラスの時、そして今回で3回目ね………付き合う前から何やってるのかしら、あたし達」
「そりゃあミラあたりから揶揄われても仕方ないか………」
互いに顔を赤らめた2人。するとリュークの腹が鳴り、彼の顔がもう一段階赤くなり熱を持った。
「………ごめん、お昼にしない?」
「うん………あ!!それじゃあせっかくだし、あそこにいかない!?」
「あそこ?」
「うん!!こっち!!」
ルーシィに手を引かれ小走りで街の往来を進み始めた2人。そのやりとりを尾行組は後ろから見ていた。
「………ルーシィはともかく、リュークが"ああ"なるとは思わなかったわ。」
「……………」
「ウェンディ、どうしたのよ?」
「り、リュークさんの女装をちらっと見て、何か負けた気が………」
「何でよ!?しっかりしなさい!!」
「しっかし腹減った〜。俺達もメシにしないか?」
「オイラはもうお腹いっぱいかな。それよりもオイラはのどが渇いたよ、口の中がジャリジャリしてる気がするんだ。」
「………同感だ。」
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ルーシィに引っ張られて来たのは一軒のレストラン。
「いらっしゃいませ。」
「2名で。」
「こちらにどうぞ。」
それなりの値段で幅広いメニューを取り揃え、味も良いので両名とも何度も来た事のあるレストランではあるが、ルーシィがわざわざここを選んだのには理由があった。
「こちらがメニューです………それとお二人のご様子から見て、"こちら"も必要でしょうか?」
2人を席に案内した店員は2人の様子を見て、通常メニューと共にもう一つメニューを出した。
「はい、お願いします!!」
「ではこちらに。ご注文が決まりましたらお声がけください。」
そう言い残し店員が去り、ルーシィはもう一つのメニューを手にした。そこには"カップル限定メニュー"とあった。
「せ、せっかくだからさ………こっちも、頼まない?」
「いいよ。しかし遠くから見てたこのメニューを、俺達が頼む事になるとは………」
「うん。いつか一緒にこんなの頼む人ができたらなー、なんて思った時もあったけど、思ったよりも早かったな………」
このレストランの名物の1つが、カップル限定メニュー。2人共、他のカップルが頼んでいたのを別の席から見た事はあったがまさか自分達が頼む日が来るとは………と思いながら2人はメニューに目を落とした。その結果、食事は通常メニューからそれぞれ頼み、デザートをカップル限定メニューから頼んだ。そして食事を済ませ、店員がデザートを持って来た。
「お待たせしました。」
「これが………」
「………!!」
「カップル限定、特製ジャンボパフェです。」
テーブルに置かれた特製ジャンボパフェ。
「「………いやデカくない?」」
最早バケツと形容した方がいいような器に敷き詰められたアイスクリームやフルーツ、その上には色とりどりのフルーツやプリン、ミニケーキやプチシューなどが乗っけられた巨大パフェ。明らかに2人分と言い張るには大き過ぎるサイズのパフェに2人は呆然とした。
「前見た時はこんな大きくなかった気がするんだけど………?」
「魔導士さんならたくさん食べるだろうからサービスしました?………魔導士をアスリートか食べ盛りの学生か何かだと勘違いしてない?」
「………と、とりあえず食べようか。」
「うん。」
ツッコみたい気持ちを抑え、2人は巨大パフェにスプーンを伸ばし食べ始めた。
「リューク。」
「ん?」
「はい、あーん。」
「ん。」
アイスとフルーツをすくったスプーンをリュークの前まで伸ばしたルーシィ。するとリュークは首を伸ばしてパクリと食べた。
「それじゃお返し。はい、あーん。」
「う………あむっ。」
お返しとアイスとフルーツをすくったスプーンをルーシィに差し出したリューク。ルーシィは一瞬躊躇ってからそれを食べた。
「「……………。」」
「………は、早く食べちゃおうよ。」
「………う、うん。そうしようか。」
パフェのアイスが溶けそうな程暑いのは暖房が効きすぎているからだ、決して互いの軽い出来心で取った行為で恥ずかしくなって顔が熱くなっているからではない。そう念じながら、顔が真っ赤の2人は一心不乱にパフェを平らげ、そそくさと店を出た。
「ありがとうございましたー。」
「ごちそうさまでした〜………さて、い、行こうか。」
「うん………えーと、次はあそこのお店に行きたくて………」
2人が出た直後、あるメニューの注文が一気に増えた。
「コーヒーおかわり、ブラックで!!」
「何杯お持ちしましょう?」
