◇◇◇
―――波動の覇者。
「それが世間一般から言われてるソウの肩書きだよ!」
帰り道の道中。馬車の中。
ナツ達一行はウェンディの事情にも気をかけつつ、彼女の知らないであろうソウに関する情報の開示をしていく。
ハッピーはどや顔だ。
「ねぇねぇハッピー、なんでそんな二つ名が付いたの?」
ルーシィは単直に尋ねる。
同じギルド"妖精の尻尾"に所属するルーシィは云わば、新人の部類に入る。古参の魔導士に関しては初耳ばかり。
ついこの前、帰郷した"ギルダーツ"然り。ルーシィは妖精の尻尾についてはまだまだ自分の知らない事だらけだと思い知らされていた。
「それは………いっつもソウが敵をボッコボコにしちゃうから!」
「え?そんなに狂暴な人なの!?」
ナツ以上の狂気的な性格。
想像するだけでも武者震いをしてしまう。しかも魔導士としての能力はどうやらナツ以上。
………大丈夫だろうか、"妖精の尻尾"。
「ハッピー、そんな言い方だと少々語弊が生じてしまう」
「そうかな?」
「そうだ。敵対した者は完膚なきまでに叩きのめす。一切躊躇すらする素振りはなく、その為の手段は敵からすれば絶望としか感じられない物しか選ばない」
「語弊があった方が良かったな~………」
「心配するな、ルーシィ。軽い冗談だ」
エルザが会話に参戦。ハッピーから説明の任を奪い取る。
「そうだな。まず、前提として覚えておくといい。ソウは私と同じS級魔導士だ」
「S級………!!」
妖精の尻尾の魔導士の中から選ばし者だけが背負える称号。
実力は折り紙付き。自分の魔法ですら未だに手子摺るルーシィとは程遠い存在だ。
因みにエルザもまた、その称号を背負う魔導士である。
「しかも最年少で合格したんだぜ」
「昔からソウはめちゃくちゃ強ぇからな!………うぷっ」
グレイとナツが同意する。
ナツに至っては乗り物酔いで瀕死なのにしゃしゃり出てきた。
「私が試験に合格するその前の年にソウは晴れてS級魔導士に昇格した。しかも一発合格という快挙も一緒にな」
「そんな人がギルドに………」
「ソウはとても寛大な心で事を成し遂げる。でも、同時にソウの禁忌に易々と触れてしまえば、そいつの命は無事では済まされないだろう」
「うわぁ………」
ルーシィがぶるぶると震え上がる。
「想像が全く出来ない………」
「確か、数年前だったか。一度、彼が暴走しかける事件があった」
「あ~………あったな。あれか~」
「え?何?」
「街が一晩で崩壊寸前まで追い込まれた。当時の小さい少年、たった一人に」
「崩壊………?」
「そうだ。幸運にもギルダーツのお陰で最悪の事態だけは免れたが、その頃から強さの片鱗は出ていたと言える」
「よくそんな危険人物をギルドに入れてるわね。聞いてる限りだと録な印象ないわよ、その人」
馬車の後方にいるシャルルが苦言を唱える。
「………お兄ちゃんはそんな人じゃありません」
「ウェンディ?」
ルーシィがそっと振り返る。
ぼそっと呟いたウェンディの表情は俯いているお陰で確認できない。
「ウェンディの言うとおり、ソウも今では立派な魔導士の一員だぞ?今、ソウがギルドを留守にしてるのも、十年クエストをこなす為だしな」
「十年クエストって………十年経っても誰もクリア出来なかったクエストだったよね?」
「あい!ソウが最近、ギルドに帰ってきたのはルーシィが入るちょっと前の話だよ!」
「あれ?って事はクエストの難易度の割にあっさりと帰ってきちゃった?嘘ぉ………」
「ソウの前には十年クエストも敵ではない、と言うことだな」
エルザが誇りに言う理由が少し分かる。
極悪難易度のクエスト。本来は数年単位でクリアが当たり前のそれを一年もかけずに成し遂げて、帰還する。
魔導士としての実力がヤバいとしか………。
「それでだ、ウェンディ。ここまでの話を聞いた限りではどうだ?」
「はい………私の覚えてる記憶と明確な違いは今のところ確認出来てないです………」
ソウに関する話題。
これら全てはウェンディの探し人との共通点があるかどうかの確認作業でもあった。
もしかしたら、只の勘違いだったなんて結末もゼロではない。
「やっぱり、ソウがウェンディの兄って話はホントなんだろうな」
「マジか。オレ、一度も聞いたことがねぇ………うぷっ」
仲間であるナツやグレイですら初耳だ。
「マスターなら知っているかもしれん。ソウ本人の現在地が分からない今、ギルドに戻って話の真相を直接確かめるのが最善だ」
「はい………」
元気がないウェンディ。
「ウェンディ?顔色悪そうだけど、大丈夫?」
「シャルル………うん、平気」
「本当に大丈夫なの?ウェンディ」
「ルーシィさん………心配してくれてありがとうございます。どちらかと言うと緊張してるだけなので………」
「緊張?なんで?」
「その………久しぶりに会えるかもしれないって考えたら、どんな話をすれば良いのか分からなくて………」
「純情な乙女!」
「うぅ~………」
ぽっこりと赤く染まる両頬。
「そうよね~。生き別れた兄と運命の再開だもんね~。色々と考えちゃうのも無理ないよね~」
「あの………ルーシィさん………?」
「くぅ!羨ましい!」
理想まで夢見た展開。
作家の一面も持つルーシィにとって、この兄妹の織り成す物語は是非とも執筆活動に参考させて頂きたい。
シャルルは冷ややかな目線をルーシィに浴びせつつ、ウェンディに質問する。
「後、ウェンディが彼に関して覚えてるものは何かあるかしら?」
「魔法………でしょうか?」
全員の視線がエルザに。
「何故、私を見る。ソウの魔法?ナツと同じ滅竜魔法の使い手だ」
「え!?
