───では、どうぞ!
マカロフによる中断が入り、勝負はソウの勝ちということで終わった。
マスターの判断は賢明だった。あのままナツが絶対檻咆を喰らっていたら、ナツに相当な被害が及んだことだろう。
けれど、ナツとしては納得のいかない結果だったはずだ。まだ、自分はいけると自身に言い聞かせて。
「俺の勝ちだからな」
やはり、まだ目の前のS級魔導士には敵わないのか。
それは分かっていた。同じエルザでも勝てるかどうか怪しいところなのに自分が勝てるとは到底思わない。
けど、どうしても闘いたかった。拳を合わせれば何かが分かるかと思ったからだ。
分かったのはソウが前よりも一回り成長しているということだけだった。
「まあ、実をいうとアールの方はフェアリーテイルを訪ねるって言われてるんだ」
アハハと笑うソウ。
「な!?」
「そいつも強いぞ。俺と同じか、それ以上だな」
何故そんな大事なことを決闘する前に言わなかったのか。
「ソウ………」
「どうした、レモン?」
「皆、先に言って欲しかったみたいだよ」
レモンに告げられて周りを見渡し皆の表情を確認したソウ。
皆の表情から察するに驚いていたようだ。
「ソウ、アールとやらはいつ訪ねてくるのかのう?」
「近日中に行くって言ってました」
マスターの質問にソウは答えていく。
「さて、ギルドに戻りますか」
色々な事実が発覚したソウの帰還だったが、あっという間に幕を閉じた。
◇
とある場所を走っている一台の荷台を引っ張る馬車。
その中には二人の少年、少女がいた。
少年は幼い顔つきで女の子と言われても分からないほどの容姿だ。
一方、少女はいかにもお嬢様な雰囲気を出しており黒髪がなびいている。
向かい合うように座りもたれ掛かっている少年はこくりこくり空想の船を漕いでいた。
つまり、寝る寸前だ。
「アール、起きなさい」
少女は少年───アールの肩を揺さぶる。が、少年はそのまま横に倒れて寝てしまった。
もう限界だったようだ。
「もう、なんで寝ちゃうのよ」
不機嫌になった少女はぶつぶつ呟くが誰も聞いてくれない。馬車を運転している人は外だし、アールは寝ていてしまっていて除外だ。そもそも彼は乗り物が苦手なので、こうして乗っているだけでも彼にとっては地獄なのだろう。
「あ~、もう!私も寝る!」
やけくそ気味に叫ぶと少女はその場で横になって目を閉じることにした。
目的地まではまだまだ先だ。
……少女が起きたとき、いつの間にかアールの手を握っていたことに気付いたときは慌てて顔を赤らめながら離したとさ。
◇
ソウが帰還して騒がしかったフェアリーテイルも数日が過ぎると流石に元通りになっていた。
その元通りになった今でも騒がしいのはどうかとソウは思った。
「じゃあ、オイラがウェンディ達の寮を案内するよ 」
「ああ。頼むぞ、ハッピー」
「ソウはどうするの?」
「あの馬鹿共とプール掃除しなくてはいけないからそっちにいるはずだ」
ソウはそれだけ告げるとその場を去っていった。
ハッピーはソウの背中が見えなくなったのを確認してから一声上げた。
「そんじゃオイラについてきて」
ハッピーはエーラを使って翼を広げるとどこかに向かって移動し始めた。
その後に続くのはウェンディとシャルル、それにレモンである。
「このまま真っ直ぐいけば、もうすぐ女子寮のフェアリーヒルズにつくよ」
「女子寮があるのは、助かるわ」
「楽しみだね~」
「そうだねぇ~……あれ?」
他愛もない会話をしながら歩いていると女子寮の前に誰かがいることにレモンがいち早く気付いた。
「あれって、ルーシィ?」
「え?」
寮の前には何故か猫の格好をしたルーシィがいた。
「あの、ルーシィさん?」
ウェンディが声を掛けると、ルーシィが振り向いた。そして驚きの表情に変貌した。
「え?あ、ウェンディ!それとシャルルとレモンも………」
「いつもの感じと違う服だったから、ルーシィさんじゃないかと思いました」
「よりにもよってその格好?いい度胸ね」
「ルーシィの趣味?」
「好きで着てんじゃないから………」
「あはは…………」
猫の前で猫のコスプレをしている、こんな姿を他の誰かに見られたら……などと不安な気持ちに襲われなかったのだろうか。
「それで、どうしたのよ?なにか用事?」
「あ、それはですね。女子寮の皆さんが私たちの歓迎会をしてくださるそうなんですよ」
「歓迎会を?」
「まぁね」
「オイラもお手伝いできたよ!」
「うわ、ハッピー?いつのまに現れたのよ。」
