転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
――そして、時間は望む望まずに関わらず過ぎていき、十日が経つ。
魔王殺しの論功行賞、当日がやってきた。
その日、神国の王城は静かな熱気に包まれていた。
招待客全てが立場ある者である故に無遠慮に騒ぎ出すことは無く、しかし、声は少なくとも漏れだす熱があった。
招待客たちの視線の先に居るのは、一人の男だ。
異世界人にして、アデプト。看破の瞳を持つという――魔王殺しの、英雄。
「――わぁ」
銀の英雄と共に立つ男を見て、幼い少年が小さく声を出す。
英雄譚を読み聞かせて欲しいと毎晩侍女にせがむような年頃の少年。彼にとっては、まるで本の中に入りこんだかのような光景だった。
「――――」
そして、そんな少年に大人たちは温かい目を向け、小さく頷く。
彼らにもその気持ちがよく分かったからだ。
王族、貴族。彼らは幼い日より神との契約に従い、邪神との戦いに備えて己を鍛え上げる。走り、武器を振るい、魔物と戦う。
故にこそ、彼らは英雄たちの積み重ねたものを理解する。その歩んできた道のりを仰ぎ見る。成し遂げた伝説に憧れる。
――この世界の王族や貴族は、英雄が好きなのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…………」
――コノエは、そんな人々の真ん中で、ただ立っていた。
予定通り、数少ない出番以外は、ただ静かに立っていた。
少しの出番も、教官や教官秘書の助けを借りて一つ一つ熟していった。
五十日かけて徹底的に準備された式典に予想外なことは何も無く、すべて順調だった。
渡される報酬の額の桁に改めて少し目を疑ったり、授かった勲章の仰々しい名前に遠い目をしたり、合間に笑顔で握手を求めてくる人の肩書が大国の王家ばかりだったり、その王家の嫡男という少年が自分相手にガチガチに緊張して震えているのに驚いたりしたものの、まあそれくらいだ。
コノエの内心的には突き刺さる視線に疲労を感じたし、王子様の緊張に己が今立っている場所を考えさせられたりしたけれど、式典的には問題なかった。
「――では、いと貴きお方より、お言葉を頂きます」
だから、プログラムは淡々と進んでいき、その時がやってくる。
コノエは、謁見の間の最奥に掛けられた薄布の奥、安置された神像の前で跪いていた。
「――――」
――光が、満ちる。白い光だ。
命の光。清浄なる色。全ての生命を包み込む慈悲の輝き。
そんな光が広間を包んで、消える。
そして、薄布が開いていき――。
「――――」
――そこには、一人の女性の姿があった。
真っ白な美しい女性。外見年齢は二十代後半ほどか。背中には真っ白な翼が生えている。
コノエの知る
この世界の最高神。始まりの神にして――母なる神。
絶世の美という言葉を形にしたような女性が、穏やかな微笑を浮かべてコノエを見ていた。
【――こちらへ】
……神様の意志が伝わってくる。
コノエはそれにゆっくりと立ち上がり、一歩二歩と歩く。
【――】
「――」
コノエと、神様の視線が重なる。心に、その感情が伝わってくる。
外見は違えども、コノエが知る神様と同じ温もりがコノエの心に触れる。……いや、もしかしたら、もっと強いかもしれない。
ただ包み込むような、そこに居るだけで肯定されるような。
コノエがずっと知らなかった、ただただ温かい何かがあった。
「…………」
そして、コノエは神様の目の前に辿り着く。
そこでもう一度跪き、頭を垂れた。
……神様の小さく呼吸する音がして――。
「――アデプト、コノエ。そして、アーキノルカの者たち」
――声が響く。意志ではない声。穏やかで、優しい声だった。
そうして、神様はゆっくりと立ち上がり、コノエに一歩近づく。近づいて、膝を折り、手を伸ばす。
「…………」
【――――】
コノエに神様の右手が伸びる、コノエの頬に触れ――。
(――え?)
