転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
第25話 接敵
空中に放り出されたコノエは、見る。周囲の状況を確認する。
まず味方。隣にメルミナ。その向こうにティカ。ティカには既にメルミナが手を伸ばそうとしている。
次に、眼下には見えるのは三つ。まず無数のデーモンを混ぜ合わせたような塊。そしてデーモン塊が抱える――銀色の結晶。そして最後の一つが。
(――あれは)
闇を人型に固めたような、悍ましい気配を放つナニカ。
コノエは手の中に神威武装を作り出し――。
【――――!!!!】
その瞬間だった。コノエの奥で、声なき声が叫んだ。
神様だ。神様の感情が伝わってくる。それは――憤怒だった。二十五年間で初めて伝わってくる感情。神様は、今、これ以上ないほどに
【――邪神!】
「――――!」
コノエは即座に動く。金の権能で罠を確認しつつ、槍に魔力を収束し、魂の力を起動する。魔力は刹那の間に臨界して雷を放ち、魂によって周囲に無数のナイフが生み出される。
金の権能より伝わってくる答え。罠はない。銀の結晶を避ければ攻撃可能。
「――――!」
コノエは全力で槍とナイフを打ち放つ。この瞬間のコノエが出せる最大火力。邪神とデーモン塊は突然だったからか全く反応できていない。刃の群れは雷を纏い、敵を粉砕せんと放たれて――。
「――――LUUUUUUU!」
――まず、デーモン塊の体が刃と雷によって貫かれていく。銀の結晶を避けるために上部は避けたが、下部が瞬く間にズタズタになっていく。
同時にメルミナのレンズが空を走る。レンズは光線でデーモンの手を焼きつつ、
[――、――!]
そして邪神も貫かれる――その間際だった。突如邪神の足元を中心に影が広がる。広がった影は瞬く間に黒紫色に変わり、
影から、四振りの刃と、二つの盾が現れる。いいや、それだけじゃない。その奥からは暗い眼窩が現れる。頭蓋骨だ。大きな角が生えた鬼型の頭蓋骨が三つ。下には鎧に包まれた骨がむき出しの体。腕が六本生えていて、巨大な剣や鉾、盾を持っている。邪神の護衛か。
「「「SUUUUUUUUUAAAAAAAALYYYYYYYY!!」」」
三頭六腕のスケルトンが現れた。三つの頭が同時に叫び、六本の腕にそれぞれ持った二本の剣と二本の鉾、二つの盾を凄まじい速度で振り回す。
剣によって槍は落とされ、槍でナイフが薙ぎ払われる、盾が放つ黒い光によって討ち漏らしも弾いた。後ろに逸れたのは、無数のナイフの中で、ほんの数本。
盾の光は固有魔法だ。害ある物を弾く守護の魔法。
――災厄だった。
[――+――]
――そうして作られた一瞬の隙に、動き出した邪神が叫ぶ。
黒い光の向こうで、邪神の気配が薄れていく。……空間魔法だ。そのまま消えていって、後ろに逸れたナイフが当たったのかも分からなかった。
「――っ!」
……デーモンは殺せたが、邪神を逃がしてしまった。コノエは歯をギリ、と鳴らし――。
「――ひゃぁ!」
「――!?」
――しかし、悔やんでいる時間はなかった。
背後から、悲鳴――ティカの悲鳴が聞こえた。
目の前の
そして、その目の前には、メルミナが回収した銀色の結晶があって――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……え?」
――ティカは、呆然と煙を上げる己の掌を見る。
何があったのかと言えば、弾かれた。
メルミナのレンズに載せた結晶が、ティカに近づくと同時に
……そうだ、銀色の光。ティカが良く知っている……いいや、ティカ自身と言ってもいい力が、ティカを拒絶した。
いったい何故と、ティカはぽかんと口を開けて……。
『……………………のかな』
「……?」
そこで、ふと結晶が震える。ティカの耳に声が聞こえてくる。
大人の女性の声だ。母に似ている声。
『――これで、よかったのかな』
銀の結晶は、ティカにそう囁いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――そして、そのときメルミナは。
ティカの手を治療しながら、銀の結晶でもスケルトンでもなく、上を見ていた。この短い時間で、状況が変わりつつあることに気付いたからだ。
「……まずい」
メルミナは、感知した。それは現在地より上だ。地下だから気配が分かり辛いが……二十キロは地上に向かった先だろう。
そこに、
恐らくは、邪神が用意した防衛用の魔物だ。茸の権能ですり抜けてきたが、本来ならここにたどり着くまでに戦わなければならなかった魔物だろう。
しかも先頭はワーム型の災厄。固有魔法の力か、凄まじい速度で地中を掘り進んでいる。このままの速度で掘り進めれば――接敵まで、およそ二分。
――邪神の反撃だ。ただ逃げるのではなく、殺すための手を打ってきた。
「――コノエ、追手が来てる!」
「……!」
前に立つコノエの背中がびくりと跳ねる。そして気配を察知したのだろう、息を飲んだ。
それはそうだ。なにせ魔物の集団には
そんな数の災厄が流れ込んで来たら、もはや戦いにすらならない。蹂躙されるだけだ。そして、地下をこの速度で移動する敵から逃れるなどコノエとメルミナには不可能。
故に、助かるための方法は――メルミナが思いつくものは、ただ一つ。
――追手が来る前に、
「……」
しかし――メルミナは、自分の腕の中を見る。ティカは呆然と自分の手を見ている。そして、先ほど結晶から聞こえて来た教官の声。結晶――推定、銀の灯は取り戻したのに、ティカは拒絶された。
――つまり、ティカが教官に戻るには、さらに何かの条件を満たさなければならない、ということか。
(……その条件は、あと二分で満たせるの?)
