転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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エピローグが長くなりすぎたので分割前倒し更新です。


第32話 エピローグ(前半)

 ──ある日の昼、コノエは学舎を訪れた。

 

 長い階段を上り、扉を潜ると、中は穏やかな雰囲気が流れている。

 何か大変なことが起こった、なんてことはなく普段通りの学舎だった。

 

「…………」

 

 忙しそうにはしつつも、特別慌てた様子はない事務室の横を抜けながら、コノエは、ふと壁に掛けられたカレンダーを見る。そこには、地の底から帰ってきたあの日から、二十日が経ったことを示す日付が書かれていた。

 

(……しかし、あのときは、大変だったな)

 

 しばらく経った今でも、コノエは改めてそう思う。

 そもそも、最初の問題は、教官が元に戻った直後に起きた。じゃあ帰ろうと教官が言って、天井を見上げて……。

 

『……それにしても、どうやって地上に出ようか、これ』

『……』

『……』

 

 教官の問いに、コノエもメルミナも答えられなかった。

 なにせ、そこは地下数百キロ地点だ。しかも地上への道もない。地中にぽつんと取り残されていた。数百キロ分の岩盤が目の前にあって、いくら目を擦っても消えなかった。

 

 なので、脱出するために三人で上に向かって掘り続けることになった。交代しながらひたすら岩盤を砕いて……地下から脱出するまで、丸三日かかった。

 

 そうして、コノエたちがなんとか地下から脱出すると──

 

『──氾濫が』

『終わってるわね』

 

 ──地上は復興の真っ最中だった。迷宮氾濫は終わり、災厄もいなくなっていた。

 ……まあ、それはメルミナから教えられていたことではあったけれど。どうやら教官が元に戻った後、世界中の氾濫が収束し、災厄たちも迷宮の中へ逃げて行ったらしい。

 

 なぜそうなったのかは……憶測でしかないが、邪神が戦力を温存したのだろうと言われている。なにせ元々の目的(きょうかんのむりょくか)は失敗し、しかも災厄が一度に数十も殺された。

 

 残った戦力を回収しようと思うのも自然だろう。なので、今回の迷宮氾濫はわずか三日で終わった。空気中の瘴気濃度があまり上がらなかったので、死病の患者もそこまで出なかったし、新たな汚染地も生まれなかった。ついでに追い討つ形で四つ瘴気核を破壊できたらしい。

 

 そういう訳で、国は復興の途中ではあるものの、平穏を取り戻しつつある。

 コノエも地下から脱出した後は、都で過ごしていた。死病の治療などの手伝いはしたものの、それくらいだ。

 

 一緒に潜ったメルミナも今は姉とゆっくりしているようで──。

 

 ◆

 

 ──地上に帰ってきたあの日、転移門を潜ると、すぐさま飛び込んでくる赤い影があった。

 メルミナにそっくりな、赤髪の少女。彼女はメルミナの元へ走って、強く強く抱きしめた。そして、何も言わず涙を流して。

 

『……姉さん』

 

 メルミナは少し掠れた声で呟くと、抱き返して、一筋二筋と涙を──。

 

 ──その後は、コノエは席を外したのでどうなったのかは分からない。

 けれど、二人とも幸せそうだったのは確かだ。それから今日までの間にも何度か会ったが、二人はとても仲良さそうにしていた。

 

 メルミナの姉──ノエルはいつもニコニコと笑っている感じの、穏やかな雰囲気の人だ。ほぼ同じ顔のはずなのに、メルミナとは受ける印象が全然違って、コノエは少し驚いたりもして。

 

『妹ともども、仲良くしてくださると嬉しいです』

『そうね、今度私たちの家に招待するわ』

『……ああ』

 

 ともあれ、問題なく挨拶をして、知り合いになった。トラブルはなかった。

 コノエとしては、メルミナの家族と不仲になるのは悲しいので、かなり安堵している。

 

 ◆

 

『コノエ様、おかえりなさい!』

『…………コノエ、おかえり』

 

 また、テルネリカ、フォニアとも無事再会できた。

 

 テルネリカとは一緒に宿に帰って、食事をして。

 翌朝は普段通りの朝を過ごして……額を合わせた。

 

