FAIRY EMBLEM   作:jyosui

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84章 レギオン

ルーシィを狙ってギルドを襲撃した集団を、霧で生み出した騎士団、紫煙騎兵団(パープルヘイズ)で押し返したリューク。しかし新手の登場によって騎士団が霧散し味方有利の流れが止まってしまった。

 

『竜の寝床に土足で踏み込んで、五体満足で帰れると思うなよ、蛮族共!!』

 

大きく息を吸い込んだリューク。

 

『"神竜の咆哮"!!』

 

そして桃色のブレスを放った。しかし杖を持った老騎士はその杖を前に出すとブレスを打ち消した。

 

「………蛮族はどちらの話か、っっっ!?」

『せやあっ!!』

 

ブレスを陽動に使い、接近したリュークは"絆剣リベラシオン"で斬り上げたが老騎士は杖で難なく受け止めた。

 

「ふんっ!!」

『ぐ………っ!!』

「せいっ!!」

『(こいつ………強い!!)』

 

敵の格闘術を剣と体術で受け流そうとしたリューク。だが敵の実力が予想以上であると判断した彼は剣で払い薙ぎを繰り出して間合いを取り、剣を鞘に納めた。

 

『"神竜の………』

「無駄だ。」

 

拳に魔力を纏わせ殴りかかったリューク。対して老騎士は再びリュークの魔法を打ち消し、リュークの拳を片手で止めた。

 

『撃鉄"!!』

「!?」

 

だがリュークの拳から放たれた追撃の衝撃波に対応できず、老騎士はリュークの拳から手が離れ数m吹き飛んだ。それを見てリュークはニヤリと笑った。

 

『よし………!!』

 

一方の老騎士は、眉一つ動かさず態勢を立て直すと仲間に声をかけた。

 

「何をしている。ルーシィ・ハートフィリアを捕らえ、"針"を回収するのだ。」

 

老騎士の一声で襲撃者3人が動き出した。だがリュークはそれを止めるでも無く、老騎士を見据えた。

 

『……………。』

「止めないのか?」

『全部できる程自惚れてないよ。それに………』

 

リュークは紋章士ヴェイルとの"エンゲージ"を解除。

 

「妖精の尻尾はそんなに弱く無い。」

 

だが老騎士は興味無さそうに構え直した。

 

「我々の"聖戦"は絶対だ、道を開けるがいい。」

「断る。"聖戦"だ?蛮族風情の大義名分に使われるとは、何とも可哀想な神様もいたもんだ!!」

「貴様………我らが神を愚弄するか!?」

「馬鹿はお前の騙る神じゃなくてお前自身だよ、ったく話の通じねぇジジイだな!!」

 

あからさまな挑発を仕掛けるリューク。だがその間に頭はフル回転させていた。

 

「(神の名を出して、鉄仮面が崩れるくらいにキレた………どこぞの教団お抱えの私兵でほぼ当たりだな。あと"針"って言ってたな………やっぱりルーシィのアレ、厄ネタだったか………!!後は………)」

 

敵の正体に当たりをつけてから、今度は目の前の相手の攻略法を考え始めた。

 

「(相手の魔法を打ち消して丸裸にした所を格闘術でタコ殴り………この鉄仮面らしい、面白みは無いが穴も無い堅実な戦い方。でも魔法の打ち消しは自動発動じゃないし、射程も長くない。自動かつ長射程なら"エンゲージ"もろとも解除されているハズだからね。)」

 

分析しながら、リュークは指輪を掲げつつ懐の"竜石"に手を伸ばした。

 

「(攻略するなら、物理攻撃主体で"打ち消せない魔法"を交える。そして何より大事なのは、"間合いを制する"こと。だったら選ぶべきは………!!)」

 

腹が決まったリュークはその紋章士の呪文を唱えた。

 

教導け(みちびけ)、風花の紋章士(エムブレム)!!"エムブレム・エンゲージ"!!」

 

紋章士ベレトを顕現、即"エンゲージ"したリュークは"天帝の覇剣"を老騎士に向けた。

 

『神だ、聖戦だを騙るなら一つ試してみようか………そちらの神と、こちらの女神、どちらが本当に微笑んでくれるかを。』

「戯言を。異教に負ける我らでは無い!!」

 

