波動の"勇者"→波動の"覇者"へと変更しました。何となく。
◇◇◇
セルジュは恐る恐る目を見開いた。
「………ソウ!!」
ゴーレムの巨腕がぴったりと停止。
目を開けたセルジュの前に立つ一人の青年が片腕でゴーレムを抑えていたのだ。
「ここまでよく頑張ったな、セルジュ。姉を庇おうとした心意気は良いけど、俺が来なかったら危なかったぞ」
「う、うん………」
「そんな不安そうな顔するな。大丈夫、ここからは―――」
―――
そのままソウはゴーレムの腕を衝撃波と共に握り潰した。
粉々に地面へ散っていく。
「て、てめぇ!!」
男が声を荒げた。
完全に信頼を寄せていたゴーレムが意図もあっさりと片腕をもぎ取られたのだ。
「待てよ、おい………こいつが此処にいるって事は、あいつらは………っ!?」
「他の奴等なら全員気絶させたけど」
「くっ!!」
悔しさに唇を噛み締める。
やはり部下と端くれのゴーレムだけでは彼相手に時間稼ぎにすらならない。
「こうなったら!!」
最終手段に移行する。
ゴーレムは自動人形兵器。多少、損害を受けようが魔力を供給すればまた復製が可能な代物。
戦況が動かない今、ゴーレムの背から魔力を流した。右腕がまた復活する。
さらに―――魔力を流し込む。
ゴーレムにも魔力の限界量は存在する。
もしもの話。それ以上魔力を無理にでも流し込んでしまえば―――
「な、何だよ!?あれ!!」
「暴走だ。無理矢理魔力を注ぐとああいう風になってしまう」
限界を超えさせる。
例え、魔力の主でも制御するのは困難の所業だ。
「ふはははは!!こうなれば流石の波動野郎もどうすることは出来まい!!」
ゴーレムの頭から蒸気が漏れる。
がっつりと怒っていらっしゃるご様子。しかも場所が空洞内ともあり、最悪の展開では洞窟の崩壊もあり得る。
敵か味方か。分別する機能も既に消失したゴーレムは見境なく攻撃を開始する。
真っ先に目を付けられたのは一番ゴーレムに至近距離にいた強面男。
「ぐはっ………!!」
自らの魔法に攻撃を貰ってしまう。
ゴーレムの素早い拳のストレートに強面男は成すすべなく身体ごと纏めて吹き飛ばされた。
空洞の壁まで届いた威力は計り知れない。
「Gagagaga………!!」
謎の音声を上げるゴーレム。
むやみやたらに巨腕をぶんぶんと振り回すその姿にセルジュは不安が募っていく。
―――あんなのに勝てるのだろうか、と。
「ソ、ソウ………!!」
唯一の希望。魔導士のソウ。
地面に両膝を着いたセルジュが目撃したのはゴーレムに勇敢にも臆することなく歩いていく彼の後ろ姿であった。
「セルジュ」
ソウは背にいる者に向けて問う。
「君は何の為に、何に心を動かされて、この場に来た?」
「何の為………」
「分からないんなら、そのままで良い。気持ちの整理なんてもんは後から幾らでも出来る。でも、これだけは覚えておけ」
―――魔法は毒でもあり薬だ。
「っ!?」
「セルジュが過去に魔法に関して何があったのか………俺は知らない。唯一、言えるのは俺の持つ魔法を含め、世界にはまだまだ数えきれない程の魔法が存在するってことだけ」
また一歩。ソウはゴーレムに近づく。
「その中には必ずセルジュも好きになれるような魔法もあるはず。人の命を奪う事もあれば、逆に人の命を救うのも魔法の力。無理にとは言わないが、魔法なんて大嫌いとか悲しい事は言わないでくれ」
ゴーレムがソウを害ある敵と認識。
「セルジュ、最後まで見てるんだ。今から見せるこれが俺が使う魔法の本来の姿であり、そして―――」
―――しがない魔導士によるプライドの象徴だ。
「波動式一番」
ゴーレムが真っ直ぐに拳を突き刺す。
対して、彼もそのゴーレムに比べれば細い腕を、小さな拳を握り締め、無謀にも立ち向かった。
刹那―――二つの拳が衝突。
「"波動拳"」
ドクン。
ゴーレム全身に何かが突き通る。
訪れた空白の無の時間。お互いに動く気配を見せない。
―――ピキッ。
響くは亀裂の走る音。
ゴーレムの拳に音の根元が発生した。
―――ピキッ、ピキ。
より深く亀裂が加わる。
ゴーレムの拳から腕へと、やがては胸部に伝わっていき、ついには頭部にも亀裂が達してしまう。
「Gagagaga!!」
ゴーレム本体も恐怖を覚えたかのような様子で断末魔を上げだした。
全身に駆け巡る亀裂を防ぐ手段はゴーレムに存在せず。ただその瞬間をゆっくりと待つだけの存在。
「Ga………ga………」
身体の維持が困難と成り果てたゴーレムはやがて、ついに―――
―――粉々に力尽きた。
◇◇◇
テンドウ村。
「本当に………ありがとうございました」
事の顛末もすぐに収束。
