転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
「……死の運命の予知と、回避方法、ですか?」
「そう。すごいでしょう?」
コノエはぽかんと口を開けて驚いて、それに教官は少し自慢げな顔でこれが魔王討伐の報酬だよ、と言う。それにコノエは、すごい、と同意した。
だって、つまりそれは――敵の不意打ちを知ることが出来るということだ。
己を殺し得る敵――唐突に現れる災厄や魔王、邪神による策謀を事前に知ることが出来る。しかも回避法まで教えて貰えるというのだから、凄まじい。
……コノエはただただ驚いて。
「そのために、私達は五十日に一度、ここに集まるんだよ。これからは君も集まることになる」
「……なる、ほど」
「……まあ、とは言っても、ここに集まっているのは全員一角の戦士たちだ。死の予言なんて滅多にないけどね」
だから、普段は死の運命が無いことを確認して、その後は集まった者同士で情報交換することが多いかな、と教官が言う。そんな説明を聞きながら、コノエはふと天井を見た。
「…………」
天井には人の目を
……それは、正直に言うと少し不気味な造形をしていて――でも、何故か、コノエはその紋章から温かいものを感じた。
◆
――そうして、話の後。
実際の予言は十二人のアデプトが全員が集まってから、ということで、少しの自由時間になる。
すると、コノエはまず、二人の男性に話しかけられる。改めて挨拶をして、握手したりした。
二人は気さくな態度でコノエに話しかけてくれて……コノエとしても同じ男のアデプトなので少しだけ気楽に会話が出来た。
コミュ障ながらに穏やかに会話をして、最後には今度一緒に酒でも飲もうという二人に、機会があればとコノエは返したりもして――。
「…………」
「…………」
「……もし。少しいいでしょうか?」
「……? はい」
二人との会話がちょうど途切れた、そのとき。
コノエは横から声をかけられる。そこには、桃色の聖女様がいた。
聖女様はコノエに、ちょいちょいと手招きしている。
コノエはそれに、何だろうと近づくと……。
「あなた――コノエさん、でいいでしょうか。よければ私と少しお話しませんか?」
「……えっと」
ニコニコと笑いながらの申し出に、コノエは少し考えて――頷く。別に断る理由は無かったからだ。男性陣二人とも話はしたし。
なお、少し考えたのは聖女様が美女だからだった。以前読んだ本では世界三大美女に入っていたくらいの美女。そしてコノエは相変わらず美人から逃げたくなるタイプのコミュ障だった。
……ともあれ、そういう訳で少し考えながらコノエが頷くと。
「よかった。……では、よろしくお願いします」
「……あ、はい」
聖女様はコノエに握手を求めるように手を差し出す。
それに、コノエは躊躇いがちに応えて――。
「……ふふ」
「――え?」
――そのとき。聖女様は突然、その手を少し強く握りしめた。
そうして、コノエが驚いているうちに、そのまま握った手を引いて歩き出す。
「……え、あの?」
混乱しながら問いかけるも、聖女様はふふふと笑うばかり。
コノエはそのまま、手を引かれるままに聖女様に付いて歩き――。
◆
「――ここなら、いいでしょうか」
「……ええと」
――少し歩いた先。コノエは神殿の一部屋に連れて行かれる。
聖女様はそこでコノエの手を離し、向き直った。
「突然ごめんなさい。少し内緒の話をしたかったのです」
「……内緒の、話?」
混乱するコノエに聖女様はええ、と頷く。
そして、にっこりと笑みを深めて……。
「――私の固有魔法を、あなたに教えておこうと思いまして」
◆
――聖女様の、固有魔法?
