幸せを運ぶ青い鳥ニティ生徒   作:にゃんたるとうふ

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災厄の狐が巻き起こした騒動から数日の時間が経ったお昼頃、各組織のトップが一堂に会してテーブルを囲んで重々しい雰囲気が流れていた。

「それでは会議を始めましょう、まずは災厄の狐による被害状況はどうなっていますか?」

紅茶で口を潤してから開会を宣言したナギサの問い掛けに、ハスミは資料に目を通しながら口を開く。

「負傷者は二名に留まっていますが、自治区の一部区画が甚大な被害を受けており現在修復を急いでいます。また、それに関与したツルギには説教済みです」

ハスミの隣でシュンッと肩を落とすツルギの姿を一瞥してから視線を戻し、続きを促すと咳払いを一つ挟んで報告を再開する。

「ですがツルギが災厄の狐から告げられた情報によれば、被害者が今回のフェリさん襲撃を企てた犯人であることも突き止めてくれました・・・まぁ、災厄の狐には逃げられてしまいましたが」

一度上げてから再び落とされたツルギは顔を輝かせたがすぐに肩を落とし、その様子に苦笑を浮かべつつ再度咳払いを挟んでから口を開く。

「表向きには災厄の狐の被害者、っとなっている二人に事情を聴いたところ・・・ミカ様に頼まれたなど、言い訳じみたことを口にしていましたが・・・」

「その件につきましてはお騒がせして申し訳ありません、破壊したベッドはすぐに新しいものを手配しますので」

言い辛そうに言い淀むハスミにナギサが引き継ぐように口を開き、紅茶の入ったカップをソーサーに戻しつつ隣で不貞腐れた様子で唇を尖らせる幼馴染へと目を向ける。

「あれは別に私のせいじゃないもんっ、ふざけたことを宣ったあの二人が悪いんだから!私がフェリを傷付けるようなこと、指示するわけないじゃんねっ!」

腕を組んで不満気に頬を膨らませて肩を怒らせるミカに、額に手を当てながらタメ息を漏らすナギサは呆れた声色で声を漏らす。

「だからと言って物に当たってはいけませんよ、ミカさん。結果として情報を聞き出すことは出来ましたが、ミネさんを宥めるのに一苦労したんですよ?」

「うっ・・・ほっ、本当に悪かったと思ってるよ?」

ナギサの言葉とミネからの鋭い眼光にタジタジになりながら申し訳なさそうに声を返すミカを尻目に、資料に目を通していたサクラコは今回使われた武器の名を目にして眉を顰める。

「『ヘイロー破壊爆弾』・・・っ、調査はシャーレにお願いしたのですね」

「えぇ、先生に連絡を取ったところ・・・どうやら他の自治区でも似たような事件が起こっていたようです、今回は幸いにも証拠が残っていたので調べていただいたのです」

ミカから視線を外して紅茶に口を付けながらサクラコの問いに答えると、それを引き継ぐように資料に視線を落としながらハスミが口を開く。

「調べていただいたところ、どうやら火薬量を減らしたパーティーグッズのような代物だったようです。さらに情報を基に入手元であるブラックマーケットを訪れたところ、件のお店を発見することができたので商品を押収してさらに調べていただきましたが・・・数個、本物と思われるものが見つかりました」

そう口にしたと同時に剣呑(けんのん)な雰囲気を放つ面々に同じ気持ちを抱きながら、資料に目を向けつつ続きを口にする。

「先生に入手経路などを調べていただき、カイザーが介入していることが分かり・・・さらに深く調べるとカイザーだけでなくもう一人、かつてアリウス分校を裏で支配していた人物の存在があることが分かりました」

「っ・・・それって!」

テーブルに両手をついて身を乗り出したミカは驚きの声を上げ、他の皆も顔を険しくする様子を眺めながらハスミは頷きを見せる。

「はい、あの『ベアトリーチェ』が関わっていることが分かりましたっ」

告げられた名を耳にした面々は思い思いの感情を抱き、そして一人の少女の姿を思い浮かべて握り締める拳の力を強めるのだった。

 

「あの女・・・っ!まだフェリに関わってくるなんて、許せないっ!」

ダンッ!と拳をテーブルに叩き付けるミカは激怒の表情を浮かべながら声を上げ、それに同意するように頷きを見せるナギサはカップを戻すと真剣な眼差しを向ける。

「先生のさらなる捜査により黒幕の居場所を突き止め、近々会合を開くことが分かりました。それにより他学園と協力して元凶を叩くことが決まり、皆さんにはその作戦に参加していただきたいのです・・・もちろん、私たちティーパーティーも参加させていただきます」