 フォニアにはノエルと一緒にテルネリカを守ってくれた礼を言って。

 そして、近いうちに以前話した固有魔法の検証をしようと改めて約束した。

 

 それに……少し驚く人から突然手紙が届いたりもした。

 

『よくやってくれました!』

 

 聖女様からだ。『よくぞレナ姉さまを助けてくれました』、とか、『同類のあなたなら、きっと成し遂げてくれると信じていました』とか書かれていた。

 

 同類って何だろうとコノエは思ったけれど、どうやら、教官のことが大好きな同類ということらしい。『初めて会ったときから、あなたは姉さまのことが大好きだと分かっていましたよ!』と。

 

 コノエとしては、まあ確かに教官のことは誰よりも尊敬しているけれど、なんて思って──。

 

 ◆

 

 ──あとは神様に半泣きで凄く感謝されたり、手を握ってぶんぶんされたりもした。

 教官のことが心配だったし、出発時は気丈に振る舞っていたけれど、やっぱり教官が居ない状態で二か所の氾濫に対処するのはすごく大変だったようだ。

 

「…………」

 

 ……と、まあコノエの周囲はそんな感じだった。今回の功績については、また改めて表彰するという話になっているが、それはまた先の話だ。

 色々とありつつも、穏やかな日々を過ごしている。少なくとも、コノエ自身はそうなっていて──。

 

「────」

 

 ──まあ、とはいえ。

 自分自身から少し外に目を向ければ、とんでもないことがあったけれど。

 

「……ん?」

 

 そこで、コノエは気付く。学舎の階段を上っている途中で。

 一つの気配──その()()()()()()()()の理由が近づいているのに気付いた。

 

 気配は、軽い足取りで歩いてくる。

 そして、階段の前へ来て。

 

「…………」

 

 姿を現したのは──一人の少女だった。

 その少女は特徴的な外見をしている。とても特徴的だ。異世界生活が長くなってきたコノエでも、他には見たことのない外見。

 

 顔は、神様に似ている。姉妹と言っても通じそうな感じだ。神様よりも少し小さくて、妹みたいな感じ。髪はロングヘアで、紫色(・・)の細い髪が背中に流れていた。

 

 ……しかし、神様と似ている、その顔の上こそがこの少女が普通と違っている所だった。

 なにせ、その少女は……。

 

「……ぬ」

 

 ……()()()()()()()()()

 正確に言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな少女の正体とは──。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ──それは、教官の一件から数日後の話だ。

 神都の城の一室で、とある審判が行われた 

 

 出席者は、神様と各国の王族、そして各国のアデプトたち。コノエもいた。

 その中心で裁かれようとしていたのは……

 

『……nu?』

 

 ……厳重に封印された、()()茸の魂だった。

 コノエが持ち帰った、小さい茸から取り出された魂。神々の加護で一時的に知性を戻していた。

 

【では、審判を開始します──災厄の魔物、茸。あなたの過去の所業について、調査しました】

 

 神様が、茸に呼びかける。

 それに茸は、すぐに状況を悟ったように、じっと神様を見た。

 

【あなたは、私利私欲のために数多くの民を殺した。間違いありませんね?】

『……nu(はい)

【そして、殺した民の魂を長年にわたり閉じ込めた。これも間違いありませんね?】

『……nu(はい)

【よろしい。……あなたの事情は知っています。けれど、いかなる過去があろうとも、この罪は到底許されるものではありません】

『……nu(はい)

【この罪に罰を与えるのであれば──それは、魂の牢獄への、永久封印となります。これより先、あなたは転生も許されず、この世界が滅ぶその日まで、眠りにつくことになるでしょう】

『……』

【…………しかし】

『…………?』

 

 そこで、神様は言葉を止め、茸を見る。そして。

 

【……しかし、この度の一件におけるあなたの功績は、極めて大きい】

『…………nu?』

【もしあなたが死を覚悟の上で邪神を裏切り、人に手を貸さなければ──今も、世界中が瘴気で包まれ、数えきれない程の人々が死んでいたでしょう。魔物に食われていたでしょう。……あなたが救った人間の数は、あなたが殺した数の数千倍になる】

