一時試験に望んだメストとグレイ。
結果、グレイが突破となりメストは無念にも敗退をしてしまう。同じくして、メストのパートナーを務めていたウェンディも悔いてしまう。
その時、ソウは一つの提案をする。気分転換も兼ねて、探検に出掛けないか、と。彼と一緒に時間を共有出来る貴重なチャンスにウェンディは喜んで受け入れたのであった。
◇◇◇
天狼島。外周部。
「うわっ………」
道中、声を漏らす。
同時刻、洞窟内が謎の振動によりぐらりと揺れる。
隣で歩くウェンディもまた気付く。
「今のは………?」
「単に魔力が強大過ぎて揺れてるだけだな。まっ、犯人は分かってるし心配すること無いぞ」
「う、うん………」
―――おいおい。思わず魔法を解除したんだけど。ギルダーツ、ちょいと本気過ぎやしないかね。
「レモン、今ので起きないんだ………」
「深いんだよな、こいつの睡眠」
内心、呟くソウ。
試験の弊害になるような邪魔の確認を探知魔法で索敵している。基本は永続的に発動するだが、今回の犯人―――ギルダーツの魔力に反射的に遮断。
恐らくは向こうも試験の真っ最中。相手は不明だが心中で祈っておくので、頑張って欲しい。
「これは純粋な質問だけどさ、ウェンディ」
「はい?」
「何で今回の試験に参加したんだ?」
「えっと………恩返しをしたくて」
「恩返し?」
「メストさんはミストガンの弟子なので、今回の試験で少しで役に立てれば、と思って………でも、私ちっとも………頑張ろうって決めてたのに………うぅ」
―――メストガンの弟子?
少しウェンディの言葉に引っ掛かる。
本人に悪気は無いのだが、ソウの記憶には無い情報が出てきた。
もう少し詳細を、と聞きたい場面だが、ウェンディが泣き出しそうになるので中断せざるを得ない。
「その心意気だけで十分。きっとミストガンも向こうで喜んでくれてる筈だ」
「そ、そうだよね………?」
「チャンスはまだまだある。そうだな、気分転換にこの島に纏わる伝説を話そうか?」
「伝説………?」
「ウェンディは考えたこと無いか?どうしてこの島が妖精の尻尾の聖地と呼ばれてるんだろうって」
「それは、初代マスター"メイビス"の墓があるからでは?」
「正解。でも、答えはそれだけとは限らない。初代さんの墓があるだけで、こんな島を魔法の結界で隠す必要はないしな」
「じゃあ、どうして?」
ソウは横に振り向き、微笑む。
「さぁ?」
「えっ?」
「だから、こうして探検してみようって。直接見た方が早いって考え?」
「な、なるほど………」
真実は謎に包まれたまま。
案外、呆気ない理由かもしれないし、ギルドの存続に関わる程の重大機密かもしれない。
どちらにせよ、好奇心は疼く。
―――ん?何かを感知したな………。
同時に探知魔法の成果が出る。
微弱だが、沖から島の海岸へ移動する魔力を捉えたのだ。
だがそれがどうもきな臭い。
具体的には身内である妖精の尻尾の魔導士である可能性が高い。
名前は確か、シャルルとリリー?
「そんなにじっと見つめて………は、恥ずかしいです………」
なるほど、心配して見に来たのだろう。
此処まで無事に来れた、その頑張りに乗じてマスターへの報告はしない判断を下す。無視しておいても特に問題はない。
―――問題はこっちか………。
となれば。
探知魔法で分かるのは外だけではない。内もある程度にはなるが分かる。
不気味な魔力だ。あまりにも不吉過ぎて、見てみぬ振りをしてきたがこれも試験と関係あるのだろうか。
事前にマスターからの言及は無い。流石にマスターも気付いていそうだから、現状維持構わないか。
「わぁ!!凄い綺麗~!!」
洞窟から外へ。
一気に広がり、水平線が広がる崖沿いまでウェンディは駆け寄った。
「ソウさん!!見たこと無い花が咲いてるよ!!」
「そっか。楽しそうで何よりだよ」
珍しい花にしゃがみこんで鑑賞中。
微笑ましい光景だ。家族とはこういう空間を当たり前のように過ごすのだろうかと脳裏をよぎってしまう。
なんて非情な世界だろうか。こんな些細な時間の共有さえこの世は許してくれないらしい。
「ん………」
―――………また身内かって思ったがこれは流石に魔力反応が多過ぎる。少なくとも三桁以上。よりにもよって、あんな上空に居るうえに光学迷彩付きとは。これは発見まで遅れても仕方無いな。よし。
「レモン、起きろ」
「うみゅ?」
ウェンディには聞き取れない声。
加えて、レモンを起こす波長を発動しつつの声かけにより一発で目覚めさせる。
「マスターの元へ行ってこい」
「………にゃ」
レモンがエーラを発動。
空へと飛翔し、小さかった姿がさらに小さな点へと変化する。
彼女に任命された仕事はソウの一言の伝達。平和に試験が終わるのであれば、発生しないこれは残念ながらそうではない事を指す。
簡単に言っちゃえば―――
―――敵さんの到来だ。
◇◇◇
天狼島。崖。
「手遅れだったか」
数分後。
俺は上空に浮かぶ赤の信号弾を見ていた。
あの後、島の中にも既に敵らしき魔力の反応が出てきた。瞬間移動の類いかまたは別の魔法の仕業かは分からない。魔力を隠蔽されると、探知はほぼ不可能となるのがなにかと不便だ。
応援に向かうか迷ってる内に、その反応もすぐに弱々しくなった。
妖精の尻尾の誰かが撃退に成功したと踏むべきだろう。現場付近で確認できるこの独特で癖のある魔力となると、ガジルのお陰か?
