転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第2話 検証実験

 ――固有魔法検証実験。

 それが何かといえば、名前の通り固有魔法の力を検証するための実験だった。

 

 固有魔法。覚醒者の願いが形になった魔法。

 世界でただ一つの力。二人が全く同じ固有魔法を持つなんてことはありえない。どれだけ似ている力があったとしても、必ず違いがある。そういう魔法だ。

 

 故に、固有魔法に前例なんて存在しないし、使い方を教えてくれる人なんてどこにもいない。普通の魔法のような教本なんてありえない。

 

 また、固有魔法は(いし)渇望(ねがい)が作り出すものではあるけれど……いいや、だからこそ、使用者に詳細な使い方を教えてくれたりはしない。

 だって、それはそうだ。どんな人間が己自身の愛を、欲望を、在り方を完全に理解できるというのだろう。

 

 もちろん使ってみれば、その力をなんとなくは理解できる。けれどあくまでも、なんとなくでしかない。

 

 何が出来るか、何が出来ないか。何度使えるのか。周囲の状況でどう変わるのか。どんなものと相性が良いのか、悪いのか。

 そういう、己の魔法(ぶき)に対する理解。戦う者であれば当然把握しておくべきもの。それを検証し、解析し、なんとなくではなく己の武器にする。

 

 そのために行うのが、検証実験であって――。

 

 ◆

 

「……右、消費は十」

「正解。消費量は前回と同じ。次はコップ五つね」

 

 ――そのために、コノエは今、訓練場の片隅でメルミナと向き合っていた。目の前には、三つの木製のコップが並んでいて、正解と言いつつメルミナがコップをすべて倒すと、右側の一つからお菓子、クッキーが出てくる。

 

 そして今度はメルミナが五つのコップを並べ、コノエが目を瞑っている間にクッキーを仕込む。

 コノエはそれを、金色に変わった瞳で並んだコップを見る。金の祝福――コノエを導く聖花の権能は、ふわりと浮かぶ一片の花弁を見た。

 

「……左から二つ目、消費は十五」

「正解。こちらも前回と同様、と……じゃあ、次は仕込むクッキーを変えるわよ」

 

 メルミナは淡々と作業を進めていく。クッキーを片付け、小さな紙袋を取り出す。その中からは、先ほどとはまた違うクッキーが出てきた。

 素朴な外見のクッキー。それがどんなものなのかをコノエは用意する前の段階から知っていた。

 

「さっきのは市販品だけど、これは神様お手製のクッキーよ。今日の実験のために朝早くから焼いて頂いた物になるわ」

「……ああ」

「そして、もう一度言っておくけれど……もし間違えたら、あなたはこれを食べられないから。あなたのためにと神様が焼いて下さったのに食べないなんて、あの方は悲しむでしょうね……」

 

 メルミナがそう言って、クッキーをコップの中に隠す。三つ並んだコップを、コノエは悲しそうな顔をしている神様の顔を思い浮かべながら見て――。

 

「……真ん中。消費は……二、もないな。一くらいか……?」

「……またずいぶんと減ったわね。消費五を下回るのはコップの実験じゃ初めてじゃない?」

 

 まあ、気持ちは分かるけれど、とメルミナは言いつつ、今度は五つコップを並べ神様のクッキーを隠す。

 

 ……そのような感じで、実験は続き―― 

 

 ◆

 

 ――そして、しばらく時間が経った頃。

 

「これまでの実験の結果を見る限り、この祝福は力の消費量があなたの欲や願い――渇望によって変わるみたいね」

「……ああ」

 

 メルミナが実験のデータを見ながら、これまでの五回の実験を総括して結論を出す。

 どうやら、金の権能はそういう力のようだった。

 

 コノエが道に迷ったとき、その答えを導き出す権能。魔王の力を解き明かし、かの男の過去を見通した力。それは、使用自体には制限がない。どんなものにも使える。例えば無くした財布を探したり魔物の巣を探したり出来るし、先ほどのように三つの中から正解を当てるようなことも出来る。ギャンブルで正解を知ることも可能だった。

