ティーパーティーの補佐としての仕事が一段落した彼女はナギサたちに断りを入れてからテラスを後にし、小走りで廊下を進みながら目的地である救護騎士団の駐屯する建物へと足を運ぶ。
「遅くなりました、救護騎士団の団長のミネさんはいらっしゃいますか?」
扉を開いて中へと足を踏み入れた彼女の問いかけに、それぞれの作業をしていた救護騎士団員は顔を見合わせてからその内の一人が彼女の側へと歩み寄る。
「団長は今自治区の見回りに行っていて不在ですが、多分もうすぐ戻ってくると思いますのでいつもの部屋でお待ちください」
「あっ、はい。わかりました、ありがとうございます」
救護騎士団員から伝えられた事柄に会釈とお礼を述べた彼女は、他の団員にも会釈をしてからいつも通される部屋へと移動する。
最近になって嗅ぎ慣れた薬品の匂いを感じつつ椅子に腰掛けながら部屋を見渡していると、バンッと勢いよく扉が開かれて少し息を切らせた救護騎士団の団長である『蒼森 ミネ』が姿を見せる。
「フェリさん、約束の時間に遅れてしまって申し訳ありません・・・!」
「いえっ、ミネさんが忙しいのは知っていますから気になさらないでください」
彼女の姿を視認してすぐに深々と頭を下げるミネに首を横に振って答えて笑顔を向けると、ホッと安堵の息を吐いたミネは咳払いを一つ挟むと顔を引き締めてから口を開く。
「では定期検診を始めましょう、服を脱いで背中を向けてくれますか?」
「は、はいっ・・・んしょっ」
自身の指示を受けて身に着けている衣服に手を掛けて脱ぎ始める彼女をジッと見つめていたミネは、露になった彼女の肌を目にすると悲しげに眉を下げてそっと割れ物を扱うように優しく触れる。
「ひゃっ・・・み、ミネさん?」
「すみません、つい抑えきれずに触ってしまいました・・・しかしやはり、変化はありませんね」
彼女の肩甲骨付近には"ボロボロに焼け焦げて引き千切られたように付け根部分しか残っていない羽の残骸"があり、それを目にしたミネは歯を食い縛るように苦しげな表情を浮かべながら慈しむように残った羽の付け根を撫でる。
「私がもっと早く救護できていれば、貴女が羽を失うこともなかったのですが・・・」
「これは私が勝手にやって負った傷ですから、ミネさんが気に病むことではありませんよっ」
「いえ私がもっと気に掛けていればフェリさんがあんな無茶をすることもなく、今も健康に過ごせていたのです・・・なにより自分の"妹"を救護できなかったことが、私の一番の心残りなのです」
ミネの口にした一つの単語に疑問符を浮かべた彼女は、首だけ動かして背後へと顔を向けると声を掛ける。
「えっと、ミネさん?いつも思うのですが、私ってミネさんの妹ではない・・・ですよね?」
「? えぇ、そうですが?たしかに私とフェリさんは血の繋がりはありません、しかし貴女のことは妹のように思っています・・・つまりフェリさんは私の妹ということになります、わかりますね?」
「えぇ、っと・・・?」
自身の疑問に返答したミネの言い分にさらに疑問符を浮かべる彼女の姿に、ミネもまた首を傾げながらも口を開く。
「私の髪色とフェリさんの髪色は似ています、っというかそっくりです」
「たしかに、そうですね?」
ミネよりも多少濃い色の前に垂らした自身の三つ編みを手で持ち上げながら肯定の返事をすると、ミネは頷きを示してから彼女の腰付近から生えた羽を優しく撫でながら続きを口にする。
「さらに私と同じく貴女も背中から羽が生えていました、場所は少しズレていますがこれもそっくりです」
「それは、強引なのでは?」
