FAIRY TAIL 波地空の竜   作:ソウソウ

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最近、書く時間が確保できたのでいつもりより早めの投稿です。いぇい!!

さらになんと………!!

2時間後にはもう一話投稿します!!

────では、どうぞ!!


第w話 頼み事

 夜道は暗い。

 

「でも、本当に良かったのですか?」

「ん?何が?」

「んにゃ………っ………んにゃ………」

 

 宿へと戻る帰り道。ソウとユキノは並んで、歩いていた。レモンは眠気と格闘しているのか、何度もこっくりと舟を漕がしている。

 その途中、ユキノが唐突に口を開いた。

 

「その………私が急にギルドに入っても………」

 

 ただ、迷惑なだけではないのだろうか。

 ユキノははっきりと口にはしなかったが、ソウにはそのように見受けられた。

 彼女はどこか遠慮ぎみな性格をしているようだ。

 

「俺らのギルドって、リザーブ枠に誰もいないからちょうど良かった。だから、そんなに敬遠しなても大丈夫だって」

「リザーブ枠に誰も居ないんですか?」

「まぁね。最近出来たギルドでもあるから、五人ギリギリ集まって何とか大魔闘演武に出場出来たってところだ」

「そうなんですか………」

 

 ユキノは深く考え込むように黙りこむ。

 どこか三首の竜、リザーブ枠不在の件について、引っ掛かるところでもあったのだろうかとソウは考えた。

 そうは言うものの、大会本部からはリザーブ枠は埋める必要があるとの通告を貰っていたので、レモンの名前が一応入っている。

 

「でも、私は三首の竜は滅竜魔導士の方しか入られないのかと思ってました」

「そんな規則はないけどな。なるほど………周りからはそんな風に見えるのか」

 

 滅竜魔導士のみしか入れないギルド。

 三首の竜のイメージはそんなものらしい。実際に今、加入しているのは滅竜魔導士のみなので、そう勘違いされても無理はない話だ。

 

「ということは五人で大魔闘演武にご出場なされたのですか?」

「まぁ………そういうことになるな」

「剣咬の虎の最強の5人と同じですね」

 

 ユキノは少し微笑んだ。

 ソウはそんな彼女の姿を見て、呟く。

 

「やっぱ、笑った方が綺麗だな………」

「えっ!?」

「んや、ようやくユキノらしい表情になったって思っただけ」

「そそそ、そうですか!?」

「そんなにびっくりしなくても」

 

 彼はそう言うが、ユキノにとっては、びっくりせずにはいられないのだ。まさかの不意打ちに。

 咄嗟に反応できずに、ユキノの頬は羞恥のせいで赤みを帯びる。褒められることに慣れていないユキノはすっかり照れてしまい、俯いてしまった。

 

「噂には聞いていたが、剣咬の虎の最強の5人ってユキノは入ってないのか?」

「そんな恐れ多い!!私のような新米ごときでは足元にも及ばないです!!」

「でも、実際にギルドを代表して大魔闘演武に出れたってことはそれなりに実力はあるってことだろ?」

「私はただ仕事で留守にしていたミネルバ様の代わりをしていたに過ぎません」

 

 ユキノでも星霊魔導士としての強さはソウが見ても認めざるを得ないほどだと思うが、それでもまだ剣咬の虎では下らしい。

 ミネルバという魔導士が参加することにより、剣咬の虎は本気で優勝を狙ってくることになるようだ。

 

「そのミネルバって魔導士は強いのか?」

「はい。はっきりとどんな魔法を使われるかはご存知ありません………あまり人前では使わないので、一度しか見かけたことしかありませんので」

「ふむ」

「あ、ですが、アール様の魔法を見たとき、アール様の魔法はミネルバ様の魔法と酷似していると私は思いました」

「絶界魔法が?」

「えっと………はい、そうです」

 

 彼の魔法は完全にオリジナル。他の赤の他人の誰かが修得したということも耳にしたことはない。つまり、絶界魔法を使えるのはアールと彼には伝達した師匠の二人だけのはずだ。

 そのはずなのだが、ユキノはアールの魔法をミネルバの魔法と重ねて見えてしまったらしい。要するに、魔法の効果が似ているということになるのだろうか。

 

「幻覚魔法か………そこ辺りだな」

「アール様の魔法は敵を惑わす魔法ですか?」

「正確には違うんだが、似てるって面でははそうなる」

「私にはアール様は瞬間移動しているように、見えたのですが」

「アールの場合は瞬間移動って言うよりかは移動の簡略をしている方が正しい。そうだなぁ………例えばここからあそこまで動くとする」

 