老騎士が踏み込んで来たその瞬間、リュークが仕掛けた。

 

『"覇天"!!』

 

赤黒いオーラを纏わせながら刀身を蛇腹に伸ばし、先制攻撃を繰り出したリューク。

 

「ふん。」

 

しかし老騎士は杖で蛇腹に伸びてくる剣を弾いた。その時に赤黒いオーラも消失したが、リュークはほくそ笑んだ。

 

『(エンゲージ武器を打ち消せないのか、打ち消せると思っていないのか、分からないけど嬉しい誤算だ!!)』

 

一度"天帝の覇剣"を戻したリューク。

 

『………!!』

 

今度は赤黒いオーラを刀身に纏わせるも伸ばさずそのまま駆け出して接近。

 

『はあっ!!』

「ふん。」

 

そのままリュークは斬りかかるも老騎士は難なく片手の杖で受け止めたのだった。

 

『ちっ………!!』

「甘い。」

『っ、やり直し!!』

 

このままだと押し切られる、そう悟ったリュークは"天刻の拍動"で時間を巻き戻した。

 

『はあっ!!』

「ふん。」

『………なんてね。』

 

今度は斬り結ぶその直前でブレーキをかけ止まったリュークは大きく息を吸い込んだ。

 

『"神霧の原野"!!』

「!!」

『そして再度、"覇天"!!』

「………!!」

 

地面を這うように繰り出された霧と、魔力の籠もった蛇腹剣。同時に繰り出された2つの魔法を前に、老騎士は殺傷力の無い霧を放置して蛇腹剣の魔力を打ち消した。

 

「はあっ!!」

『ぐは………っ!!』

 

"覇天"の力を打ち消された"天帝の覇剣"を杖に絡ませたリューク。しかし老騎士はフリーになっていた腕を振り抜き、裏拳でリュークを殴り飛ばした。重たい一撃にリュークは"天帝の覇剣"を手放し吹き飛んだが、そこで終わるリュークでは無かった。

 

紫煙騎兵団(パープルヘイズ)、出陣!!』

「何………!?」

 

まだ老騎士の足下にかかっていた霧………"神霧の原野"から霧の侍が数十と現れたのだ。

 

「貴様………!!」

『そんなの仕込みに決まってるだろ!!殺傷力が無いからと後回しにしたのが間違いだったな!!』

 

地面を転がったリュークの手には別のエンゲージ武器"フェイルノート"。転がり終えたそのタイミングで素早く矢を数本纏めて番え、上空目掛けて放った。

 

『"落星"に"囲いの矢"の重ね掛け!!』

 

上空に放った矢は流星のように老騎士へと降り注ごうとしていた。

 

『上は矢の雨、下は霧の剣………かわせるものなら、かわしてみな!!』

「…………。」

 

上から"フェイルノート"の矢が、周囲から刀を構えた霧の侍。四方八方からの攻撃なら防ぎきれまい、そう期待した攻撃は。

 

「はあああっ!!」

 

杖を軽々と、槍の達人のように振り回すと上空の槍を防ぎながら霧の侍を次々と打ち消し霧散させた。

 

「この程度で私を止められると思われていたとは………っ!?」

 

矢と霧の兵士を片付け、晴れる筈の老騎士の視界。それは一振りの斧によって塞がっていた。

 

「貴様、いつの間に………!?」

『"劫火"!!』

 

いつの間にか老騎士の目前まで迫っていたリュークは"フライクーゲル"の斧を構えており、赤黒いオーラを纏わせ大振りに振り抜いた。瞬間移動でもしない限り詰められる筈の無い距離を詰めた事実に驚いた事で防御が遅れた老騎士は"フライクーゲル"に纏った魔力を打ち消せず、吹き飛んだ。

 

「………違うな。まだ馴染まないな。」

 

戦技を連発し、"エンゲージ"が解除されたリュークは首を傾げながらも霧散した"神霧の原野"を展開し直しつつ敵の反撃に備えていた。

 

「(この程度じゃ倒れてはくれないだろう。本音を言えば竜化で押し潰す方が楽だと思うけど、流石に市街地に近すぎる。となると今のを続ける事になるが………)」

 

