転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第三章の前にちょっとした短編を一話更新です。
カクヨムのサポーターで一カ月半くらい前に投稿したものです。
時系列は第三部後です。ネタバレになる部分も少しはあるので未読の方は注意してください。

(※現在カクヨムサポーターにギフトのお礼として短編を先行公開しています。先行公開です。今回の短編のように、一定期間後に全て本編か活動報告で全体公開します。なのでサポーターにならなければ読めない短編はありません)

2025/02/29第四部二章から第三部五章に移動しました


短編 風邪とテルネリカ

 ――その日、コノエは日が昇る前に目が覚めた。違和感があったからだ。

 すぐさまベッドから降りて気配を探る。宿の周囲、魔物の気配、人の流れ、魔力の有無、そして、近くにいる少女の――。

 

「――うん?」

 

 コノエは寝巻から着替えもせず、部屋を出る。

 急ぎ足でリビングへと向かった。

 

 するとそこには金髪の少女がいて、扉の音がしたからか振り返る。

 いつもより少し赤くなっている顔がコノエに向いた。

 

 コノエはそんなテルネリカの気配を改めて探る。すると――。

 

「――コノエ、様」

「……テルネリカ、風邪を引いたのか」

 

 ――テルネリカの生命反応に、僅かな違和感があった。

 ……風邪を引いたときの反応だった。

 

 ◆

 

 コノエは、すぐさまテルネリカをベッドへ連れて行く。

 症状は軽いから大丈夫だと言うテルネリカを、少し無理に部屋へ押し込んだ。

 

「……寝ているように」

「……はい」

 

 コノエは、初めて入るテルネリカの部屋に一瞬緊張し――今はそんなことを考えている場合じゃないと思考を断ち切り、彼女をベッドに連れて行く。

 

 風邪を引いたとき、ゆっくり寝て休息をとるべきなのは、地球も異世界も同じだ。……いや医療技術が発達していない分、異世界の方がその重要性は高いかもしれない。

 

「…………」

 

 ――コノエは、この世界の風邪について思い出す。

 二十年以上前に学舎で習ったことによれば――風邪は自然治癒に任せるのが基本だったはずだ。

 

 生命魔法で治す事は出来るし、当然アデプトのコノエは治せる。風邪を治すための魔法薬(ポーション)もある。しかし、それらは余程重症の場合か、どうしてもすぐに治さなければならない理由がある場合しか使わないと聞いていた。

 

 なんでも風邪の治癒を生命魔法や魔法薬に頼り続けていると免疫力が下がってしまうのだとか。病気に罹りやすくなったり体が弱くなってしまうようだ。

 つまり、今回のテルネリカの風邪も自然に治すべきで……。

 

「…………」

 

 ……コノエはテルネリカを寝かせた後、部屋を出る。

 そして看病しなければと思い、何が必要だろうかと考えた。

 

 まず消化の良いものは必要だよなと思って、次に魔法薬ではない薬が必要ではないかと思う。あとは……あとは?

 

「………………む」

 

 ……そこで、コノエは考えに詰まる。

 よく考えれば、コノエは今まで風邪の看病というものをされたことが無かった。いつも適当に薬を飲んで、適当なゼリー飲料を流し込んで寝ていた。

 

 子供の頃からずっとそうだ。それがコノエにとっての当たり前と言うヤツだった。 

 

「…………」

 

 でも、テルネリカにそんなことをさせるのは嫌で、だから、コノエはどうしようかと思い。

 

「――宿の従業員に、聞くか」

 

 ……少し考えて、そういう結論に至る。 

 わからないことは人に聞けばいい。当然のことだった。

 

 ◆

 

 ――しばらくして、コノエは色々と抱えてテルネリカの部屋に帰ってくる。

 テルネリカは顔の赤みが増していて、体温も上がってきているように見えた。

 

 コノエは段々と悪化しているテルネリカを心配しつつ、宿のレストランで用意してもらったパン粥と薬をベッドサイドに並べる。あとは体を冷やすときに使う保冷材のような物もあった。

 

「……テルネリカ、これを」

「……はい、ありがとうございます」

 

 一つ一つ差し出すと、テルネリカは申し訳なさそうに受け取る。

 そして、ゆっくりとパン粥を食べて、薬を飲んで。保冷剤を当てて、またベッドに横になった。

 

 そんなテルネリカに、コノエは……。

 

「……テルネリカ、何かして欲しいことがあったら言ってほしい」

「はい、ありがとうございます」

「……頼むよ。僕は看病というのをよく知らないから、言ってもらえないと分からないんだ」

「………………はい」

 

 テルネリカは頷き、コノエの両目を見る。

 そして、次に机の上に置かれたパン粥の器と薬の入った袋を見た。

 

 そのまま、じっと見つめて……。

 

「…………」

「…………」

 

 しばらく、無言の時間があった。コノエはテルネリカの傍にずっといて、テルネリカは横になっていた。そうしているうちに、だんだんとテルネリカの瞼が落ちてくる。

 

「…………」

 

 コノエは、眠るのかなと思った。良い夢を見て欲しいと思った。コノエは、風邪を引くと、いつも嫌な夢を見ていたから。

 苦しい時、悲しい夢を見るのはいつだって辛いから。

 

「…………コノエさま」

「……うん?」

 

 ふと、テルネリカがコノエの名前を呼ぶ。いつもと少し違う声だった。

 少しふわふわとした、子供のような声。

 

「…………コノエさまが風邪をひいたら、わたしが看病しますね」

「……ありがとう。でも僕はもう風邪は引かないよ」

「…………あぁ、そうでした」

 

 コノエは、アデプトだ。だから風邪なんて引かない。

 病気の苦しみは二十年以上前の過去の記憶にしかなかった。

 

「…………じゃあ、コノエさま」

「……?」

「…………かぜをひいたふりを、してください」

「……え?」

 

 寝たふりをしたように、とテルネリカは言う。ふわふわとした声で。

 それにコノエは何度か瞬きする。風邪を引いたふりって。

 

「…………わたし、コノエさまを、かんびょう、したいです」

「……それは……どうかな」

「…………ふふふ」

 

 ふわふわと、テルネリカは笑う。

 そして、最後にコノエを見て――目を閉じた。

 

「………………」

 

 ……コノエは、そんなテルネリカの寝顔を見る。

 しばらく見て、立ち上がって、部屋を出た。

 

 水場に皿とコップを運んで、洗う。

 冷たい水の温度を感じながら、丁寧に洗った。

 

「………………」

 

 そして、なんとなく、思った。

 看病すると言ったテルネリカの言葉に。

 

 幼い日、風邪で一人横になる自分を思い出す。

 重い体。苦しい息、鈍い痛み。嫌な夢。

 

 もしあの日、テルネリカがいたらと――。

 

「…………はは」

 

 ――ありえないことを考える自分に苦笑しながら。

 でも、そんな下らない妄想が、何故か、嫌じゃなかった。

 

 




月曜から第三章を始めるのでよろしくお願いします
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