転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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※※※本日は二話同時更新で、こちらは二話目です。一話目を読んでいない人は前の話から読んで下さい!※※※


第24話 手

「――NUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!」

 

 茸は、叫びと共に魂を起動する。願いを掲げ、祈りを想う。

 胸の中にあるのは、ただ一つ。恋した彼女の輝き(あい)だった。

 

 茸は、その輝きのために、魂を回し――。

 

「――NU!」

 

 ――そこで、ギシリ、と茸の魂が軋む。無理な力の発動のせいだ。 

 

 一度死んだ魂が簡単に元通りになるはずがなくて、死体(うつわ)に押し込み、無理やり稼働させた魂は今にも崩壊しそうで。

 ……けれど、それを茸は彼女が送ってきた欠片(こいごころ)で無理やり繕う。死んだものは、もう二度と心を伝えられない。そんな当然の道理を、何よりも大切な想いで覆す。

 

 ――そうだ。この世界は、何よりも意思が力を持つ世界なのだから。

 

『――固有魔法(オリジン)

 

 そうして、作り上げるのは三つ目の魔法。世界を侵す、祈りの魔法。

 魂に刻む渇望(ねがい)は、ただ――っ!?

 

「――――NU!?」

 

 ――しかし、その瞬間だった。

 茸の魂を、悍ましいものが撫でた。

 

 それは憎悪であり、殺意であり、怒りだった。

 茸の根源より湧き上がってくる、絶望が、茸の魂に触れる。

 

 ――邪神の、手だった。

 邪神は、茸の根幹を成す部分に触れ――そこに組み込まれた、邪神の加護を掴み取る。

 

 ――()()()()()()()()()()()()

 

「――――NU、NUUUU!」

 

 茸は――その邪神の手に、()()()()()()()

 ただ、耐えながら固有魔法を完成させようとする。

 

 ――だって、これは当然だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 魔物は、人類の敵である。そういう風に作られた。そういう風に契約して生まれてきた。人類の敵であることが、加護の条件だった。

 つまり人を助けることは、与えられた加護への契約違反である。そして、この世界では、契約違反の代償は加護の剥奪をもって(あがな)われる。

 

「――――NU、NU、UU、U!」

 

 ――剝がされていく。茸の中から、邪神の加護が失われていく。

 それと同時に……茸の中から、()()()()()()()()()()()

 

 これもまた、当然だった。魔物は、人を殺せば殺すほど強くなる。魔物は人を喰えば食うほど賢くなる。それらは()()()()()()()()()()()()

 

 全ての魔物は、最初は普通の動物や植物などだった。トカゲに邪神が力を与え、竜になった。木に力を与え、トレントになった。狼に力を与え、ガルムになった。……そして、地に生える茸に力を与えて、魔物の茸になった。

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()

 

 それこそが、魔物が常に人の敵対者である理由の一つだった。ほぼ全ての人類――アデプトも知らない、魔物の真実。

 

「――――NU、U、NU」

 

 奪われていく。茸の内側から、何もかもが奪われていく。

 知能が奪われ、何も考えられなくなっていく。力が失われ、体を支えられなくなる。

 

 それでも、茸は魂に刻んだ渇望(おもい)を具現しようとして――。

 

「――――NU、U」

 

 ――ああ、けれど、寒い。どうしようもなく、寒い。

 寒くて、寂しくて、頭の中がそれだけで埋まっていく。

 

 だって、誰もいない。今自分は終わろうとしているのに、ただの茸に戻ろうとしているのに。誰も傍にいない。誰も、何も傍にいない。

 それが辛くて、悲しくて、どんどん何も考えられなくなる。

 

 原初の絶望(さみしさ)が、茸の心を埋め尽くしていって――。

 

「――――、nu?」

 

 ――でも、そのとき。

 何かが、茸の手に触れた。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――何故かと問われると、咄嗟だったとしかコノエには言いようが無かった。

 

 立ち上がった茸と、発動しようとする固有魔法。コノエは対応に迷い――しかし、突然茸は苦しみ始めて、体から力がどんどん抜けて行った。

 訳が分からないままに茸の体がぐらりと揺れて、目の前でマネキンのような掌が何かを求めるように宙を彷徨って――。

 

「――――」

 

 ――コノエは、気付いたら、その手を握っていた。

 

 何故握ったのかは、分からない。もしかしたら、ただ、条件反射で手を伸ばしただけかもしれないし、教官を助けるために打算で支えようとしたのかもしれない。

 