「最初からいたよ!」
「…………それはともかくハッピー、ここ女子寮だからあんたは入れないわよ?」
「オイラは男子じゃありません。猫です」
「でも、オスでしょ?」
「男子とオスは違います」
「どう違うのよ………」
ルーシィのため息をよそにハッピーはフェアリーヒルズの案内を始めた。
途中でエルザと合流したこともあったが無事に案内は終わった。フェアリーテイルの女性メンバーも相当部屋に凝っているのだとも分かった。
その後はウェンディ達の歓迎会をするために女性メンバー達はウェンディ達と共には湖畔へ泳ぎに行った。
湖畔では、砂浜を駆け回るレビィとビスカとラキ。
ウェンディとエバーグリーンは湖に浮かんでいた。ただし、一緒にいたジュビアはあまり楽しそうではなかった。
「それにしても、楽しいですね」
「ああ、フェアリーテイルもフェアリーヒルズも、どっちも楽しいぞ」
場所は変わり、エルザとウェンディが話して、少し離れた所にシャルルはビーチにパラソルを広げてくつろいでいた。
「ふん、皆ガキね」
「お待たせ致しました」
ハッピーは飲み物を持ってきた。
「あら?オスネコの癖に気が利くのね」
「女子寮の皆さんにそう言われます」
するとハッピーが、皆のほうに向き直って言った。
「皆さん!」
「あっ!?」
「それでは例のやつ行きますよ!」
「例のやつ!」
ハッピーが飲み物を投げたことに唖然としたシャルル。
ハッピーの台詞に一番反応したのがレモン。
「フェアリーヒルズ名物、恋の馬鹿騒ぎ!」
「「「「「「わ~!」」」」」」
「グレイ様!」「ラクサス!」
「まだお題すら出てないぞ」
すでにジュビアとエバーグリーンはノリノリだった。気が早いのにも程がある。
「やった、やった!!私も司会者でいい?」
「いいよ。今日のお題は……あなたがフェアリーテイルで彼氏にしてもいいと思うのは誰?です。さあ!」
「グレイ様、以上!」
「ジュビア、それじゃあつまらないよ」
「他の人は?」
「え~………その~……」
「花が似合って、石像の様な感じの……」
「それって人間ですか?」
エバーグリーンの謎発言にハッピーが突っ込む。
もはや、人間ですらなかった。
「エルザは?」
「いないな」
「即答だね」
「他の人!」
「ちょっとお題に無理があります!だってそんな人いる?」
お題に意見するラキ。これを聞いたほとんどの男どもが落ち込む姿が安易に想像出来るが、この場には居ない。
「レビィはどうなの?」
「私!?」
「例えばジェットとか、ドロイとか………」
「三角関係の噂もあるしね」
「冗談!チーム内での恋愛はご法度よ!!仕事にも差し支えるもん!!!」
バッサリ言うレビィ。
あの二人も可哀想である。この場に居なかったことが幸いと言えた。
「トライアングル~、グッとくるフレーズね」
「三角関係………恋敵………!」
「その真ん中に立つと、全ての毛穴から鮮血が………とか?」
「はい!そこ!」
「脱線し過ぎだよ~!!」
「チームの恋愛って言えば、私前から疑ってる事があって………」
「なになに~?」
「実は、ナツとエルザが怪しいんじゃないかと思うの!だって昔、一緒にお風呂とかに入ったって言うし!」
「そう言えば!」
「ん?グレイとも入ったぞ?」
「「「「「えっ!?」」」」」
エルザの発言に一同が固まってしまった。
内容も突っ込みどころ満載のあれだが、そんなにあっさり言ってしまうエルザに対してだ。
「それは即ち、好きと言う事になるのか?」
「グレイ様と………お風呂だなんって………」
ピコッ!とジュビアの頭から鳴った。
「はいそこ!」
「想像しなぁーい!」
ハッピーが持ってたピコハンでジュビアを叩き、ツッコミを入れるレモン。
「ビスカこそ、アルザックとは相変わらずうまくいってるのか?」
「エルザさん!?それ内緒です……!!」
「え?皆知ってるよ?」
「と言うより、知らないのアルザックだけだし」
「「「「「うんうん」」」」」
「ポ~………////」
顔を赤くするビスカ。
逆にあんなに赤い空間を放っておいて気づかないとでも思っていたのか。
現にエルザさえも気付いている。
「すまん………うっかりしていた。仲間だと言うのに………私の所為だ………取り合えず、殴ってくれないか?」
「えー…………」
「何でそうなるの?」
ツッコミを入れるレモン。どういう経路を辿ったらそんな結論に至るのか不明。
「じゃあルーシィはどう?」
「ナツじゃない?」
「意外にグレイかも?」
