グレイ、ロキ、メスト、ウェンディの四名は協力してソウの攻略に挑む覚悟を決める。
対して、ソウは容赦なく一次試験の審議を執り行う。制限がかけられたのにも関わらず、最強の座は降りる気配無しの彼に果たして合格という二文字は貰えるのだろうか。
◇◇◇
激闘の間。
「くっ!?メストとウェンディは左から回ってくれ!!」
バトルの火蓋は既に切り落とされた。
正面からの突破を困難と判断したグレイの冷静な指示により、メストとウェンディは即座にそれに従う。
ソウはゆっくりと二人を視線で追うが身体の真横辺りを過ぎた時点で角度的に無理があったのか、目線を外した。
一方でグレイは両手を構え、魔法の準備。
グレイは陽動に動くのかとソウは思考を巡らせつつ、他の人の動向にも魔法越しに気を向ける。
「"
グレイは氷の槍を精製。
その鋭い矛先をソウに向けて、発射。無論、これが有効打になるとはグレイは考えていない。
あくまで彼の気を逸らすだけの物。
「………ん」
ソウは右手を突き出す。
続けざまに氷の槍がソウの掌に着弾。同時に槍の方が一瞬にして粉々と化す。
対して、本人は余裕の笑み。
「ここ!」
ソウの右脇腹。
グレイの攻撃に右手を使用した今、がら空きであるスペースに勇敢にも飛び込んだのはロキ。
お得意の光を拳に凝縮し、解き放つ。
「"
―――狙いは………鈴!
腰にある小さな銀の鈴。
直撃どころか掠りでもすれば、勝利条件を満たす今回の試験。真っ先に狙いを定めるのは必然と言えた。
故に―――
「残念。左手が余ってる」
「ぐはっ!?」
ソウの左手が右腕の下からロキの攻撃に対して構える。
そして、即座に人一人など軽々しく吹き飛ばす衝撃波を撃ち放った。
「いきます!!」
「あぁ!!」
攻撃はまだ終わらない。
ロキとは真逆に回り込んだウェンディとメストが追撃に躍り出る。
あの一瞬のやり取りだけでもソウは魔法の威力を普段よりも弱めていると判明した。少なくとも自身に触れる脅威を問答無用に吹き飛ばすあの魔法は発動していない。
なら、接近戦に持ち込むのが最善。
遠距離を得意とする波動魔法と無敵の反撃魔法のコンボがソウの強みと言える。だが、その片方が無いのであれば其処が戦況を覆せる唯一の勝機。
「"天竜の翼撃"!!」
「はぁぁぁあああ!!」
一見、完全な強襲。
ソウは二人の攻撃を視認しておらず、背中をほぼ取ったような状態。そして、回避するにも遅すぎる。
普通であれば、直撃は免れない。
とは言え、今回の相手は非常にも普通と言う概念は値しない。
「カバーが遅い。一瞬の判断の遅れが勝敗を左右するんだぞ」
右手が既に準備万端だった。
右肘を内側に折り曲げ、ソウの正面左腰から掌を見せつける姿勢。そのまま衝撃波を吐き出し、攻撃を仕掛けようとしていた二人を飲み込む。
「きゃあ!?」
「くっ!?早い!!」
どうにか受け身は取れたものの攻撃は一時中断せざるを得ない。
陽動のグレイも無謀な攻撃は避けてる。
ソウの対多数戦への対応力。そして、戦闘の経験値の多さが顕著に浮き彫りにされたのだ。
何より、衝撃波をほぼ連発並みのタイムラグで放てる利便さが今回の試験で猛威を振るっている。あれを攻略しない限り、未来はない。
「流石と言うか………隙が一切ない」
「あぁ、だとしてもだ。どうにかして突破しないと試験に落ちるぞ」
再確認のように口を紡いだロキ。
グレイも同意を示すが、内に秘めたる闘志はまだまだ鎮火しそうにない。
「ソ~ウ、お時間なので~す」
「うん?もうそんな時間か」
一方でレモンからの報告を受けたソウ。
レモンには時間管理を任せており、ソウの指定した時間が過ぎれば報告するようにとだけ伝えてあった。
その報告がまさにこれ。
よし、と軽く声を漏らしたソウはその場で踏ん切りを付けて―――
「ウェンディ!?」
地面を抉って、急接近。
メストが辛うじて反応し、喚起を上げるもウェンディの眼前には敵として立ち塞がる兄の姿が。
狙いを彼女に定めたソウ。