「二度とフェリの前に現れないように、念入りにぶっ飛ばしてあげないとねっ☆」

ナギサの言葉に力こぶを作りながら声を上げるミカの姿に、淑女らしからぬ言葉にタメ息を漏らしながらも否定することなく口を開く。

「数日後、シャーレ主導で会合現場を押さえて一斉検挙をする予定です。各々、万全の準備を整えて備えてください」

そう締め括るナギサに肯定の頷きを返したそれぞれのトップたちは準備に掛かろうと腰を上げたところで、席を外していたティーパーティーの一人であるセイアが部屋の扉を開いて姿を見せたことで視線が集中する。

「ふむっ、会議は大体済んだようだね」

「セイアちゃん、フェリの様子はどうだった?」

「いつも通りだよ。災厄の狐のおかげとも言えなくもないが、襲撃には気付いていない様子だったね」

セイアの返事にホッと安堵の息を吐いたミカは、彼女の対応権を勝ち取ったセイアにジト目を向けながら不服そうに口を開く。

「それで?フェリと二人っきりで過ごしたセイアちゃんが、今更なんの用なの?もう会議は終わったんだけど?」

「なにやら棘のある言い方だが・・・まぁ、いい。それよりも今回の作戦についてだが、少しだけ手を加えても構わないだろうか?」

ミカの悪態に大きく反応することなく受け流したセイアの続く言葉に、部屋を後にしようとしていた面々はどういうことか問い掛けるような視線を向ける。

「は?何言ってるの?冗談も休み休みっ――――」

「フェリの身の安全にも関わることだ、それでも止めるのかい?」

「何してるの、セイアちゃん!早く言わないと皆が困るじゃんねっ!」

バンバンッとテーブルを叩いて続きを催促するミカにタメ息を漏らすセイアは、ひとしきり呆れの感情を吐き出してから表情を引き締めて口を開く。

「私の勘ではフェリを作戦に連れて行くと解決せず、残していくと解決する・・・つまり、フェリをトリニティ自治区に留めておく必要があるんだっ――――」

 

 

 

「――――っと、いうわけで・・・今日はよろしく頼むよ、ウイ」

歴史を記す蔵書や過去の文献などが整頓されて敷き詰められた本棚に囲まれる古書館の中で、湯気の立つ紅茶に口を付ける狐耳の少女は猫背で古書に向き合う少女へと声を掛ける。

「いえ、はい・・・それは、いいのですが・・・」

ソファに腰掛けて古書の解読を進めていた『古関(こぜき) ウイ』は顔を上げると、隣に腰を下ろすセイアに視線を向けてからチラチラッと周りに視線を泳がせる。

 

「フェリさん、お久しぶりです!この前は大聖堂にいらしたのに、会えなくて残念に思っていたので嬉しいです!」

「私もです、ヒナタさん!今日もウイさんのお手伝いですか?」

「それもありますが、最近サクラコ様が見つけた古書の解読をお願いしているんです。そのお礼も兼ねてお手伝いをしている感じですね、フェリさんはセイア様の付き添いですか?」

「そうですね、調べたいことがあるとセイア様が仰っていたので護衛も兼ねてです。こうして自分の銃を持つのも久しぶりな気がします、ここに危険はないですけど・・・それに今日はナギサ様とミカ様が用事でトリニティを離れているので、執務をお手伝いする必要が無いって言うのも大きいですね」

ヒナタの持つ大きなカバンに似た物を掲げながら話をする彼女に、見た目に反して力持ちであることをセイアは再認識する。

「それにしても、今日は人が多いですね」

左右に視線を向けて正義実現委員会のイチカと数人の委員に救護騎士団のセリナ、さらには補習授業部の面々などのメンバーが揃い踏みであることを確認する。

「私たちは"たまたま"古書館に用があって立ち寄っただけっすよ、セリナさんもそうっすよね?」

「私はフェリさんの側に居るのが役目ですから、イチカさんとは少しだけ理由が違いますね」

予想外の返答に細められた目を少し開いて怪しい光を放つイチカに、セリナはニッコリとした笑みを浮かべながら視線を交差させる。

「なっ、なんだか変な空気が流れてませんか?」

「うふふっ♡皆さん、フェリさんが大好きなんですね♡」

「あっ、あんなイチカ先輩初めて見た気がする・・・」

「遮蔽物が多いな、伏兵が潜んでいるかもしれない・・・皆、気を引き締めていこうっ」

困惑した様子で成り行きを見守るヒフミと何故か水着姿で微笑みを浮かべるハナコ、自身の先輩の普段とは違う様子に困惑するコハルとしゃがんで銃を構えながら辺りを見渡してそう口にするアズサに、ウイは騒動が起きないか不安を抱きながら冷や汗を流す。