「ジュビアはロキだと!」
ジュビアはグレイを取られまいと必死だった。
「あっ、でも、ルーちゃん言ってたよ。
ブルーペガサスのヒビキって人に優しくして貰ったって」
「う~ん、意表を突いてリーダスとか!」
「「「「「ないないない………」」」」」
「わかった!きっとミラさんだ!」
「それもどうかと………」
「ルーシィの相手が段々変な方向に行ってるね」
「あい」
「意外にソウ君はどう?」
「見た目もかっこいいし、それに強いし」
「そ、それはダメです!!」
そう言ったのは、ウェンディだった。
「ウェンディ?」
「お兄ちゃんはダメ!絶対にダメ!!」
「…………何でソウはダメなの?」
「そ、それは……その…………」
「「「「「「じぃ~…………」」」」」」
「あ…………そ、その…………」
「もしかして………」
「ウェンディ………ソウの事、好きなのか?」
「あ………うぅ~/////」
エルザの言葉に顔を赤くなるウェンディ。
「兄妹なのに………?」
「最近、再会したばっかりなのに?」
「あ、兄に恋をするのはどうかと思うぞ!!」
「近親相愛だね」
「でも、義兄妹だから………」
「ウェンディの気持ちはどうなの?」
「そ、それは………」
「「「「「「「「それは?」」」」」」」」
ウェンディの返答に期待の目線を送る女子一同。
ウェンディは覚悟を決めたのか細々しい声で呟く。
「好きです…………………///」
「なんと………!!」
「そうなんだ……」
「成程」
「へぇ~」
「グレイ様じゃなくってよかったわ」
「が、頑張ってね」
上から順にエルザ、レビィ、エバーグリーン、ラキ、ジュビア、ビスカがそれぞれ思った事を言う。
「ちょっとあんた達、ウェンディにそんな話をしないでもらいたいわ」
そう庇うように言ったのはシャルルだった。
「ウェンディも色々大変だから」
「シャルルの言うとおりだね」
「あい」
「………ねぇ」
「何?」
レモンがウェンディにある事を言う。
それも結構大事なこと。
「噂をすればなんとやら、ソウが来たよ」
「ええっ!!?//////////」
ウェンディとエルザ達が横を向くと、釣り竿を思ったソウが現れた。
「ん?エルザにウェンディに……皆、こんな所で何をしてたんだ?楽しそうだな」
「え、ええっと………///」
しどろもどろにウェンディはなってしまい、エルザが代わりに答える。
「ウェンディの歓迎会をやっているんだ」
「へぇ~、よかったな」
「う、うん……/////」
「どうした、顔が赤いぞ?」
「えっ………き、気のせいだよ!!」
「そうか………というか何?この恋の馬鹿騒ぎって………?」
「お、お兄ちゃんが気にする事じゃないよ!!!」
「ならいいが……」
ウェンディがいつもと変なように見えたことに疑問をもったソウ。
「しかしソウ、何故お前がここに?」
「見ての通り、釣りだが!」
「男性達とプールの掃除を手伝ったんじゃあ………」
「ああ……それね」
苦笑いを浮かべるソウ。そして、呆れるように話し出した。
一応、男子たちは掃除はしていたものの、いつも通り騒がしいのは変わらなく作業はなかなか進まない。
ナツは温泉プール。グレイは冷水プールを作り出すはめになり無茶苦茶だ。ビックスローは気に入っていたが。
それをミラは呑気にジュースを飲みながら見ていた。
と、ナツが何かを発見したのか声を上げた。
発見したのは穴だった。ただ、ガラスが張ってあり、そこから見ると下に部屋があるみたいだった。
もう、どうでも良くなったソウは気分転換に釣り用具を持ってこっちに来たというわけだった。
「───────という訳だ」
「覗き部屋って、最低!!」
説明し終わるなり最初にレビィがそう言った。
女子達にとっては最悪その物だろう。男子にとっては最高なのかどうかは別だが。
「一体誰かしら!?」
「少なくとも掃除してたやつ以外だと思うがな」
「何でわかるのだ?」
エルザが疑問に思い、質問をした。
「もし、メンバーの中にその覗き部屋を知っている人がいたら、動揺する筈だ。それに全員、初めて知ったという話だったし、魔法を使って確認してみたが事実だった。第一にまず、その覗き部屋のあるプールの掃除をするのに普通なら隠しているはずだろ?その様な行動をとった奴は確認していないからな」
「「「「「成程!」」」」」
女性メンバーの方々は納得してもらえたようだ。
ついでに言うと犯人の目星はついていた。