「驚きすぎだよ、ルーシィ」
「あのね!!ハッピー!!これを驚かないだなんていられない衝撃的な事実なのよ!!あっ………でも、ウェンディも滅竜魔導士なのよね。二人が兄妹だとしたら不思議でもない………むしろ、納得する案件では………」
「ルーシィさん。あの………お兄ちゃんとは実の兄妹ではないです………」
「えっ!?違うの!?」
「はい」
偶然の産物とウェンディは言う。
兄妹の誓いを交わしたその日からウェンディは兄と慕うようになったという。
滅竜魔法は伝説の生物、ドラゴンから直々に教わる事でしか入手出来ない貴重な魔法の一つ。
妖精の尻尾にもナツやガジル、ウェンディ。世代は違えどラクサスなど使える魔導士は存在する。
同じ滅竜魔法の担い手が義理の兄妹となる可能性は奇跡に近いとされる天文学的な数字だ。
「ソウの魔法の性質は"波"。波に関するのであれば、あらゆる操作が可能となる」
「具体的には何があるのかしら?」
「本人がよく使うのは衝撃波としてその魔力を放つ方法。シンプルな魔法だが、その分、威力も計り知れない」
「全部をぶっ壊すあの破壊力は正直、本物だ」
「あれ?ギルダーツと魔法が似ている気がしなくもない………?」
ギルダーツ。
妖精の尻尾に所属する魔導士の一人。見た目、三十代の男性であり、妖精の尻尾最強候補の最有力魔導士としてその名が上がる程の実力者。
彼の魔法は"崩壊"。手に触れる物、全てを粉々に崩壊させるチート並の魔法の使い手。
「ルーシィの言いたい事は分かる。だからだろうな。実際、私はよくソウが子供の頃にギルダーツから魔法の制御の仕方を教えてもらっていた光景を目にしていた。二人の関係は云わば、師弟関係に近いだろう」
「へぇ………」
「話を戻そう。衝撃波以外にもソウの魔法は色んな方面に応用が効く。探知魔法として状況把握の為のエコー代わり。勿論、音も拾える。他には魔導士の魔力感知や挙げ句の果てには、触れた物を瞬時に衝撃で吹き飛ばす罠の設置も自在に使いこなす」
「ソウは一人で何でもこなしちゃうのです!!」
「便利ってレベルじゃないわね………」
使用範囲は主に戦闘に捜索、情報収集。
魔法はどれか一つの能力に特化するタイプが多い。ナツだと炎の攻撃特化。グレイも攻撃に関しては応用が適用されるが、あくまで攻撃だけに収まってしまう。
ソウの魔法は例外だろう。
本来、探知魔法と攻撃魔法は別々。それを同時に操れるだけでも十分な規格外だと計り知れる。
「ソウの話もここまでか。もうすぐマグノリアに着く」
エルザの視線の先。
妖精の尻尾ギルドの本拠地"マグノリア"は目前であった。
◇◇◇
妖精の尻尾、ギルド。
「ソウ君?まだ帰ってきてない筈だけど………」
ミラの返答にルーシィは困り顔。
ギルドに帰還したルーシィ一行は予定では同じく既に帰還している予定のソウを各自で探す事になった。
エルザやナツは彼の家へ。
グレイは彼のよく訪れる場所へ。
ルーシィとウェンディ、シャルルはギルドの中で情報収集に励む。
「それよりも、ルーシィ、ソウ君の事を知ってたわね。あまりギルドには帰ってこないから知ってる人も限られてくるというのに」
「それはですね。エルザから聞いたというか……聞かざるを得なかったというか………」
「ふふふ、もしソウ君が帰ってきたらすぐに分かるわよ」
「どうしてです?」
「ギルダーツの時と同じよ。街一体に鐘が鳴り響いて―――」
―――ボーン………ボーン………ボーン。
「ほら、丁度こんな風に………あら?」
「来た!!」
鐘の知らせが耳に届く。
ギルドの中でのんびりしていた他の者もまた鐘の音に気付き、立ち上がる。
「ソウが帰ってきたぞ!!」
一気に辺りが騒がしくなる。
次には全員揃ってギルドの扉へと駆け寄った。