 ソウは向こうの街灯辺りを指差す。

 

「普通ならどうやってあそこまで移動する?」

「えっと………歩く………でしょうか?」

「他には走るとか、乗り物に乗って、とか色々あるんだが手っ取り早いのはユキノの言った通り、()()だ」

 

 歩きながら話しているので、やがてソウの指差した街灯の足元まで辿り着く。止まることはなく、そのまま歩き続ける。

 

「分かりやすく言えば、アールはそれをしない」

「………歩く行為をアール様は省略しているのでしょうか?」

 

 なら、どうやってアールは移動するのだろうか。自分で言っておきながら、ユキノは不思議に思う。

 

「後は直接本人に聞いてみたらどうだ?」

 

 彼は答えをハブらかすと、立ち止まる。

 ユキノも彼の隣で歩くのを止めて前を見上げた。目の前には宿。

 三首の竜、宿泊施設“宝石の肉”。

 ついに到着したのだ。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 三首の竜、宿泊施設“宝石の肉”。

 

「やったぁーー!!!」

「はぁ………」

 

 ボード盤の前で、両手を万歳して喜びを表すサンディー。対称的に、ルーズの表情は疲れ顔だ。

 ルーズが疲れているのも、サンディーがしつこく勝負をせがんできて、でもサンディーはルーズに勝てずにあっさりと負けて、また勝負を挑む───を何度も繰り返しているからだ。付き合わされる身はたまったものではない。

 途中、ルーズはサンディーが勝てるように誘導しようとしていたが彼女は何故かルーズの誘導から上手く脱線してしまうので結果的にルーズが勝ってしまう。

 勝利して嬉しいはずなのに、嫌な悪循環だ。

 だが結局、ルーズは途中で止めることなく、最後まで付き合っていた。こう見えても彼女の面倒見の良さはなかなかのものである。

 

「やっと終わったのか?」

「随分と長かったね」

 

 影から黙って見守っていたジュンとアールの二人もようやく終わったのか、と言わんばかりな態度を取っていた。

 サンディーは二人に満面の笑みで告げた。

 

「ルーズに勝てたよ!!えっとね!!………な………何回目だろう?」

「僕が数えてた限りでは、40回は越えていたはずだよ」

「弱すぎだろ」

 

 ジュンの余計な一言にサンディーがむっと眉を潜める。

 

「なら、私と勝負だよ!!」

「おう!!臨むところだ!!」

 

 対戦相手を変えてのサンディーの第二ラウンドが幕を下ろした。相当な時間していた彼女の顔に疲労の色は一切ない。

 一方で、ようやく解放されたルーズは気分の入れ換えをしたいのか、外の景色を眺めていた。

 ───と、彼女の表情が少し変わる。

 

「ちょっとアール、こっちに来て」

「え?あ、うん」

 

 ルーズの手招きに困惑しながらも、アールは彼女の方へと移動しようと立ち上がる。

 

「はは!!これでどうだ!!」

「なら、こうだよ!!」

「オレだって、負けてたまるか!!」

「てりぃやぁ!!」

「とりゃあ!!」

「あ!!ずるいっ!!」

「ははは!!ルールに則ってるから問題ないわぁ!!」

 

 まだ序盤戦のはずなのだが、いささか盛り上がり過ぎではないだろうかとアールは不思議に思いながらも彼らの側を通る。

 ルーズは外を覗くように合図を出してきた。

 

「あれって………」

「ソウとレモン。でも、もう一人隣に誰か居るのよ」

「あ、ホントだね………」

「暗くてよく見えないわね」

 

 この窓からは大通りが見える。時間帯が暗闇かつ、まだ影が遠目なので断定しがたいがあの影はソウに間違いがない。頭の上にいるレモンの形で予想しやすい。

 だが、彼の隣にもう一人人影がある。

 見たところ、その人と一緒に歩いてきているようだ。

 

「えっ!?どれ!?」

 

 話を小耳に挟んだサンディーが興味津々にゲームを中断して、窓付近に押し寄せてくる。アールとルーズは彼女に場所を譲る。

 サンディーはじっと、目を見据えて外を睨み付けていたかと思うとはっと驚愕の表情を見せる。

 そのまま後ろに後退り。

 

「嘘ぉ!!」

「何がだよ?」

 

 首を傾げながらも、ジュンも外を観てみた。

 段々と近付いてくる二人の影はジュンの見ると同時に街灯に照らされて、顔が露となる。

 ───えっ!?マジで………。

 

「ジュン?」

 