『…………』

【なによりも──私たちは、希望(ともしび)を失わずに済んだ】

 

 そう言って、神様は立ち上がり……茸の元へと移動する。

 

【私たちは、この功績故に、あなたに選択肢を与えます。三つの誓いを】

 

 神様は三つ、指を立てる。

 

【一つ、己が犯した罪を忘れず、償い続けること】

『……』

【二つ、人と共に邪神と戦い、人を守ること】

『…………』

【三つ、人の輪の中に入り、人と共に生き──人を、愛すること】

『────』

【この三つを片時も忘れず、命尽きるその日まで守り抜くと誓うのであれば──】

 

 そこで、神様は大きく息を吸って。

 

【──私が、あなたの母になり(にかごをあたえ)ましょう!】

『………………nu、nu』

 

 ──そうして、その日、この世界に新たな人の種族が生まれた。

 種族の名は、マイコニド。始まりの一人の名は、マイコ。

 

 とある異世界人の知識から、名付けられた名前だった。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「……ぬ、コノエ……」

「……ああ」

 

 茸──マイコは、コノエの前に立って……なんだかよく分からない動きをしている。

 頭の茸の傘に顔を隠して、チラチラと見ている感じ。

 

「…………」

 

 ……実を言うと、マイコの現状については、教官救出の功績以外の理由があったりもする。

 それが何かと言えば……単純に、()()茸を敵に回すのが怖かったからだ。

 

 だって、茸は神の雷で焼いたのに復活した。独力で死を超越し、邪神の元から抜け出して、固有魔法まで使っている。

 ……改めて、最初から最後まで規格外で、常識外れで、異常だ。

 

 そんなの、もう一度殺しても殺せるか分からない。封印しても、封印しきれるか分からない。排除に失敗して敵になれば、次はどうなるか分からない。

 

 万が一、邪神に取り込まれて利用される可能性を考えれば、きちんと味方に引き入れるべきだ、と。そういうことになった。これは全ての神様やアデプトの代表、各国のトップで話し合った結果決まったことだ。

 

 ──だから、そういう思惑もあって、茸は人になった。

 

 そして、実際に神様が加護を与えると……加護を与えて三日目には小さい茸から少女の姿になって普通に歩いていた。通常は加護を与えても人型になるのに数百日はかかるらしい。

 

 過去の記憶もばっちりあるし、戦闘も可能なのだとか。

 一度死んだ後遺症もほとんどないし、少し時間があれば完全復活するらしい。

 

 どうやったのかと聞けば、頑張った、と。

 神様は、そんな茸の常識外れっぷりに【千年前のあの子(きょうかん)を見ているみたい……】と呟いていた。

 

「…………ぬ?」

「…………?」

 

 ……なお、マイコの素性──元魔物であることは、一般には伏せられている。

 余計な混乱を起こしたくないのと、魔物に話が通じる、という価値観を広げたくなかったからだ。茸が特別の中の特別だっただけで、他の魔物はまず間違いなく敵である。

 

 なので、マイコは突然生まれてきた新たな一種族として受け入れられていた。

 

「…………ぬ」

「…………」

 

 で、そんなマイコは、今コノエの前で、もじもじしている。

 そして、恐る恐る、という感じで手を伸ばした。

 

 確認するようにチラチラと見ながら、コノエの掌に向けて、手を伸ばす。

 それにコノエは……なんとなく、意味を理解する。同じだからだ。

 

 なので、コノエも手を伸ばし……その手を握る。小さい掌。温かい感触。

 するとマイコは目を見開いて。

 

「……ありがとう」

「……ああ」

 

 ……笑う。とても嬉しそうに。頬を染めて。

 そうだよな、人の掌って温かいよなと、コノエは思った。

 

 マイコはしばらくコノエの手をにぎにぎとして……必ずお礼をする、とだけ呟き、去っていき──。

 

 ◆

 

 ──コノエは、階段を上り切って、その部屋の前に辿り着く。

 そこはそもそも、コノエが学舎を訪れた理由だ。

 

 学舎の最上階、教官の部屋。

 今日のコノエは、教官から例の一件のお礼を渡したいから来て欲しい、と呼び出されていた。




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