前回までのあらすじ:
ソウ対アズマ。戦況は膠着したまま、時間だけが進む。途中、アズマから気になる情報を手にいれたソウは時間稼ぎをされていたのは自分であったと気付く。
"悪魔の心臓"の襲撃準備が整ってしまい、せめて目の前のアズマだけは逃すまいと試みるが運悪くレモンが二人の戦場に顔を出してしまった。
標的をレモンへ変えたアズマの攻撃にソウは反射的に庇い、爆発に巻き込まれてしまうのであった。
◇◇◇
天狼島。外周部。
「ソウ~!!起きて~!!起きてよ~!!」
レモンがソウの身体を揺する。
着ていた服はあちこちが焦げており、真っ黒な煤に包まれている。
普段はのんびりとしたレモンもこんなソウの姿は記憶に無く、どうにかソウの意識だけは戻そうと苦戦していた。
バトルの邪魔をしてしまった後悔。彼の足手まといになった結果を悔いたレモン。少しでも、助けになろうと動く。
「ソウ!!大丈夫か!?」
と、その時。
島の森林からナツが現れる。
引き続いて、避難したメストやウェンディも姿を見せた。
ウェンディ達はナツと合流を果たし、ソウとアズマの戦闘音がピタリと止んだので様子を見に来たのだ。
「ソウさん!?凄い怪我!!すぐ治療します!!」
ウェンディがはっとする。
遠目からでもソウの容態が悪いと判断したウェンディは迷い無くソウの隣でしゃがみこんだ。
「うぅ………私のせいで………ごめんなさい………」
「お前のせいではない。気にするな」
涙目で見守るレモンにそっとリリーが肩に手を置いて慰める。
ナツの相棒、ハッピーは予め聞いていた情報と現在の状況との正誤を確認する。
「あい!!ソウと戦ってたアズマって人は何処だろう?」
「気配がない。恐らく、既に何処かへ去ったのだろう」
敵であるアズマはもう居ない。
結果だけを見れば、レモンを人質に取られたソウが撃退に失敗。アズマは次の作戦に向けて離脱したと考えるのが正しい。
と、メストの魔法である記憶操作が解除されているのでナツが変な反応を見せた。
「というかお前誰だ!?」
「ナツさん。その人は評議院の人です………」
「あはは。良いコートだね………」
「見事なまでの手のひら返しね」
シャルルのツッコミ、効果抜群。
「って、評議院が何故ここに~!?」
「あいや~!!」
ナツとハッピーがぷるぷると震える。
二人して抱き締め合う程のリアクションなのだが、メストとはここに来る前から行動を共にしていたのだから時差が凄い。
と、ウェンディの治癒を受けていたソウがもそっと動き出した。慌てて、ウェンディが補助を担当する。
「うるさいぞ、ナツ。頭に響く」
「ソウ!?起きても平気なのか!?」
「まだ安静にしてないと駄目です………!!只でさえ怪我が酷いのに今も魔力を消費してます………!!」
大声はキツイと顔をしかめたソウ。
ウェンディの忠告通り、現在進行形で変わらずにソウの探知魔法は継続中。
島のあちこちで魔力が感じ取れる。仲間達との戦闘も発生していると踏むべき。となれば、最新の情報は戦況を左右する材料となりうる。
そう易々と解除は出来ない。
「回復はもう大丈夫だ、ウェンディ。助かったよ」
「う、うん……」
頭を一撫でされて大人しいウェンディ。
彼女の頬が赤みを帯びていく。肝心のソウは全然見ていないので、静かにウェンディは頭を下げたままじっとしている。
「誰がやったんだ!?オレがぶっ飛ばしてやる!!」
「"悪魔の心臓"だ」
「そのギルドって………闇の三大組織"バラム同盟"の一角じゃないか………!!」
「この島にも既に何人かが入り込んでいる。ナツ達はこの情報を少しでも"妖精の尻尾"の奴等に広めてくれ」
「分かった!!行くぞ、ハッピー!!」
「あいさー!!」
あっという間にナツが森林へ消えた。
ハッピーも"
「あの二人だけだと心配だ。オレも行きたいのだが………」
「私がソウさんと居ますので、ここはもう大丈夫です!」
「そうか。なら、メストも一緒に………って、言おうとしたが、居ないな。逃げたのだろうか」
「あんな奴、ほっとけば良いのよ。それと私もここに残るわ」
各自、今後の方針を決める。
リリーはナツとハッピーの合流して、他の仲間達へ情報の共有を。ウェンディ、シャルルはソウの回復に務める。
では、とリリーは人間モードへ変化を遂げて走り去って行った。移動はそっちの方が早いのか。
「ふぅ………」
深刻な傷はない。
多少の軽傷はあるが、いずれも今後の活動に影響はしないと思われる。残存している魔力も特に不足は感じられない。
と、魔法の調子を確認していれば、ドサッとお腹に小さな衝撃が来た。
「レモン?」
「ごめんなさい………私のせいで………ソウが負けちゃった………」
そっと小さな彼女を抱き締める。
故意では無いと言え、無粋に横槍を刺す形でソウの邪魔をしてしまい、怪我を負わしてしまう最悪な結末に終わってしまった。
その心中は実にナイーブ。
今時は珍しい甘えん坊モードになったレモンに懐かしい思いを抱きつつもソウはゆっくりと己の気持ちを聞かせる。
「レモンが無事で良かった。何もお前を責めたりなんてしないよ」