懐へと容易く潜り込み、人差し指の先端をウェンディのお腹へと当てる。
「くっ………!!」
手加減されたと言え。
ふんわりと身体が浮き、あっさりと吹き飛ばされたウェンディはどうにか受け身を取ろうと宙でもがく。
「ロキ!」
「分かってるよ!」
とその一部始終を眺めていたグレイチーム。援護に向かう暇すら無く、呆然と眺めていた失態を取り戻そうとして、
―――気が付けば、ソウが目の前に。
「ほれ」
「くそっ!!うわぁっ!?」
標的はロキ。
咄嗟の反撃は流石の一言。右手でのパンチを繰り出すも予測してたかのようにソウの前ではあっさり避けられる。
脇腹に左手をそっと添えられ、先程と同じ要領でロキを吹き飛ばす。
「ロキさん!?」
「すまない………っ!!ウェンディ、怪我はないかい?」
「は、はい。大丈夫です!!」
ウェンディの足元にロキが転がって来た。
直ぐ様戦闘に戻ろうと身体を起こそうとしたその瞬間―――
「動くなよ、二人とも」
またしても、ソウの掌が眼前に。
座った状態のウェンディは自然と見上げる形でソウと視線が合い、逸らされる。ロキも片膝を地につけたままじっとしていた。
既に万全とは言えないロキ。疲労困憊の身体に無理は強いられない。
だが、ウェンディとロキの意識は既に全くこちらに向けていないソウの視線の先に注目していた。
「ソウさん………?」
「ソウ。君は………」
これは脅しだ。
対象は今回の試験の挑戦者であるグレイとメストに向けて。
相方を人質に捕り、彼は本題へと入る。
「さて、雑談コーナーだ。試験も佳境に入ったと思って良い時間帯だし、最終局面だとも言えよう」
「何をするつもりだ!!」
「落ち着け、グレイ。なにとって食おうって訳じゃない。お前らにはちょいと選択をしてもらうだけ」
グレイとメストもまた正面から対峙。
妖精の尻尾の魔導士に似つかわしい行為をするソウにグレイの感情が高ぶる。仲間を交渉の材料とするのは論外だ。
「このまま続けてもお前らが鈴に触れる可能性はほぼ皆無に等しいと俺は判断した。となれば、どちらも脱落って結末になるがそうなると後でマスターに俺が怒られる。一組だけは絶対に通せ、とのご指示だしな………あっ、これ言っちゃ駄目なやつか?………最後のは忘れてくれ」
「………聞こう。何をすれば良い」
「はぁ!?良いのかよ!?」
「良いも何もこうするしか無いだろう。現状維持するだけでは、俺たちに勝てる未来は無い。折角の昇格試験、こんな早い段階で全滅だけは免れたい」
「くっ………」
メストの言い分にグレイが唸る。
「懸命な判断だ、グレイ。敵がどんな手を使うか分からないならありとあらゆる突破口を探す必要がある。闇雲にぶっ倒せば全部解決って訳にもいかないのがこの世界だ」
これで問答無用に襲い掛かって来たら、ソウは即失格にするつもりでいた。一命は取り留めた。
「選択肢は実に簡単。相棒を見捨てる代わりに鈴を触るか、鈴を諦める代わりに相棒を解放するか。その二つのみ」
「はぁ!?鈴を諦めるって………試験が此処で終わるって意味になるよな?」
「そうだな。因みに相棒を見捨てた場合、本来なら永遠にさよならとなるが、流石に俺もそれは遠慮したい。この先の試験では一人で挑戦してもらう形となるぞ」
何とも言えない表情の二人。
ソウはあっけらかんと告げるが実際に判断を下す側となれば、そうは問屋が卸さず。
前者を選べば、二次試験以降を一人のみで挑む必要が浮上し、難易度が桁違いに跳ね上がる。
後者だとある意味、試験をリタイヤしたとも捉えられる。こんな所でこれまでの頑張りを泡に流すのは不味い。
「グレイ………!!」
「メストさん!!私の事は良いので、先に進んでください!!」
さて、と。
あくまでソウは現実重視。となれば、考える時間なんて本番では存在する筈も無く。
「ほら、行くぞ。次に進みたかったら、それを掴むだけだ」
―――鈴を二人へ放り投げた。
ソウの右手が鈴をロックオン。この動作が意味するのは早く選ばないとどちらも選べないと言う事実。
結果は如何に―――っ!?