 アールが呼び掛けるも、ジュンは外を見つめたまま、無反応。ルーズも彼の豹変した態度に小首を傾げている。

 しばらくして、ようやく起動したかと思えば、彼は驚くべきことを口にする。

 

「ソウと一緒にいるの………ユキノじゃねぇか…………!?」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 部屋内は混沌を極めていた。

 中ではジュンとサンディーが混乱のあまり、落ち着かない様子で動き回る。アールはひたすら理解しようと意味不明な呟きを繰り返していた。

 例外として、ルーズは平常運転。

 

「それで剣咬の虎の女がどうしてここにいるのよ」

「まぁ、色々あってさ」

 

 ソウはユキノとの賭けに勝って、命を授かっている身。そんな彼が当の本人と一緒に帰ってくるなど、勘違いしても無理はない。

 ユキノは何を思ったのか、不安そうに言う。

 

「私………嫌われてるようです………」

「ルーズは誰に対してもこんな態度だよ」

 

 アールが落ち着いたようで、話に入ってくる。

 

「ふん」

「ほらね。あなたのことを嫌いって訳じゃないから」

「はぁ………そうですか………」

 

 ルーズは誰にたいしても冷たい態度をとることが多く、初見では嫌われていると思っても仕方ないことだ。

 

「だから友達が少ないんだけどね………」

「余計なお世話よ」

 

 ルーズの機嫌が悪くなった。

 

「それで、僕がアールだよ。よろしくね、ユキノさん」

「あっ、はい、よろしくお願いします」

「後は彼女がルーズ。それと、部屋内で暴れている彼の方がジュンでもう一人がサンディー」

 

 残りのメンバーをアールに紹介されて、ユキノは微妙な反応をとった。

 そのまま、ユキノはアールの説明を深々と聞いていた。後は彼に任せて良いだろうとソウは思った。

 ジュンとサンディーの二人はまだ混乱気味だ。

 すると、サンディーがソウの方へと迫ってきて赤みを帯びた表情を浮かべながら、あることを追及してくる。

 

「なんであの人がいるの!?」

「剣咬の虎から追い出されて、路頭に迷っていたから」

「ソウが無理矢理連れてきたでしょ!!」

「んなわけない」

 

 どうやら彼女の脳内では現実からかけ離れた過激な妄想劇が繰り広げられているようだ。

 

「ほら!!オレの予感が的中したぞ!!」

 

 ジュンはジュンでよく意味が分からないことを叫んでいる。

 

「私!真実を確かめる!!」

 

 そう意気込んだ彼女はアールの宿の案内を受けているユキノの元へと走っていった。

 ソウでは宛にならないので本人に直接聞くようだ。

 

「ん?何事じゃ?」

 

 ────と、ここで師匠が魔法で出現。

 事情の知らない彼女は小首を傾げていた。

 ほどなくして、ポカンとしたサンディーが戻ってくる。

 

「“私の命はソウ様のものです”………だって!!」

「どういう意味だ?」

「わわわ!!分かんない!!」

 

 サンディーは顔を真っ赤にしてブンブンと首を振る。どこか誤魔化そうと必死になっているように見える。

 ソウは取り合えず、簡単に事情を説明しようとするが───

 

「お主がユキノじゃな?」

「えっ………あ、はい。そうです」

 

 師匠が既にユキノと接触していた。

 うわ、早い………と感心しているのもつかの間、ソウはあることを思い出した。

 師匠は残念な性格をしている。つまりは、絶好の獲物であるユキノの身に別の意味で危険が及ぼうとしていた。

 師匠の目がギランと光る。

 

「ふふふ、やはり実物は格が違うのう………お主のその豊潤な胸を少し堪能───」

「はいはい、貴女はこっちよ」

「ちょっと待て!!妾は何もしとんらぞ!!ルーズやぁ!!」

「前科はあるんだから、言っても無駄よ」

 

 ルーズに引き摺られ、師匠は嘆いていた。ユキノはただ訳が分からず、ずっと引き摺られていく師匠の後を見ていた。

 

「一先ず落ち着け~」

 

 ソウは呆れながらも呼び掛ける。

 サンディーが彼の前に正座。アールも彼女の隣に座る。ルーズは師匠の足止めに精一杯のようだ。

 残るはジュンだけだが───

 

「あいつ、何してるんだ?」

「黄昏てるみたいだよ」

 

 ヒートアップした思考を冷まそうとしていたのか、彼は顎に手を当てて窓から外の景色を眺めていた。

 サンディーに連れてこられて、ようやく参加。

 三首の竜の前に立っているソウは改めて、緊張した顔付きでいるユキノに自己紹介をするように視線で促す。

 ユキノは小さく頷くと、ゆっくりと口を開いた。

 