「あい、5つお願いします。」
==========
その後いくつかのお店を回ったリュークとルーシィ。
「何か、全部のお店でペアセットの商品勧められるわね………」
「そりゃあ、2人してこんな格好して歩いてればね………それに、言われる度に顔赤くしてりゃ向こうの思うツボだろうし………」
頭をかくリューク。2人で行動するのは今まで何度でもあったのに、恋仲になっただけでこうも調子が狂うのか、と言いたげな表情だった。
「そうよね、どうあれ付き合う前からこうして並んで歩く事はあったのにね………でも悪い気分はしない、むしろ良い気分。」
「………そうだね、同感だよ。」
「ところでだけど、少し歩き疲れちゃったかも。」
「朝から歩き詰めだからね………そうだ、じゃあついてきて。」
今度はリュークが手を取ってルーシィをある所へ連れて行った。
「ここは?」
やって来たのは喫茶店。それも所狭しと大量の本が並べられている、所謂ブックカフェと呼ばれる類のものである。
「あっ、ここレビィちゃんが前言ってたお店だ。」
「俺達が腰を落ち着けるには手頃な所かなって思って。」
リュークとルーシィ、2人に共通する趣味である読書。落ち着いた雰囲気でコーヒーや紅茶を飲みながら読書に耽るのは一休みにも気分転換にもうってつけだった。
「さてと、何を読もうかな………たまには普段読まないジャンルの本に手を伸ばすのもアリだな………ここはルーシィにオススメを………」
飲み物を頼み、席に座ってから本に囲まれた店内を見回したリューク。何を読もうかと考えていたその時、ルーシィがテーブルに数種類の本を2冊ずつ持って来た。
「今あたし達が読むのは、いや"読まないといけない"のは、これよ!!」
「これは………どれも恋愛小説だね。どうしたの、これ?」
「店長さんに選んで貰ったの。」
ルーシィは続けた。
「今のあたし達に足りないのは"大人の余裕"よ。事あるごとに舞い上がって恥ずかしがってちゃあたし達は一生子供のままよ。だからこれを機に、"大人の恋愛"と言うものを読んで学びましょう。」
「………なるほどね。」
リュークは苦笑いをしながらも頷いた。
「一理どころか百理あるね。じゃあどれから読もうかな………」
そして席に座ったリュークとルーシィは恋愛小説、それも"大人の恋愛"が綴られた作品を読み始めた。同じ本を読み進めては感想を言い合ったりして、静かな時間を過ごした。そうする事数時間。
「「………!!」」
2人は今まで以上に顔を真っ赤にしたまま机に突っ伏していた。
「あ、あんなの………ウソ………!?」
「………なんか、情けねぇな………」
こうなった理由は単純明快。読み進めている内に、濃密な口づけや"一線を越えた"描写にぶち当たり、その描写を自分達に当てはめた想像をしてしまったからである。身も蓋も無い事を言えば完全な自爆であった。
「………一度、このジャンルは置いておこう。他に普段読まないジャンルだと………」
「うーん、なら推理ものはどうかしら?良さそうなもの探すからリュークは………オススメの歴史小説を持って来てくれないかしら。」
「ん、分かった。」
"大人の恋愛"はまだ早いと判断した2人は恋愛小説を諦め互いのオススメの作品を探し、それを読む事にした。尚、どちらも勧めた作品に結構過激な濡れ場のシーンがあるのを忘れていて、結果2人は再び茹でダコのように真っ赤になり机に突っ伏すのだった。
「は、はわわわ………!!」
「………!!」
「何であんた達まで自爆してるのよ………」
「「くかー。」」
「んであんた達はなんなのよ………」
「あはは………」
尾行組はと言うと、ウェンディとエルザがリュークとルーシィが読んでいたものと同じ本を読み思わず赤面し、ナツとハッピーは読書に飽きて居眠りと尾行を放棄しだしたので残るシャルルが、偶然店内にいたレビィと一緒に2人の観察をしていた。
「………それで、ここまで見ててどうだった?」
「完全に子供の恋愛ね。と言うかリュークが変わりすぎよ。付き合う前でも2人で動いてる時はあったけど、もっと大人らしい対応をしてたはずだけど?」
「ルーちゃんから聞いた話でしか知らないけど、思ったよりリュークがルーちゃんに惚れていて、ルーちゃんに甘えているみたい。」
「その結果が、あんなに2人して事ある毎にドキドキしてギクシャクしてるのね。口の中が甘い以外は見てる分には正直面白いけど。」
==========
そこから数時間後。日が暮れたところで2人は最後に夕食を取る事にした。
「ここで良かった?」
