転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第4話 カメラ

 ――そして、コノエと教官は会議室へと向かう。

 階段を上がって、部屋に入る。すると会議室の中は机に資料が積み上げられ、黒板にはびっしりと当日の予定や客の名前が書かれていた。

 

 コノエは山のようになっている資料に思わず目を逸らして、黒板の今回の招待客の錚々(そうそう)たる名前と肩書に目を伏せつつ。

 

 しかしやると決めた以上は真面目に机に着き、教官から当日の予定の説明を受ける。全体の細かい流れと歴史的な意義、有名どころの招待客の名前と家を習う。基本立っているだけとはいえ、今後のためにきちんと把握しておきなさいと言われ、コノエは苦手ながらも頭の普段使わない部分を必死に稼働させる。

 

 そのまま、しばしの時間が過ぎ――。

 

 ◆

 

【――お疲れ様、二人とも調子はどう?】

「――神様」

 

 ――どれくらい時間が経っただろうか。ふと部屋の扉が開いて神様が入って来る。

 神様は手にバスケットを持っていて、その中にはお茶のポットとお菓子が入っている。そして……なんだろうか。肩に普段は持っていない大きな荷物を掛けていた。肩ひものついた箱型の荷物。

 

【根を詰めるのも良くないから、休憩しよう?】

「……はい、ありがとうございます」

 

 箱を机にゴトリと置いたあと、神様はカップにお茶を淹れてくれる。お菓子もバスケットから出そうとして……コノエはそこで訓練に使ったクッキーを思い出し、コートのポケットから取り出す。

 

【あ、検証上手くいった?】

「……はい、おかげさまで。色々わかりました」

 

 ならよかった、と神様は頷く。

 こんなことならいつでも言ってね、と。

 

 静かに笑って……次に、ふとコノエの瞳を覗き込んだ。

 瞳の色は金ではなく普段の色だが、神様の赤い瞳はその奥を見つめているようだった。

 

 そうして、視線を落とし、机に広がった式典の資料を見て――残念そうに眉を下げる。

 

【……あの娘(テルネリカ)も本当は論功行賞で表彰出来ればよかったんだけど】

「……はい」

 

 コノエは、神様の言葉に黒板を見る。そこにはコノエの名前やあの男、フォニアの名前はあってもテルネリカの名前はない。

 本当は魔王討伐の立役者としてコノエの横に並ぶはずだったテルネリカの名前が何故除外されたのかと言えば……それは、危険だったからだ。

 

 具体的に言えば、邪神に目を付けられ暗殺される可能性があるから。

 金の祝福は条件こそ難しいが、その力は極めて強力だ。魔王討伐をも成し遂げたギミック看破の権能。邪神からすれば邪魔としか言いようがない。

 

 そんな権能をアデプトに与える固有魔法使いが、ただの民間人――元貴族なので強めではあるが、邪神にとっては誤差でしかない――だと知られれば、何か手を打ってくる可能性は十分にあった。過去には似たような事例で実際に襲われたこともあるらしい。

 

 それで、コノエとテルネリカ、メルミナ、フォニア、そして教官で話し合って決めたのが……。

 

「……金の固有魔法は、僕のものだということになりましたからね」

 

 固有魔法の持ち主の偽装だった。金の権能は、祝福ではなくコノエ自身の固有魔法だということになった。

 そうすれば、テルネリカが狙われることは無いだろうと。

 

 まあ、もちろん、メルミナのように気配の探知が得意なアデプトなら偽装に気付くけれど、普通のアデプトはそんなことをいちいち吹聴したりはしない。それでも万が一のときは教官か神様が口止めすることになっていた。

 

 ……そういう訳で今回の論功行賞にテルネリカの名前はない。コノエの身内として招待はされているが、それだけだ。

 なので、テルネリカにはその代わりに――。

 

【あの娘には、別の形でちゃんと報いてあげないと。……あ、昨日届いた手紙に書かれていたのは全部大丈夫だって伝えておいてくれる?】

「……! はい、ありがとうございます。彼女もきっと喜びます」

 

 ――表彰の代わりに、神様から別の形で報酬が渡されることになっていた。

 その報酬にとテルネリカが望んだのは、主に二つになる。

 

 まず一つ目が……生命神の加護の付与。

 

『……コノエ様。私は強くなりたいです』

 

 少し前、テルネリカはコノエにそう言った。守られるだけでなく、守ることが出来るようになりたいと。

 最初はかつてシルメニアの一件で失った境界神の加護という案もあったけれど、本当に強くなりたいなら、やはり生命神の加護が一番だとテルネリカは言っていた。

 

 そして、二つ目の報酬が……。

 

『……その、許されるのなら、ですが。……かつて、命令違反の罰則で失った所持品を、返していただければと』

 

 テルネリカが貴族であった時の所持品の返却だった。

 可能であるのなら、形見の品として持っておきたいと彼女は言った。中でも一つ、出来ることなら返して欲しいものがあると。

 

『母から受け継いだドレスがあるんです。大切な日に、一度だけ着るドレス。そうして、また次に託すドレスです』

 