 

普段では考えられないほど人口密度の増した古書館内に困惑した表情を浮かべるウイは、落ち着いた様子で紅茶に口を付けながら古書に目を通すセイアに視線を向ける。

「それで、えぇっと・・・本当にこのまま、待っているだけでいいんですか・・・?」

背後に数回顔を向けたりしながら声を掛けるウイに、セイアは古書から目を離すと彼女たちの様子を眺めながら口を開く。

「んっ?あぁ、問題ない。"このまま"でいいんだ」

「? はぁ・・・?」

落ち着いた様子で疑問に答えるセイアの姿に、腑に落ちない表情を浮かべつつ生返事をするしかないウイは解読作業に戻ることにした。

「セイア様、紅茶のおかわりはいかがですか?」

「あぁ、もらおうかな。ウイもどうだい?」

顔を伏せてすぐに声を掛けられたウイは、顔を上げると目の前に彼女が居たことに動揺しながら返事をする。

「ぅえ!?あっ、あぁっと・・・私も貰え、ますか?フェリさん・・・?」

「はい、わかりました。すぐお淹れしますねっ!」

カップに視線を向けると中身が空になっていることに気付いて内心驚きながら、不思議そうに視線を向ける彼女にカップを差し出すと顔を綻ばせつつ紅茶を注いでくれる。

「それにしても皆さんとこうして用事が被るなんて、こんな偶然もあるんですね」

「"偶然"か、たしかにそうだね・・・私もこんなに人が集まるとは、思ってもみなかったよ」

感嘆の声を漏らしながら周りに視線を向ける彼女に続く形で周囲を見渡したセイアは、補習授業部の友人たちに微笑みを浮かべるハナコの姿に視線を向ける。

「っ!・・・うふふっ♡少し、席を外しますね?」

注がれる視線に気付いたハナコは友人に断りを入れてから輪を抜けて歩き出し、近づいてくる足音を耳にした彼女はセイアが目を通した古書の整理を中断して顔を上げる。

「あっ、ハナコさん。どうかしましたか?」

「うふふっ♡コハルちゃんがフェリさんに用事があるそうなので、お話を聞いてあげてくれませんか?」

「そうなんですか?すみません、セイア様。紅茶のおかわりがお望みなら、お声を掛けてください」

一礼して疑問符を浮かべながら補習授業部の輪へと小走りで向かう彼女を見送ってから、セイアは古書を閉じて脇に置くとハナコへと視線を向ける。

「正義実現委員会と救護騎士団、さらにシスターフッドへの協力は要請したが・・・まさか補習授業部(君たち)が訪れるとは、予想外だったな。いや、君にとっては予想通りだったのかい?ハナコ」

「ふふっ・・・セイアさんが何を言っているのか分かりません、私たちも先程イチカさんが仰っていたように"た・ま・た・ま"♡古書館に用があっただけですよ?」

ハナコの返しを聞いて隣で独特の雰囲気に居心地悪そうに視線を彷徨わせるウイへと顔を向けたセイアに、矛先が向くとは思っていなかったウイは驚愕しながら質問を予測して返答する。