「こ、この度、ソウ様に誘われて来ましたユキノ・アグリアです。ソウ様には行く宛のない私に声をかけてくださって………大魔闘演武で忙しいこの時期にこんなことを言うのはおこがましいのは重々承知です。ですが………」

 

 勇気が出ずに、静かに俯く。

 ソウを筆頭に誰も喋ることなく、彼女から言うまでずっと黙りこむ。

 ユキノは覚悟を決めて、きっぱりと告げた。

 

「私を三首の竜(トライデントドラゴン)に入れてもらえないでしょうか?」

「うむ、構わんぞ」

「ようやくリザーブ枠に人間の魔導士が入るね~」

「流石に猫は駄目だろと思ってたからな。グッドタイミングだ」

「私はエクシードだよ!!」

「そうね。メンバーが増えるのは心強いわ」

 

 和気藹々と話す彼女たち。

 ユキノはというと、予想外の急展開に目が点となっている。剣咬の虎の場合では、入るだけでも様々な条件が出されるのだ。それに比べてここは、なんともまぁ、ざっくりとしたギルドだとは思う。

 

「こんなにあっさりと………本当に良いのですか………?」

「だって断る理由がないからね。三首の竜は大歓迎だよ」

「え………」

「ほら俺の言った通りだっただろ?ユキノ」

「はい………!!」

 

 こうして、ユキノは三首の竜へと加入することが決定した。

 

 

 

 

 ◇

 

「ルーズ~お風呂行こ~」

「ええ。分かったわ」

 

 ユキノがギルドに入り、しばらくの間は彼女を中心とした談笑で盛り上がっていたが、今ではすっかり一段落していた。

 

「ユキノも一緒に入る~?」

 

 ピョコン、と扉から顔を出したサンディーがこちらをテーブルで休んでいるユキノを覗いてくる。

 

「ごめん、サンディー。俺がまだユキノに話があるから、また今度にしてくれ」

「ふーん、分かった。それはそうと、特にジュンはお風呂、絶対に覗いたら駄目だよ!!」

 

 サンディーはソウの断りを特に気にした様子はなく納得した。そして、何故かジュンにだけ注意が飛ぶ。

 ジュンは鼻で笑いながら反論。

 

「覗いても得なんてねぇから、しねぇよ」

「どういう意味なの!?」

「ほら、早く閉めなさい」

 

 過敏に反応するサンディーに対して、ルーズはいつでも冷静に物事にあたっていた。

 最後に「私にだって、得することぐらいあるもん!!」と捨て台詞を最後に扉を勢いよく閉めた。

 ソウのテーブルの向かい側に座っているのはユキノ。右隣にはアールが座っており、左隣には師匠がいる。ジュンはベッドに腰を下ろしていた。

 

「それで私に話とは?」

 

 ユキノが尋ねると、彼は真剣な表情となる。

 

「まず始めにこれは命令ではないと、覚えておいてほしい。俺個人としての頼みとして聞いてほしいんだ」

「はい」

「簡潔に言う。ユキノに()()()のようなことをしてほしいんだ」

「ス、スパイ………ですか………」

 

 ユキノは少し気まずそうにする。いきなり、こんなことをお願いされては誰だって困惑する。

 

「まぁ、全部聞いてから決めてほしい。まず、潜入してほしいのはこの大魔闘演武の主催国、フィオーレ王国の城内」

「え?」

「そこで王国が隠している秘密を探ってほしいんだ」

「は、話が見えないのですが………」

「二日目のバトルパートの最中、俺の妹である妖精の尻尾のウェンディが誘拐されそうになった」

「まぁ、それはソウとナツ君のお陰で未然に防いだんだけどね」

「その後誘拐犯を問い詰めた結果、誘拐犯が狙っていたのはウェンディではなく、ルーシィ───星霊魔導士であることが判明した。さらに誘拐犯を裏で操っていたのも、王国側だと俺達は見ている」

「そんなことが………」

 

 知らない間でそんなことが起こっていたのは彼女にとって衝撃的だろう。さらに対象が自分と同じ星霊魔導士。

 

「多分、狙いは星霊魔導士の力。ユキノも今後狙われていた可能性が高い」

「っ!!」

「俺達が大魔闘演武に参加したのも、今この国で何が起ころうとしているのかを調べるためだ。俺達出場者は迂闊に会場から離れる訳にはいかないので、今は師匠一人に調べてもらっているが何かと裏で調べるのは厳しい」

