トリニティ・テラスから程近いベッドの置かれたいつもの空き教室で、小さなテーブルを挟んで向かい合った二人の少女が談笑を交わしていた。
「まったく・・・ミカには困ったものだ、後の者にも配慮してほしいものだね。まさかフェリが自力で立てないほど白熱して、おんぶして現れるなんてね」
「え、えぇっとその・・・ミカ様も悪気があったわけではないですし、私も止めようと動いていれば・・・すみません、セイア様」
タメ息交じりに同じティーパーティーメンバーに苦言を呈するセイアは、彼女が庇うような発言をしたことでわずかに眉間に皺を寄せる。
「フェリが悪いわけじゃない、ミカが全面的に悪い。まぁ、そのことは今一緒に作業しているナギサからも詰められているだろうから良いとして・・・」
「それは、いいんでしょうか・・・?」
ティーパーティーホストのナギサに言葉で詰められて顔を引きつらせるミカの姿を思い浮かべて苦笑を漏らす彼女を尻目に、一つの咳払いを挟んだセイアは少しだけ顔を引き締めると真剣な声色で言葉を紡ぐ。
「デートはフェリの足腰が回復してから出掛けるとして・・・ここからは、私と君でしか語れない話をしよう。私が予知夢で見た未来について、そしてフェリが記憶している未来についてのね」
「は、はい!よろしくお願いしますっ、セイア様!」
「うん、いつも思うがそんなに畏まる必要は無いんだ。いつものフェリで居てくれたら良い」
「はっ、はいぃ・・・」
何時もながらピシッと背筋を伸ばしてしっかりとした返事をする彼女に、微笑ましく思いながらも肩の力を抜くように声を掛けるセイアであった。
彼女の保有する未来の記憶を聞きながら、セイアは目の前の少女の特異性について考えていた。
「(私の予知夢と違って、フェリは未来の記憶を持っている・・・もっとも大きな出来事が片付いた今となっては、あれ以上のことは起こらないそうだが)フェリがこれ以上傷付かない保証はない、か」
「? セイア様?」
ポツリと呟いたセイアの独り言を耳にした彼女はコテンっと首を傾げ、ほんわかとした柔和な雰囲気を纏う彼女の姿に自然と口角を上げる。
「まぁ、フェリがこれ以上危険な目に遭わないように対策はしているから安心するといい」
「? なるほど?ありがとうございます、セイア様」
よくわからない様子でお礼を口にする彼女に、セイアは椅子から腰を上げるとテーブルを回って歩み寄ろうと足を踏み出す。
「セイア様、どうかっ――――って、あれ?」
立ち上がったセイアに疑問を投げ掛けようとした彼女だが、ふとポケットに仕舞っている携帯端末が震えたことで意識をそちらに向ける。
「すみません、セイア様・・・あっ、ヒナさんからです」
「・・・ヒナとはもしかして、ゲヘナの風紀委員長の?」
「はい、そうですけど・・・?」
側に歩み寄ろうとしていたセイアが自身の口にした名前を聞くと動きを止めて聞き返してきたことに、彼女は不思議そうな表情を浮かべながら肯定の返事をする。
「たしかに顔を合わせたことはあるが、いつの間に連絡先を交換したんだい?」
「以前にトリニティ総合学園とゲヘナ学園の親睦会がありましたよね?その時に色々ありまして、こうしてたまに連絡を取り合っているんです」
「その色々は知っているんだが・・・珍しくフェリが暴走した時の話だろう?」
「あっ、あれは少しでも皆さんが仲良くなれればと頑張った結果で・・・!今では少しだけ恥ずかしいんですから、暴走したなんて言わないでくださいっ!」
彼女が口にした親睦会とはトリニティ総合学園からはティーパーティーと正義実現委員会の重役が、ゲヘナ学園からは
