転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
「コノエさん、あなたは……千年前、レナ姉さまが世界が変えたことを知っていますか?」
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「コノエさん、あなたは……千年前、レナ姉さまが世界を変えたことを知っていますか?」
――これは千年前、混沌の時代が終わった話だ。
地上を数多の魔王が跋扈していた時代が、唐突に終わりを迎えたときの話。
――千年前、この世界には十七体の魔王がいた。
現代から見ると、あまりにも多くの魔王。この千年で生まれた魔王の数が四体であることを考えれば、比較にならないほどの数の魔王がいた。
何故そんなに魔王の数が多かったのかと言えば、千年前は魔物が
名前の通り王として魔王が君臨する国家を作り、組織的に人と敵対していたから。
当時の魔物は、ただ襲い掛かるのではなく、効率的に人を殺し、食べるための仕組みを作っていた。だからこその、十七という数だ。
記録によると、当時魔王に侵略された国は、取引を持ち掛けられていたらしい。
……そして、いくつかの国が、提案に頷いた。
数えきれないほどの人々が魔王に差し出され、殺されて喰われた。
それが、混沌の時代だった。
地上には魔が溢れ、容易く国を亡ぼせるような怪物が人の国を取り囲んでいた時代。明日には国が滅んでいるかもしれない。蹂躙され、尊厳を奪われてしまうかもしれない。人類は、そんな絶望の中にいて――。
――しかし、その時代は唐突に終止符を打たれた。
それを為したのは、たった二十人からなる部隊だった。
首狩り部隊。様々な名前で呼ばれている彼らだが、それが当時の部隊名だったと記録に残っている。最精鋭のアデプト二十人で構成されたその部隊は――魔物の国に潜入し、魔王の首を次から次へと狩っていった。
魔王の数は瞬く間に数を減らし、そしてトップを失った国は崩壊した。国という勢力自体が首狩り部隊の標的になるので、残された魔物達は散り散りになって逃げて行った。
僅か一年ほどの出来事。一年で魔物の国は全て滅び、混沌の時代は終わりを告げた。
――それを為した首狩り部隊のエースが、教官だ。
弱冠十六歳。十三歳で学舎に入り、三年でアデプトに至った人類最高の天才。部隊のリーダーだった原初のアデプトと共に魔王と相対し、その悉くを討ち滅ぼした英雄。
この百年ほどは天蓋竜が話題になることが多いが、かの偉業こそが教官の伝説の始まりだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――そういう感じ、でしょうか」
――と、まあ、そんなあれこれを、コノエは聖女様に言う。
聖女様の『千年前、レナ姉さまが世界を変えたことを知っていますか?』という問いの返答だった。
「よかった。ちゃんと知っているのですね。異世界人なので知識に欠けがある、と聞いていたので少し心配で。……ごめんなさい。馬鹿にするような質問でした」
「……いえ」
胸を撫で下ろしたり申し訳なさそうにする聖女様に、コノエは首を振る。
知識が欠けているのはコノエ自身、自覚している事だし。
「混沌の時代については、今あなたが説明してくれた通りです。十七の魔王を殺したのは姉さまとお師匠さま……所謂、原初のアデプトです。それも作戦が決行されたのは姉さまがアデプトになってから。つまり、姉さまがいたから、人類は今生き残っていると言っても過言ではありません」
――私は、あの当時、何の力もない子供でした。そう聖女様は言う。
「私は、千年前の混沌を知っています。いつ魔王が襲ってくるかも分からない恐怖も、ある日唐突に隣の国が滅ぶ絶望も」
「……」