闇ギルド"老狼の骨"に所属していた魔導士はマスターの男を含め、評議院に引き渡す形で事件は幕を閉じた。
シズクはソウの魔法による帰りの案内で洞窟を歩いていた時にも壁際に倒れかかる沢山の魔導士らしき者達を大勢見かけた。
これら全員が彼による仕業なのは状況証拠から見ても明らか。一人で彼は闇ギルド一つを壊滅へと仕立て上げてしまった。
「セルジュの事もありがとうございます」
「怪我がなくて良かったよ」
「いえ、それも勿論あるんですが………私の元まで来る間もソウさんがセルジュの安全を見守ってくださった事も含め………」
「はは………そっか。分かってたか………」
偶然に近い形でシズクは気付いた。
今回評価院に運ばれた魔導士は驚く事に三桁を越えた。なのに、セルジュは易々と潜入をしてみせた。
普通ならあり得ない。
だが、もしも。何者かがセルジュの行動を先読みし、誘導していたとなれば話は変わってくるのではなかろうか。
さらに、シズクにはそれを可能とする人物を知っていた。
彼には―――感謝しか言葉が出ない。
「それと報酬の件ですが………」
勿論、これは依頼。
彼の働きの対価として報酬が生まれるのは当たり前だ。
シズクは封筒を一つ取り出す。
「あ、いいよ、別に」
「へ?」
「昨日起きた被害も多少あるだろうし、村の復興にでもそれは使ってくれ」
「で、ですが!!」
「こっちも訳有りでね。報酬は別のとこから貰える手筈だから心配しなくても良いよ」
「私達の気持ちでもあります!是非ソウさんに使って頂きたいのです………!!」
ソウの説得。それでもシズクは粘る。
「なら、そうだな………来年こそは祭り、ちゃんと観に来るから。その時にシズクさんにでも歓迎でもしてもらえたら、それで俺は満足しちゃうな」
「は、はい!お待ちしております!」
ソウの提案。それでようやく二人が納得した形で落ち着いた。
その後、二人は二言、三言会話を交わせば、ソウは帰りの支度を始める。
「んじゃ、俺はもう行くから」
「もう………ですか」
ソウは軽々とリュックを肩にかける。
と、リュックからぴょこっと黄色い謎の耳の生えた生物がいきなり顔を出した。
「ひゃっ!?」
シズクが堪らず悲鳴を溢しそうになる。
「ね、猫………!?」
「私?"レモン"って名前だよ?」
「しゃ、喋った!!」
「え~?そこに興味いっちゃうの~」
ソウの連れ添い。
ぶーと不貞腐れるレモンだが、ソウは完全に無視。
「シズクさん?セルジュとシオネにもよろしく言っておいてください」
「わ、分かりました………よく見たら可愛い………」
「ホントに分かってるのかな?」
視線はぴょこぴょこ動くレモンの耳。
「それじゃ」
「ばいばーい!!」
ソウは村の門へと歩き出す。
レモンが無邪気に手を降って、別れの挨拶をすれば、シズクは頭を下げてそれに答える。
村から離れて―――数分後。
「ねぇソウ~」
「ん?何だ?」
「さっきの村の依頼って出発前に受けてきたっけ?報酬も別の宛があるって初耳だよ~」
ソウの足が止まる。
「残念だな、レモン。依頼だなんてもんは初めから
「えぇ~。良いの~?それ~?」
「まぁ………どうせこのままギルドに帰るだけだ。もし誰かが正式に依頼を受諾しても行き違いになると思うから、平気平気」
「だと良いんだけどね~」
◇◇◇
テンドウ村。
「依頼………ですか?」
村の入口となる門付近にシズクはいた。
彼女の側には数人グループで来訪した旅人と思わしき人物が見受けられる。
答えたのは、その内の一人。
「あぁ。そのはずなんだが」
「え………ですが………」
鎧に身を包んだ彼女の雰囲気にシズクも少し遠慮がちになってしまった。
彼女の名前は―――“エルザ”。
「ん?違うのか?」
「いえ………合ってるんですけど………」
歯切れの悪い返事にエルザも気付く。
が、それより先にまた別の人物が会話へと入り込んできた。
マフラーをした桜色の髪の少年だ。
「エルザ。まだか~?」
「ちょっと待て、ナツ」
「へーい」
ナツはとぼとぼ、と歩いていった。
「なにかあったのか?」
と、さらにまた別の少年が顔を出す。
「グレイ、服を着ろ」
「おっ!?」
上半身裸の少年―――"グレイ"。
自覚がなかったのか、エルザの指摘でようやく気づいた素振りを見せる。
シズクはそっと視線を外す。
「エルザさん………でよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうだ」
「依頼の件なんですけど………」
エルザを筆頭とする一行がこの村を訪れたのは依頼を承けたためである。つまり、彼女達は正規ギルドに属する魔導士であるのだ。