終始和やか(表向きは)な雰囲気で親睦を深めていた(彼女と万魔殿議員の『丹花 イブキ』のみ)のだがゲヘナ学園の風紀委員長の『空崎 ヒナ』の疲れた様子を目にした彼女が、声を掛けてマッサージをする流れになってから可笑しな方向へと話が進んでいく。
「えぇっと、空崎さん」
「っ?貴女はティーパーティー補佐の・・・」
「鶲フェリといいます、それよりも空埼さん」
「うん、なに?」
「マッサージさせてください!」
「・・・・・・は?」
彼女の突然の申し出にヒナは呆けた声を漏らし、そのことに気付いた他の面々が視線を向けたことで事態が大きくなっていく。
「えぇっと、鶲?」
「はいっ、空崎さん。私のことはフェリ、と気軽に呼んでください」
「なら、私のこともヒナと呼んで」
「じゃあ、ヒナさん!マッサージするので、あのソファに横になってください」
「うん、ちょっと落ち着いて?」
周りの視線に気付くことなくグイグイ押してくる彼女に流石のヒナも困惑した声を漏らすが、そんなたじろぐ姿を見て一人の万魔殿議長の『羽沼 マコト』が楽しげに声を弾ませながら前に出る。
「キキキッ!いいじゃないか空埼ヒナ、お言葉に甘えればな!(お前の困る様子をもっと見せるのだ、キキキキッ!)」
「タヌっ、マコト・・・っ」
「あっ、羽沼さんもいかがですか?普段の執務でお疲れでしょうから!」
「キッ・・・?」
ヒナの困る様子をもっと見ようと前に躍り出たことが災いしたのか、自身も彼女の厚意の対象に入ったことに困惑した声を上げる。
「さぁさぁ、まずはヒナさんからこちらにどうぞ!大丈夫です、マッサージの腕はナギサ様のお墨付きですから!」
「話を聞いて?」
「い、いや私は別に必要ないぞ?」
手を引いてソファに移動する彼女の勢いに押される二人を尻目に、ティーパーティーの面々は顔を突き合わせてホストのナギサに疑惑の眼差しを向ける。
「ナギちゃん?」
「ナギサ、君はフェリに何を・・・」
「ミカさん、セイアさん。別に私が強制したわけではなく、フェリさんが私を気遣ってマッサージ技術を磨いてくださったのです・・・むしろそれを無断で他の方に振るうのはどうかと思いますよ、フェリさん?」
「あぅ・・・でもヒナさんもお疲れのようですし、羽沼さんもナギサ様と同じ立場ですからきっとお疲れなはずです!大丈夫ですっ、ナギサ様のようにフルコースではなくお試しですから!」
「フルコース?」
「ナギちゃん?」
「お二人ともこれには事情があってですね?」
ティーパーティーが再び顔を見合わせる姿を横目で確認しながら、いつの間にかソファにうつ伏せで寝かされていることに気付いたヒナは疑問符を浮かべる。
「それじゃあ、いきますね?」
「えっ、いやちょっと待っ「えいっ・・・!」――――んぁ♡」
「キキッ・・・キ?」
戸惑うヒナの様子に嬉しそうな笑みを零していたマコトだったが、彼女がヒナの身体に触れた瞬間に艶めかしい声を上げたことで笑みが消える。
「えい、えいっ・・・!」
「くっ、ぁ・・・♡待っ、ぅん・・・っ♡」
マッサージを行っているだけなのだが見てはいけない現場を目撃してしまったような気持ちになり、皆が皆視線を逸らして見ていないことにしようとする中・・・ゲヘナ風紀委員会の行政官である『天雨 アコ』だけは、カッと目を見開いて一歩前に足を踏み出す。
「ちょっ、アコちゃん!?何しようとしてるの!?」
「離してくださいっ!あんな羨まっ、けしからっ、ヒナ委員長の身体に私の許可なく触れるなど・・・っ!」
「何故ヒナ委員長に触れるのに、アコ行政官の許可がいるんですか・・・」
