FAIRY TAIL 波地空の竜   作:ソウソウ

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 前回までのあらすじ:
 ソウの過去の記憶を求め、旅へ。
 と意気込んだのもつかの間、ウェンディは気づけば知らない場所へと誘い込まれていた。真っ白な空間にポツンと立たされてしまう。
 隣にいたソウもまたウェンディと同様に謎の現象に巻き込まれていた。
 ソウがこの事態の中、取った行動は―――



3-1『手荒な歓迎』

 ◇◇◇

 

 謎の空間。

 

「………転移。あいつの仕業か」

「えっ!?ここは!?」

 

 辺りを見渡す。

 真っ白い床に何もない空間が占める。遠く向こうは真っ暗闇で何も見えない。

 

「心配することは無い。これは只の俺の友人によるいたず―――」

「ソウさん!?」

 

 隣にいた筈であるソウの姿が消失。

 代わりに岩石のような支柱がウェンディの視界を横切っている。

 

 ―――破砕音。

 

 一瞬で砕け散った岩石の支柱。

 それは正面から受け止めたソウが魔法で衝撃を加え、破壊した結果であった。

 

「くっ………油断してた」

 

 服の塵を払ったソウ。少しだけ立ち位置が後退している。

 特に目立った負傷はなく、ウェンディはホッとした。

 一撃KOの威力も秘めた渾身の一撃。

 不意討ちに近いそれを咄嗟に対処したソウの機転の高さは流石の一言。

 

「ソウさん!!大丈夫ですか!!」

「問題無い。それよりも、ウェンディ………」

「はい?」

「―――戦闘準備だ」

 

 ―――ドゴォン!!

 

 派手な着地と共に。

 ソウとウェンディの前に出現したのは一人の青年。

 ローブに身を包んでるので全容は知れず。

 ただ、ニヤリとした笑みだけは確認できた。

 

「随分と派手な挨拶だな」

「おう。喜んでもらえて何よりだ」

 

 ソウと青年が会話を始める。

 その内容にウェンディは困惑。今のが挨拶代わりのやり取りだとは信じられなかった。

 

「もう少し控えろってつったろ」

「と言いつつ、案外ノリノリだったな!」

「心臓に悪い」

「おっ?心臓が停止しても魔法で動かせると?………すげぇな」

「ぶっ飛ばすぞ?」

「望む所だ!!」

 

 軽口の応酬。

 

「な、何が………起きてるの?」

 

 ウェンディは振り返る。

 こんな状況になるまで、一体何があったのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 妖精の尻尾。

 

「んじゃ、レモン。留守番よろしく」

 

 扉を開放しつつ彼は言う。

 隣には期待に胸を膨らませて、そわそわしているウェンディ。

 

「は~い。ミラに紅茶淹れてもらう~」

「あんまり飲み過ぎるなよ………俺の財布的にも」

「ウェンディ、我が儘言わずにちゃんとするのよ」

「だ、大丈夫!!私だって一人でも依頼こなせるようになったんだし………多分」

 

 今回、レモンとシャルルは同行せず。

 つまり、純粋にソウとウェンディの二人旅となる。シャルルは不安そう。

 二人っきりという事実に気付いてしまったウェンディはポッと頬を赤く染めていたのは余談。

 二人だけなのはソウの記憶を呼び覚ます上で邪魔者は極力排除、当時の環境を出来る限り再現する為である。

 

「ソウも………ウェンディにもしもの事があれば、容赦しないから」

「今回は別に危険が高い依頼に行く訳じゃないし、想定外な事態にならない限り平気」

「その想定外とやらをピンポイントで引き当てるのがこのギルド(妖精の尻尾)じゃないかしら?」

「………善処するよ」

 

 視線を逸らしつつ答える。

 シャルルの発言は的を得ていた。実際、妖精の尻尾はトラブルメーカーが多い。予定では平穏に済む筈が、結果的に丸々町一個壊してしまったなんてのもこのギルドでは何故か日常茶飯事として処理される。

 ソウは比較的マシな部類に入る。やる時にはやってしまうが。

 

 そして―――

 

 シャルルもまた短い期間なのにも関わらず、彼の魔導士としての実力には一目置いていた。

 さっきの発言も本人は半分冗談のつもり。

 ウェンディ心配性のシャルルがすんなり二人旅を承諾したのも彼なら問題ないと信頼しているからだ。

 

 ―――と言うのも。

 

「ソウー!!もっと勝負しろーー!!」

「また今度な。ほい」

「うわぁぁああーー!!」

「ナツー!!待ってー!!」

 