◇◇◇
「―――!!」
はっ、とウェンディは目を覚ます。
すると、同じくウェンディに視線を向けたレモンと目が合う。丸みを伸びた岩にちょこんと座っている。
「………ここは?」
「あっ、起きた?ソ~ウ、起きたよ~」
ぼけっとしたまま見渡す。
湖のほとり。リュックを枕に、タオルを毛布代わりに使用されていた。
また、洞窟の奥からソウが此方へ歩みを進めている所もウェンディは目にする。
「気分はどうだ?」
「はい………あれ?疲れがない?」
戦闘後にしては疲労感が少ない。
魔力もほぼ準備万端まで回復しており、相当な時間の間、眠っていたのだろうかとウェンディは考える。
「良い話と悪い話、どっちから聞きたい?」
頭上からの声に視線を上げる。
試験官としての真剣な眼差しは無く、純粋に和むような微笑みを浮かべているソウ。
「なら、悪い話から………」
「そっか。一先ず、薄々察してはいると思うけど………ウェンディは残念ながらここで脱落」
「はい………そう言えば、メストさんは?」
いくら探してもグレイチームが居ない。
となれば、メストは次のステージに向かっている筈。少しでも役に立てればと参加した今回は十分に果たしたかと―――
「あいつなら、あっちでダウンしてる」
「えっ!?何で!?」
ソウの指差す先。
大岩の根元で転がる一人の男性はメスト本人であった。
「俺の出した選択肢の結末から順を追って話そうか。まず、グレイは次の試練への挑戦権よりも相方を選んだ」
「はい」
「そして、メストは………
「………?」
グレイの場合。
あの決断を迫られた環境下で、鈴には目もくれずソウを狙った。自分の目的よりも仲間を優先した。ギルドの性分的な判断とも言える。
対して、メストは。
微かに鈴に向けて手を伸ばす仕草を見せたかと思いきや、逆の手で掴み取ったまま額を地面に擦り付けてしまったのだ。
「理由は知らんが、どちらも選ばないのは最大のタブーだと俺は思う。こっちを選べば救えた未来、逆に選んだ際の目的を果たせたはずの未来。その両方を捨てる行為をしてしまったのだからな」
「メストさんはそれをしてしまった………」
「そっ。本人の気持ちが汲み取れない以上、野暮な詮索はしないが………どうやら訳アリっぽいな」
「ところで、私達が失格になって、グレイさん達はどうなりましたか?」
「あいつらは一応、合格扱い。あの後、すぐに次の試練へ向かうように言ったよ。サービスだらけでのギリギリ合格だし、二次試験はもっと苦労しそうだな」
「そうですか………」
理解はしても納得出来ない。
そんな思いがソウの話を聞く内にウェンディの心に芽生えていく。同時にその芽を摘み取るチャンスは今しか無いと本能が知らしてくる。
「あの時、どうすれば合格になったのでしょうか………?」
「ほいさ」
「あぅ!」
ウェンディの頭に軽いチョップがヒット。
魔力は込められて無かったが、不意を突いたその一撃に涙目を浮かべるウェンディ。
かと思えば、ソウの優しい手がそっとウェンディの頭を撫でる。
「選ぶにあたって内容は考えるんじゃないだ。感じる、それだけ」
「感じる………」
「考えるとなれば、それだけで迷いが生じてしまう。その迷いが時には己を苦しめる鎖と化してしまって、結果的には………」
「だから、感じて動く………」
「戦闘は常に変動する。余計な事に考える余裕あるなら、目の前の対処に集中しろって話だ。試験中にも何回かそれっぽいヒントは口にしたと思うけどな。終わったから正直に白状するけど、今回のキーは咄嗟の判断を大切にしろ、だぞ?」
心当たりはあった。
援護のタイミングが遅いだとか、大事な選択肢に時間を与えない場面もそれに該当する。
「最後のあそこでは、無条件に先に動いた方を合格する算段でいたし、事実、俺はその通りにした。ぶっちゃけ、どっちを選ぼうが関係無い」
「鈴を選ぶと一人で進めたの?」
「んや。二人とも合格。俺のあの台詞は只の脅し文句だけだから特に意味はないし」
結局は、動くまでの時間が基準となる。
鈴を選ぶ―――つまりは味方を犠牲にするとなり、一見すれば後味が悪い。裏をかけば、その味方はその場を突破してくれると信頼を置いている解釈にもなる。
味方を選ぶ―――別の意味では、自己犠牲。悪くはないが良くもない。多くの優しい人が支持する、仲間を大切にという方針の初心を忘れるべからずでもある立派な決断だ。
要するに、どちらでも問題は無かった。
「悪い話はこれで終わり。次に良い話だが………」
「はい」
「俺の役目はもう無し。つまり、この先は自由行動となるんだけど………」
ソウはその場にしゃがみ、視線を合わせる。
「一緒に天狼島の散策に行かないか?このまま試験が終わるまでテントで待機ってのも退屈だしな」
「はい!!疲れも感じ無いので大丈夫です!!」
「疲れが無いのは脳波を弄って、そう脳に錯覚させてあるだけで、ちゃんとツケは返ってくるから。一応、気を付けてようか」
「えっ………」
衝撃の真実。
「身体的に回復したら、勝手に疲労感は消えるだろうし問題は無いよ」
「楽しみです!あっ、でもメストさんをこのまま置いては………」
「まだまだ起きる気配も無いしな。そうだな、行く前にちょいとこいつに………」
倒れているメストに目を向け。
近くまで寄ると、メストのすぐ側に書き置きらしき紙を、その上に小石を重りとして置いた。
「何を書いたのですか?」
「ん?………目覚めた時に困らないようにしただけだよ。レモン、外に出る時ってこっちだっけか?」
「そだよ~。そして、私も行く~」
「うん。レモンも一緒にね」
―――一次試験、結果。
グレイ………合格。
メスト………不合格。
5-1へ続く。
オリジナルの敵キャラってあり?(無しの場合だと、原作に出てきた敵キャラのいずれかを主人公が奪い倒す形となる予定)
-
あり
-
なし
-
ありよりのなし
-
なしよりのあり
-
どっちでも