FAIRY TAIL 波地空の竜   作:ソウソウ

15 / 65
 前回までのあらすじ:
 一次試験の真っ最中。戦闘の間でグレイチームとメストチームが遭遇する。いざ、バトル開始となるその瞬間に新たな刺客の登場。
 その刺客でもあるレモンが場を一旦、静止させる。レモンがこの場にいると言うことはつまり、彼がここに存在するという訳で………。



4-3『試験内容』

  ◇◇◇

 

 一次試験。"激闘"の間。

 

「お前らが来た時からずっと此処に居たのに誰も気付かんのかね。誰からも気付かれない身を考えてみろ。空しいにも程があるぞ」

 

 岩の先端に座って、見下ろすソウ。

 攻撃する隙どころかその場から身動きすら許されない気迫を前にして、グレイやロキは平常心を保つ。

 メストもどうにか。

 問題はウェンディにあった。

 

「っ………!!」

 

 直接、間近に見たソウの魔力。

 前回は魔水晶越しに観戦したのでまだ余裕があった。だけど、いざ目の前となれば、歴然とした魔力の差に心が折れそうになっている。

 膨大な量は無論、魔力の質が根本的に一般に言う魔導士と違う。魔素の濃度が桁違いに濃いのだ。

 

「このルートはソウが試験官って事で良いんだな」

「正確には二つのルートをまとめて、だけどな。お前ら、マスターが一次試験の説明をしてる時に気付かんかったのか?"激闘"の間の一つだけ、そこに二つルートが伸びてたと思うけどさ」

「よくよく考えてみればそうだ。数が合わない」

「な、成る程。だがこっちは四人。それでも良いのだろうか。知りたい」

 

 チッチッチ、とソウは指を振る。

 

「試験を始める前に教えておくよ。普通なら試験官一人に対して二人が基本だが、俺だけは四人という何とも悲しい待遇となっている。いや、人によりけりか?

 ………さてと本題だ。本題は何故そうなったのか。俺の魔法を知らんとは言わんな?知らなくても、後で嫌と言う程知るだろうし簡単にネタバレするけど、俺の魔法―――波動魔法は対多数戦においては絶大な効果を発揮する。

 逆に味方の共闘には不向きな魔法でもある。魔法の被害が仲間に及んだら、たまったもんじゃないからな。 

 だから、結果………こうなった」

 

 ソウの代名詞。広範囲に放つ衝撃波。

 何人も同時に相手するのを可能とし、ソウの実力となってしまえば一般の魔導士なら数的に不利な状況でも普通に勝ってしまう。

 

「さてと………」

 

 ソウが立ち上がる。

 軽く服に付着した砂塵を払い、小さくジャンプ。四人の前に歩み寄る。

 

「改めて、試験の説明をしようか」

「単にソウを倒せば良いって話じゃ無いのか?」

 

 グレイの指摘は正しい。

 突破するには目の前の敵、障害をクリアすれば良いのだから。

 ただし、一次試験の説明の際にマカロフは試験クリアの条件をはっきりとは口にしていなかった。何故なら、場所によって異なってるから。

 つまり、この場はソウの提示するクリア条件が試練突破の鍵となる。

 

「グレイの意見も一度は候補に入れたぞ?だがしかし、幸か不幸か今のお前らでは俺を倒すなんてイメージが全く浮かばなかった。それなのに、俺を倒すなんて案を採用してしまうと………お察しの通り、試練にすらならない。それだと、お互いに面白くないだろ」

「言ってくれるじゃないか………!!」

「ロキ、どう見ても事実じゃないかな?まさか、お前らが今のを嘘だと訂正してくれるのかな?それはそれでまた一興だな」

 

 ソウはにっこりと笑った。

 その行為だけで押し黙るロキの姿にソウの語る威勢の強さが計り知れる。強者のみが許される絶対的な態度。

 実際、ソウは最年少でS級魔導士に到達している。そこに実力の虚偽は無く、正面からその座を勝ち取ったとされる。

 魔法だけではない。純粋に戦闘経験の差もある圧倒的なまでの高い存在にグレイとメストは挑む必要があった。

 

「話を戻すか。お前らが果たすべき事はただ一つ。この鈴を触ること」

 

 ソウが手に握る紐の先端。

 銀色の一般的に世間に普及されている普通のタイプの鈴があった。

 軽く揺らせば、心地よい音色が鳴る。

 次に、メストが疑問をぶつけた。

 

「鈴を触るだけ?あまりにもこちらが有利じゃ無いか?」

「見た目だけはな。因みに鈴に触っても波動で吹き飛ぶなんて罠は無いから安心して触りに来たら良い。触れるもんなら触ってみろって話だ」

「あぁ!言われなくても遠慮無く行く!」

 

 あまりにも安い挑発。

 普通なら反撃に出る場面でもある。が、グレイ達は攻めにも出られず、煮えたぎっていた。

 

「ほら。来ないのか?」

 

 ―――隙が無い。

 

 ソウの領域にミリでも踏みいれば、瞬間的に魔法が狙いを定めてくる。無闇に攻撃を仕掛けるのはまさに命知らずと同等だ。

 

「ん~。これだけじゃ………内容的にもつまらんか」

 

 すると、ソウは腰に鈴を付ける。

 軽く準備運動とばかりに膝を曲げては伸ばしの運動を繰り返すが、物騒な一言に見ている側の背筋が伸びる。

 

「ここから出られるのは一組だけにしよう。こうすれば、リアル感も出そうだし」

「そ、そんな………!!」

「ウェンディ?何故そこまで悲観的になる。むしろ好都合ではないか?俺達が先にあの鈴に触れば、ライバルが減る事にも繋がるのだぞ?俺は知りたい」

 

