転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第5話 師匠

 ――ちょっとした写真撮影会の後。神様は自室に帰った。

 その後、コノエと教官は中断していた話を最後まで終わらせ、会議室を出る。

 

 二人並んで学舎の入り口へと足を向ける。

 コノエはもう帰宅するため、教官は鍵を返しがてら事務室で仕事をするためだ。

 

「…………んん」

 

 コノエは、廊下を歩きながら小さく背伸びをする。

 固まった体が少し解れる気がして……。

 

「……はぁ」

 

 そうして、大きく息を吐く。疲れを吐き出すように。

 色々あった――特に論功行賞関係――けれど、今日は終わりだった。コノエはほっとして、思わず表情が緩み。

 

「そんなに疲れた? 肉体的には全然大したことはしてないはずだけど」

 

 ……そこで、教官からの言葉が飛んでくる。

 教官は仕方ないなぁ、という感じの顔をしていた。

 

「……ええ、やっぱりこういう、人前に立つようなことは苦手です」

「うーん、人前が苦手、か。本当に君はなんていうか……逆だよね」

「…………?」

 

 ……逆? とコノエが首を傾げる。

 すると教官は少し苦笑して。

 

「アデプトってのはね。基本的に目立ちたがり屋ばかりなんだよ」

「……そうなんですか?」

「そりゃそうだよ。だってみんな固有魔法使いだし。世界を自分の願いで改変しようとするくらいには自己主張激しいし。あとは、全員成し遂げた人間だから自信家ばかりだし――それに」

 

 ――それに。皆、絶対に叶えたい願いを持っているからね、と教官は言う。

 世の中の叶えるのが難しいことの大半は、目立って人を集めた方が叶え易いから、と。

 

「…………」

 

 そんな教官の言葉に、コノエはなんとなくメルミナを想像する。

 もし仮に、メルミナが論功行賞に出ることになっていたら。彼女はきっと喜んで出席するし、誰よりも前に出るし、写真だって進んで撮るだろう。なんとなくそう思う。

 

 だって、メルミナは汚染地を救いたがっている。その為には金と人が必要で、集めるためには、出来るだけ目立って商会の宣伝をした方が良い。つまりそういうことだ。

 

「特に若いうちはねー……目立ちたがりが多いよね」

「……そういうものですか」

「年取ると丸くなるアデプトも結構いるけど。……まあそれは、長く生きてると積み重なるものがあるからかな。人生いろいろあるから」

「……なるほど」

「……」

「……」

「……今、千年以上生きてるだけあって年寄りの気持ちが流石によくおわかりですねって思った?」

「……思ってません」

 

 首を振るコノエに……教官は本当に? 私を老人扱いしてない? と目を覗き込んでくる。

 後ろめたいところはないけれど、距離が近いのでコノエは目を逸らしつつ。

 

「ふーん。……とにかく、少し脱線したけど、何が言いたいかと言えば、君はそういうのとは真逆ってことだよ。自己主張が弱いというか、謙虚というか。まあ、そこが君の良いところでもあるんだけど」

「…………」

「でも……師匠としては、君はもう少し堂々と胸を張ってもいい、とは思うけどね」

 

 教官は、なにせ魔王を殺したんだし、と言う。

 世界中の誰もが認めることを成し遂げたんだから、と。

 

「ほら、魔王を殺したんだから俺が最強だぜ! みたいなのでもいいよ?」

「……いやいや」

 

 それはもう完全に僕とは別人になっている、とコノエは苦笑しつつ。

 ……そもそも、すぐ傍でずっと本当の最強を見続けてきたのに、そんなこと口が裂けても言えるはずがないわけで。

 

「……そういうのは、無理です」

「そう? まあでも、そこまでじゃなくても、もう少し胸を張りなよ。……私の自慢の弟子なんだからさ」

「…………」

 

 ……いや、そう言われると、流石に照れるけれど。コノエは自分の頬が熱くなるのを感じつつ、目を逸らす。

 でも、嬉しいけれど、胸を張れと言われても、どうすればいいかよく分からなかった。

 

 そんなコノエを、教官は今日何度目かに仕方ないなぁ、みたいな目で苦笑し――。

 

 ◆

 

 ――そうして、二人は廊下を歩き、階段を下りていく。

 玄関までの短い時間、なんてことのない話をしながら。これまで何度も繰り返してきたように。当然のように。

 

「そういえば君、屋敷はどうするの? そろそろ決まった?」

「……いえ。アーキノルカの一件の後、状況が変わりすぎたので難航してるところです」

「ああ、そうか。もう下手な所には住めないよね。でも中央の辺りは空いてる土地がないだろうし……。うーん、私の方でも探してみるよ」

「……いいんですか? ありがとうございます」

 

 前々から悩んでいる家の話から始まり、他にも日常の話や論功行賞の準備中にあったちょっとしたトラブルなどの話をする。コノエは説明したり、相槌を打ったり、礼を言ったりして。

 

 ……そして、これはそんな話の途中。

 教官がふと、あ、と呟いた。

 

「それはそうと、今日見てて思ったんだけどさ」

「……はい」

「――君、女の子関係すごいことになってない?」

「……?」

 

 …………すごいこと?

 コノエが不思議そうな顔をすると、教官は何度か頷きつつ。

 

「……なんというか、感慨深いよね。戦闘方面はともかく、まさか君がこっちでも色々成長してくれるとは」

「……?」

「二十五年前に出会ったときとは、もう別人だよね」

「…………そう、ですか?」

 

 教官は当時を思い出すように、少し遠い目をする。

 そして、さっきは神様(あのかた)もすごく楽しそうにしてたし、と呟いて……。

 

「アデプトになってたった百日くらいでここまで変わるなんてね。師匠として、嬉しく思うよ」

「……ありがとう、ございます?」

「…………ただ、ね」

 

 ……でも、そこでふと、教官の顔が少し曇る。

 

「成長は嬉しいんだけど、ちょっと心配でもあるんだよね。なんだか急に人数が増えてる気がして」

「……??」

「……大丈夫? 前も言ったけど、固有持ちは重い娘が多いんだよ?」

「……ええと」

 

 何を大丈夫かと聞かれているのかよく分からなくて、コノエは首を傾げる。

 そんなコノエに、教官はますます不安そうな顔をする。

 

「心配だな……今のところは私も知ってる娘ばかりだし、全員良い娘だからいいけどさ。この調子でポンポン増えていったら大変なことになるんじゃない?」

「……は、はぁ」

「注意しないとダメだよ? さもないと――」

 

 そこまで言って、教官は真剣な顔でコノエを見つめる。

 そして……

 

「――次の娘は、とんでもなく重かったり、びっくりするくらい(こじ)らせてたり、色々面倒くさかったりするかもしれないよ?」

「――――」

 

 だから、女の子とは適切な距離を取るように、と教官は言う。

 コノエはそれに、よく分からなかったけれど――雰囲気に気圧されてなんとなく頷いた。

 

「…………うーん」

「…………」

 

 教官はそれにまた不安そうな顔をして、でもそれ以上何も言わなかった。

 二人はそのまま、しばらく無言で歩き続けて……。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……ところで、今、結婚もしてないのに偉そうに男女関係を語るのやめた方がいいって思った?」

「……思ってません」 

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