「あれ?メストさん?」
俺の場合、まずはこっち。
ウェンディが第三者の足音に反応し、顔を上げてしまう。
その視線の先には険しい表情を浮かべるメストが居た。目的は俺とウェンディらしく、無言のまま歩いてくる。
「それにあの光………」
「ウェンディ、俺の側から離れるな」
「えっ?それって………」
「あの赤い信号弾は敵の襲来を意味する。こうなると俺の予想よりも猶予は無いかもしれん」
「で、でもメストさんは仲間では………?」
そっか。無理もない。
ウェンディにしてみれば、今の自分は本来なら仲間であるメストに対して顕著な程に警戒心を高めている。一方で、メストもあのふざけた態度を示す様子は影も形もない。
そんな現場に直面しても尚、多少の戸惑いがありつつもまだ信じていたい気持ちはウェンディにはあると。
………優しいんだな。
「一つ聞きたい」
声も随分と冷静に。
俺はウェンディを背中に隠しつつ、答える。
「書き置きの件か?」
「そうだ。いつから分かっていた?」
「全部は流石に今でも分かってないぞ。だが、お前がギルドの魔導士じゃないのは確信を持って言える」
「う、嘘………」
切っ掛けは小さな違和感だった。
長年ギルドに属する者として、メンバーの把握はしているつもりでいたのにメストという名前はここ最近まで初見だった。
しかも他の者曰く、少なくとも去年の試験には参加していたとの情報もある。
そして、何より―――
「ウェンディ~!!」
「シャルル!?どうして!?」
「二人とも無事か!?」
突如、シャルルとリリーが現れる。
エーラで真っ先に此処まで移動してきたのか。その目的は、リリーがメストに敵対心を向けた動作で俺はすぐに悟った。
「ソウはどうするつもりだ?」
「どうもこうも無い。リリー、ここは一つどうか俺に預けてくれないか?」
「なっ!?だ、だが………」
「これでも俺はS級魔導士。部外者をギルドの聖地に招いてしまったその罪滅ぼしとでも思ってくれ。それに最悪の場合であるあいつが反撃に出た時、リリーは万全の体勢じゃないのに迎え撃つのか?」
「それは………」
責任感が強いリリー。
きっと、天狼島に来たのもメストの違和感からギルドに危険が迫ってると感じてしまい、いてもたってもいられなくなったからだと推測できる。
こいつはそういう奴だ。
「私からもお願いするわ。ここはソウに任せましょ」
「シャルル………お前」
これは嬉しい誤算。
あのツンデレ猫のまさかの掩護射撃が入る。これにはリリーも考えを改めざるを得ないだろう。
「分かった。頼む」
そして、リリーが折れる。
再び、メストと相対する。
「すまん、待たせたな」
「いいや。早く答えてくれたらそれで良い」
「それで何だっけかな?………あぁ、バレた原因だったか」
とっとと済ませよう。
「ミストガンの弟子?んなわけあるか、嘘だな。以上」
「なっ!?」
「驚く事じゃないだろ。親友の俺だから、言える。そもそも、あいつは弟子を取れる程コミュ力なんてもんが無い」
幼い頃を知る俺だから言える事実。
「理由がそっちなのか………」
「コメントに困るやつね………」
「そうだったんですね、ミストガン………」
外野、ちょっと静かに。
ちょっとでも自分の目的に関する情報が浮き出ると我を忘れて集めようとするあのミストガンの姿は凶器ものだぞ。
「それに試験の際にお前はどっちも選ばない道を進んだが、あの時、何で迷ったんだ?」
「あれは………」
「どっちを選ぶかで迷ったって言いたいのか?。いいや、違う。お前はあの時、魔法を使うかどうかで迷ったな?
