突如、謎の何もない空間に転移したソウとウェンディの前に現れたのはソウを知る謎の少年―――ジュン。
ソウは記憶を取り戻す為の協力を要請した。だが勝負で見事に勝ちを取った場合のみ手伝ってやるとジュンが反論する。
―――波と地。
二匹の竜がいざ激突する。
◇◇◇
"ジュン・ガルトルク"。
地動竜の滅竜魔導士。
彼の使う魔法は主に地に関連する効果を兼ね持つ。具体的には、土や岩。
ソウが波動竜の滅竜魔法と振動魔法を二つ同時に使用するように、ジュンもまた二種類の魔法を習得している。
その一つは滅竜魔法。
そして、もう一つは―――"引力魔法"。
物を引く力。力の原点を定め、対象となる物体にベクトルの大きさを自在に付与させられる魔法をジュンは戦闘で使いこなす。難点となるのはベクトルの向きが常に原点から、と固定になる程度。
原点の設定可能な対象に制限はない。人間でも物体でも視界にさえ入れば、その時点で既に効果範囲の手中にあると言える。
一見すれば、単純な効果に思えるだろう。
魔法の効果は至って単純。引く力が働くだけなのだから。
だがしかし。現実は違う。むしろ、酷い。
知識もなしにジュンの魔法を説明されれば、並大抵の人は勘違いするかもしれないだろう。
よく考えてみてほしい。
誰が、いつ、ジュン本人に対して力が作用すると言った。ジュンが直接引っ張るとはきっぱりと断言していない。
―――原点に向かって引く力が作用する。
つまり、原点を相手に設定すれば。
周りの何かしらの物体を相手に飛ばせる事も可能となってしまう。付け足すのなら、全方位から。
正面、左右、背後、頭上、そして足元。
ジュンの攻撃は一体何処から来るのか。それすらも予測は困難となってしまう。
引力魔法は汎用性が強い魔法なのだ。
◇◇◇
謎の空間。
「―――吹き飛べ」
ソウの衝撃波が掌から放たれた。
と、同時に色んな方向から襲い掛かろうとしていた大量の岩石の塊が一斉にひび割れて粉砕されてしまう。
散り散りに散布された岩粉が辺りの視界を一気に悪くさせていく。
そして、ジュンの気配が消えた。
「………次は上か」
頭上、遥か遠くに巨大物体を感知。
常に索敵魔法を波動で発動しているソウに死角などという概念は消失している。
ジュン本人もまたその事実は知っている筈。
つまり、先程の攻撃は単なる時間稼ぎ。
その証拠に魔法に引っ掛かかったのはまたしても岩石なのだが、今回は量がヤバイ。
数十、いや百は猶予に越える。ソウは数えるのを中断した。
対象、隕石―――目標、ソウ。
―――"グラウンドメテオ"―――
流星群で空を覆われる始末。
ソウも反撃とばかりに右手を天に突き出した。だが、自分の魔法のせいで分かってしまう。
迫り来る隕石は約三分の一。
ソウの衝撃波は広範囲に絶大な攻撃力を誇る。一方で、貫通性はなく、連発には不向きな性質も兼ねている。
時間差で来られると対処が間に合わない。
特に今回は頭上からの攻撃ゆえ回避すらも許されない。素直に正々堂々と迎撃する方法しか選ばせないのもまたジュンの戦略の内に過ぎないだろう。
魔法の反動に不安を抱えつつもソウは迎撃せざるを得なかった。
―――波動式五番"衝大波"―――
ソウを中心に空気が揺れる。
揺れた波はあっという間に隕石群へと到達。と、次の瞬間には既に隕石の表面にひびが確認できる。
そして、破裂。
空を埋めていた隕石はたったの数秒で茶色の花火のように塵と化した。
危機を脱出。
これでソウは一安心を―――しない。
間髪なく塵を押し退けて、新たに大量の隕石が出現したのだ。
第二陣。ソウは魔法の特性を相手に握られている中での戦闘は無駄に厄介だと思わざるを得なかった。
先程の魔法―――"衝大波"は一撃が重い反面、ソウ自身に来る反動が強く連発が無理な魔法だ。ソウの足元にある地面に刻まれた亀裂がその威力を物語る。
なら、と迫り来る隕石を眺めつつもソウは一つの作戦に出る。
ジュンが波動魔法の弱点を掴んでおり、逆にソウもまたジュンの性格や魔法の性質を知っていた。
戦闘に関しての頭の回転率。ジュンは特にそれが優れている。現にこうやって、無敵と謳われる衝撃波を意図も簡単に対策してきている。
なら、それを逆手に取れば良い。
ソウはその場から―――跳躍。
あえてソウは上空へと身を投げた。