少しの間、リュークの深呼吸の音が聞こえない静寂が場を支配した。だがその静寂は唐突に終わりを迎えた。

 

「COOOOOL!!」

「!?」

 

歓喜の叫び声をあげながら登場した人物。それは一瞬驚いたリュークも見覚えのある人だった。

 

「妖精の尻尾の新しいS級魔導士"青燎"のリュークと、かのレギオン隊隊長バイロ・クラシーとの対決が見られるとは!!」

「ジェイソンさん………?何でここに、と言うか今相手が何だって?」

 

週間ソーサラーの記者ジェイソン。COOLが口癖のハイテンションな記者であり、度々妖精の尻尾に取材に来ていたのでリュークも面識はあるが何故このタイミングで?とリュークが不思議そうな表情をしているとその"答え"が現れた。

 

「すまねぇな。」

「ギルダーツ。………いや、助かります。」

 

ジェイソンはギルダーツの密着取材をしており、ギルドに戻るギルダーツに付いて行ったところこの戦いに遭遇したのだった。

 

「それよりもジェイソンさん、あいつのレギオン隊とは………?」

 

リュークの問いにジェイソンは素直に答えた。この国で一番信徒の多いゼントピア。そのゼントピアの教団が誇る最大戦力がレギオン隊であり、その隊長が目の前の男、バイロ・クラシーであった。そのバイロが起き上がりこちらに向かって来ているのを確認しながらジェイソンの言葉を反芻したリューク。そんな彼は意外な言葉を発した。

 

「大したことの無い小物だな。」

「大したことの無い!?相手はこの国で5本の指に入る格闘の達人だよ!?」

「そう言う事じゃ無いですよ、ジェイソンさん。」

 

するとリュークはバイロに対して、人を小馬鹿にしたような笑みを向けた。

 

「各地の教会が破壊されて信徒が困っているのに、それを無視して最高戦力率いてやる事が関係の無い少女1人追い回す事なんて、小物そのものじゃあないですか?信仰の要たる信徒を蔑ろにしてまで遂行すべき大層な事なんだな、お前達の騙る"聖戦"とやらは?」

「………貴様らが知る必要の無い事だ。」

「語るに落ちたな………ゼントピアの神は死んだらしい。」

 

ブチッ。ギルダーツとジェイソンはこの音が聞こえた気がした。そしてその発生源と思しき男からは濃密な怒気がリュークに向けて発せられた。

 

「貴様………我らが神を愚弄するか!?」

「神を信じる者を蔑ろにして罪無き者を傷つけ、誰も救わないのが神の思し召しだとほざくか!?そんなものは信仰じゃあ無い、滅びた方が世のためだ!!」

「先程から言うに事欠いて貴様ァッ!!」

 

怒りが頂点に達したバイロの突撃。

 

「………そうだ、俺に向かって来い。ギルダーツ、ジェイソンさんを。」

 

それだけ言い残すと、リュークは深く息を吸い込んだ。

 

「紫煙騎兵団、前へ!!」

 

事前に展開していた"神霧の原野"からリュークは槍歩兵を出した。

 

「邪魔だ!!」

 

バイロは杖の一振りで霧の槍歩兵を即座に霧散。

 

勇進め(すすめ)、覇王の紋章士(エムブレム)………"エムブレム・エンゲージ"………!!」

「!!」

『"獅子連斬"!!』

 

その間にリュークは背後に回り込み紋章士アルムと"エンゲージ"。"絆剣リベラシオン"を左手に持ち替え猛然と斬りかかった。

 

「神に仇なす不届き者が………!!」

『異教徒にそれ言って怯むとでも!?………"風薙ぎ"!!』

 

猛然と殴りかかるバイロのラッシュを"獅子連斬"で間一髪で受け流すリューク。するとリュークが"風薙ぎ"で相手を一瞬崩したところで思いっきり後ろに飛び退いた。

 

『一斉でダメなら、"車懸"!!』

 

再度、紫煙騎兵団の槍歩兵を繰り出すリューク。だが今回は一斉攻撃では無く数騎ずつ、連続で繰り出す事で車懸の陣のように絶え間なく襲い掛かるようにした。

 

