転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第26話 死闘

 ――メルミナは深く、深く、固有魔法の中に潜っていく。そして、練り上げる。

 奥の手。普段は隠し、使わないようにしている固有魔法の応用。

 

「――――」

 

 メルミナは、見る。二十キロほど上、数多の魔物が(ひし)めき、こちらを目指している。先頭ではワーム型の災厄がうねり、岩盤を消失させ、後ろには災厄と思しき魔物が数十。

 

 メルミナは、その災厄の中の一匹、鬼型の魔物に目を付ける。完全に偏見だが、知能が低そうな個体。千里眼を発動する。鬼の頭部。その内部。眼球。眼球の中の――水晶体(レンズ)()()()()

 そして――()()()()()()()()()()()()()

 

『GA!? GLUUUUAAAAA!』

『――CLUUUUU!?』

『――ZAAAAGAAAAAA!?』

 

 ――鬼の災厄は、突如目の前に現れ槍を構える白いアデプトの姿に、咄嗟に剣を振るう。

 瞬時に放たれた斬撃は――隣にいた災厄を傷つけた。

 

『――CLUUUCUU!』

『――GAAAAAA!?』

 

 突然の味方の凶行に、混乱する災厄たち。何事かと周囲を確認する魔物達の水晶体に、次から次へと人の影を映していく。先へ先へと犇めいていた魔物達に、集団に混ざりこんだ人間の姿を植え付けていく。

 

 魔物が叫ぶ。メルミナには魔物の言葉は分からないが、恐らく、敵が紛れ込んでいると叫んでいる。その叫びに便乗する。

 次から次へとその情報が伝播するように影を映し、存在しない敵を集団に信じ込ませる。混乱が広がっていく。狭い洞窟の中を魔物の叫びが埋め尽くしていく。

 

 そして――

 

『KYYYYYAAAAAAAAA!?』

 

 ――混乱した魔物の攻撃が、先頭を走っていた災厄をも傷つける。

 凄まじい勢いで岩盤を掘り進めていたワームの動きが止まった。

 

(……凄まじい力を持つ災厄たち。しかし戦闘経験はそれほどでもない、か)

 

 メルミナは、地の底で壁に身を預けながら安堵する。

 もしこれがアデプトなら、視界に影を映すだけなんて雑な干渉、即座に見破って全員が目を抉っているところだ。

 

(……よかった)

 

 ――これが、メルミナの奥の手だった。千里眼を応用して、他者の目の水晶体に映像を映し出す力。集団への攪乱や、情報の偽装などに向いている。

 

 元々、メルミナの固有魔法は己の目の水晶体に遠くの映像を映し出すものだ。それを、メルミナは長年の鍛錬で拡張した。己の目以外にも映せるようにした。普段、神威武装であるレンズに映像を映し出して使っているのは、その結果だ。

 赤いレンズに映像を映すのは、神威武装の力ではない。メルミナが長い長い鍛錬の結果身に着けた、固有魔法の応用である。

 

 ――つまり、メルミナの千里眼は、レンズであるのなら、どこにでも映像を映せる。それがたとえ敵の眼球の中であっても。

 

「――っ」

 

 かなり、便利な力と言えるだろう。普段使いできればとても便利だ。……しかし、メルミナはこの力を奥の手としている。

 修得してから実戦で使うのは、これが三度目だった。

 

 その理由は……一つ目は、ただ隠しておきたかったから。この力は相手の不意を突いて使う方が効果的だ。攪乱にしても、相手が知っているのと知らないのでは難易度が全く違う。

 

 そして、二つ目が……。

 

「――ぐ、ぅぅ」

 

 ……単純に、この力は、メルミナにかかる負担が極めて大きいからだった。

 そうだ。この力は、本来の使い方よりも脳への負担が極めて大きい。しかも敵の視界に干渉し、違和感を持たない形で影を潜り込ませる必要がある。今回の場合、数十同時に、だ。

 

 脳を巡る血流の速度を上げ、脳自体を極限まで強化しなければ使えない。壊れそうな脳を強化して維持し、治癒魔法を集中させる結果、体を動かすことすらまともに出来なくなる。

 

 加速した血流で破裂した血管から血が溢れる。その血は目や鼻、口などの皮膚が薄い場所から流れ出し、腕や足の皮膚を青黒く染めていく。

 

 ――この奥の手は、己の体をも破壊する諸刃の剣だった。

 

(……コノエ)

 

 メルミナは、一人の男を想う。

 口の中に広がる血の味を感じながら。一秒でも長く足止めするべく、脳の血流をさらに加速させて――。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――斬る、斬る、弾く、突く、逸らす。斬る斬る弾く突く。

 斬る斬る弾く斬る突く斬る弾く斬る斬斬弾斬斬斬斬弾突逸斬斬斬弾斬斬斬斬。

 斬斬弾斬斬斬弾突逸斬斬斬斬弾斬斬弾斬斬斬弾斬斬斬弾斬斬斬弾斬突逸斬弾斬斬斬斬斬弾突逸斬斬斬弾。

 

「「「――SUUUUUUUAAAAAAAAAAAALYYYYYYYYYYY」」」

「――――っ」

 

 ――一方、そのとき。

 コノエは、加速する四本の剣と鉾を、両手の手甲で捌き続けていた。

 

 襲い来る茶と灰の刃。それはまるで嵐のように。

 加速した斬撃と、強化された突き。触れたものを斬り裂き、消し飛ばす暴風は、コノエを摩り下ろさんと一呼吸に数百と飛んでくる。

 

(――っ、速い、そして強い!)