「たっ、たしかに・・・セイア様から、連絡がある前に・・・古書館に用があると、お話を伺っていましたが・・・」

ウイの言葉に顎に手を当てて成程と呟いたセイアは、微笑を浮かべるハナコに視線を戻すと口を開く。

「先のお願いの件で君なら察することができるか・・・いや、それよりも前に君なら気付いていたかもしれないな」

「うふふっ・・・さぁ、どうでしょう?」

セイアの追及に笑みを崩さず真意を明かさずに受け流すハナコと、いつものことかと息を吐いたセイアを眺めながらウイは恐る恐る声を掛ける。

「えぇっと、そのっ・・・ハナコさんも、紅茶いかがですか・・・?」

彼女の置いていったティーポットを指差しながら提案するウイに、そちらに視線を向けたハナコは口角を上げて頷きを見せる。

「では、彼女の紅茶♡・・・一杯、頂けますか?うふふっ♡」

「じゃあ、すぐにお淹れしますね!」

「っ・・・フェリさん、戻っていらしたんですね」

後ろから顔を覗かせて返事をする彼女の存在に気付いたハナコは、平静を装いつつも至近距離で彼女の顔を視界に捉えたことで鼓動を速める。

「私たちもいるわよ、ハナコ!急にフェリに話しかけられて、ビックリしたんだからっ!」

「あはは・・・けどコハルちゃんも、嬉しそうでしたよね?」

「そっ、それは・・・!それを言うなら、ヒフミだって同じでしょ!?」

「え!?わっ、私のことは良いじゃないですかっ・・・!あ、あはは・・・っ」

「? 私はフェリと話せて嬉しかった、二人もそうじゃないの?」

「「うっ・・・」」

コハルとヒフミの言い合いに純粋な眼差しで疑問符を浮かべて首を傾げるアズサに、気恥ずかしくなった二人は言葉を詰まらせて最終的に観念して肯定の頷きを返していた。

 

「ウイさん、この()はどこに戻せばいいですか?」

「あぁ、その子なら・・・あっちの本棚、ですね・・・」

紅茶を人数分用意できた彼女はセイアが目を通した古書の整理を手伝いつつ保管場所を尋ね、それを耳にしたウイは近くで行われるやり取りに目を背けながら彼女の問いに答える。

「あっ、フェリさん。私もお手伝いしますっ」

「ヒナタさん、ありがとうございます!ではその()をお願いできますか?」

「は、はいっ!任せてください、フェリさん!」

彼女から了承の返事を聞いたヒナタはやる気を漲らせながら胸の前に握り拳を作り、積み上がった古書を持ち上げると普段手伝いに来ることが多いために詰まることなく本棚に収めていく。

「んしょっ、よいしょ・・・っと」

「・・・ふむっ」

自身の身長よりも少しばかり高い位置に古書を戻そうと背伸びを繰り返す度に揺れる彼女の膨らみに、顎に手を添えながら真剣な眼差しを向けるセイアの姿を横目で確認したウイは何とも言えない表情を浮かべる。

「わ、わっ・・・す、スゴイですねっ」

「えっ、エッチなのは、駄目っ・・・しっ、しけっ・・・!」

「・・・っ」

「? 皆、どうしたんだ?」

ヒフミとコハルは耳まで赤く染めながら食い入るように見つめ、ハナコはセイアと同じように真剣な眼差しを向けて、アズサはそんな三人を不思議そうに見つめていた。

「あれ、また大きくなったんじゃないっすか?」

「ですね、目測でも前お会いした時よりも大きくなっています」

「(なんでお二人は見ただけで、フェリ様のバストサイズを測れるんだろ?)」

当たり前のように彼女の膨らみが成長していることを話し合うイチカとセリナに、正義実現委員会の後輩たちは疑問に思いながらも追及せずに成り行きを見守るのだった。

 

 

古書の整理を終えた彼女を自身の隣に座らせたセイアと談笑して過ごしていたが、災厄の狐が起こした騒動でここ数日忙しく動き回っていた彼女は欠伸を一つ漏らす。

「眠たいのかい、フェリ?」

「ふぁっ・・・す、すみません。セイア様っ」

指摘を受けて咄嗟に口元を両手で隠した彼女は謝罪を口にするが、セイアは首を横に振って気にしていないと告げてから言葉を続ける。

「責めているわけじゃないさ、フェリの頑張りは近くで見ていたからね。だから今はゆっくりと休んでくれて構わない、何なら膝を貸そうか?」

「えっ、でも・・・いいん、ですか?」

自身の太腿を叩きつつ提案するセイアに眠たげな眼を擦りながら躊躇いがちに聞き返す彼女に、柔和な笑みを浮かべて静かな頷きを見せたセイアは両腕を広げて受け止める体勢を取る。

「おいで、フェリ」

「あぅ・・・しっ、失礼しますぅ」

腰から伸びる翼を折り畳んで身体を倒した彼女の頭を太腿で受け止めたセイアは指先まで覆われた袖を捲り、割れ物を扱うような優しい手付きで彼女の頭を撫でると安心感に包まれた様子で瞼を閉じる。