 またナツが吹っ飛ばされた。

 その後を追い掛けるハッピーの背中を眺めるのも何度目になるだろうか。

 ソウが帰還、ギルドに滞在中の間では戦闘馬鹿のナツが懲りずに勝負を仕掛ける光景がよく見られる。

 他の魔導士はまたか、とチラ見してすぐ興味を無くす反応が多い。ウェンディとシャルルの場合、ナツの性格は知りつつもソウの対応方法は知らないのでその行方を見守っていた。

 特にウェンディはそわそわ、そわそわ。

 結果はご覧の通り。一瞬で蹴りがつく。

 ソウが無駄のない動きで、拳を振り翳すナツの猛威を避ける。とどめにナツの額に魔力を込めたデコピンを発射。

 魔法で強化されているので、あっさりとナツが吹き飛ばされて、勝負は終了。初めて見たときは目を疑ったものだ。

 

「んじゃ、行こうか、ウェンディ」

「はい!」

 

 元気よく返事をしたウェンディ。

 見送りにと多くの人が手を振る中、ソウとウェンディはギルドの外へと踏み入れる。

 

「………あれ?」

 

 そして―――二人の姿が消えた。

 

「今、何かした?」

「ソウの魔法じゃないか?」

「そっか。なら、平気だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 謎の空間。

 

「そう言えば、隣の子は誰だ?あんまり見ない顔だな」

 

 話は冒頭へ戻る。

 相手はソウと言葉の殴り合いに飽きたらしく、興味は別に移っていた。

 視線を向けられたウェンディは少し怯えつつも負けじと睨め付けようとする。が、効果は殆んど無い。むしろ、逆効果なのは本人にとって知らずが仏。

 

「どうやら、俺の妹らしい」

「なんだと………!!妹が居たのか」

「正直、俺も困惑してる。だから、俺の記憶を返して貰いに今日は来たって訳」

「そういうことなぁ~。事情は分かった。いや、オレとしては全然構わないが………師匠が素直に返してくれるとは思えない」

「分かってる。だからこそ、簡潔に言おう。お前も手伝え」

「なら、手合わせ願おうか!オレに勝てば考えてやらんこともないぞ!」

「だと思ったよ」

 

 両者、視線が鋭く光る。

 状況が飲み込めないウェンディはあたふたとするだけ。

 

「なぁ………あいつら呼ぼうか?」

 

 相手も流石にこのまま戦闘を行うのも気が乗らないと感じたらしい。

 ソウもウェンディを守りつつの戦闘となれば、魔法の制限がかなりキツイ。ありがたい申し出だ。

 

「ウェンディ、ちょっと離れてくれ」

「えっと、はい………でも、私ちょっと理解が追い付かないのですが………」

「それなら、私に任せて!説明なら大得意!」

「来るの早ぇな、おい」

「ずっと見てたからね!」

 

 くるり、と一回転。着地。

 赤の髪に深海より深い青色の瞳をキラキラと輝かせる活発そうな少女が決め台詞と共に参上した。

 

「だ、誰ですか!?」

「海の人魚と言えば、私の代名詞!海の滅竜魔法の使い手!"サンディー・サーフルト"だよ!」

「っ………!!」

「ドン引きされた!!ガーン!!」

 

 目元で二本の指を開いてキランとしたのが原因。

 

「こほん………兎も角、ここに居ると巻き込まれて危ないから私達は安全な場所まで避難するよ」

「ソウさん、本当に大丈夫なのでしょうか?」

「え?あっ。ソ~ウ~?まさか、説明してないの?」

「説明する暇なく飛ばされたからな。ウェンディ、安心して付いていくと良い」

「ですけど………」

「この前話した事、覚えてるか?」

「え?」

「滅竜魔導士の女の子が居るって話」

「あっ………もしかして………」

「そうだよ!その話は私の事だね!恐らくは!」

 

 わはは、と笑うサンディー。

 

「本来なら道中に話そうかと思ってたんだが………分からない事はサンディーに聞くといい」

「分かりました」

「じゃあ、行こうね~、ウェンディ」

「ちょっ!?えっ?何で私の名前を!?」

「全部、避難してから教える~」

 

 サンディーに手を引かれて。

 成すがままにウェンディはソウの元を離れていき、そして―――瞬きの合間に姿を消した。

 それはまさに雲隠れのごとき現象。

 

「さて………舞台は整ったぜ?」

 

 これも友人の魔法の仕業だとソウは知っている。

 故に動揺も不安もない。あるのは眼前の強敵に対しての高揚感。

 

「来い………()()()

「行くぞ!ソウ!!」

 

 刹那、二つの拳が大気を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3-2 へ続く。

 




 裏設定:ジュン・ガルトルク
 →ソウとは昔からの付き合いでライバル視をしている。実力はほぼ均衡状態。
 喧嘩早い一面もある中、己の信念に基づき忠実に遂行する紳士的な精神の持ち主。魔法は地の滅竜魔法。

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