転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
次は第四部でと言いましたが、書籍購入ありがとう短編です。
書籍がどうこう言いながら、内容は第三部終了後ですが。
『次』だった双子。その一人の話になります。
――それは、アーキノルカより討滅宣言が出た、その日のこと。
コノエは隠密用の外套に身を包み、一人城から抜け出した。
「………………」
何故そんなことをしたのかと言えば、城の中は討滅を祝ってどこもかしこもお祭り騒ぎだったからだ。居心地が悪かったから。なにせ、どこにいても声を掛けられ、礼を言われる状況だ。
コノエも感謝してくれる人々を悪く言うつもりはないが……流石に少し疲れてしまった。
(……あと、妙にメイドがギラギラした目で見てくるんだよな……)
それで避難しようと思って抜けだしたのが、今だった。
……なお、テルネリカはメルミナと帰国のための準備があるというので城にいる。置いてきた形だが、今の状況を思えば、メルミナの傍の方がよほど落ち着いていられるだろう。
なので、コノエはこちらもお祭り騒ぎの街を隠れながら通り抜けていって……。
(……それに)
……それに、そうだ。抜け出す理由がもう一つあった。
神国に帰る前にどうしても、しておきたいことが。
だから、コノエは市街地を抜けた後、郊外へと移動する。
そうして辿り着いたのは、山を抉って作った街の中でも少し小高い丘状になっている場所だった。
人が住む街よりも、少し
そこにあるのは――。
「…………」
――白翼十字が刻まれた、白い石が並ぶ場所。
つまりそこは、アーキノルカの墓場だった。
◆
コノエが目指していたのは、あの男と姫巫女ファティマの墓だった。
墓地の一角に二人並んで建てられている墓。明日には神都に帰るため、最後に一度参っておこうと前々から思っていた。
「……」
コノエはコートを脱ぎ、墓場の中へと入っていく。
高台故によく日が当たり、風通しが良い場所。
墓の周りには数多くの花が植えられ、風に吹かれて揺れている。
どこかから花の綿毛のようなものが流れてくる中をコノエは歩いて……。
「――うん?」
――そこでふと気付く。男と姫巫女の墓の前に、先客がいた。
一人の竜人の少女が膝を突き、祈りを捧げている。
しかも、その角と翼の色は……。
「………………」
「……え? コ、コノエ様?」
コノエが近づくと、少女が顔を上げる。その少女の顔に、コノエは見覚えがあった。
以前、『次』とコノエに名乗った、緑の少女。その双子の一人だった。
◆
少女はコノエを見る。
驚いた顔で数秒固まって。
「――コノエ様。失礼いたしました!」
慌てたように立ち上がり、頭を下げようとして――。
「こ、この度は誠に――!」
「……やめてくれ」
「――え?」
「……そういうのはいい。前と同じように、普通にしてくれ」
そういうのが嫌で逃げだしたコノエが溜息を吐くように言う。
すると少女は止まって何度か瞬きした。
少女はまた数秒固まって……肩から力を抜いた。
「――そう、ですか。では簡単にお礼をさせて頂ければと。……ありがとうございます。私も姉も、コノエ様に救われました」
「……どういたしまして。僕だけの成果じゃ、ないけれど」
少女の礼に、コノエがここしばらくずっと繰り返してきたように返す。
すると少女も皆と同じように、それでもありがとうございます、と言った。
「――――」
「――――」
二人の間に不思議な数秒間の沈黙が広がる。
少し、何もない時間があって――。
「――あ、祈りに来たんですよね。どうぞ」
「……ん、ああ」
少女が横にずれて、コノエに墓の前を勧めた。
コノエはそれに、目的を思い出す。
礼を言いつつ墓の前に膝を突いた。
「……………………」
……目を瞑り、祈る。報告する。
報告することは、魔王の討滅宣言が出たこと、熾天結界が解除されたこと。そして、託された願いをきっと叶えられたこと。
報告して、礼を言う。同じ日本人として冥福を祈る。
……まあ、日本人としてと言いつつ、祈るのは仏様ではなくて神様だけど。
【……!】
どこかからか声が聞こえたような気がしつつ、コノエは目を開ける。
……すると、少女はコノエの横で姫巫女の方の墓を見ていた。
彼女はすぐにコノエの視線に気づく。
「実は、遠い親戚なんです」
「……なるほど」
言われてみれば、少女も記憶で見た姫巫女も同じように髪も角も翼も緑色だ。
男が綺麗だと言っていた、エメラルドのような色だった。
「今日、報告したかったんです。時間を取って、きちんと終わったんだって伝えたかった。……だから私、
少女が一人、と強調するようにアクセントを置いて話す。
それにコノエは……。
「……?」
……そういえば、今日は相方がいないんだなと思った。今までに何度か会ったはずだが、そのときは必ず姉妹二人で居たはずだ。
そっくりな外見をした双子の少女。同じ顔に同じような恰好をしていて……話し方も二人一緒に話すような感じだったのが印象的だった、ような。
……あまり会っていないのでうろ覚えだけれど。
(……あれ、というか……今目の前にいるのは二人のうちどちらだ?)
そして、そこでコノエは遅れてそう思う。同じような恰好をしていた双子の少女。
名前は確か、コレットとエレニカだったような……。
「……ああ、私はコレットです」
「……」
内心困っていると、少女――コレットがそう言って笑う。
悟られたコノエは目を泳がせて……でも少女は、いえいえ良いんですと首を振った。
「だって、分かり辛くしていたのは私たちですから」
「…………うん?」
――分かり、辛く?
