転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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3/21(金)から第四部を開始するので、その前に短編を一話更新です。
カクヨムのサポーターで一カ月くらい前に投稿したものです。
時系列的には第三部後、第四部前ですね。
(※現在カクヨムサポーターにギフトのお礼として短編を先行公開しています。先行公開です。今回の短編のように、一定期間後に全て本編か活動報告で全体公開します。なのでサポーターにならなければ読めない短編はありません)


短編:図書館とテルネリカ

 ――学舎からの帰り道。

 長い階段の途中、コノエはふと顔を上げ、横を見た。

 

「………………」

 

 すると、そこには都の東区画がある。学舎と王城を中心に円形に作られた都、その東側だ。

 ちなみにコノエが普段暮らしている宿は、都の南区画になる。

 

「………………」

 

 コノエは、なんとなく階段の途中で立ち止まり、東区画を眺める。

 並ぶ建物と、そこを歩く人々。一際目に付く巨大な立方体型の建物に、高い煙突から煙をモクモクと吐いている円形の建物。派手な色で光る装飾が施された建物もあった。

 

 ……そして、そんな街の様子を見て、コノエは思う。

 

(――そういえば、あっちの方行ったことないな)

 

 アデプトになり、学舎から下りてしばらくが経った。しかし、コノエは東区画に向かったことが一度もない。というか、東区画だけでなく西区画にも北区画にも行ったことがない。

 

 知っているのは宿がある南区だけだ。他の区画はこうして高台からゆっくり眺めたこともなかった。視界には入っていたものの、それだけ。

 ……いや、正確に言えば巨大立方体だけは少し気になってたけれど。

 

 ともかく、都よりも先日フォニアと歩いたアーキノルカの方がよく知っている可能性すらある。都には二十五年住んでるのに。なので……。

 

(……あちらには、どんなものがあるのだろうか)

 

 今更ながら、コノエはそう思った。学舎から出て、百日くらいが過ぎた昼のことだった。

 

 ◆

 

「東区ですか? あちらには娯楽施設が集まっています」

 

 コノエは宿に戻り、早速テルネリカに問いかける。すると、そんな答えが返ってきた。

 

「色々とあるようですね。劇や楽団の演奏が日夜行われている大劇場に、冒険者が集まる闘技場、街外れには飛行魔法で空中遊泳できる施設なども」

「……なるほど?」

「民の憩いの場である大浴場に、メルミナが代表を務める商会の本部店舗も東区です。……ああ、そういえば最近異世界人の方が映画館というものを作ったと聞きました」

 

 テルネリカは、コノエが手渡したコートにブラシをかけながら言う。

 それにコノエは……そんなに色々あるのかと驚く。全然知らなかった。

 

 ……というか、さらっと流されたけど空中遊泳とは?

 コノエが問いかけると、テルネリカが解説をしてくれる。なんでも一定空間の中を三次元的に泳げる感じなのだとか。もちろん窒息もしない。

 

 なんかすごいなと感心するコノエに、テルネリカは子供に大人気ですと笑う。

 そして、その後もいくつか施設を説明してくれて――。

 

「――しかし、色々と挙げましたが」

「……?」

「やはり神国で一番有名な施設と言えば、あそこでしょうか」

 

 ……あそこ?

 

 首を傾げるコノエに、テルネリカはブラッシングが終わったコートを掛け、向き直る。

 目を合わせて、両手の指先を合わせ、少し楽しそうに言った。

 

「――大図書館です」

 

 ◆

 

「……これ、図書館だったのか」

 

 ――それから少しの時間が経って。コノエは一つの建物の前でそう呟く。

 その建物は巨大な立方体の形をしていた。一辺が百メートルはありそうな巨大な正方形で作られた建造物だ。前々からこれだけは少し気になってたヤツ。

 

 二人は先の話の後、せっかくだし今日は予定もないので行ってみようか、ということで大図書館に来ていた。

 