コノエはそれに少し考えて。
「……ええと、知ってますよ。『切断』でしょう?」
以前習ったことを、そのまま口に出す。
コノエは教官からそう教わっていた。そもそも聖女様は世界で最も有名なアデプトの一人なので、教わるまでもなく色んなところで目にする機会がある。
曰く、不可知の斬撃。全く認識できず、気が付いたら斬られている。そういう権能だ。二つ名の落花は、花弁が落ちるように自然と相手の体が切り刻まれて落ちていくから、らしい。
聖剣での白兵戦闘も巧みだという話だが、聖女様といえば、この権能が有名だった。
――形無き夢喰の魔王を存在ごと切り裂いた、切断の権能。
教えられるまでもなく、この世界の人間ならほぼ全ての人が知っているだろう。なのでコノエは知っています、と頬を掻いて……。
「――ああ、それは嘘です」
「……え?」
「邪神対策の嘘ですね。私の固有魔法の本当の力はもっと別のものになります」
しかし、聖女様はあっさりとそんなことを言う。
そして驚くコノエに、では説明しますねと言いながら、腰の鞄から小さなポーチを取り出す。開くと中には……裁縫道具だろうか、いくつかの針が入っていた。
その中の一本を彼女は取り出して――。
「――では、少し痛いので注意してくださいませ」
――唐突に、己の左手の人差し指に針を刺した。
すると……。
「……っ!」
コノエは自分の左手の指に突然の痛みを感じる。咄嗟に見ると、人差し指に小さな穴が開いていた。それはまるで、
「――どうぞ」
そこで聖女様が、コノエの指の横に自分の指を差し出す。
その二つを見比べると――
「…………これ、は」
「――これが私の固有魔法、『共有』です」
◆
――聖女様は、これは痛みを知るための魔法なんです、と言ってにっこりと笑った。
相手の痛みを私が知って、逆に私の痛みを相手に知ってもらうための魔法なんです、と。
「傷と痛みの共有。それが私の権能です。切断はこの力の応用ですね。たとえば――この力を使った状態で、私が自分の腕を切り落としたら、どうなると思いますか?」
「……相手の腕が切断される、と?」
正解です、と聖女様はパチパチと小さく拍手をする。
仕草は可愛いが、言っていることは全く可愛くない。
「戦いの前に、切断する場所を服やベルトで固定しておくのです。そうして、切断しても外見からは分からないようにする。あとは戦いの途中、いいタイミングで自分を斬って、相手に共有すれば……誰にも見えない斬撃の出来上がりです」
「………………なる、ほど」
「共有した後は治癒魔法で傷を治せば良いですから、その後の戦闘にも支障はありません。自画自賛になりますが、なかなか便利な権能ですよ」
「…………」
そこで、一人のアデプトとしてコノエは考える。戦士の性だ。
――もし自分が、聖女様と戦うことになったらどうなるかと。
先ほどの針の傷、コノエは傷が出来るまで気付けなかった。つまり、コノエでは権能に抵抗できないし、事前に察知することもできない。
聞かされた今なら対応も幾つか思いつくが、知らなければ――戦闘中に突然腕や足が落ちたりしたら、それは、勝てないだろう。
「ちなみに、この力でどうやって魔王と殺したのかと言えば……巷で言うような、存在を斬った、などではないのです」
夢の中に住む精神体の魔王だったので、傷の共有も出来ませんでしたから、と聖女様は言う。
ではどうやったのかと言えば――痛みを共有したのだと。
「痛みを共有して、二十日ほど私の腕を
「…………それは、また」
想像よりかなり
……しかし、存在を斬る、なんて意味がよく分からない方法よりは余程納得できた。
「――と、長くなりましたが、これが私の固有魔法です。理解して頂けましたか?」
「……はい」
コノエが頷くと、聖女様は嬉しそうにニコニコと笑う。
両手を胸の前で合わせて、よかった、と。
そして――。
「――では、前座はここまでにして、本題に入りましょうか」
「……え?」
……うん? ……え?
…………前座?
今この人、自分の固有魔法を前座って言った?
コノエが目を見開いていると、聖女様は少し頬を上気させニッコリと笑う。
「――レナ姉さまの話を、しましょう」
聖女様は言う。混沌の時代の話をしましょう、と。
「コノエさん、あなたは……千年前、レナ姉さまが