ミラはギルダーツと同じと言っていた。
なら、とルーシィは周りの者と同じくギルドから外へと飛び出る。
「相変わらず無駄に凄い………」
ルーシィの目に移るのは異様な光景。
街全体が幾つかに分裂し、様々な区域に強制的に分けられ、また再構築されていく。
完成した時には街の出口から一直線にギルドに来れる巨大な道が形成されていた。無駄な労力。
そして―――遥か向こうに人影あり。
「あれが………ソウ………」
ルーシィが感動している、次の瞬間に―――
「と、跳んだ………!!」
ルーシィは顔を上げる。ソウの姿を追うには目線だけ上げても無理なぐらいに高く飛翔したのだ。
小さな点もすぐに等身大に。
気付けば、遥か向こうにいたソウが目視で顔を確認できる程に距離を詰めていた。
ローブを着こなす彼はあっさりと着地。ギルドの入り口まで来ると軽く微笑む。
「一同揃って大歓迎とは………それに珍しい………」
「皆、お前の帰りを待っていたんだ。それくらい許してやってくれ」
「そっか。好きにしたらいいさ。マスターは中に?」
「あぁ」
エルザと二三言交わした彼。
そのまま横を通り過ぎて、ギルドの中へと入っていく。
遠目からしか見えなかったルーシィも念のために同じく外にいたウェンディの姿を探して合流する。
「ウェンディ、どうだった?」
「はい。間違いありません。姿や声は昔と変わってますが………匂いは私の覚えてる匂いです」
「どうする?直接、話してみる?」
「………」
本人で間違いはない。
問題があるとすれば、ソウ本人がウェンディを覚えていいるかだけだが。
ウェンディには拒絶される恐怖、大切な人を失う恐怖を味わった過去がある。
もしかしたら、二の舞になるかもしれない。そんな少しの可能性のせいで気持ちに迷いが生じてしまった。
「………行きます」
それでも、決意を固めたウェンディ。
ルーシィは彼女の勇気ある判断を無下にしたくない思いで行動に移る。
久しぶりのソウのギルドへの帰還に他の魔導士達が盛り上がり、喧騒が溢れる合間をルーシィはウェンディの腕を握りながら先導する。
ギルドの奥。バーのカウンターで彼はマスターであるマカロフと話していた。
「―――よくぞ帰ってきた。しばらくはゆっくりしていくと良い」
「では、お言葉に甘えて。しばらくは休息を取ることにします」
タイミング良く会話が終了。
マスターの元から離れたその瞬間。ここぞとばかりにルーシィは詰め寄った。
「あの~、ちょっと良いですか~?」
「ん?………新人さんかな?」
「は、はい!ルーシィと言います!星霊魔法を使います!」
「星霊か。なかなか癖のある魔法を使うんだな。こっちこそ、よろしく。"ソウ・エンペルタント"だ」
握手を求められた。
がっつりとルーシィはソウの掌を握り締めながら、思う。
―――聞いた話と全然違うではないか、と。
何がナツより凶暴だ。
むしろ、真反対。こんな丁寧に挨拶をする魔導士など妖精の尻尾ではほぼ居ない。
「それとそっちは………」
ソウの視線はルーシィの背後。
ようやくウェンディは恩人であり、義理の兄となる人物と再会する。
「あ、あの………!!」
その一部始終を今、ルーシィは目撃―――
「
「「―――っ!!」」
―――する筈だった。
2-2 へ続く。
*ごめんね、ウェンディ………こんなはずじゃ!
(↑犯人はこいつです)
裏設定:ソウの帰宅タイミング
リメイク前はエドラス編前。
今回では天狼島編前辺りに変更となった。理由としては単純にエドラス編でソウが活躍する場面は執筆するほど対した場面ではないか………はい、めんどくさかったからです。
と、同時にリメイク前はすんなりいけた兄妹の再会もあえて今回はややこしい展開に持っていきます。無事に終われるかどうかは分かりません!