「んぅっ、ふあぁっ・・・すぅ、すぅ・・・」

少しの間手櫛で髪を梳きながら頭を優しく撫でていたセイアは、彼女が寝息を漏らして夢の世界に旅立ったことを確認して笑みを零す。

「ふふっ、いつも通り可愛らしい寝顔だ。独り占めできないのが残念だが、フェリが無理をするのはもっと避けたいからね」

周りから嫉妬や羨望を含んだ視線が集中していることに内心で優越感を抱きつつ、少しだけ興が乗ったセイアは寝息を漏らす彼女に顔を近付けて頬に口付けを落とす。

「さすがに少し気恥ずかしいな・・・っと」

薄っすらと頬を朱に染めながら顔を上げたセイアは、背後の壁から何かを叩き付けるような大きな音が響いて眉を上げる。

「少し調子に乗りすぎたか、後が怖いからここまでにしておこう」

ふぅっと息を吐いたセイアは膝枕を続ける彼女の頭を撫でながら時計を確認し、一斉検挙の時が迫っていることを認識して周りに視線を向ける。

「それでは、私たちは配置に着くっすよ」

「はっ、はい!」

「私も陰から見守っていますねっ」

視線の意図を察したイチカの号令に委員の後輩たちは頷いて移動を始め、セリナも返事をしてから周囲が瞬きをした瞬間にはその姿が煙のように掻き消える。

「それでは私たちも、イロイロ♡準備しましょうか?」

「なんか言い方に含みが無い!?エッチなのは駄目だからねっ!?」

「あ、あはは・・・」

「あっちの物陰なら全体を見渡せる、準備するなら移動してからしよう」

銃を構えて小走りで向かうアズサに慌ててついて行くヒフミに、追従するように歩き出したハナコに苦言を呈しながらコハルも歩き去る。

「一気に人が、いなくなりましたね・・・いいん、ですか・・・?」

「問題ないよ、寧ろ今の状況の方が好ましい」

撫でる手を止めずに彼女を見下ろしながら口元を緩ませるセイアは、あどけない寝顔を浮かべる最愛の人に対する欲が膨れ上がるのを感じて軽く首を振る。

「いけないいけないっ、眺め続けていると我慢できなくなってしまいそうだ・・・ふぅ」

胸に手を当てて気持ちを落ち着かせるために息を吐くセイアの姿に、言い表せない感情を抱いて妙な表情を浮かべて言語化できずにモゴモゴと言い淀む。

「ウイさん、他に何か手伝うことはっ・・・?何かありましたか?」

「えっ、いえ・・・なんでも、ないですよ・・・」

「そっ、そうは見えませんけど・・・本当に、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です・・・少し感情が、制御できず・・・暴れてしまいそう、なだけですから・・・っ」

「それって大丈夫とは言わないのではっ!?」

口を開くにつれて表情が険しくなっていくウイの様子に、ヒナタは普段の姿とは掛け離れたことに困惑しながら落ち着かせようと四苦八苦する。

「・・・ふむっ、時間だね」

ウイをヒナタに任せて時計へと視線を戻したセイアは、作戦決行時間を迎えることを確認して声を漏らした瞬間――――

 

 

――――ズガアァァンッ!!

 

 

――――古書館の出入り口の扉周りの壁すら吹き飛ばす爆発と衝撃に、穏やかな寝息を漏らしていた彼女は身体を跳ねらせるほどの驚きで目を覚ます。

「ななっ、なんですか・・・!?」

慌てて上半身を起こした彼女は周りを見渡して状況の確認をすると、二足歩行の大型機械とその周辺を囲うようにオートマタが銃を構えた状態で雪崩(なだ)れ込んでくる。

「かっ、壁が・・・っ!本棚がっ・・・!?」

「あのマーク、カイザーPMCのパワーローダーです!どうしてここに・・・っ?」

吹き飛んだ壁に崩れ落ちた本棚と燃え尽きる本を見つめて絶句するウイに、大型機械の正体がカイザーPMCが所有するパワーローダーであることにヒナタが声を上げる。

「セイア様っ、私の後ろに隠れてください!」

「いや、下がるのは君だ。フェリ・・・おそらく、相手の狙いはっ――――」

 

「随分と手薄ですね、そのタイミングを狙ったわけですが・・・」

 

オートマタに警護されながら姿を見せた赤い肌の大人の女性に、彼女は目を見開いて驚愕しながら声を上げる。

「ベアトリーチェ・・・っ!」

「久しぶりですね、鶲フェリ。そしてさようなら、ここで貴女のような障害を排除してあげましょうっ」

扇で口元を隠しながら敵意に満ちた視線で見下ろすベアトリーチェに、彼女も鋭い視線で睨み返しながら銃を取り出そうとカバンに手を伸ばす。

「させると思いますか?撃ちなさいっ」

ベアトリーチェの合図にパワーローダーとオートマタは銃口を彼女たちに向け、引き金を引こうとした瞬間に銃声が鳴り響いて数名のオートマタが頭部を撃ち抜かれる。

「っ・・・!伏兵ですかっ――――くっ!?」

出入り口の左右に並ぶ本棚の陰から顔を覗かせた正義実現委員会と補習授業部からの銃撃に、舌打ちを鳴らすベアトリーチェだがすぐに口元を歪ませる。

「しかし、予想の範囲内ですね(こちらにはまだパワーローダーが数機、さらにはこの建物の裏手にもパワーローダーとオートマタを待機させている。先生とトリニティの主要戦力はほぼ出払っている、残っているのはこの程度の戦力のみ・・・ならば、確実に忌々しい鶲フェリを始末することができる)こちらには、"ヘイロー破壊爆弾(コレ)"もあるのですからっ」