「うん。私もレモンの元気な姿を見ていたいかな」
「………そうね。どうしてもって言うのなら、今後に活かしなさい」
「うん………」
ソウの胸元から動かない。
そっと撫でつつも、単純にこの姿をウェンディやシャルルに見られて気恥ずかしくなっただけだとソウは何も言わずにいた。
猫耳が真っ赤に染まっている。
「さて、これからの話だが」
「"悪魔の心臓"が攻めてきてるのよね。目的は不明」
「さっき、メストさんが"ゼレフ"って言ってたけど関係あるのかな?」
「"ゼレフ"か。これはちょいと俺も分からないな」
と、空気が揺れる。
「爆発………?誰の?」
「この魔力はマスター?近くにも誰かいるが………あ~、ちょっと魔法の精度が安定しないな」
「ダ、ダメ!まだ完治してないのに無理しちゃいけません!」
「ウェンディの魔法は体力の回復は出来ても、魔力の回復は無理なのよ。大人しく安静してなさい」
とまぁ、こんな風に。
シャルルに軽く注意はされたが、そんな余裕は案外無いのかもしれない。
―――オラァァァァ…………。
「今度は炎?」
「あそこってもしかしてナツさん………?」
「ナツの炎があんなに黒い記憶は無いんだけどな。敵の魔法だとしたら相当ヤバそうだが………ナツが相手なら無視しても問題ないか」
「こういうのはホント適当ね、もう」
一先ず、移動が優先。
「なら、ナツを追い掛けるか。リリーも居るだろうし一緒に動いた方がマシだ」
「ソウ………?立てるの?」
「立てるって。不安な顔見せんなっての」
レモンの心配そうな瞳。
完全回復とはいかないが、仲間のピンチが迫っているのだ。じっとはしていられない。
「じゃあ、移動しましょ」
「うん。お兄ちゃん一人でも動ける?もし難しそうなら、肩を貸すけど………私にはこれぐらしいしか」
「ウェンディも心配し過ぎだって。ほら、もう動けるぞ?」
腕を回してのアピール。
こんなに周りから心配されたのはいつぶりだろうか。居心地の良さも。再認識せざるを得なかった。
だからこそ―――
「二人とも先に行っておいてくれ。レモンもだ。もう間違いはしないんだろ?」
「イヤ………離れたくない」
「お願いだって。
「………えぇ。行くわよ、ウェンディ。ほら、あんたも。いつまでも引っ付いてんじゃないわよ」
「………ん」
「えっ?でも、今のソウさんをこのまま置いていく訳には―――」
「何回も本人が平気って言ってるじゃない。心配要らないわ。一応、これでもS級魔導士なんだし心配するのは余計な手間よ」
「シャルル!?待って~!!」
本当に助かる。
そそくさと立ち去るシャルルに追い掛けるウェンディ。
そして、後ろを振り返ったレモン。
「………向こうで待ってる~」
「あぁ、待っとけ」
レモンも本調子を取り戻した様子。
勘の鋭いシャルルが理由も聞かずに立ち去ってくれたのは感謝極まりない。
三人の姿が見えなくなり、探知魔法でも移動中であると確認したソウ。起こしていた上半身の力を抜いて、仰向けに地面へ倒れ込んだ。
そして―――
「くそが!!」
右拳を地面に叩き付けた。
それを震源として、髪をふんわりと浮かせる程度の震動が全体に広がる。
―――何が何を守るだ!!いつものままだと儘ならないのは分かっていただろが!!
それは油断。
探知魔法があるから。天狼島だから安全だ。誰がいつそんな事実を保証したというのだ。
敵の侵入を易々と許容し、レモンを盾にされただけであっさりと目の前のチャンスを逃す。何がS級魔導士だ。
無意識に慢心を生んでいたのはまだまだ弱い証拠。こうやって独り身で発散するしか能がないのが何とも心苦しい。
「いたぞ!!」
「寝ている今がチャンスだ!!」
「襲えー!!」
―――なんだ、只の雑魚共か。
先程の衝撃で居場所が特定された様子。
だが、ソウにとってこの状況はむしろ好都合と言える。
何故なら―――
「丁度、さっきの勝負で消化不良だったんだよな………」
「何だ!?地面が揺れて………!?」
「こいつ!!もしかして―――っ!!」
「"波動の覇者"か!?」
「とっととくたばれや」
八つ当たりな鉄槌が投下された。
5-4 へ続く。
Q. 最近更新多いね。
A. 外出自粛中で暇なのです。感想待ってます。
オリジナルの敵キャラってあり?(無しの場合だと、原作に出てきた敵キャラのいずれかを主人公が奪い倒す形となる予定)
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あり
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なし
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ありよりのなし
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なしよりのあり
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どっちでも