「立方体なのは、空間魔法での拡張がやりやすいからだそうですね。少しでも中の空間を広くするためにこうなっているのだとか。……あ、入り口はあっちです」

「……ん、ああ」

 

 コノエはテルネリカと共に、図書館の入り口へ足を向ける。

 その途中、テルネリカが図書館について説明してくれて……。

 

「ここは、世界的にもかなり有名な図書館でして、蔵書量は世界一とも言われています。数百年前に造られて以来拡張を続けておりまして、全ての本を読んだものは一人もいないのだとか。この国の生命神様が、知識と発展を是とする分体(おかた)だからこその施設ですね」

「……へぇ」

「しかも最近、機械式の魔陣印刷が発明されたので、これからはもっと蔵書量が増えると言われています。学問の道を歩む者にとっては聖地のような場所、と言えるでしょうか」

 

 なんだかいつもよりどこか楽しそうな気がするテルネリカの話に頷きながら、コノエは入り口で受付を済ませ中に入る。

 そして、二重三重に張り巡らされた防犯用の結界を通り抜けていくと――。

 

「――――」

 

 ――そこには、一面の本棚があった。数十メートル四方はある空間を本と本棚が埋め尽くしている。受付と中央の広場を除けば、どこを見ても、本、本、本。本しかない。

 しかも、気配を探ると目の前の部屋は、百以上はある部屋の中の一つに過ぎないことも理解できた。右にも左にも奥にも上にも下にも似たような部屋が沢山ある。

 

「……これは、すごいな」

「はい。これが我が国が誇る、イリシア大図書館です」

 

 あまりの規模感に少し圧倒されつつ内部に歩いていく。

 まず受付に向かうとそこには案内図があった。館内全体の見取り図があって、部屋ごとに名前がついている。ちなみに今居る部屋は『新規』と名がついていた。新刊の部屋らしい。

 

 その隣の部屋を見ていくと『魔法』と書かれた部屋が十ほどあり、その反対には『法律』『経済』『教育』『歴史』『生物』『思想』『政治』『物語』などと書かれている。どうやら部屋毎にジャンルが割り当てられているようだった。

 

 ……なお、先ほどから図書館内で会話しているが、この図書館は読書コーナーに防音用の結界が貼られているので会話は可能らしい。

 

「…………すごいな」

 

 地球とは桁が違う大きさと設備に、何度目かにすごいと言いながら見取り図を見ていく。

 そして、一階の図をざっと見終えると、次に二階の図を覗き――。

 

 ――『教官』『教官』『教官』

 

「…………………………?」

 

 すると、一番最初にそれが目に入ってきた。二階の見取り図だ。現在地のちょうど真上にある場所に、『教官』とあった。しかも三部屋。

 コノエは一瞬混乱しつつ、ああ、教育に関することかなと思い……。

 

 ……いや、教育は一階にあったような。

 

「………………」

 

 コノエは、見取り図をよくよく見てみる。『教官』の枠の中には小さな文字で詳細が色々書かれていた。そこには……。

 

 ……確かに、『レナティアリカ』の文字があった。教官の名前だ。

 

「……………………………………………………………………………」

 

 ………………教官ってジャンルなのか。

 

「………………」

「あ、教官殿の部屋ですか? 教官殿は千年以上前から数えきれないくらいの功績を残しておられますので、三部屋でも手狭なくらいだそうですよ」

 

 驚いていると、しかしテルネリカは当然のように言う。それにコノエとしては、なんかもうすごいな、としか言えなくて――

 

 ◆

 

 ――そんなあれこれに驚いた後。

 でもまあ教官だしそんなものかとコノエは気を取り直す。

 

「では、コノエ様。どこのコーナーに向かいますか?」

「……どうしようか」

 

 問いかけられて、改めて見取り図を見る。

 ついでに周囲を見渡し……。

 

「………………」

 