「酷い時代でした。街は魔物に囲まれ、なかなか物資を運べなかったため、いつも食べ物は足りませんでした。……たまに、災害が面白半分で結界を殴るんです。破れずとも揺れる結界に、私達は頭を抱えて震えていることしか出来ませんでした。母はいつも、こんな世界に産んでしまってごめんなさいと泣いていて……あの悲しみと痛みは、きっと生涯忘れることは無いでしょう」
聖女様は少し、笑いながらも泣きそうな顔をしていた。そして。
「――姉さまのおかげなんです。姉さまのおかげで、魔物の国は滅んだ。そして、
過去の記録を見る限り、どうやら魔物の国を作るには、統率系の力を持った個体が必要なようです、と聖女様は言う。
「姉さまがいる限り、統率者の首を簡単に狩れるので国を作ってもすぐに滅んでしまいます。よほど特殊な能力を持っているのでない限り――物理的な攻撃が通用する限り、姉さまに敗北はありえませんから。姉さまは最強なので」
そうだ。教官は最強だ。コノエはそれを知っている。
「だから、姉さまは今の世界の要なんです。姉さまという最強が居るから、魔物は地上での大規模行動がとり辛く、せいぜいデーモンが砦を作る程度。結果として、魔物の被害は抑えられています」
「……」
「姉さまが世界を一人で守っていると言っても過言ではありません。絶対に失ってはならないのです。人類が邪神に勝利するその日まで、支えていかなければならない」
「……はい」
聖女様はコノエの瞳を見ながら言って、コノエはそれに頷いて返す。
すると聖女様は安堵したように息を吐いて――。
――でも、ふと、視線を下げる。
「……しかし、邪神もただ指をくわえて見ている訳ではありません。単純に強い魔王を十七体殺されたからか、この千年ほどは、明らかに姉さまを意識した魔王を作っています」
「……」
「殺しても復活する不死の魔王、触れることのできない夢喰の魔王、遥かな
結局、否定の魔王――天蓋竜は姉さまが殺してしまいましたが、本来、物理攻撃が通用しない魔王ばかりです、と聖女様は唇を噛む。
邪神は姉さまに殺されない魔王の研究を続けているのです、と。
「これからもきっと、邪神は姉さまへの対策を取り続けるでしょう。……姉さまは最強ですが無敵ではありません。万が一の可能性があります。例えば、先ほどの前座で話した私の固有魔法です」
「……え?」
「単刀直入に言いますと――私なら、姉さまを殺せる可能性があります」
そう言って、聖女様は己の心臓に手を当てる。
「私が姉さまの敵だとして――共有した状態の私を姉さまが殺せば、どうなると思いますか?」
「……それ、は」
「私は死にますが、姉さまも死にます。私の固有魔法は相打ちに向いているんです」
「――」
「それでも、もしかしたら姉さまなら勘で攻撃を止めたりするかもしれませんが……つまり、
魂を操作して、対象に特化した権能を作れるなんて――もし姉さまを対象にされたら、万が一があったかもしれません、と聖女様は言った。
「…………」
「…………」
そうして、その言葉を最後に数秒間の沈黙があった。
聖女様もコノエも何も言わなかった。聖女様はコノエの瞳を見つめて……。
――そこで、ふと。でも、だからこそ、と。聖女様はそう言って、目を細めた。
「コノエさん、先日あなたの話を聞いたとき、私、嬉しくなりました」
「……僕?」
「はい、看破の権能を持っていると聞いています。あの不死の魔王を見通し、策を見破って殺しきったギミック看破の権能。――搦手に強い、権能です」
聖女様は、安堵するように息を吐く。
「あなたの権能は、策を以て姉さまに相対する敵に対し、何よりも強い力を発揮するでしょう。だから私、そんなあなたが姉さまの傍にいてくれて、本当に安心したんです」
「…………」
「……運命神様の予言は、死と回避方法を教えてくれはしますが、回避するために足掻くのは人です。死の運命を覆すためには、戦わなければならない」
聖女様はそう言って、両手を胸の前で組む。
そうして、コノエを下から見上げて――。
「――だから、お願い。どうか、あなたの力で、姉さまを守って」
――聖女様は、祈るようにコノエに言った。