と、ドーン!とギルドのほうから大きな音が響いてきた。爆発音に近かった。
「何っ!?」
「爆発音……?」
「もっぱら、あの部屋を壊したんだろう」
「それはそれで助かるわ」
後からミラに聞いた話だと、あの除き部屋の犯人はマスターだったみたいだ。
ナツ達が部屋内でとんでもないものを見てしまって暴走したとのこと。
釣りを開始してから数時間が過ぎてソウの成果はなかなか上がらず3匹という微妙な結果。
あの猫達にあげてみようかと考えた。ハッピーとレモンは喜びそうだが、シャルルに冷徹な目線で拒否されそうなのでやめた。
だったら、もう魔法で取ってしまおうかとやけくそになる。
魔法で湖に震動を起こす。魚はその衝撃を水中で受けることになるので 、気絶して水面へと浮かび上がってくるというわけだ。
でも、それをしたら湖の環境を壊してしまうことに。それよりもマスターや命に優しいウェンディに怒られそうなので結果、断念することにした。
「……帰るか」
「ソウ、帰るの?」
「レモンか、今から戻るとこ」
ソウが振り返るとそこにはレモンがいた。
どうやら、ウェンディ達の歓迎会は終わったみたいだ。
「ねぇ~、一つ聞いていい?」
「何が聞きたいんだ?」
ソウはいつもなら唐突に質問してくるはずのレモンが確認を取ってきたことに不思議に思った。
「ウェンディのこと、どう思ってるの?」
「ウェンディか?……大切な妹として見ているが、それがどうかしたのか?」
「ううん、ただ気になっただけだから。ついでにウェンディの部屋は二階の角部屋だからね~」
そんなことを言っていいんだろうかとソウは疑問に思った。そもそもそれを伝えて自分はどうすればいい?とソウは思う。
レモンは「またね~」と言うとエーラを使い翼を羽ばたかせて寮の方へと飛んでいった。
ソウは気になることがあったことを思い出してギルドへと戻っていく。
ギルドの中で真っ先に見つけたのがハッピーだった。ハッピーの目線はシャルルに注がれている。
「ねぇ?シャルル、魚いる?」
「いらないわよ!」
このやり取りをソウはもう既に数回目撃している。
ソウはハッピーのいるテーブルに近づき一匹の魚を取り出した。
「ハッピー、魚いるか?」
「あい!いるいる、ありがとうソウ」
「シャルルもいる?」
「だから、いらないわよ!」
「冗談だって」
ふん!と鼻を鳴らして完全にご機嫌ななめになってしまったシャルル。
「そうだ。ハッピー、レオ………ロキは何処にいるんだ?」
「ほぉきふぁら、ふぅーしぃのとほぉろはひょ(ロキなら、ルーシィのところだよ)」
魚をくわえながら答えるハッピー。ソウはそれで通じたのか頷くとどこに歩いていった。
ロキはフェアリーテイルの魔導士だった男だが、現在は素性が皆にバレてしまい、ここにはいない。
「あれ?おいら、ソウにロキが星霊だってこと言ったっけ?」
言ってから、あることに気付いたハッピー。
確か、ロキが星霊だと判明したのはルーシィが来てからだ。ソウとルーシィはこの前、初めて会ったばかりのはずなのにソウはハッピーの返答に納得したのかルーシィの方へと行ってしまった。
「まあ、いいや」
細かいことは考えても分からないハッピーは考えるのを止めた。
それをシャルルは横目になりながら見ていたのだった。
「ルーシィ、ちょっといいか?」
「ソウじゃない、どうしたのよ」
テーブルで一人寂しそうにしていたルーシィにソウは話しかける。
「ちょっと、ロキと話がしたいから呼んでくれないか?」
「え!なんで、私がロキと契約しているのを知っているのよ」
「なんでって……ロキはフェアリーテイルの一員だったはずだろ?でも、いないってことは星霊として過ごすことにしたんだろうって思って唯一の星霊魔導士のところに来たわけ」
「あんたって……凄いわ……。分かったわ、ちょっと待っててね」
そう言うとルーシィは懐から鍵を取り出して星霊を呼ぶ際の合言葉みたいなのを叫ぶ。
「開け!『獅子王宮の扉』!」
魔法陣が出現すると同時に一人の影が現れた。
ソウはそれを見ると喜びの笑みを浮かべた。
「久しぶり、ロキ」
「やあ、相変わらずだね、ソウ」
二人は久しぶりに対面するのだった。
続く──────────────────────────────
感想お待ちしてまーす~
オリジナルの敵キャラってあり?(無しの場合だと、原作に出てきた敵キャラのいずれかを主人公が奪い倒す形となる予定)
-
あり
-
なし
-
ありよりのなし
-
なしよりのあり
-
どっちでも