FAIRY TAIL 波地空の竜   作:ソウソウ

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1-2『月渡りの光り柱』

 ◇◇◇

 

 テンドウ山。麓。

 

「これが………先程話した謎の物体でございます」

 

 村から離れておよそ数分後。

 シズクの案内に導かれ、ソウが辿り着いたのはテンドウ山へと続く坂道の途中であった。

 徒歩コースから外れたその先。森林のちょっと奥深くと言った場所。

 ソウが目にしたのは摩可不思議な物体。

 巨大な岩石。子供並のサイズの大きさがある。その表面に奇妙な文字らしき何かが刻まれていた。

 なぞるように指先を添えてみるも特に目立った反応は無い。

 

「シズクさんにこれの心当たりは?」

「い、いえ………全く」

「なるほど。因みに誰がこれを発見したとかは分かりますかね?」

「はーい!!私とセルジュだよ!!」

「たまたま見つけた」

 

 双子のシオネとセルジュが説明してくれる。

 二人で出掛けた帰り道にふと何かに導かれるかの如く移動したその先にこの謎の文字が刻まれた岩石と遭遇したという。

 現段階では危険は特に感じられない、とのこと。これは双子から報告を受けたシズクが念の為に調査を行った結果である。

 ただ、ど素人のシズクだけでの判断では確信が持てず、どうしても不安な面が強よくなりがち。専門分野の者に依頼をする手もあったが村の現状を鑑みるにそうは言ってられず。

 結果的に、魔導士の肩書きを担うソウがその役目を引き受ける事になった。

 

「………魔法の一種だな、これ」

「魔法………ですか」

「微かだけど魔力の残留が感知出来る。何か信号のような物に反応するには十分過ぎるレベルで」

 

 ソウは魔力を検知する魔法を持つ。

 魔導士はそもそも他人の魔力をうっすらとだが感じ取れる。ソウはさらにその上、魔力の位置や規模、種類まですらも可能としている。

 ただし、感知した魔法を知識として予め備えておかなければ認識する事が出来ない。今のように。

 

「これを刻んだ張本人が魔法か何かを発動すれば、連動してこいつも動き出す可能性が高い。魔法の届く範囲を考慮すれば………」

「つまり………」

「十中八九、何者かがテンドウ山にいる」

「っ!?」

 

 シズクが驚きに顔を隠せない。

 

「この時期以外、私達の村はテンドウ山に立ち入る事を禁止しています………なので、内部に誰かがいるとなると………」

「外部の人間か。さらには魔法を使えるにも関わらず、影でこそこそと動く者がいる」

「そ、そんな………」

 

 ただシズクは山の不調の原因を知りたいだけだった。ソウが受けた依頼もテンドウ山の様子がおかしく、その原因を究明して欲しいとだけ。

 原因が解明されるまで、村の祭りは行われない。"月渡りの光り柱"を村人全員で讃え、来年の安泰を祈るのを目的とした祭り。

 肝心の"月渡りの光り柱"が発生しなければ、どうしようもない。

 

「でも、奇妙だな………」

「何が~?」

「ん~?シオネちゃんに分かるかな?こういうのは他の人から隠しておくのが定番なんだよ。こんな風に適当にぽいって置かれてるのはちょっと違和感が………」

「ほぇ~?」

「そうなるよな。あんまり考え過ぎないようにね。こういうのは俺の担当分野だから」

 

 罠にしたら随分と無意味な仕掛け。

 こうもあっさりと目標者に発見されてしまえば警戒されてしまうのがオチ。大抵、この場合は地面に埋めたりする。

 まるで用が済んだかのように放置された岩石。思考を巡らせるソウだが、考えすぎかとの判断に至る。

 

「隠す必要がない………とか」

「ん?どういうことですか?シズクさん」

「い、今のはふと頭によぎった事を口にしただけで………特に深い意図は………」

「そっか。でも可能性はゼロじゃない。無闇に破壊して刺激を与えるのは避けた方が無難か」

「え~?魔法は?」

「お、俺も見たい!!」

「二人とも。我が儘を言うのは止めなさい」

 

 ぶーぶーと不貞腐れるシオネ。

 そもそも彼女は魔法見たさに付いてきたのだ。こういう大人の事情は蚊帳の外。

 姉のシズクが注意するも聞く耳持たず。

 

「取り敢えず村まで戻ろう。そこで自慢の魔法を見せるから」

「やった!!」

 

 ひとまずは現状維持。

 用途が謎の岩石はそのまま放置続行し、ソウ一行は村へと引き返す事にした。

 元気そうに前を走って行くシオネとセルジュの背中をシズクは眺めてると隣から声がかかる。

 

「シズクさん」

「はい?どうされました?」

「村の人であれを知ってる者は他にも?」

「恐らくですが………私達だけかと」

「良かった。シズクさん、この一件が片付くまで他の人には話さないで欲しい」

「わ、分かりました………」

 

 シズクは気にかかりつつも了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 テンドウ村。真夜中。

 

「もぅ………シオネったら。あんなに元気にはしゃいで………」

 

 シズクは独り言葉を溢す。

 妹のシオネは昼間に魅せられたソウの魔法に釘付けとなったままずっとベッタリとしたままであった。

 元々、魔法には興味があったシオネ。

 何処からか魔法の本を持ってきたりして独学で勉学に励むほどの情熱っぷり。直接、彼女が魔法を目にする機会がなく、姉として力足らずに思ってきた。

 今日、魔導士のソウが訪ねてきた。

 テンドウ山に起きているであろう異変の解明。村人全員で決めたその依頼を遂行する為に来てくれた魔導士。

 正直、意外であった。

 シズクが持つ魔導士のイメージは頭が固くくせ者揃い。てっきり今回もそんな人が来訪するものかと。

 ソウは妹や弟に対しても嫌な顔一つせずに優しく付き合ってくれている。シズクに対しても丁寧に接してくる。

 