ドタバタと慌ただしく暴れるアコを止めようと羽交い絞めする同じく風紀委員会の『銀鏡 イオリ』と呆れたように声を漏らす『火宮 チナツ』、正義実現委員会や万魔殿(イブキはよく分からず?マークを浮かべている)も居心地悪そうに視線を彷徨わせている内にマッサージを終えた彼女はやり遂げた表情を浮かべる。
「はぁ、ふぅ・・・っ♡もっ、とぉ・・・♡」
「はふぅ・・・それでは次は、羽沼さんですね!」
「キ、キキキッ・・・いや、私は結構だ!そもそもそこまで疲れていないしな!」
「そんな遠慮なさらずに、さぁさぁっ!」
「待て落ち着け近付くなっ――――ぐぬっ、力強っ・・・!?」
普段絶対に見せることのないだらしなく蕩けた表情を浮かべて荒い息を漏らすヒナの姿を目にしたマコトは、顔を青くして後退るが離れる前に手を取った彼女の力の強さに驚愕して気が逸れてしまう。
「まだ間に合うからやめっ「ていっ・・・!」――――んひ♡」
「うわっ・・・」
「? マコト先輩になにかあったの?」
万魔殿議長のあられもない表情を見た万魔殿議員の『棗 イロハ』は顔を引き攣らせ、そんなイロハに両目を塞がれたイブキは疑問の声を漏らす。
「なにやら、大事になってきていますね・・・ツルギ?」
「・・・」
騒動の中心にいる彼女を心配そうに見つめていたハスミが隣に立つツルギへと視線を向けると、自身よりもハラハラした様子で落ち着きなく手を動かす姿に苦笑を浮かべる。
「これ・・・どう収集つけるの、ナギちゃん?」
「私に聞かれても困ります・・・セイアさん」
「ここで私に振るのか・・・無理だな、フェリの気が済むまでやらせるしかないだろう」
顔を見合わせてどうするか相談したティーパーティーは静観することを決めて引き続き見守ることに専念し、マコトのマッサージを終えた彼女が別の組織の面々にも勧め始めて収拾がさらにつかなくなったりと波乱の親睦会となった。
親睦会での出来事を思い出したセイアは呆れた表情を浮かべ、一つのタメ息を吐いてから諦めたように声を漏らす。
「ゲヘナの風紀委員長程の存在が、フェリのテクで堕ちたか・・・」
「おち・・・?仲良くはなりましたけど?」
「それはそれで困るんだが・・・ちなみに、風紀委員長だけかい?」
「えぇっと、他の風紀委員さんと万魔殿の皆さんとも連絡先を交換していますよ」
自身の問いにモモトークの画面を示しながら答える彼女に、額に手を当てて勘が当たったことにセイアは追加のタメ息を吐く。
「フェリが魅力的なのは当然だが、他の者に譲る気はさらさらないんだ・・・後でナギサとミカに相談して、対策を練らないといけないな」
「セイア様?私、何かしてしまいましたか?」
額から顎に手を当てて思案顔でブツブツと呟くセイアに、何か自身がしてしまったのかと恐る恐る彼女は不安そうな声を掛ける。
「フェリは何もしていないよ、だから気にする必要はない。たとえ何か問題があっても私だけじゃなく、ナギサとミカも一緒にどうにかするさ」
「セイア様、それは嬉しいのですが・・・どうしてこちらに、ゆっくりとにじり寄って来られるんですか?」
落ち込んだ自身を安心させるように優しい声色で語り掛けるセイアがゆっくりとした足取りで側まで歩み寄ってきたことに、腰掛けていることで自身の方が見上げるような姿勢になっている彼女は純粋な疑問を投げ掛ける。
「君に自覚を促すためさ、他の学園の生徒と仲良くするのは構わないが・・・君が一番に考えるべきは私、たちだ。ティーパーティーの補佐として他の組織や学園との緩衝材として働いてくれるのは嬉しいし助かっている、そのおかげで犬猿の仲のゲヘナのトップとも多少は打ち解けることができた・・・これはそのご褒美と、私自身のちょっとした嫉妬心さ」