 

 ……しかしその一方で、答えを出す対象によって使う力の量には大きな差があった。

 先の例で言えば、同じ探すでも財布は消費二十、魔物は消費八。もちろん難易度は魔物の方が余程高い。そして正解を当てるなら、コップは三つで消費十、ギャンブルは八十を超えた。

 

 この消費という数値は、テルネリカから授かった時点の最大量を百として算出されている。なのでギャンブルに使用した場合、たった一回で力の大半を使い果たしてしまうということになる。

 金の祝福は、魔王の領域では男の記憶をコノエに見せ、熾天結界の壁の中から隠れた魔王を探し出すことも出来たのに、だ。

 

 この差は何から発生しているのか。それを調べた結果わかったのが――。

 

「――あなたが対象をどれほど望んでいるかによって、力の消費量が変わる魔法。……かなり特殊な条件よね。同じようなクッキーなのに、神様が悲しむかどうかで消費が十分の一になるなんて」

「……ああ」

 

 コノエの願いによって性能が変化する固有魔法。それが、金の祝福の在り方だった。

 

「コノエ、あなたとテルネリカ相手に言葉を飾る気はないから率直に言うけど、この固有魔法、強力だけど使い勝手はあまり良くないわよ」

「…………そう、だな」

 

 テルネリカから貰った力なので、悪いようには言いたくないが……しかし、一人の戦士として現実的に見るとその通りだった。

 燃費が渇望という曖昧なもので極端に上下する力。同じことでも状況次第で使用回数に差が出るとなれば、安定した運用は出来そうになかった。

 

 固有魔法の中でも扱いが難しい条件……いや、難しい条件だからこそ、満たせば魔王を殺せる程に強力になったと言うべきか。

 

「……」

 

 メルミナの千里眼のような普段使いはし辛いな、とコノエは思う。

 渇望が無ければ消費が激しすぎるし、余程強く願っていることでなければ魂の力があっという間に尽きてしまいそうだ。力の補充にはテルネリカに会う必要があるのでなおさらだった。

 

「…………」

 

 ……まだ、あの『日課』も慣れないし、ともコノエは思いつつ――。

 

 ◆

 

「――でも、今回の実験で検証は一先ず終わりね。次は……もうしばらく先になるかしら」

「……ああ。ありがとう。手伝ってもらえて助かった」

「どういたしまして。でも私も昔はあなたに手伝ってもらったし、お互い様よ」

 

 ――そして、検証の後。コップや机などの後片付けをする。

 穏やかな雰囲気。二人で会話しながら道具をまとめていた。

 

「……本当はもう少し検証に付き合ってあげたかったけど、ごめんなさい。私もそろそろ姉さんの方が」

「……ああ、分かってる。もうすぐ体が完成するんだよな」

 

 ええ、と嬉しそうにメルミナが頷く。それは、数十日前の開拓村と茸の一件で救出された彼女の姉のことだ。

 取り戻した魂を入れる体を作ってあげるのだと、メルミナは各所を走り回っていた。アーキノルカへ向かって瘴石採掘などをしていたのもその一環だった。

 

 そんなあれこれの努力が実を結び、もうすぐで体が完成するとの知らせが入ったのがほんの数日前のこと。それからメルミナはずっと嬉しそうで、コノエとしてもよかったなと――。

 

「――あ、でも忙しいと言っても、あなたの論功行賞には出席するから。楽しみにしてるわ」

「……う」

 

 ――そこで、論功行賞、という言葉にコノエの顔が軽く引きつる。

 だってそれは、今あまり思い出したくない言葉であって……。

 

「――あら?」

「……うん?」

 

 ……そのときだった。二人は訓練場に向かってくる気配に気づく。

 二人がよく知っている気配。誰よりもしなやかで強靭な気配が階段を下って来る。

 

 そして、扉が開いて……

 