懐に忍ばせた切り札を思い浮かべて笑みを深めるベアトリーチェを尻目に、徐々に数を増していくオートマタに正義実現委員会と補習授業部の面々は後退して古書館の奥へと移動する。

「数は圧倒的に此方が有利、ですが鶲フェリを差し出せば手を引いてあげましょう・・・どうしますか?」

「っ・・・それはっ――――」

顔を歪ませて周りの者たちに視線を向けた彼女が意を決して身を乗り出そうとするが、それを遮るように前に出たセイアは呆れた表情を浮かべながら口を開く。

「私たちがその提案を呑むと、本気で思っているのかい?」

「ありえませんね・・・」

「はいっ!フェリさんを差し出すなんて、絶対にしませんっ!」

セイアの言葉を皮切りに口々に否定の言葉を述べるウイとヒナタに同意するようにイチカたちも頷きを見せるのを目にして、彼女は嬉しさで瞳を潤ませて喜びを噛み締めながら思わずセイアに抱き着く。

「くだらない友情ごっこですか、それでせっかくのチャンスを不意にするとは・・・理解できませんね」

「君にとってはそうだろうね、アリウス分校にしていた仕打ちを考えれば妥当な思考だ」

「減らず口を・・・っ!いいでしょう、お望みなら鶲フェリと共に終わらせてあげましょうっ!」

「いいや、終わるのは君の方さ。ベアトリーチェ」

何をと問い掛けようとしたベアトリーチェだがそれを遮るように一際大きな銃声が響くと同時に、両脇を固めていたパワーローダーの頭部が吹き飛ばされて機能を停止する。

「なっ・・・!?一体、何がっ――――」

 

"そこまでだ、ベアトリーチェ"

"これ以上、私の大切な生徒を傷付けさせるわけにはいかないな"

 

「――――っ!?馬鹿な、何故ここに先生が・・・っ!?」

背後に振り返ったベアトリーチェは鋭い視線を向ける先生に驚いた声を上げ、その周りで銃を構えて囲むように立ち並ぶヴァルキューレ警察学校の生徒たちに顔を歪ませる。

「ヴァルキューレ公安局だ、武器を捨てて大人しく投降しろっ!」

手帳を翳して声を上げる公安局の局長である『尾刃(おがた) カンナ』は、先生の盾になるように前に乗り出しながらベアトリーチェを睨み付ける。

「すでにお前たちは包囲されている、無駄な抵抗はやめろ!」

「情報では会合場所にいるのではないのですか、どうしてここにっ・・・!」

狼狽するベアトリーチェに彼女を落ち着かせるために頭を撫でていたセイアは呆れた表情を向け、疑問に答えるように声を掛ける。

「それは君に届いた情報が、偽物であるからに決まっているだろう?多くの学園を巻き込んで騒ぎを大きくし、目的を隠そうとしたようだが・・・」

 

"カイザーとのやり取りのデータや動向"

"そしてフェリに対する執着にも似た怨みは、消せなかったみたいだね"

 

「会合場所に集まる各学園の生徒を監視する兵士も居たんだろう、その者を見つけて無力化して変声機を使って虚偽の報告をする・・・そうすれば君は誤認するだろう、ここには脅威はないとね」