 新たなルールの追加。

 これに対し、いの一番に反応を示したのはここまで無言でいたウェンディであった。

 

「いえ………私なりに考えていたら、ある事に気付きまして………」

「何だと!?」

「はい。恐らく、この試練は私達の選択を試しているのかと思います」

「選択………詳細を聞いても?」

「勿論です、メストさん。まずは確認です。私達の一番の目標は試練をクリアする事ですよね?」

「あぁ、そうだ」

「次にグレイさん達の事はどうされるつもりですか?」

「今回は先に俺かウェンディが鈴に触れば問題ない話じゃないのか?」

「そこです」

「なっ………!?」

 

 メストに驚愕の表情。

 それを尻目にウェンディはソウに視線を固めたまま、語り続ける。

 

「少なくとも私達に勝ち目はありません。例え、鈴を触るだけだとしてもです」

「………なら、他に方法があると?」

「私達だけ………の場合です。でも、今は違います」

「………っ!!確かに。言われてみれば」

 

 メストとウェンディ。

 そして、同じくソウの試練に挑戦するグレイとロキもまた同じ現場にいる。

 

 つまり、ウェンディの狙いは―――

 

「協力すれば………まだ可能性はあるかと」

「名案だ!!君をパートナーに選んで正解だった!!」

「えっ!?………あっ、ありがとうございます?………」

 

 二人で無理でも四人なら。

 実際、ソウは争う二組をまとめて相手すると告げている。互いに挑戦組が手を組むのも裏で了承していると解釈しても過言ではない。

 

「メストとウェンディ、ちょっといいか」

「む?何だ?」

 

 と、絶好のタイミングで。

 ソウに警戒心を向けたままのグレイがある話を持ち掛けてくる。

 

「今は互いにここを突破する事が最優先だ。つまり、ソウの腰にある鈴さえ触れれば俺達の勝ちとなる」

「なので、グレイとメスト。一旦という形で手を組むのはどうだろうか?という提案さ。どちらも損はない筈だよ」

「………考える事は同じか。異論はない」

「決まりだな」

「えっ!?メストさん!?それだと―――」

「ウェンディ、構えるんだ」

「は、はい!!」

 

 すんなりと進む交渉。

 既に決定事項となった事実に戦闘モードに完全に移行してしまうメストとグレイ、ロキ。

 異議を唱えたいウェンディであったが性格が邪魔をして強く出れない。

 

「準備は万端みたいだな。なら、始めようか」

 

 一次試験。激闘の間。

 クリア目標はソウの腰にぶら下がる鈴に触れるだけ。

 

 ―――いざ、開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 激闘の間。

 

「さて………」

 

 案の定、両チームで手を組んだか。

 明らかな誘導も入れておいた。妥当な結末と考えるべきであり、むしろ試験官側としては好都合でもある。

 何故なら、本来であれば敵同士であった者達。急遽、協力関係を組むとなったその時に上手く順応出来るかどうか。

 そして、仲間の真意と元敵の思惑を見抜けているかどうか。

 この二点に焦点を当てていきたいからだ。

 

「作戦はどうする、グレイ」

「そうだな………こっちは数で有利。それを使って、ソウの隙を炙り出すしかない」

「俺は知りたい。他に方法は無いのか?」

「基本はそれで行く。展開に応じて、他の作戦を組み込んでいくさ」

「なるほど」

 

 俺の動きに意識を向けつつ、作戦決め。

 残った四対一と数的不利な状況。逆に向こうはかなりのアドバンテージがある。

 にも関わらず、打ち合わせ無しでの戦闘は起こさないと来たか。まぁ、及第点だ。

 今回の場合、互いの魔法という観点で比べれば、どちらも既に大体の能力や効果は認知している。

 つまり、何を言いたいかと言えば―――

 

「全部、丸聞こえなんだよな………あんまり意味ないぞ~………」

 

 音も辿れば、振動を起点に発生する。

 故に探知関連でも俺の魔法は絶大な効果を発揮する。ましてや目の前の会話を聞き取るぐらい等は素のままでも可能だ。

 この事実をグレイ辺りは認知してそうなのだが。すっぽり頭から抜け落ちてるのだろうか。

 可哀想だから、減点対象からは外しておこう。

 例え、俺相手に数で有利を取ろうとも下手な連携をしてしまえば、こちらは簡単に処理しやすく、むしろ状況は悪化する。他にも作戦が筒抜けな時や明らかな陽動が仕掛けられていると気付いた時もまた同様。

 よって、数で押す作戦を軸に攻めるのは悪くない。現状では最善の選択と言えるだろう。

 そういう要所もじっくり評価しておかないとな。

 

「来るぞ!!回避だ!!」

 

 準備運動に一発だけ波動弾を放った。

 無論、回避される。俺は左右に散らばる挑戦者達を尻目に思考を巡らせた。ついにこの時が来てしまったか、と過去の自分の情景を甦らせつつも気を引き閉める。

 グレイ、メスト。頑張ってこの試練を乗り越えてくれ。まだまだS級魔導士まで道のりは遠い。それでも、全員が通ってきた道でもあるのだから避けては通れない。

 

 まぁ―――容赦はしないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4-4 へと続く。




*鈴の件はまぁ有名ですね。

オリジナルの敵キャラってあり?(無しの場合だと、原作に出てきた敵キャラのいずれかを主人公が奪い倒す形となる予定)

  • あり
  • なし
  • ありよりのなし
  • なしよりのあり
  • どっちでも

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。