「……はい。実は私たち、今まで無理して色々なものを二人で揃えていたんです」
「…………??」
「昔、二人で全部同じようにしようと決めて……ずっとそうやって生きてきました」
どういうことかと眉を顰めるコノエに、コレットは目を細める。
……そうして、ゆっくりと話し始めた。そのきっかけは――
「――二十五年前です。私たちは、二十五年前に『次』とそのさらに『次』になりました」
「……!」
「貴族として、決まりました。フォニア様が王族として二十の若さで継承したように。私たちが貴族として、あの方の次に継承しなければならないと」
継承できなくなった本来の『次』とそのさらに『次』の代わりとして選ばれたのだと言う。
他に誰もなれる人がいなかったから、本来はあり得ない子供のフォニアと二人が選ばれたと。
三人を襲った、唐突な死の宣告。
三人共に、それまであった未来の大半が奪われた。
――しかし、と少女は呟く。
私たちとフォニア様には決定的に違うことが一つありましたと。
「私たちは、当然ですけど二人います。つまり――私たちのどちらが先かを、選ぶことになりました。
「……!」
「そして、当時はまだ幼かったので、もう少し成長してから決める、と。そういうことになったんです」
――機を見て、王様が決めることになりました。
そう、コレットは大きく息を吐く。
「でも、私たちは……それが、どうしても嫌だったんです。自分が選ばれるのも嫌だったし――相手が選ばれるのも、同じくらい嫌だった」
「――」
「選ばれたくなかった。避けられない未来だとしても、いつかは選ばれるとしても、その日を引き延ばしていたかった。直前まで、選ばれなければいいと思った。だから……」
そこで、コレットは遠くを見る。
遠くを見て、懐かしむような顔をする。
「だから、どちらかが言いました。差を付けないようにしよう、と。選ぶ理由がなければ、最後の最後までは大丈夫だと」
今思えば、完全に子供の浅知恵ですけどね、とコレットは苦笑する。
でも、当時はそれしかないと思ったんです、と。
「それで、私たちは、いつも一緒にいるようになりました。いつも同じ格好をするようになりました。二人で一緒に話すようになりました」
「………………」
「本当は、似てるのは顔だけでした。でも、無理に合わせていました。性格も好みも全然違うのに、互いの間を取るようにして生きてきました」
コレットは自分の髪に触れる。肩口くらいまでの長さの緑の髪。
服に触れる。白を基調とした、丈の長いバトルドレス。
「髪は、エレニカの好み。服は、私の好みです」
「……」
「まあ、結局、王様も私たちの意思を酌んでくださったのか、選ぶことはなかったんですけれど。……なので、年を取って、何度か止めようかと話し合ったこともありまして――でも、結局続けることにしました。やっぱり、怖かったんです。明確に差がついて、どちらが先に継承するべきと決まるのが怖かった。王様が決めなくても、私たちが自分で決めようとするのが怖かった」
自分の方が優秀だから。相手の方が優秀だから。自分の方が性格が悪いから、相手の方が性格が悪いから。そうやって比較するのが怖かった。そうコレットは言う。
「
「…………」
「――でも、少し前。それが全て変わったんです」
とん、と。足音がする。コレットがコノエに一歩近づいた音だ。
今、
「コノエ様、一つ、教えていただきたいことがあります」
「…………ああ」
「……私たちは――本当に」
「……」
「本当にもう…………選ばれることは、ないのですか?」
「……ああ、そうだ」
コレットの問いに、コノエは深く頷いて返す。願いを受け取ったものとして。
魔王は討滅された。確かに殺した。男の願いは、確かに魔王に届いた。
数十日の調査は終わり、今日結界は解かれた。世界中から集まってきた数多の固有魔法で魔王の死は証明され、討滅は宣言された。魔王はもう、二度と復活しない。
……だから、彼女たちが選ばれることは、決してない。
「……そう、ですか」
コレットは、小さく呟いて、俯く。
沈黙があって…………でも、少し遅れて、ぽたり、ぽたり、と。雫が地面に落ちる音がして――。
◆
――そして。
「……付き合わせてしまって、すみません」
「……いや」
しばらくして、二人は共に墓場から街への道を歩いていた。
両脇に花が植えられた坂道。気持ちのいい風が通る中を下っていく。
「……」
コノエがちらりと横を見ると、コレットは機嫌がよさそうに歩いている。
ニコニコとしていて、先ほどまで泣いていたのが嘘のようだった。
「……コノエ様?」
「……いや」
コノエの視線に気づいて、小首をかしげる。
少女はふわりと笑って……それに、コノエは反応に困って目を泳がせ――。
「…………」
「――ん」
――そのときだった、ふと、強い風が、二人の間を通り抜ける。
風でコレットの髪が流れて、それを手で軽く押さえて……。
「…………あ」
そこで、コレットが何かに気付いたような声を出す。
「コノエ様。そういえば」
「……?」
「お連れのエルフの方、髪が長かったですね」
「…………うん? ……まあ」
「先日金髪が風になびいているのを見ました」
それがどうしたのだろうと見るコノエに、コレットはふふふと笑う。
笑って、少し駆け出す。トントンと坂を下って行く。
数歩降りたところで、くるりと振り返る。
「――実は、ですね」
舞うように、とても楽しそうに、植えられた花を背にして。
そして――
「――私、ちょっと髪を伸ばしてみようかなって」
二人ではなく一人の少女は、はにかむように笑いながら、そう言った。
書籍一巻発売中です。よろしくお願いしますね……。
第五部まで……行きたいから……
特典情報など、詳しい情報は活動報告に載せてあるので、是非。
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あと、活動報告にXに投稿してた裏話(第一部)を投稿しました。
第二部以降は、そのうちに。