先生とセイアの言葉に苦虫を噛み潰した表情を浮かべるベアトリーチェだが、裏手に忍ばせていた戦力を思い出して裏手に続く奥の扉に顔を向ける。

「いえ、まだっ・・・こちらにはまだ、裏手にオートマタを待機させてっ――――」

そう口にしたと同時に扉が勢いよく開かれ、その奥から姿を見せた人影に表情を凍り付かせる。

「じゃーんっ☆真打ち登場、って感じかな?」

「ミカさん、張り切るのは良いですがもう少し淑女としての振る舞いを・・・」

「もぉー!ナギちゃんは固いなぁ・・・あっ、裏で集まってたオートマタは全部倒しておいたからね☆」

トリニティのトップであるティーパーティーの二人がこの場にいるということに歯噛みしたベアトリーチェは、懐からヘイロー破壊爆弾を取り出すとピンを抜こうと手を伸ばす。

「~~っ!こうなれば、当初の目的だけでもっ――――」

しかしピンを抜くよりも早く飛来した銃弾でヘイロー破壊爆弾を持つ手を撃ち抜かれてしまい、ヘイロー破壊爆弾は部屋の隅にまで弾き飛ばされる。

「くっ・・・誰ですっ、私の邪魔をするのは・・・っ!?」

射線から狙撃ポイントの背後へと視線を向けたベアトリーチェは、屋根の上でライフルを肩に担ぐ狐のお面を付けた生徒が立っていることに気付く。

「七囚人まで、私の邪魔をっ――――」

「それじゃあ・・・折るねっ☆」

背後に意識を向けていたベアトリーチェが視線を前方に戻すと、拳を引き絞ったミカの姿を最後に意識を刈り取られるのだった。

 

 

 

 

 

ベアトリーチェがミカの拳を顔面で受け止めて古書館前の壁に叩き付けられることで騒動に終止符が打たれ、気絶するベアトリーチェとカイザーPMCの兵士たちが矯正局に送られてから一週間という月日が流れたある日のこと――――

 

「ミカさん、その本はそこではなくもう二つ横です。それはそっちの本棚に戻してください、それとこっちは・・・」

「もぉーっ、ナギちゃん!ふんぞり返って指示するくらいなら、自分で動いて本戻すの手伝ってよ!」

脚立を上って担いでいる本を戻していたミカは、椅子に座りながら優雅に紅茶を嗜むナギサに抗議の声を上げる。

「適材適所、っというものです。ミカさんの方が肉体労働に優れているのですから、仕方ないんです」

「だからって、フェリを侍らせて楽するのはどうなの!?」

側に立つ彼女を指差しながら不満の声を上げるミカに、タメ息を漏らしたナギサはキリッと顔を引き締めて返事をする。

「当然の権利、っとだけ言っておきましょうか」

「職権乱用じゃんねっ!!」

「みっ、ミカ様!落ち着いてください・・・!」

ギャーギャーと騒ぐミカを受け流しながら紅茶に口を付けるナギサにあたふたする彼女を、離れた位置から一部始終を見守っていたセイアは呆れた様子で息を吐く。

「あの二人は相変わらずだね、フェリが困っているじゃないか」

「えぇっと・・・別にティーパーティーの皆様に、手伝っていただかなくても・・・」

「フェリを守るのに協力してくれたんだ、これくらいの手伝いはさせてほしい。そもそも私たちが来なければ、フェリだけでも手伝いに来ただろうからね」

「ですが・・・なにも、各組織のトップが全員というのは・・・その・・・っ」

ウイは言い淀みながら周りに視線を向けると、正義実現委員会や救護騎士団にシスターフッドなど様々な組織を束ねる長が空いた本棚に古書を戻す姿を視認する。

「ヒフミ、この本はどこに戻したらいい?」

「えぇっとそれは・・・ここ、かな?」

さらには騒動の現場に居合わせた補習授業部の姿もあり、その純粋な厚意にウイは嬉しさで胸を暖かくする。

「ちょっとハナコ!ああっ、アンタなんて格好してるのよっ!?」

「ホコリなどが舞って汚れてしまいますから、汚れてもいい格好をしているだけですよっ♡」

「だからって水着にならなくてもいいでしょ!?ちょっ、にじり寄って来ないでっ!?」

「うふふふふふっ♡」

アズサとヒフミの側で行われるコハルとハナコのやり取りからは目を逸らしつつ、視線を戻すと穏やかな笑みを浮かべるセイアが口を開く。

「それだけ皆、フェリのことを大事に思っているんだ・・・君もそうだろう?」

「それは、たしかに・・・」

セイアの言葉にライバルが多いことを再認識して困惑するウイは、気持ちを落ち着かせるために紅茶に口を付ける。

 

"皆、おつかれさま"

"差し入れを持ってきたよ"

 

そんな折に古書館の扉を開いて姿を見せた先生に気付いた彼女は歩み寄り、差し出された袋を受け取ると微笑みを返して口を開く。

「あっ、先生。差し入れ、ありがとうございます!」

 

"私も手伝うよ、この本を戻せばいいんだよね?"