だが、使えば正体がバレる危険性も生まれる。それでも一度は使いかけようとしたのはウェンディの存在があったからと俺は見た」
「わ、私………ですか?」
「理由は本人のみぞ知るからあえて問わない。が、少なくともウェンディを守ろうとする意思は見られた。となれば、根は悪い奴じゃないし、無闇に拘束する必要は無いと俺は判断したって訳だ」
「なら、書き置きを残したのは何故だ。しかも中身は白紙一枚」
「ん?それ?逃げる時間をあげたんだよ。まぁ、それの意図を本当に知りたいのであれば、折角のチャンスすらも犠牲にして来るだろうし、その時点である程度、お前の身分に関しては推測がつく」
「見事だ………流石にそこまで見破られていたとはな」
「証拠というか………記憶を改竄する魔法かなんかの効果も段々と切れてるし、これからお前にはちゃんとした身元を吐いて貰おうと思うが―――」
うん、止めてほしい。
殺気というか気配というか。魔法の性質上、敏感になっている。
メストと話をしている最中でも、関係ない。殺気を感じてしまった。
―――来るな、これ。
「これはっ!!」
「リリー、シャルルを抱えて此処から避難。ウェンディ、ちょっと抱えるよ」
「えっ?」
「っ!!承知した!!」
「何!?何なのよ!?」
咄嗟にウェンディを抱える。
その場から余裕を持って、離れたと同時に俺とメストがいた地面に亀裂が入り、正体不明の爆発が舞い込む。
メストも無事に避けたか。瞬間移動っぽい魔法だが、使う動作に躊躇はない。吹っ切れたか。
というか、リリーの人間モード。
初めて見たが、ムキムキすぎやしないか。どう鍛えればあんな肉体美に変貌するのか。
「勿体ぶらないで姿を見せろ。さもないとこっちから遠慮無しに撃つ」
崖の先端に根を張る一つの木。
その幹からにょきと人の顔が浮き出てきた。おぞましい。
「よくぞ見破ったものだ」
てか、横向きに出てきた。上半身もかよ。
樹木に擬態する魔法。そんな魔法を耳にした記憶は無いが、魔力の質から見ても只者では無いと分かる。
「それで隠せてるつもりなら、もっと丁寧に隠した方が良いぞ。特に殺気とか」
「ふん、下等な分際で助言紛いを私に言うとは。戯けが」
「何者だ!!」
「オレの名は"アズマ"。"
「悪魔の心臓………?」
「闇ギルドよ」
それもバラム同盟の一角を担うギルド。
さて、厄介極まりない相手だ。
物に擬態する魔法は魔力での感知がより困難になる。大体の把握は不可能では無いが、位置を特定するのはより難易度が上がってしまうのだ。
索敵には意識を向けたいのは山々だが、他の感知魔法が疎かになるのは不味い。
どう出るべきか。
「妖精の尻尾の聖地に侵入すれば、きな臭い話の一つや二つ出ると思ってたんだがな………」
と、ここでメストの呟き。
意外とスパイを行う目的をあっさりと口にした。
「黒魔導士ゼレフに"悪魔の心臓"。こんなでけぇ山にありつけるとは。付いてるぜ」
「ゼレフ………?」
「あんた、一体………!!」
「まだ気づかねぇのか?オレは評議院の人間だ。妖精の尻尾を潰せるネタを探す為に潜入していたのさ」
―――評議院。
世界の秩序を管理する組織。
あらゆぬギルドはその管理下に置かれており、ギルドの者にとっては嫌われ者的な存在だ。
妖精の尻尾は問題を頻繁に起こすので、評議院にも目を付けられている。ギルドの存在自体を良く思ってない輩がいるのも不思議ではない。
「これは。これは………」
物騒に呟くアズマ。
ウェンディもようやくメストがギルドの裏切り者だと痛感したらしい。
「だがそれもここまでだ!!あの所在地不明の"悪魔の心臓"がこの島にやって来るとはな!!」
高らかに笑い声を上げるメスト。
闇ギルドの中でもトップを牛耳る同盟の一つに"悪魔の心臓"がある。謎に包まれたそのギルドが目の前に現れたメストにとってはチャンスとしか思えないのか。
「これを潰せば出世の道も夢じゃない!万が一に備え、評議院強行検束本隊の戦闘艦をすぐそこに配置しておいて正解だった!一斉検挙だ!悪魔の心臓を握りつぶしてやる!」
遠方の海面に浮かぶ数席の船。
帆には評議院のマークが記されており、メストの言葉に嘘はない。
「戦闘艦?あれの事かな?」
だがしかし。
突如として、巨大な爆発が発生。その発生源は他ならぬ戦闘艦のいた海面上であり、木っ端微塵にまで粉砕されていた。