――その瞬間、手を通じて伝わってきたものに、コノエは驚き神様を見る。
神様はコノエのすぐ傍で静かに微笑み、でも少しだけ眉を下げていた。
そして……。
「――よく、やってくれました。あなたの、あなた達の為した偉業に、深い感謝を」
「……もったいない、お言葉です」
神様の言葉に、コノエは驚いたまま、ただ予定されていた通りに返す。
すると、数秒の空白の後――。
「「「「「「「――――!!!」」」」」」」
――謁見の間にワッと歓声が広がる。誰かが新たな魔王殺しの誕生だと叫ぶ。拍手と喝采が広い空間を包み込む。
【――】
喜びと興奮の声が響く中、神様は最後に、今度は頬ではなくコノエの首筋を撫で、立ち上がり、椅子に戻る。
……神様は最後に一度穏やかに笑い――次の瞬間には元の石像に戻っていた。
「…………」
……コノエは、神様の像を見つめて。
◆
――式典は、終わる。その後は立食パーティーに移行した。
パーティー会場を歩くコノエの手元には莫大な白金貨の枚数が書かれた証書と勲章があった。その他にも色々と。人が、人生をかけて追い求めるような物の山。
……しかし、それらを手にしているコノエの脳裏に浮かぶのは、ただ一つのことだけだった。
(……あれは)
コノエは、何度も思い返す。神様が触れた頬から伝わってきたもの。
それは……
【――■■■■】
言葉にならない想いと……胸を貫くような、深い悲しみと後悔だった。
◆
――そうして、その日の全ての予定が終わる。
コノエは疑問を抱いたまま、カッコよかったです! と褒めてくれるテルネリカと共に城から宿に戻ろうとして。
「コノエ、ちょっと待ってもらえるかな?」
「……教官? メルミナ?」
入り口のホールで、教官に声をかけられる。その隣には何故かメルミナがいた。
コノエは何だろうかと首を傾げ……。
「悪いけれど、少し時間を貰える? 実はこれから少し付き合って欲しいところがあって」
「……?」
「テルネリカ嬢はメルミナに任せて、君だけで頼むよ」
教官が言うと、メルミナが近づいて来て、テルネリカの手を引いて連れて行く。
テルネリカは少し首を傾げながらも、大人しく付いていった。
「じゃあ、こっちに来て」
「……はい」
そしてコノエも教官に先導され、ついていく。
教官は城の一階を奥に進んでいき……一つの地下へ降りていく階段へ辿り着く。
さらにその階段を下って行くと。
(――うん?)
途中、コノエは隠された結界の気配を感じる。
地下深くだ。幾重にも隠蔽術式が張り巡らされた階段の、さらに下。
「……?」
階段は長く続いていて、薄暗い魔道具の明かりだけで照らされていた。
しかも何故か妙に魔道具の間隔が広くて、不気味な気配が漂っている。
もし今目の前を歩いているのが教官でなかったら思わず立ち止まっていたかもしれないくらいには嫌な雰囲気だった。
「…………??」
こんなところに何があるんだろうと思いながら下っていく。
そして、そのうちに階段は終わって、石造りの扉が姿を現す。
教官が扉を開けて、共に中に入ると……。
「……これは?」
中には、巨大な魔法陣が描かれていた。
真っ白な線で描かれた魔法陣だ。
「……よし、起動準備は出来てるね。時間も大丈夫」
「……?」
「ごめんね、突然こんなところに連れてきて。でも、印を貰うまでは伝えることも出来なかったからさ」
…………印?
コノエが首を傾げると、教官は指をその首に向ける。
そこは――。
「――最高神様に」
「……あ」
そうだ、先の論功行賞で、神様に撫でられた場所だった。
「魔王討伐の本当の報酬を渡すためには、それが必要だったんだよ」
「……報、酬?」
「そう。コノエ、今から君には、私と一緒に――
――神界へ、向かってもらう」
これで第四部一章は終わりです。
金曜から二章が始まりますので、またよろしくお願いします。
また、今回もXで人気投票をするのでよかったらお願いします。一人でも多くの人に投票してもらえたら嬉しいです。