2人が入ったのは大衆酒場だった。元々はリュークが格式の高めなレストランかバーを予約しようとしたがそれをルーシィが断ったのだ。
「うん。今はこういう所の方が良いかな。」
別に恥をかくから、と言うものでは無い。末っ子と言えども里長の息子であるリュークと、財閥の令嬢であるルーシィ、どちらもマナーの心得は十分にある。だがその出自に嫌気が差して家出したルーシィからすると、現時点では格式高いお店よりも少し騒がしいくらいが居心地が良くて、この大衆酒場となった。
「それにしても、あんなに早くから動いたのにあっという間だったね。」
「そうだね………さっきも言ったけど、2人でどこか行くのもご飯食べるのも初めてじゃない筈なのにね。」
「うん。あたしもリュークも、ずっとドキドキしっぱなしで、舞い上がりっぱなしで、空回りしっぱなしだった………でも、凄く楽しかったし、凄く幸せだった。」
ルーシィは満面の笑みを浮かべた。それにつられてリュークもニコリと笑った。
「また行こうね。」
「うん、今度はどこへ行こうか、今から楽しみだ………"大人の恋愛"は、そのうち出来るようにしよう。」
「そうね。あ、料理が来た。」
頼まれた料理がテーブルに並べられたのだが、それと一緒にルーシィの前に置かれたものを見てリュークの笑みが消えた。
「ルーシィ、それ………お酒だよね?」
「うん。少しお酒を飲む練習を、って。大人ならお酒も嗜めるようになりたいから………。」
「………本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、度数の弱いものを選んでるから!!」
「(………大丈夫かなぁ。)」
これ以上強引に止めるのも、と思いリュークは目を瞑った。だがこの判断が間違いだったのはすぐに分かることとなった。
==========
『………酔いは醒めた?』
「はい、だいぶ………ごめんなさい。」
『全く………。』
その後、案の定出来上がってしまったルーシィ。このまま帰すのも危険と判断したリュークは彼女をおぶって郊外まで出ると竜化し、彼女を背負ったまま上昇し、夜空を飛んだ。
『危なっかしいったらありゃしない。』
「危ないのはどっちよ。何度振り落されそうになったと思ってるの?」
『どこかの誰かさんと違って、加減はできるのでね。』
「むぅ………!!」
リュークのからかいにムッとしたルーシィ。だが、すぐに表情が変わった。
「きれい………」
ルーシィが空を見上げると、そこには満天の星が輝き、夜空を彩っていた。
『1日の締めくくりにはいいかなって。』
「うん、ありがとう。」
そのまましばらく夜空を眺めながら飛んだリューク。この遊覧飛行はルーシィの酔いと火照りが完全に落ち着くまで続いた。
==========
地上に降りたリュークは、時間が時間なのでルーシィを家まで送った。
「今日は楽しかったよ、急に誘ったのにありがとうね。」
「うん、こちらこそ!!また行こうね!!」
「それは何より。それじゃまたあし………」
とリュークが振り返ろうとしてルーシィから視線を外した瞬間。
「ぎゅーっ!!」
「!?」
ルーシィが腕を広げて飛び込むように近づき、抱きついた。視線を外していたリュークはそれに対応できず、倒れずに踏ん張るのが精一杯だった。
「っ………とっ!!」
「へへー、どうだー。」
「………はぁ。」
やれやれと首を振ったリュークは腕を回し抱き返した。
「………参った。敵わないな。」
「………今は、これで………ね。」
「ははは………そこは、おいおい、ね。」
「ちゃんとあたしのペースに合わせてよ?おばさん、おばあさんになるまでは待てないわよ?」
「分かってる。」
そのまま数秒間抱き合った2人。
「それじゃあ、また明日。」
「うん、おやすみ。」
そしてどちらともなく抱擁を解くと、ルーシィは家の中に入って行き、リュークは玄関が閉まるまで手を振って見送った。
こうして、リュークとルーシィの初デートは終わった。
==========
「………さてと。」
としばらく歩いてから息をついたリューク。
「貴様ら、見ていたな?」
「「「「「「!?」」」」」」
一方向を見ながら指差したリューク。その方向の物陰には一日かけて尾行していた同僚だった。
「い、いつから………」
「割と最初から。途中から人増えてるけど………」
「ごめん、ブックカフェから私もついて来てたんだ………」
リュークに見破られた、途中からついて来ていたレビィを含めた一同はゾロゾロと物陰から出て来た。
「ルーシィにはバレなくて良かったよ。もし気づかれてたらデートどころじゃなくなってた。」