 ……いや、しかし。

 どこへ行くかと聞かれると困るな、と思う。

 

 なにせ、あまりに本が多すぎる。多すぎるから逆に困る。

 背表紙の上を目が滑っていく感じだった。

 

 そもそもコノエはこの世界の本を知らない。学舎で使った教本以外では、寮にシリーズで置かれていた教官伝説くらいだ。他には何も読んだことがない。

 ここは新規の部屋なので色々なジャンルが並べられているけれど、作者名には当然誰一人馴染みがないし、誰が面白いのかも分からない。

 

 だから、コノエは困って……。

 

「………………うん?」

「コノエ様?」

 

 ……でも、そこで。ふと気づく。

 目の前でテルネリカがなんだかすごくニコニコしていた。いつもより楽しげな雰囲気。

 

 それに、そういえば、さっきからずっとそうだなと思った。

 なのでコノエは少し考えて……そうだ、と思い付く。

 

「……テルネリカ、良かったら君のお勧めの本を教えてほしい」

「……え?」

 

 なんとなく気付いたのだけれど、テルネリカは本が好きなのだろうと思う。

 口調も表情も仕草も、なんというか弾んでいるような感じだ。

 

 そんなテルネリカの様子に、コノエは気付けた。

 弾んでいるのは僅かなので、少し前のコノエなら気付かなかったかもしれないけれど、今日のコノエは気付くことが出来た。

 

 ……何故だろうか? コノエには分からない。

 でも気付けたことを、コノエはなんだかとても嬉しく思った。

 

 ――だから。

 

「……テルネリカ、僕は、君の好きなものが知りたい」

「――――」

 

 今、目を大きく見開いている少女のことを、コノエはもっと知りたいと思った。

 それに、そうだ。テルネリカもあの日、アーキノルカの宿の上で……。

 

『――私は、あなたが今どんなことを想っているのかを、知りたいです』

 

 ……確かに、そう言ってくれたから。

 

「……教えてくれないだろうか」

「――――はい!」

 

 すると、テルネリカが笑う。嬉しそうに笑う。

 えへへと笑って、では行きましょう! とコノエの前を歩き出す。

 

 一緒に歩いて、物語のコーナーまで行って。

 そして本棚から次々と本を抜き取って、コノエの腕に積んでいき――。

 

 ◆

 

 ――しばらくの時間が経って。二人は図書館から出てくる。

 コノエの両手には本が詰まった紙袋があって、テルネリカの手にも本が数冊あった。

 

 テルネリカが持っているのは、歩いている途中に偶々コノエが見つけた『銀灯英雄伝説』で、寮にあった教官の本だった。そういえばこれ面白かったなと呟いたら、じゃあ私もと。

 

「……テルネリカ。君のも僕が持とうか?」

「いいえ! 私が持って歩きたいんです!」

 

 せっかくコノエ様が勧めてくれたんですから、とテルネリカが本を胸に抱いて言う。

 それにコノエは、照れくさくなって。

 

 ――二人は、歩き出す。すると、その背中を追いかけるように長い影が続く。

 図書館に長くいたからか、空はもう日が落ち始めていて赤らんでいた。

 道の両脇からは夕暮れ時に鳴く虫の声が聞こえてきて、それがどこか耳に優しくて。

 

「感想の言い合いしましょうね!」

「……ああ」

 

 二人は、一緒に。そんなことを言いながら、宿への道を帰っていった。

 




前書きにも書きましたが、3/21から第四部を開始しますのでよろしくお願いします。
また、実は今回から投稿時間を今までの17時から18時にずらそうと思っています。すみません、色々あって17時だと直前の推敲が難しくなりそうなので……。

あと、活動報告で没短編「姫巫女の妹」を全体公開してます。よかったら見に来ていただければと。
Xに投稿していた第一部、第二部の裏話を纏めたものも活動報告に投稿していますのでこちらもよかったら。
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