 ……それとも、もしかしたら――手を虚空に伸ばすその姿が、かつての自分と重なったからか。

 病院のベッドの上で一人、手を彷徨わせていた、誰も傍にいないままに死んでいこうとしていた自分と。

 

「…………」

 

 分からない。分からないままに、コノエは茸の手を握る。

 茸の目がコノエを向く。そして、ほんの数瞬、見つめ合った。

 

 握った手のひらは冷たくて、マネキンのようにツルツルとしていた。

 しかし、微かに、握り返すように、力が込められて――。

 

「――nu」

 

 穏やかな、声。そして、少しだけ茸の口元が笑うように歪む。魔物とは思えないくらい、穏やかな笑みだった。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――きっと、このとき。コノエは知っていては、駄目だった。

 どうやったら教官を救えるかなんて、知っていては駄目だった。コノエはきっと、自分の意志で茸の手を握らなければならなかった。

 

 コノエは、コノエとして茸の手を握った。

 それが、伝わった。茸にも伝わった。だから――。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「――nu」

 

 ――茸は、その瞬間、己から失われていく全てを忘れた。

 喪失感はどこかに行って、薄れていく意識は、なんてことなかった。

 

 ――だって、何もかもが消えて行っても。

 確かな温もりが、己の手を包んでくれていたから。最期のときに、傍にいてくれたから。

 

 ああ、そうだ。茸はずっと、これが――。

 

「――」

 

 茸は、固有魔法を回す。魂に刻まれた回路に、力を流し込む。

 そこにあるのは、全てが消えて行ってもなお、茸の中に残っている言葉だ。

 

 茸にとって、何よりも大切な言葉。憧れ、恋をした美しい願い(あい)

 

固有魔法(オリジン)――どうか、しあわせに』

 

 ――茸の体から、紫色の光が溢れる。

 かくして、第三の魔法は発現した。

 

 紫色の光が部屋を満たし、コノエたち三人を包み込んで――。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「――これは」

 

 ――するり、と三人の体が、地面へと潜っていく。

 包み込む紫色の光は下へ下へと、三人を運んでいく。

 

 地面の中でも苦しくはない。痛みもない。だって、それは救うための力だ。この魔法がどういう力を持つのか、コノエには分かった。この魔法の力は、魔法そのものが教えてくれた。メルミナを見ると、分かっていると小さく頷く。

 

 これは、送り届ける力だ。どんなに遠くても、どんなに不可能なことでも、きっと、送り届けるための力。かつて、メルミナの姉がメルミナを安全な場所へ送り届けたように。

 

 ――どうか、幸せに。

 きっとみんなを()()()()()()()来まで連れて行く力だった。

 

 潜っていく。光に運ばれて、三人は深く深く潜っていく。紫色の光が連れて行く。

 周囲には岩しか見えないが、凄まじい速度で運ばれているのが分かる。その先には、きっと……。

 

「…………」

 

 そうして、下りていくその途中。コノエは己の手の中を見る。

 握っていた掌の中には、茸が一つ乗っていた。

 

 あの茸と同じ色の、小さな茸。生命反応がある。邪神の気配がない、純粋な生命。

 コノエは、茸を見つめる。手を握った感触を思い出し、そっと、己の腰の鞄に入れて――。

 

 ◆

 

 ――下りていく。

 ――下りていく。

 ――下りていく。

 

 立ちはだかる岩盤を透過し、張り巡らされた罠を無視し、紫の輝きは下りて行く。

 気付き、追い縋る魔物(さいやく)をすり抜け、襲い来る魔法(オリジン)を回避する。

 

 下りて行く。深く、深く、星の奥まで。

 きっと、きっと、皆が笑っていられるように。

 

 そして――。

 

「―――――」

[――――!?、―――――!???!?]

 

 ――三人は、辿り着く。そこは予言に指し示された、銀の灯が落ちた先。

 

 直方体に抉られたその大部屋の()()()()で紫色の光は解ける。

 空中に放り出された三人の、そのすぐ真下には――

 

 ――闇の化身のような存在と、銀の結晶を抱え持つデーモンの塊が居た。




これで四章は終了です。ここからは結末まで一直線なので。是非お付き合いいただければと

第五章の更新ですが、書き溜めが多少あるので、一日おきの更新にしようと思っています。
次が11日、その次が13日、15日、17日って感じですね。
二巻も発売するので、なんとか頑張りたい……無理だったらすみません。

また、上にも書きましたが、書籍二巻が発売します!
6/10です! よろしくお願いします!

リンクも貼っておきますね……
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