 

「はい、先生。上の方は私たちが戻すので、先生は下の方をお願いします!」

手伝いを申し出た先生にお礼を述べた彼女の説明に、頷きを返してから近くの本棚へと近付いて本を戻していく。

「あっ!ねぇねぇ、先生!手伝ってくれて嬉しいけど、その前に一つ聞きたいことがあるんだけど・・・いいかな?」

脚立から飛び降りて先生の側まで駆け寄ると近くに立っていた彼女に抱き着き、輝くような笑みを咲かせたミカからの問い掛けに先生は頷いて返事する。

 

"いいよ、私で答えられることなら何でも聞いてほしいな"

 

「ありがとう、先生!それじゃあ聞きたいんだけどっ――――」

ニッコリと笑顔を浮かべつつ彼女を抱き締めながら一歩踏み出すとスンッと表情が抜け落ちたミカは、光を失った瞳で先生を見上げながら重々しく口を開く。

「フェリを抱き締めて一夜を過ごした、ってホント・・・?」

ミカのその一言が放たれたことで先程まで話し声に溢れていた古書館から音が消え、静寂が支配する中で自身に視線が集中していることに先生は冷や汗を流す。

 

"えぇっと、それはその・・・事実だけど、誤解があるというか・・・っ!"

 

しどろもどろになりながらも背後に視線を向けて出入り口までの退路を確認した先生は、出入り口の扉付近にハナコが微笑みを携えて立っていることに気付く。

「・・・うふふっ」

ガチャッと音を立てて扉の鍵を掛けたハナコに、言い知れぬ圧を感じた先生は身震いする。

「みっ、ミカ様!落ち着いてください、先生とは一緒に寝ただけで何もありませんでした!」

 

"ふっ、フェリ・・・!"

 

「確かに先生は(連日の徹夜で)我慢の限界で私を(足を(もつ)れさせて)押し倒してしまいましたが、私の胸に顔を埋めて(寝落ちしてしまって)抱き着いて離れてくれなかったので・・・ゆっくり休んでもらおうと仮眠室に移動して、(添い寝を)しただけなんですっ!」

 

"フェリさん・・・!?"

"どうしてそんな、誤解されそうな言い回しをっ!?"

 

彼女が弁明を口にするにつれて周りからの視線の圧が強まっていることに、先生はさらなる冷や汗を掻いて背筋を凍らせて内心で万能AIに助けを求める。

「先生、詳しい話をじーっくりと語り合おうね?皆も深く話し合いたいみたいだしさっ、フェリも覚悟しておいてね☆」

「え?私も、ですか?」

突然話を振られた彼女は疑問符を浮かべながらも了承し、その後も詰められていた先生は彼女の助力もあって誤解を解くことができたが・・・今後は徹夜しないようにしようと心に決めるのだった。




フェリ:前回の騒動が実は自身を狙った襲撃事件であり、今回の伏線であったと知らされて驚愕した。
申し訳ない気持ちを抱いて親しい者たちに謝罪を述べていたが、それを上回るほど甘やかされて有耶無耶にされるのだった。


ティーパーティー:作戦通りに元凶を取り除けたことに安堵の息を吐いた、自身を責めそうになっていた彼女を宥めるために身体に教え込んだりした。
因みに作戦中に抜け駆けしたセイアには、ミカとナギサがしっかりと説教をしたのだった。


正義実現委員会・救護騎士団・シスターフッド:副委員長のハスミが総指揮を執りながらベアトリーチェに協力していたカイザーPMCの一斉検挙に他の学園と連携し、万魔殿の議長から彼女のことを根掘り葉掘り尋ねてくる質問を躱しながら命令を全うした。


補習授業部:ハナコの提案で古書館を訪れた一行は、セイアと彼女の姿を確認すると意図を察してアイコンタクトを取り、起こりうる事象を考えて各々準備を始めて備えていた。
それはそれとしてセイアの行いには思う所があるので、後日問い詰めようと心の中で決めるハナコであった。


図書委員会:セイアからの助言により出入り口付近の古書は裏に避難させて白紙の本を本棚に並べていた、実は裏手ではナギサとミカを『円藤 シミコ』が接待のようにもてなしていたとか。
騒動後に彼女と話をしたシミコは本人の与り知らぬ所で、委員長を推したりしていたことに気付かれてウイが慌てて止めたりしていた。


連邦捜査部S.C.H.A.L.E:各学園で起こっていた襲撃事件を解決することができて先生は安堵の息を吐いたが、後に待っていたティーパーティーを筆頭にトリニティに存在する各組織から詰められて(おのの)いたらしい。
なんとか誤解は解けたが彼女の側に居ると、視線の圧が強くなることに悩んでいるそうな・・・
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