「何度雑兵の傀儡を送ろうが、無駄だ!!」

 

バイロは次々と殺到する霧の槍歩兵を順番に霧散させ対処していた。だがこの霧の兵隊はあくまでも陽動。本命(本人)は距離を取りエンゲージ武器の弓"月光"を手にして構えていた。

 

『受けてみろ!!"ハンターボレー"!!』

「ぐ………っ!!」

 

霧の兵隊で動きを止めた所に放たれた必殺の二連射でようやく見せた隙。リュークはここが決め時だと判断した。

 

『ひねり潰してやる!!』

 

"月光閃"を放ってからすぐに"ファルシオン"に持ち替え頭上に掲げると神剣から光の刃が伸びた。

 

『"月光・覇神断竜閃"!!』

 

ありったけの力で振り下ろされた光の剣。だが土煙の向こうで敵が健在である事に気づき、リュークは"ファルシオン"を構え直した。

 

『………ここで新手か。』

 

土煙が晴れると、そこにリュークの"月光・覇神断竜閃"を防いだ者の正体が明らかになった。それは巨大なタコだった。

 

『………タコ?』

「よくやった、カナロア。さて………」

『……………!!』

 

バイロが反撃に出るかと思った、その時だった。バイロが踵を返したのだった。

 

「戻るぞ、カナロア。」

『!?』

「目的は達成された。」

『神に仇なす不届き者を始末しなくてもいいのか?』

「言われずとも、貴様には裁きの鉄槌を下す。だが今では無い………"聖戦"は、誰にも邪魔をさせない。」

 

するとバイロは巨大なタコ、カナロアに乗りあっさりと去って行ったのだった。

 

「……………。」

 

戦いを終えたリュークはその場にドカッと座り込んだ。

 

「リューク、大丈夫か………」

 

その時、リュークの腹が盛大に鳴った。

 

「どう言う事だよ。」

「昼食も取らずさっきまで寝ていたんだよ。それでいてこれだけ頭の使う戦い方をすれば余計にお腹は空くし甘いものも食べたくなる。………とりあえず戻ろう、状況を把握したい。」

 

==========

 

その後ギルドに戻った妖精の尻尾の魔導士達。結果から言えば敵、ゼントピアのレギオン隊、それが"針"と呼んでいたジュードの遺品が奪われたのだった。

 

「もぐもぐ………」

 

遅い夕食としてサンドイッチを食べながらリュークは思考に耽っていた。

 

「時計の針、ってのが気になるか?」

「ギルダーツ。」

「俺はルーシィの親父さんの遺品を見てないが、"聖戦"で時計を造るって聞けば、お前のように嫌な予感の1つ2つは思い浮かぶな。」

「そうなんだけど………」

「他にも気になる事があるか?」

「ああ………やっぱり教会襲撃事件を放置してまで"聖戦"とやらを進めている事が理解できない。」

 

最後の一口を飲み込み、水で流し込む。これでリュークの腹は満たされたが、頭の中で引っかかるしこりは残ったままだった。

 

「時計の方も気にならなくは無いけど、ゼントピアの現状と教会襲撃事件、この辺りをしっかり調査した方が良さそうだな。」

「良いと思うが大丈夫か?あいつらにとってはお前は神に仇なす敵じゃないか?」

「最悪囮になればいい。その間にギルダーツが調査してくれれば助かる。」

「仕方ねぇな………分かった。なら俺は俺で調べてみるとしよう。」

「助かる。さて、帰って支度をするか………」

 

帰り支度を済ませ帰ろうとしたリューク。彼は帰る前に仲間が集まるテーブルを覗いた。そこではカナが占いで、奪われた針以外の部品があるかどうかの手がかりを探していた。そしてしばらくすると占いの結果が出た。

 

「出たよ、ここだ。」

 

カナがテーブルの中央に置かれた地図のある地点を差した。

 

「あ!!」

 

するとルーシィが声をあげた。

 

「どうかしたのか?」

「どうも何も………ここ、あたしの実家のあった場所よ。」

 

それはルーシィの実家だった屋敷のある場所だった。

 

 

続く

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