間に合わなければ、死ぬ。なのに、あまりに状況はあやふやだ。金の権能で条件は見えるのだろうか。コノエを見る。……ああ、これはおそらく見えないのだろう。そういう気配だ。だからコノエは冷や汗をかいている。
ならば、メルミナに出来ることは――。
「――コノエ、奥の手を使うわ。私が時間を稼ぐ」
「――! ……ああ!」
メルミナは、宙から飛び降り、地面に着地する。そしてティカに説明しながら、壁際に移動する。ティカと銀の結晶を下ろし、その場に座り込んだ。奥の手を使う時の姿勢。
目の前のスケルトンの災厄も強そうだし、銀の結晶のことも分からないが……しかし、まず迫ってくる敵に対処しなければ二分後には死んでしまう。
……最後に目の前に立つコノエに、頼んだわよ、と心の中で声をかけて、メルミナは目を瞑った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――そうして、コノエは、メルミナとティカを守るように立つ。
数十メートル先にはスケルトンの災厄がいて、コノエに剣と盾を向けていた。
追手はメルミナに任せるとして、問題は銀の結晶だ。何故ティカを攻撃したのかは分からない。
金の権能は――罠について教えてくれても、銀の結晶については何も教えてくれない。知らないほうが良いと伝えてくる。……なんだか今回こんなのばかりだなとコノエは思った。これだから、固有魔法は検証が必ず必要なのだ。
コノエは困惑しながら、結晶と先ほどの教官の声はいったいどういうことかと思い……。
「「「SUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAALYYYYYYYYYYYY」」」
――けれど、災厄が思考を巡らせることを許してくれない。
三頭六腕のスケルトン。身長は二メートルほどか。三体のスケルトンを分解して歪に組み合わせ、一つにしたような形。体の各所に呪詛の籠った杭が見えるので、それで繋ぎ合わせているのかもしれない。
歪な気配。渦巻く魔力。そして腕に持った剣や鉾、盾と鎧からは神威武装を思わせる力を感じた。邪なる神の武装で身を固めた、災厄。おそらくは、邪神の護衛。
――分かる。間違いなく、教官の影を除けば過去最強の敵だった。
「「「SUUUUUUUAAAAAAAAAAAALYYYYYYYYYYY」」」
「…………」
しかし、いくら敵が強かったとしても。敵を前にして怯むような教育は受けていない。
コノエは魂を回し、ナイフを撃ち放ち、一息に踏み込もうと――。
「――SUUUUUUUUUU」
「――AAAAAAAAAAAA」
「――LYYYYYYYYYYYY」
――そこで、スケルトンの動きが変わる。
ナイフを盾で弾きつつ、三つの口が、違う音で叫び始める。そして。
「――
「――
「――
「――――なに?」
スケルトンの体に三つの色が混ざる。
盾が纏う黒。鉾が纏う茶、剣が纏う灰。コノエの瞳が疼く。
『
『
『
――それは、黒き神の懐刀。集め、魔の王を作らんとした邪法の成れの果て。
――三つの亡骸を冒涜し、組み合わせた、三重固有魔法。
「――――!」
金の権能が教えてくれる言葉の意味をコノエが理解すると同時に――
「「「――SUUUUUUUAAAAAAAAAAAALYYYYYYYYYYY」」」
――ゴン、と空気を砕く音と共に、茶と灰色の刃が凄まじい速度でコノエの頭上より打ち下ろされた。