知らぬ間に全身をさらけ出していた敵さんの仕業なのは違いないが、あの規模をあっさりとやれるのは素直に驚嘆の一言。
「何をしたの!?」
「船が………!!」
「バカな!!」
これにはメストも驚愕の表情。
俺を除いた全員が爆発の光景に悲壮を浮かべていた。
「では、改めて。そろそろ仕事を始めても良いかな?役人さん」
地面に足を付けた。
仕事の具体的な内容は想像したくも無いが、ギルドにとって録な物じゃないのは分かる。
「な、何をしたの………?」
「船が一瞬で爆発した!?」
「評議院の戦闘艦がこうもあっさり………」
うーん、魔法の原理が読めないな。
爆発にしては威力は高い。かと言って、目立った弱点―――連発不可や反動がある系の感じもしない。
というか、前提として擬態と爆発に一貫性を感じない点をまずは掘るか。複数の魔法を所持しているパターンも考慮すべきだとすれば普通に面倒。
いや………もしかすると、こいつは樹木に擬態するだけの魔法じゃないかもしれない。もっと根本的な部分を操作するタイプとか。
さて、もう少し模索しよう。
「いやいやいや、ちょっと待とう。役人さんの許可の前にまずはその土地の所有者から許可取るのが必要だろ」
「何………?」
俺は一歩前に出る。
これであいつの意識は俺に向く。爆発による二次被害がウェンディ達に牙を向きそうで怖いが、そこはタイミングを見計らって離脱してもらうしかない。
「分かる?ここは天狼島。"妖精の尻尾"の聖地。となれば、その妖精の尻尾の魔導士の許可が無くちゃ、此処では何も出来ないぞ?というか、させないんだけどな」
「なら、無理矢理奪い取るまでだ。【ブレビー】」
先手必勝と来たか。
右手を俺に翳し、そのまま爆破を巻き起こす。
「ソウさん!!」
だが問題はない。
「………貴様。何者だ?」
俺が無傷で立っている。
奴にとって、それはそんな魔法は効かないぞと自らの魔法を愚弄されたのと同等の意味を示す。
いや、しかし。
怒気よりも好奇心が勝ったか。
となれば、こいつは強者との戦闘を求める戦闘バカみたいな人種だろうか。
「ソウ。"妖精の尻尾"の魔導士だ」
「ソウ………っ!!なるほど。お前が噂の"波動の覇者"なのか………おぉ、なんて幸運だ」
よし、釣れた。後は―――
「メスト」
「………何だ?」
「ウェンディ達を連れて、ここから離れろ。出来る限りの遠くへ。瞬間移動っぽいのでいけるだろ」
「なっ!?何故それを俺に頼む!!評議院の人間だと分かっているのか!?」
「うるせぇ。この場ではお前が一番の適任だからだよ」
「出世の為にお前達のギルドを潰しに来たような奴に任せるのか!?」
「潰せるもんなら潰してみたら良い。口に出すだけじゃ怖くも何ともないし、妖精の尻尾はそんな簡単にはやられない。メストや、ちょいと俺達のギルド―――」
―――舐めすぎだ、阿保。
「っ!!…………今回だけだ」
「十分だ。助かる」
さて、舞台は整った。
アズマの目が見開き、初めて笑った。無駄にあいつの期待ハードルが高くなってるよう気がしなくも無いが、そこは気にしない。
久しぶりの強敵との邂逅。腕がなる。
「さぁて、いっちょ暴れますか。準備は既に完了済み?」
「いや、敬意を込めて、再度名乗ろう。私の名は"アズマ"。"波動の覇者"ソウ、どれ程の者か定めさせて貰うとする!!」
「アズマか、良い名だ。俺と戦った歴代の猛者の一人として覚えておくよ」
―――いざ、勝負なり。
5-2へ続く。
オリジナルの敵キャラってあり?(無しの場合だと、原作に出てきた敵キャラのいずれかを主人公が奪い倒す形となる予定)
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あり
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なし
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ありよりのなし
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なしよりのあり
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どっちでも