自身の主張に絶対の自信を持っている様子で胸を張るミネに苦笑を浮かべながらも、彼女が嬉しそうな雰囲気を纏う姿に羽を撫でるのをやめて背後から抱き締める。
「これからはフェリさんに危険が及ばないよう、姉である私がしっかりと救護させてもらいますから安心してください」
「ひゃっ・・・そ、それは頼もしいですけど・・・ミネさんもご自身のお仕事がっ「お姉ちゃん」――――えっ?」
「私のことは"お姉ちゃん"と呼びなさい」
ミネの提案に疑問符を浮かべる彼女を尻目に、真剣な眼差しを向けながら抱き締める腕の力を強める。
「私はフェリさんの姉です、ですのでお姉ちゃんと呼ぶのは自然ではないでしょうか?」
「まず本当の姉妹ではないですから、そこは自然とは言わないのでは?」
「っ?」
「なんでよく分からないって反応なんですか?」
自身の主張が正しいはずなのに伝わっていないことに困惑する彼女に、ミネは特に気にした様子もなく自身の意見を主張する。
「さぁ、お姉ちゃんと呼ぶだけでいいんです。そうすれば定期検診は終わりになりますから」
「もしかして、言うまで離してもらえない感じですか?」
抱き締めることで身動きを封じているミネの言葉に、彼女は別に渋ることでもないかと思い至って数度の深呼吸を行ってから顔を向ける。
「ミネ、お姉ちゃん・・・?」
「――――っ!!」
「ひゃぁっ!?ミネさっ・・・お姉ちゃんっ、落ち着いっ――――ひゃぅ!?」
要望通りの呼び方をした瞬間に自身の羽も駆使して包み込むように抱き締めてきたミネに、彼女は驚きの声を上げて動揺しながらも求められた呼び方を続ける姿にミネはさらに腕の力を強めて密着する。
「はいっ、私がお姉ちゃんですよ。存分に私に甘えてくれていいんですよ、私はお姉ちゃんですから」
「んひゃっ、んぅっ・・・せっ、せめて服を着てからにしてください・・・っ!」
何故か鼻息を荒くして自身の身体を触診(意味深)するミネに困惑しながらも、一糸纏わぬ姿であることを思い出した彼女は切実な声色でそう懇願するのだった。
何度目かの彼女からの声掛けでようやく正気に戻ったミネは、シュンッと肩を落としながら申し訳なさそうに声を上げる。
「すみません・・・つい我を忘れてしまいました、大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫です・・・はふぅ」
彼女が安堵の息を吐くとミネよりも育っている双丘も上下に揺れ動き、それを目にしたミネは無意識に喉を鳴らして視線を向けてしまう。
「ゴクリッ・・・」
「ミネさん?定期検診も終わりましたから、そろそろ戻ってもいいですか?」
「え・・・あっ、そう・・・ですね、問題ありません・・・」
彼女の問い掛けにハッと気を取り直したミネだが、了承の返事をしながら徐々に気持ちが落ち込んでいき声も小さくなっていく。
「ま、またすぐに来ますから落ち込まないでください!っというか、報告書を受け取りに毎日来てますよね?」
「それはそれ、これはこれです。そもそも数分の談笑と、こうして二人っきりの姉妹水入らずの時間では・・・雲泥の差があります」
「そういうもの、ですか?」
「そういうものです、っというわけで紅茶を淹れますのでゆっくりしていってください」
「あ、えっと・・・定期検診が終わったらすぐに戻ってくるようにと、ナギサ様に言われているので・・・」
「ティーパーティー・・・っ!!」
紅茶を淹れようと動こうとするミネに直属の上司からの言葉を伝えると、ギリッと奥歯を噛み締めて歯を剥き出しにしながら学園のトップの組織名を呪詛を込めて吐き捨てる。