「あ、コノエ。もう検証は終わった?」

「……教官」

 

 銀色の髪の女性が入り口から顔を出す。

 教官。コノエの師匠がふわふわの髪を揺らしながら入ってきた。

 

「話があるんだけど、ちょっといいかな? ……あ、片づけが終わった後でいいから」

「……はい」

 

 教官は入り口の壁に背中を預けるように立つ。

 

 それにコノエは……話ってなんだろうか、もしかして論功行賞(アレ)だろうか、論功行賞(アレ)じゃないと良いな……、と思いつつ作業の手を早める。ちらりとメルミナを見ると、彼女は頷き、共に手を早めてくれた。

 

 メルミナと、まとめた道具を鞄に詰めていく。

 屈んでいて、一つの鞄を二人で覗き込むような体勢。

 

「………………」

「……ねえ」

「……うん?」

「姉さんのことだけど、今度少し時間を作ってくれる?」

 

 そんな詰め込み作業の途中、メルミナが手を止めずに呟く。

 囁くような大きさの声。でも耳を強化しなくても十分に聞こえる距離だった。

 

「姉さんにあなたを紹介したいの」

「……ああ、わかった」

 

 少し照れくさそうにメルミナが言って、コノエはなるほどと思う。

 コノエとしても先日の茸の一件では世話になったし、一度礼を言わなければと思っていた。

 

 なので、わかったと気軽に頷いて……

 

「お願いね。仲良くしてくれると嬉しいわ」

「…………えっ」

 

 ……仲、良く? 僕が?

 予想外な言葉にコノエは目を泳がせ、僕には難しいのではと呟く。

 

 しかし、そんなコノエに、メルミナはあなたなら大丈夫よ、と言って、コノエはいやいや、僕だからダメなんじゃないかと。

 困って、おろおろとするコノエにメルミナは楽しそうに笑って――。

 

 ◆

 

 ――そうしている間に、片づけが終わる。鞄の留め具を止め、コノエとメルミナは立ち上がる。

 鞄をメルミナに預け、そのままコノエは教官の方へと足を向けて。

 

「……ああ、あと」

「……?」

「約束、そろそろ決めなさいよ。……待ってるんだから」

 

 ……そこで、背中からメルミナの声。

 コノエの動き出していた足が止まる。……約束。

 

『……もし、もしもの話だけれど、色んな事が解決したら』

『そのときは……か、可愛い私が、なんでも一つ……』

『――よくよく、考えて』

 

 ――開拓村で交わした、そんな約束があった。アーキノルカの前に書架でも話をした。一つ、言うことを聞く約束。

 コノエは二度の記憶を浮かべる。思い出したのではない。頭にはずっとあった。よくよく考えて、と言われたのだから。

 

「…………」

 

 しかし、コノエは……まだ決められていなかった。

 それは、コノエには分からなかったからだ。()()()()()()()、分からなかった。

 

 ……だから、コノエは迷うように口を閉じて……。

 

「…………へぇ」

「…………?」

 

 と、そこでコノエの背中に、一歩近づいてくる気配があった。

 メルミナが一歩、また一歩と近づいて来る。ゆっくりとした足取り。

 

「……ねぇ、いつまでも決めないようなら」

 

 メルミナの気配が変わった気がした。不思議な気配。

 なんだろうかとコノエが思っているうちにすぐ後ろまで来る。

 

 ……そして――。

 

「願い事――私が勝手に決めるわよ?」

 

 ――そう、囁くように、言った。

 

「…………え?」

 

 それは……それは?

 コノエが振り向くと、メルミナはいつものようににっこりと笑っている。

 

 ……でも、笑顔は同じなのに、その雰囲気は、なんだかいつもと全然違う気がして。

 

「……」

 

 コノエは何と言っていいか分からなくて、また教官の元へ歩き出し――。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「…………?」

 

 ――その一方、そんな二人の様子を。

 普段教官と呼ばれている彼女は、おや? という目で見ていたりもした。

 

 

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