「あれ、怒んないんだ。」
「てっきりバレたら俺達殺されるもんだと………」
「………だったら
「それもそうだな………」
「で、だ。人の逢瀬を一日追いかけてどうだった?それを聞く権利はあるよな?」
そう言いながらズイっと踏み込んだリューク。1番に答えたのは、結果的にこの尾行を率先して行っていたシャルルだった。
「ルーシィはともかく、あんたが一緒になってあたふたドギマギしてるとは思わなかったわ。」
「あい、普段のリュークはハプニングが起きてもあまり動じなかったのに、今回はダメダメだったね。」
「何と言うか、らしくねーな、って思ったな。」
「………まぁ、そうなるよな。」
リュークはため息をついた。
「どうもルーシィの前だと調子が狂いっぱなしだ。"惚れた弱み"ってやつだろうね………こいつは多分治らん。」
「………ルーシィにどれだけ惚れ込もうが構わんが、戦場では不覚を取るなよ?」
「心配いらないよエルザ、そこは割り切ってみせる。」
「なら私から言う事は無い。人のプライベートにすまなかったな。」
「私からも、すみませんでした………」
「怒ってないから謝らなくていいって………正直、"見られてナンボ"、と言う考えも無いとは言えないし。」
「………やっぱりリューク、意外と独占欲強いよね。ルーちゃんを横取りしようなんて人が出た時が怖いかも。」
「想像したく無いな………まぁルーシィの負担にならないよう気をつけるよ。」
「………あんたの考えはよく分かったわ。でも、大事に抱え過ぎ無いようにしないとね。」
シャルルの言葉にリュークは「そうだよなー」と頬をかいた。
「そこは、時間の短い方に合わせるさ。」
「………そう。」
「それじゃ、俺は帰るよ。皆も歩き疲れたでしょ、風邪引かないようにね。じゃあねー。」
そう言ってリュークは手を振りながらナツ達と別れ、帰路についた。
「……………」
一日歩き倒して疲れているはずのリューク。
「………次はどこへ行こうかな。」
だが不思議とリュークの足取りは軽やかだった。
続く
と言う訳で街中買い物デート風に仕上げました。やっぱり初恋同士の中高生みたいなイチャつき方になるなぁ………何でそうなるかの心当たりは今回書いてる途中で見つけた気もしますが、長くなりそうなので置いときます。
◯リュークの衣装
・神竜族の衣装(リュールのデフォルト衣装)
・白いフード付ローブ(ヒーローズの召喚士の衣装)
・その他衣装(エンゲージのアクセサリー屋で手に入る各種衣装)
と、デートで並んで歩くにはちょっと浮世離れしてるかな?と言う判断のもと服屋を最初に選ばせました。女装は完全に悪ノリ。
◯巨大パフェ
昔、地元(白状すると愛知県)のジャスコ(当時の呼び方)にキャッツカフェって名前のカフェがあったんですよ。トイザらスの横あたりにあった気がする。そこのパフェがアホみたいにデカかったのを思い出しながら書きました。食品サンプル見た時点で正気か?となるサイズ。
調べてみたら店舗数は減ってますがまだあるみたいですね。
◯ブックカフェ
2人の共通の趣味が読書なので、それを交えたデートスポットを、と思って出しました。図書館よりも喋りやすそうなイメージからここを選びました。
子供っぽい恋愛を脱却すべく大人の恋愛が書かれた恋愛小説や官能小説読ませて、そこで出て来た過激な濡れ場を想像させて自爆させるのは楽しかったです。
◯大衆酒場
格式高いお店に行かせる事も考えましたが(2人共教養はあるので大丈夫でしょうし)、ただ今のルーシィはギルドみたいにガチャガチャした所の方が居心地良いよなと思いこっちにしました。
因みにルーシィが酒に手を出したのはお酒を嗜めるようになりたいのもあるが、酔った勢いで………と言うのも少しだけあったつもりで書きました。それに勘付いたリュークは遊覧飛行で無理矢理覚まさせましたが。
◯一歩踏み込んだ描写
まずキスはだーいぶ先になると思います。下手すりゃ書く前に原作終わる可能性すらあると思ってます。と言うのもひとえにリュークが「ゆっくりでいいよー」の待ちのスタンスだからです。しかしリュークの「ゆっくり」を待ってるとルーシィは天寿を全うしてしまうので「ルーシィが準備できたら」と少し具体的に待ってる状態です。当分はこのドギマギにお付き合いください。
「キスの更に先の描写」は更にハードルが高い上に、R18で書いてないので直接の描写は無いです(キッパリ)。
次回はどうしようかなー、OVAネタにするか、他の外伝を考えるかってところですかねー。あと2話くらい書いてから先に進みたいなー、と思いつつ。