 テルネリカは数日前、そう言いながら手紙に希望を書いていた。

 つまり――加護と、財産。かつてお家取り潰しで失ったものを取り戻したいと、そんな願いだ。

 

【――加護はもちろんあげるし、家の持ち物も全部返すから。というより、謙虚過ぎるよ。もっとたくさん望んでもいいって伝えておいて】

「……はい、伝えておきます」

 

 神様はそう苦笑して……それにコノエは、テルネリカの期待するような、少し不安なような顔を思い出して胸を撫でおろし――。

 

 ◆

 

 ――お茶を飲んだ後は、また論功行賞の話だった。

 今度は神様も交えて三人で予定の確認をしていく。

 

 話す内容は、神様が参加することもあって、論功行賞の中でもメインと言えるイベント――つまり、神様の本体が降臨する際の流れについてだった。

 

 ……ちなみに、先日話の流れで神様(ぶんたい)最高神様(ほんたい)の関係について質問したところ、【うーん、私であって、私じゃない感じ?】と返ってきた。なんだか色々あるらしい。なんだか難しそうな気配があったのでコノエとしてはそれ以上は聞かなかった。

 

「…………」

 

 ……ともあれ、生命神様降臨の場面についての話だ。

 当然、祭典の中でも特別多くの人が集まって、豪華で、注目される場面になる。

 

 関わっている人の数も尋常ではなくて、最高神様が降臨するということがどれだけ大変な事なのかを思い知らされるような感じだった。聞くところによると、魔王の討滅宣言から論功行賞まで五十日かかったうちの三十日分ほどはここの準備に使ったようだ。

 

 ……また、一番注目される場面なので、この数年で開発されたカメラで写真を撮って、それを世界中からやって来る招待客に配るらしい。

 世界中にとか目立ち過ぎでコノエとしては気が重くて……しかし、あの男やフォニア、歴代の継承者の名前も写るそうなので……。

 

「…………」

【…………?】

「…………」

【…………その、もしかして】

「……?」

 

 ――でも、そんなときだった。

 世界中に写真かぁ……とコノエが遠い目をしていると、ふと神様から感情が伝わってくる。

 

【…………あなたは、写真、好きじゃない?】

「……え?」

 

 コノエの顔を見たからか、神様が、恐る恐る、と言う風に問いかけてくる。

 コノエはその質問に少し考えて……。

 

「…………」

 

 写真。好きじゃないのかと聞かれれば、その通りだった。日本にいた頃からだ。

 理由は……良くも悪くも、写真には記憶が残るからかもしれない。コノエには残したい記憶が無かった。

 

 まあ今回げんなりしてるのは写真嫌いだからというより、世界中に配られるからだけれど……。

 

(……うん?)

 

 と、そこで気付く。神様が、箱型の荷物に手で触れていた。今日最初から肩にかけていた荷物だ。大きくて黒い革製の箱。

 その表面には……よく見ると、小さくカメラと書かれていた。

 

 …………カメラ?

 見ていると、神様がその視線に気づき、慌てたようにカメラの文字を手で隠す。

 

【……あ、その、違うの。これはね、発注してたのが今朝届いたから折角だしって持ってきたの】

「…………」

【その、絶対撮りたいとかじゃなくて……晴れ姿だし、一緒に撮ったら思い出が残るっていうから少し興味があって注文しただけで……】

 

 神様は、違うの、と両手を横に振る。

 

【別に、あなたが嫌ならそれでいいの】

「……いや、その」

 

 神様はにっこりと笑う。笑って、そんな思念を伝えてくる。

 ……でも、その一方、ぐんにゃりと翼が垂れていて、手はペタペタと名残惜し気にカメラの箱を触っていた。

 

 ……どうやら、神様は写真を撮りたいらしい。それはコノエにも理解できた。どうして自分なんかと撮りたがるのか、とも思うけれど。

 

「…………ええと」

 

 とにかく、コノエは少し考える。

 写真が世界にとか、そういうのは一旦置いておいて、己自身と神様と写真のことだけを考える。

 

 ……神様からの最初の質問。コノエは写真が好きじゃないのかと問われれば。

 

「その、正直に言えば、写真は好きじゃないです」

【……! ……うん】

 

 コノエは、ただ正直に言う。

 ……でも。 

 

「……でも……多分、神様と撮るのなら、嫌じゃない、気がします」

【…………!!】

 

 そうだ。神様と一緒にと思うと、全然嫌じゃなかった。

 だから、なんとなく少し目を逸らしつつ、神様にそう言って……。

 

【――じゃあ、今から撮ろう!】

「……え? 今から」

【うん、今から! 沢山、思い出を残すの】

 

 ぱあ、と神様は嬉しそうに笑って、早速箱を開ける。

 魔道具の大きなカメラを取り出して、成り行きを見守っていた教官に渡し……コノエを窓際まで連れていく。窓際に二人並んで立って。

 

 ――カシャリ、と。

 

 そんな音が、部屋の中に何度か響いた。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「………………」

 

 ――そしてそんな、窓際に並ぶ二人をカメラのファインダー越しに見ながら。

 微妙に引きつった顔で笑う弟子に、教官は感慨深げに頷いていたりした。

 

 

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