 

 気を抜いたら死ぬ。一手誤れば死ぬ。

 それ程の速度。それ程の威力。

 

固有魔法(オリジン)――速く、何()()()()()()()剣は君の敵を切り裂こう』

固有魔法(オリジン)――強く、何()()()()()()()()は君の障害を打ち砕こう』

 

 加速する固有魔法。その力で速度を上げた斬撃は、コノエの速度を遥かに超える。一手繰り出す間に、二手繰り出してくる。コノエが一度刃凌ぐ間に、新しい刃が四度飛んでくる。

 強化する固有魔法。その力で威力を上げた突きは、コノエの防御を容易く貫く。受けるのではなく、技をもって威力を逸らさなければ、いいや、逸らしてもコノエの体にダメージを蓄積させる。

 

 ――ただただ速く、強い

 それがスケルトンの災厄の力だった。

 

 どこまでも単純で、しかし極めて強力な力に、コノエの体は僅かな間に剣で斬り裂かれ、鉾で軋み、瞬く間に血みどろになっていく。

 

 死線の隙間を見極め、最小限の動きで弾く。技で軌道をコントロールして、致命的な攻撃だけ逸らし――そうすることで、()()()()()()()()()()()

 

「――!」

 

 マズい。コノエは敵の剣を手甲で逸らしながら、舌打ちしそうになる。

 ――このスケルトン、全く隙が無い。

 

 圧倒的な攻撃能力。殺されないように凌ぐだけで精一杯だった。

 教官から格上相手の戦いを徹底的に叩き込まれていなければ、コノエはとうの昔に死んでいただろう。

 

 しかも――。

 

「――っ」

 

 その瞬間、コノエは暴風の中に一筋の空白を見つける。

 コノエは魂を回し、ナイフを生み出し、打ち込んで――。 

 

「「「――SUUUUAAALYYYYYYYYYYYYYYYYYYY」」」

 

 ――しかし、バチン、と。黒い光が、コノエの攻撃を弾く。

 盾から放たれた魔法は、コノエのナイフを容易く無力化した。盾の固有魔法の力だ。

 

固有魔法(オリジン)――堅く、何()()()()()()()()は君を万象より守り抜こう』

 

 害ある物を弾く守護の魔法。スケルトンの全身を覆う黒い光は、少なくともコノエのナイフでは破れそうにない。

 ようやく挟んだ反撃でさえ、何の痛痒も与えられない。

 

「「――SUUUUUUUUUUUUUULYYYYYYY!!」」

「…………っ」

 

 ――それが、三つの力が合わさると言うことだった。

 速いだけなら、なんとかなった。強いだけなら、受け流せた。堅いだけでも、方法はあった。しかし、その三つを兼ね揃えていれば。

 

「――――!!」

 

 ――このスケルトンは、自分よりも遥かに強い。

 それが、コノエの目の前にある現実だった。

 

 邪神の護衛。三つの固有魔法を併せ持つ者。

 速くて、強くて、堅い。純粋な暴力の極致。

 

 ……せめて足を使って攪乱できれば、と思うものの、コノエの後ろには二人がいる。メルミナとティカを守らなければならない以上、その手は使えない。

 

「…………ぐ」

 

 コノエは歯噛みする。どうするか。今は命を繋げているが、現状勝ち筋が無い。敵は容易くコノエを殺せるのに、コノエは敵を殺す方法が無い。

 こうなれば雷化を、と思い……いいや、それは最後の手段だと否定する。雷化は五秒しか使えない。拡散していく雷を維持できないからだ。もしその五秒で殺しきれなければ、後遺症で確実に全滅する。

 

 ……どうするか。今は苦戦している場合ではないと言うのに。メルミナが妨害しているとはいえ、いつまた災厄の群れがこちらに近づいて来てもおかしくないと言うのに。

 

 そして、ティカだ。ティカと銀の結晶。聞こえて来た教官の声。

 

『……これで、良かったのかな』

 

 今も聞こえてきている。聞いたことが無いような、暗い教官の声。

 あの教官が、何故そんな、とコノエが考えているうちに……。

 

「……へ、え!?」

「ティカ!?」

 

 ……事態は、動く。ティカが驚く声。

 何が起きたのかは、気配で分かった。

 

 結晶から、何か(・・)がドロリと溢れてきた。

 その何か(・・)はティカの足を絡めとり――ティカを、その場に()()()()()()()()




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