本来であれば、すんなりとテンドウ村へと通してもらえる手筈であったのだがどうしてかシズクに止められているのが現状である。
だが、肝心の依頼はというとーーー
「もう既に完遂されてます」
「ん?」
エルザは首を傾げる。
「依頼を受けたのは一昨日のはずなのだが早すぎないか?」
「昨日の昼前頃に一人のお方がお訪ねになられまして………」
「何?」
どういうことだ、とエルザの思考が固まる。本来であれば、自分達が果たす依頼を既に何者かによって果たされていたのだ。
「そいつは“妖精の尻尾”の魔導士か?」
「はい。本人もそう言っていました」
成りすまし。
エルザが考えついた結論はそれだった。が、シズク本人からはどうも信用をその人に寄せているようでまだはっきりとは疑わしい。
「どういう姿をしてたか、分かるか?」
「えー………青年のお方でリュックサックを背負っていました」
「………」
エルザは黙りこむ。
そこに鍵を腰に着けた一人の少女がエルザの隣へと立つ。
「そんな人っていたかしら?」
「ルーシィも分からないのか」
彼女の名前は“ルーシィ”。
ルーシィは後ろへと振り向くと、誰かを呼ぶかのように声を大きく張り上げる。
「ウェンディ~~!!」
「ーーーあ、はい!!」
少しの間の後、少女の返事が聞こえた。
やがて、走ってきたのは青髪を持つまだ幼げが目立つ少女。
「リュックサックを持つ妖精の尻尾の魔導士って誰か居たかしら?」
「えっ~と………特に思い浮かばないです」
「そうよね」
「そうですか………」
ウェンディの返答にルーシィは何度も頷く。
自然とシズクの視線が落ちたかと思えばそこに。
「なによ」
白猫がいた。目があった。
その瞬間、シズクの脳内が閃光を走ったようにある重大なことを思い出す。
「あっ!!あの方も猫のようなのを引き連れていました!!」
「………ふん」
それに反応したのはエルザ。
「ーーーまさかっ!?」
「えっ!?」
「えっ!?」
ウェンディとルーシィの視線がエルザへと集まる。
「まさか………名前は“ソウ”………ではないか?」
「あ………はい………そうですけど」
シズクの返答にエルザは、そうかそうか、と満足そうな笑みを浮かべる。対するウェンディ、ルーシィの二人は疑問を浮かべたまま、ぴーんと来ていない。
地べたで不機嫌そうな白猫“シャルル”は一連の流れを眺めて、その時思った。
ーーー初めから名前を聞きなさいよ、と。
「ナツ!!グレイ!!今すぐギルドに戻るぞ!!」
エルザの号令。
離れたところではちょうどナツとグレイが互いの頬を捻りあっていた所だ。
一瞬で解除、整列し直す。
グレイのふとした疑問。
「なんでだ、エルザ!?」
「ソウが近くまで帰ってきている!!マスターに報告しに行くぞ!!」
「何っ!!マジか!!よっしゃぁぁぁぁああ!!」
ナツの雄叫びが火気を帯びる。
ナツとグレイの二人は知っているようだ。
「ねぇ、レモンも帰ってくるの?」
「きっとそうじゃねぇか?ハッピー、ギルドに戻るぞ!!」
「あいあいさー!!」
どこからか飛んできた翼の生えた青猫がナツの側へと来たかと思えば、彼と共に何処かへと走り出してしまった。
一瞬で近くの森林へと突入し、姿を見失う。
「ウェンディは知ってるの?」
一部始終を見たルーシィは隣の彼女へと問う。ルーシィには心当たりがないのだ。
「………」
「ウェンディ?」
だが、返事がない。
ルーシィがふと見ると、ウェンディはまるで時間の止まった人形のようにピッタリと静止していた。
「………お兄ちゃん」
「えっ?」
よく聞き取れなかったルーシィ。
エルザも異変に気付いたのか、こちらへと歩いてきた。
「ウェンディ、体調でも悪いのか?」
「いえ………」
「えっ!?ちょっと!?泣いてるわよ、ウェンディ!!」
「えっ!?あっ………すみません」
溢れてきた彼女の涙。
ただ事ではないことは確かである、とウェンディを見守る二人は感じとる。
エルザが優しく尋ねる。
「ソウ………と何か関係あるのか?」
頷く。肯定。
「理由を聞いても………いい?」
「はい………この際なので、話します」
ウェンディはゆっくりと話す。
「そのソウって人………」
ーーー私の兄かもしれません。
-1- 完
*プロローグ?的なのはこれで終了です。
次回からはソウのさらなる活躍とヒロインの登場予定です。
裏設定:ソウの意図
魔法により、自然とセルジュが魔法にトラウマがありつつも克服しようとしようしていると知ったソウはバレないようにセルジュに助力をしていた。
セルジュの敵地潜入があっさりいけたのもソウが既に敵どもの整地が終わった直後の時であったからだ。