「そうじゃのう………妾がこっそりと調べるのにも限界はあるのぅ」

「そこでユキノには王国側に寝返ったようにみせかけて、色々と探りだしてほしいという訳だ」

「………はい。ソウ様の仰られていることはある程度理解しました。確かに、王国側にとって星霊魔導士である私を引き込めるのは絶好のチャンスですね」

「ああ。向こうはまだユキノが三首の竜に入ったことを知らないはずだ。それを利用させてもらう」

 

 ソウにとって、ユキノにこの依頼をするのは苦渋の選択であった。

 事情の知らない彼女にとって、この依頼はリスクに対する見返りが少なすぎる。さらには折角の大魔闘演武でのリベンジの舞台も水の泡にしてしまう。

 正直、自分勝手な依頼だとソウは承知している。だからこそ、彼は最後に念を押す。

 

「これは断ってくれても構わない。ユキノがリザーブ枠でこれからの大魔闘演武にも参加して貰っても俺は何も気にしない。初めに言った通り、単なる頼み事として捉えてくれて良いから」

「私は………」

 

 ユキノはじっとソウの瞳を見つめる。

 

「やらせてください。それが皆様の役に立てるのなら、構いません」

「そうか………悪いな」

「いえ、こんな大切なこと。私自身がお願いしたいぐらいです」

 

 優しい心を持った少女だと、ソウは思った。嫌な顔を一つもせず、二つ返事で了承してくれた彼女には感謝せざるを得ない。

 静観していた師匠があるものを取り出した。それをユキノへと渡す。

 それは、綺麗な水晶。

 

「あの………これは?」

「妾お手製の魔水晶じゃ。そうじゃのう………名付けて“絶界水晶”じゃな。通信魔水晶に細工をさせてもらってのう、それに魔力を込めると妾とアールに伝達するようにになっておる」

 

 “絶界水晶”とは要するに絶界魔法の使い手のみに伝達することが出来る魔水晶だ。これを使えれば、確実にアールか師匠に何かしらのことがあったと伝えることは出来る。

 

「これを使って、僕か師匠に潜入して分かったことを報告して欲しいんだ。僕は大魔闘演武に出てるから昼間は難しいけどね」

「通信しながら会話をすると盗聴される可能性があるからのう、直接話すのが最善じゃ。連絡を取るのは、お主が独り落ち着いた時でよい」

「僕達が空間を移動してユキノの元に行くから、部屋か誰も近寄らないとこがいいかな」

「りょ、了解しました」

 

 ユキノは戸惑いながらも受けとる。

 

「最後にあくまで調べることが優先だが、何かユキノの身に起きれば、自分の安全を確保することを最優先としてほしい。一番大事なのはユキノ自身だからな。ユキノがその時したいことをすればいい。例え、それで俺の約束が破ることになっても俺は責めたりしないから」

「私のしたいこと?」

「これはユキノにしか出来ないことだが、だからと言ってやり遂げる必要もない。状況に応じて適切にして、無理はせずに頑張って欲しい」

 

 ユキノは力強く頷く。

 彼女は決意した。自分にしか出来ない役割を全うすることに。それは全て、自分を救ってくれた彼に対する初めの恩返しの為に。

 

「私は全力で頑張ります。皆様のお役に立てるのなら………そして、なんたって“私の命はソウ様のもの”ですから!!」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 真夜中。

 とある建物の屋根に一人、ローブ姿の人が立っていた。

 その人はローブの裾をぎっと握り締めると、夜空を見上げる。そして、あまりにも何もない清々しい空に似合わず、重苦しい声が響き轟かせた。

 

「許さない………!!絶対に………!!」

 

 大魔闘演武の水面下では着々と思惑が進んでいた。己の欲望の為、世界を守る為、使命を果たす為、各々の思考が交差するなか、その日は着実に近付いていた。

 

 

続く────────────────────────────




裏設定:最後のシーン

 原作通りに進めてはあまり期待感がないと思い、急遽オリジナルの要素を追加してみた。
 ほんの数分で思い付いたのを取り入れているので、背景が曖昧なのと矛盾点が生じている可能性が高い。
 奴の正体はギリギリまで明かすことはないが、それまでに当てられたら怖い。
 ヒントを与えるとすれば、未来ルーシィと同じく未来から来たことになる。

オリジナルの敵キャラってあり?(無しの場合だと、原作に出てきた敵キャラのいずれかを主人公が奪い倒す形となる予定)

  • あり
  • なし
  • ありよりのなし
  • なしよりのあり
  • どっちでも

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