「甚だ不本意ではありますが仕方ありませんね、今はティーパーティーの顔を立てておきましょう(ですがいずれフェリさんには救護騎士団へと来てもらいましょう、そうすれば妹を救護するのも楽になりますしいつでも愛でることができる・・・完璧ですねっ)」
妙案が浮かんだと内心で歓喜しているが現実的に難しい問題が山積みなのだが、いつもは冷静に物事を考えることができるのになぜか彼女が関わると著しく知能が下がってしまうミネであった。
「えっと、それでは私は失礼しますね」
「えぇ、定期検診はまた一週間後に・・・っ?」
部屋から一歩踏み出してから振り返ってお辞儀と共に挨拶を交わす彼女に返事をして見送ろうとしたミネだが、不意に言葉を切って彼女の背後へと視線を向ける。
「? ミネさっ「フェリさーんっ!」――――ひゃぁ!?は、ハナエちゃん・・・?」
ミネが視線を自身に向けていないことに気付いた彼女も振り返ろうとするが、その前に自身の名を叫びながら背後から抱き着かれたことで驚きの声を上げる。
「はい、フェリさん!お部屋から出てきたってことは、定期検診が終わったんですよね?だったらお喋りしましょう、ねっねっ?」
「ハナエ、フェリさんはこの後も用事があるのですから無理に引き留めるのは・・・なので抱き締めるのをやめて離れなさい」
「ミネ団長、私情が入っていませんか?」
彼女を背後から抱き締めて一緒にいようと提案する救護騎士団の『朝顔 ハナエ』に苦言を呈するミネに、いつの間にか彼女の隣に並び立っていた同じく救護騎士団の『鷲見 セリナ』が純粋な疑問を口にする。
「それよりもフェリさん、最近ちゃんと休めていませんよね?ティーパーティーの皆さんのために頑張るのもいいですが、しっかりと身体を休めないとダメですよっ!休日にティーパーティーの皆さんと触れ合うのもいいですけど、気絶するように眠るのはどうかと思います!なので今だけでもゆっくりと休息を取ってください」
「セリナ先輩の言う通りですよっ、頑張りすぎで身体を壊しちゃったら元も子もありませんから!」
「二人の言う通りです、紅茶を淹れますからゆっくりしていってください」
「えぅ・・・じゃっ、じゃあ少しだけ・・・ご厚意に甘えさせてもらいますね?」
セリナの口にする内容の具体性を不思議に思いながらも、ハナエとミネの後押しもあって彼女も思うところがあったのか休息を取ることに微笑みながら同意の頷きを返すのだった。
テラスでカップに注がれた紅茶を口につけたセイアは、喉を鳴らしてから一息吐くとチラリと居心地悪そうに視線を彷徨わせる彼女へと顔を向ける。
「それで、こんな時間までかかってしまったと・・・」
「えぇっと、そのっ・・・す、すみません」
ジトッと細めた目で自身を見つめる上司に謝罪を口にする彼女の姿勢に、セイアは薄く微笑みを浮かべながらカップをソーサーに戻すと声を掛ける。
「別にフェリが謝ることじゃないさ、君が他の組織からも情を向けられていることは周知の事実だ。それが親愛か恋愛かにもよるが、基本的に私たちが咎めることはないよ」
「あ、ありがとうございますっ「ただ・・・」――――っ?」
感謝を述べて頭を下げようとする彼女に被せるように言葉を重ねたセイアに疑問符を浮かべて顔を向けると、一切顔を逸らすことなく自身を見つめて笑みを浮かべるセイアと視線が交差する。
「事実だからと言ってすんなりと受け入れられるかは、また別の問題なんだ・・・フェリなら、分かってくれるだろう?」
「ひぅ・・・とっ、ところでナギサ様とミカ様はどちらに?」
交わった視線の先にあるセイアの瞳の奥にドロッとした嫉妬と欲望が見て取れた彼女は、この後の展開を予想しながら姿の見えない二人のティーパーティーメンバーの所在を尋ねる。