「あら?これは?」

 

 帰り道の途中。

 足を止めたシズクは道端に落ちてある小さな小石を目にする。

 只の小石ならば気にも留めない。だけど、シズクが見つけたそれには昼間と同じ謎の模様が刻まれていた。

 

「ソウさんに報告すべきでしょうか?」

 

 手に取り、表裏を眺める。

 いつ見ても不思議な模様だ。一体、どうやってこんな器用にも刻んだのか疑問でならない。

 

「姉さ~ん!!」

 

 背後から呼ぶ声。

 

「セルジュ?」

「俺も帰る」

「そっか。もう暗いし、手、繋いで帰ろう?」

 

 彼の手を握る。

 まだ小さい男の子の手。シズクにとってかけがえのない家族。

 

「シオネは?」

「あいつなら………魔導士の所にいるって」

「やっぱりセルジュは彼の事、気に入らない?」

「………」

「魔法………まだ()()でしょ?」

 

 セルジュは魔法が嫌い。

 その理由は本人が頑なに話すのを拒むお陰で謎に包まれたままだが。

 

「………分からない」

「え?」

「今日、見た魔法………綺麗だった。あんなのがあるなんて………知らなかった」

 

 良い傾向だとシズクは思った。

 ソウは派手に空へ魔力を打ち出し、爆散させる魔法を見せてくれた。

 幻想的に大空に散っては消える儚い光。

 かつてセルジュが目撃した魔法とは全く異なる魔法であった。

 故に困惑している。どれが本当で、どれが偽物なのかを。

 

「大丈夫、貴方はセルジュ。まだまだ時間はたっぷりとあるわ。その間、ゆっくりと考えれば、きっと魔法も好きに―――」

 

 次の瞬間―――

 

「姉さん!?石がっ!!」

「えっ!?」

 

 小石を握る拳から光が溢れ出る。

 真っ暗に突き破る眩い光にたまらずシズクは根源である小石を放り投げた。

 視界が遮られ、思わず目を瞑ったシズクとセルジュ。

 

 瞼を開くと―――

 

「なっ………!?」

 

 人間サイズの岩石で構築された兵。

 赤く不気味に光る目の先が真っ直ぐとシズクに突き刺さる。

 

 ―――敵。

 

 嫌な予感に背筋が冷える。

 

「セルジュ、逃げなさい」

「えっ………でも、姉さんが逃げれなくなって―――」

「早く!!」

 

 大声にびくっと怯えるセルジュ。

 不安に揺れる瞳が何度も姉の横顔を見つめるが、やがて決心したのか踵を返して走り出した。

 ここは村のど真ん中。

 不幸中の幸いか、時間帯は夜中。他に外を出歩く者が居ない。

 

「………足が震えますね」

 

 ―――事態は待ってくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 宿。廊下。

 

「ソウさん!!ソウさん!!」

 

 がんがん、と物音が鳴り響く。

 それは一人の少年が扉を躊躇なく叩きつけているせいである。

 少年、セルジュは何度も繰り返すが、一向に部屋の宿泊者が出てくる気配がないことを察した。

 

「………やっぱり、他の人には任せられない………」

 

 セルジュは覚悟を決めたように拳を握りしめた。

 赤の他人である彼に助けを求めるのはこの村にとって、そして何より自分自身の恥だ。

 時間がない。

 現在進行形で姉に命の危機が迫っている。今すぐにでも彼女の元へ向かわないと間に合わないかもしれない。

 

「………っ!」

 

 だが、セルジュには躊躇う理由があった。

 怖いのだ。相手は未知の力を振り翳す。一人でその巣穴に乗り込むなど、絶望しかない。

 膝が震える。汗が全身から滲み出る。

 普段からは想像のつかない出来事。初めての経験にセルジュの思考を染めるのは困惑と恐怖と不安のみ。

 その瞬間、彼女の言葉が脳裏を過る。

 

『大丈夫。貴方はセルジュでしょ?』

 

 彼女の口癖。

 いつも飽きるほど聞かされていた言葉。

 その言葉が今になって不思議にもセルジュの気持ちを楽にさせた。

 

 ーーーバシィン!!

 

 セルジュは頬を手のひらで叩きつけ、気合いを入れた。そこに迷いなど、怯えた彼の姿など存在しない。

 魔導士などいなくても、僕一人だけでも十分だ。あの魔導士の手助けなんていらない。

 セルジュはその扉から離れ、歩いていく。

 

 ーーー目指すは“テンドウ山”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 テンドウ山。山頂。

 

「部下達は辺りの警備に配置。なるほど、あれは難しい作業には向いてないと。なら、俺は先回りしてある程度、邪魔者を排除するだけで十分か」

 

 彼が成そうとするこれは仕事内容に含まれない。

 だが、折角の少年に到来した唯一無二のチャンス。一歩前へ踏み出す覚悟が彼にあるのなら、影からそっと手を差し伸べるぐらい構わないだろう。

 

「頑張れ、勇気ある少年………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1-3 へ続く。

 

 

 




 感想、お待ちしております。

リメイク前の話(予定では大魔闘演武編の直前まで)はややこしいので消した方が良い?

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