ジュンは恐らく、隕石全てをある程度対処してからソウは反撃に出ると思っている。一人の敵に対して、放つ隕石の量では無いのがその予想をさらに裏付けていた。
となれば、ここは一点突破。
飛翔したソウのすぐ目の前に巨大な壁の如く塞がる岩石。
右手を伸ばし、掌に魔力を込める。
―――波動式一番"波動弾"―――
蒼く光る球体の物質が放たれる。
それは息つく間もなく、隕石へと触れた。同時に破砕音が辺り一帯を木霊する。
ソウはさらに足元に衝撃波を発出。加速しながらさらに上空を目指す。
「まだあるのか」
視界に確認した第三陣の存在。
同じ要領で突破するしかないと判断したソウは先程と同様の手順で隕石群を潜り抜ける。
そして、ジュンの姿を発見した。
ジュンがいるのは浮かぶ小さな島。あれは恐らく魔法で地面を真上に向けて引っ張っているのだろう。それだけで宙に浮かべるのも不思議だが、これは現実だ。
対して、ジュンもソウの接近に反応した。一瞬だけ、驚く仕草を見せつつもジュンの口元はニヤリと笑っている。
「早かったじゃねぇか!」
「余計なお世話だ」
互いに減らず口を叩く。
ダメ押しとばかりにソウはまた衝撃波を利用して、上昇率速度を上げた。
黙って見ている訳にはいかないジュン。左手を握り締め、口元に手の甲を当てた。
「保険を用意しておいて正解だったな」
そして、その左腕を力強く真横に伸ばす。
行動の意図が読めないソウは警戒しつつも魔法の射程圏内に入ると同時に魔法の構えを取る。
と、ソウの脳に稲妻が走る。
「………くっ」
背後から迫る一つの反応。
見なくても分かる。きっと攻撃の予備に置いていた隕石に違いない。
問題はその接近速度にある。尋常じゃない速度で近付いてくるのだ。摩擦熱で自身が消滅しそうな程に。
隕石の速度と威力は比例する。つまり、あれはこれまでとは桁違いの破壊力を秘めている。
「逃がさねぇよ」
予めソウの回避行動を予測していたジュン。
ソウの体勢的に上へと避けるからとジュンはソウの頭上の空気に下降気流の流れを生成していた。
このやり取りだけでも致命的なタイムロスに繋がる。
―――間に合わない。
やがて、隕石がソウに直撃した。ソウを巻き込んだ隕石は軌道を下へと変えて、あっという間に地面へと到達。派手な演出と共にソウの姿が消える。
ジュンはその一部始終を上空から眺めていた。ここは素直に喜ぶべきなのだろうが、ジュン本人は微妙な表情を浮かべている。
「あんなもんで倒れる訳ねぇ」
奴は―――何かを狙っている。
油断ならぬと警戒するジュン。
警戒するのは良かった。ただし、ジュンは一つミスを犯してしまう。
『下ばっかり見てるんじゃねぇよ』
ジュンの足場、島に巨大な亀裂。
と、立つ行為すら許されない揺れがジュンを襲う。
「何だ!?―――上か!!」
はっ、と見る。
勢い良くジュン頭上から迫ってくるのは他ならぬソウの魔法"波動弾"である。
一体、どうやって―――
体勢を崩したジュンに成す統べなく。
波動弾がジュン本人へと触れ、人間一人など容易く吹き飛ばす衝撃波を形成した。
そして、奇遇か。ジュンもまた地上へと強制的に叩き付けられるのであった。
「痛ってぇなぁ、おい」
「その割には案外ぴんぴんしてるんだな」
「それはこっちの台詞だっての」
両者、目立った損害無し。普通に気になるのか、服に付いた汚れを払う始末だ。
「一つ聞かせてくれ。さっきのはどうやった?」
「なに、簡単な話。お前の攻撃が当たると同時に真上に波動弾を撃った。それだけだ」
「だが、それだとオレの所までは届かない」
「だろうな。だから、俺は一工夫入れてみた。まず、あの下降気流を抜けるだけの威力を波動弾に込める。だけど、抜けただけじゃ意味がない。だから、抜けたと同時に俺は
「へぇ~。だから、上から降ってきたのか」
ここでソウは深く溜め息。
「はぁ………まだやるのか?」
「おう!決着を付けるぞ!」
やる気無しのソウとやる気満々のジュン。
二匹の竜はまだまだその巨大な翼を羽ばたかせるのであった。
3-3へ続く。
裏設定:
Q.急に投稿したけど、どうしたの?
A.タルタロス編のアニメをようやく見て、ウェンディのドラゴンフォース姿に感化された影響だよ♪
*技名表示にぴったりのフォント探してます