そう口にして彼女の手を取って椅子から立ち上がらせたセイアは、まだ少しふらつく彼女を支えながら備え付けられたベッドへと優しく座らせるとその勢いのまま覆い被さるように押し倒す。
「えぇっと・・・セイア、様?私、昨晩のことでその・・・」
「問題ないよ、私はミカのように乱暴で激しい行為はしないさ。ちゃんと君の身体にも配慮して行うから、心配するといい」
「すっ、することは変わらないんですね・・・お手柔らかに、お願いしますぅ」
「ふふっ・・・あぁ、安心してその身を全て委ねてくれ」
頬を朱に染めながら同意の返事をして身体の力を抜いた彼女の様子に、セイアは笑みを零してからゆっくりと顔を近付けて静かな口付けを交わすのだった。
愛を確かめ合ったセイアはベッドの端に腰掛けながら、疲れて眠る彼女の寝顔を見下ろしながら微笑みを浮かべる。
「随分可愛らしい寝顔だ、安心しきっていて無防備な・・・」
反射的に伸ばした手で彼女の頬を優しく撫でると、ふにゃっと寝顔を蕩けさせてはにかむ様子に自身の頬も緩ませる。
「君には感謝しているよ。未来は決まっていて変えられないと悲観していた私を救い上げ、あまつさえ私の大切な者たちも救い上げてくれた君に・・・今度は私が君に与える番だ、幸福を運んでくれた君に私たちから尽きることのない愛を捧げよう。だから、いつまでも側に居てほしい」
行為の始まりとなった口付けを再度交わし、穏やかな寝息を漏らす彼女の髪を梳くように撫でながらこれからのことを夢想する。
「とりあえず、まずは他の学園への牽制の意味を込めた"贈り物"をしないとね・・・ふふっ、喜んでくれるとありがたいな」
独り言を呟きながら彼女の携帯端末を手に取ったセイアは、カメラ機能で自身と彼女のツーショットを撮影すると慣れた手つきで写真を加工する。
「フェリの肌を不特定多数に晒すわけにはいかないからね、ここは念入りにスタンプなどで隠して・・・こんなものでいいだろう」
加工を終えたセイアはやり遂げたように額を拭う仕草をしてから、明らかに事後であると分かる写真を先程話題に上がった人物へと送信する。
「さて、一体どんな反応が・・・っと早いな、どれどれ?」
楽しげに声を弾ませるセイアは即刻返答が送られてきたことに内心で驚きながら、内容を確認すると困惑と心配などの感情が入り混じっているのを感じ取る。
「ふむっ、ゲヘナの風紀委員長はまだフェリにそういった感情は抱いていないか・・・ってフェリの身体に色濃く残った痕は私ではないぞ、ハードプレイが好きなミカのものだ」
そんな感じで独り言を呟きながら彼女の携帯端末を操作していたセイアだが、持ち主が目を覚ますと何食わぬ顔で携帯端末を悟られないように元に戻し・・・後で確認した彼女は困惑と羞恥と共にセイアを問い質すのだが、ゆっくりじっとりと責められて結局有耶無耶にさせられるのだった。
フェリ:目が覚めてモモトークを確認すると知り合いから身に覚えのないことで質問攻めにあっていることに困惑し、元凶を問い詰めようとしたら逆に責められてあっさり敗北したらしい。
セイア:フェリのおかげで毎日穏やかに楽しく過ごしている、大切な者たちが笑顔を浮かべている様子に内心で喜びを感じている。
フェリを焦らしてゆっくりと責めるのが好きらしい。
他学園の皆様:フェリのマッサージの虜となった風紀委員長とはよく連絡を取り合い、そのことで行政官がご乱心したり他の風紀委員が止めに入ることがしばしば起こっている。
万魔殿議長は自身の晒した醜態に身悶えしながらも再度マッサージを受けられないか模索し、戦車長は議長の必死な様子に少しドン引きしていた。
幼い万魔殿議員は普通にフェリと頻繁にやり取りを行っている。