「ナギサはいつもの部屋で準備をしていて、ミカは何やら道具を取りに行くとかで寮の自室へと戻っているよ」
「どどっ、道具・・・っ!?あっ、私この後用事を思い出しましたのでこれで失礼しまっ――――」
椅子から腰を上げながらセイアから告げられた事柄に、頬を朱に染めながら羽を一際大きく羽ばたかせると部屋を後にしようと踵を返す。
「残念、時間切れだ・・・フェリ」
「セイアちゃんの言う通り、逃げられないよ☆フェリ」
「ミカ様っ・・・ひゃっ!?」
しかし彼女が扉を開ける前に開け放たれると少し大きめの箱を小脇に抱えたミカが姿を見せ、驚きを露にする彼女を空いた片腕で抱き上げるとナギサの待つ部屋へと歩き出す。
「随分と多いな・・・どうしたんだい、これ?」
「フェリに使おうと思って集めておいたんだ~、今日は"じっくりと"する予定だからさ☆」
「ふむ・・・まぁ、別に構わないがハードプレイも程々にした方がいいんじゃないかい?」
「大丈夫大丈夫っ、フェリもいつも喜んで受け入れてくれてるからね♪そうだよねっ、フェリ?」
突然話を振られた彼女はビクッと身体を大きく振るわせると、自身に向けられる二つの視線に困惑した様子で口を開く。
「へぅっ・・・あのそのっ「ねっ?」――――は、はいぃ・・・!」
「ほらね☆」
「脅している風にしか見えなかったが・・・しかし、怯えるフェリもなかなか・・・っ」
「ハードなのはミカさんだけで十分ですよ、セイアさん」
セイアが新たな癖に目覚めそうになっているところで冷静な声を掛けられてそちらに顔を向けると、呆れた表情を浮かべながらいつもの部屋の前で待つナギサの姿があった。
「ナギちゃん、部屋の準備は出来たの?」
「えぇ、っといってもシーツを変えたりタオルや水分などの補充をしただけですが・・・」
「それも重要なことさ、特にフェリにとってはね。一番それらが必要になる対象だ、体調もしっかりと管理してあげないといけないさ・・・明日まで自力で動けなくなるんだからね」
「それもそうですね、ならもう少し用意してもよかったかもしれませんね」
これから自身にすることをまるで日常会話を交わすような気楽さで進めていく二人に困惑しながら、自信を抱えるミカへと顔を向けると恐る恐る声を掛ける。
「えっと、ミカ様っ」
「? フェリ、どうかした?」
「その、これからすることに手心を加えてもらえたりは・・・します、か?」
彼女からの懇願にミカは口元を緩ませて笑みを浮かべると、抱き上げた彼女の耳元へと顔を近付けて優しい声色で囁く。
「ヤダ♪断りもなく私たちから離れたんだから、容赦なんてするわけないじゃんね☆今日は寝かせないよ、本気で・・・ね?」
「ぴぇ・・・お、お手柔らかに・・・っ」
彼女の願いを一刀両断したミカはナギサとセイアと共に部屋に足を踏み入れて扉が閉じられてから、扉が再度開かれて彼女たちが出てくるまでの次の日の昼までの間・・・ティーパーティーの面々とその補佐の少女の姿を外で見た者はおらず、肌艶が良くなったティーパーティーとは裏腹に補佐の少女はぐったりと気絶するように眠る姿を目撃されたのだった。
因みに彼女の寝顔はとても幸せそうな微笑みを浮かべていたとか、それと彼女が目を覚ましたのはティーパーティーの執務を終えた時間だったとか。
フェリ:ミネから妹扱いされることに困惑しながらも、内心では嬉しい気持ちを抱いている。
救護騎士団:ミネ「姉として、妹を
セリナ「ずっと見守っていますよ(*^▽^*)」
ハナエ「大好きっ!」
ティーパーティー:彼女を一番愛しているのは私たちだし、他の者に入り込む余地はないから諦めてね☆