転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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※※※この話はエピローグ(後半(・・))です※※※
※※※エピローグが長すぎたので分割しています。エピローグ(前半)を読んでいない人は前の話から読んでください。※※※


第33話 エピローグ(後半)

「今回の一件は、本当に世話になったね。君のおかげだよ。ありがとう」

「……いえ」

 

 ──部屋に入ると、教官はコノエを迎え、椅子を勧めて開口一番そう言った。

 いつも通りの教官。背筋を伸ばしていて、髪の毛はふわふわしている。色々あったが、元に戻っているようだった。

 

 ……なぜか視線が少し逸れているのは不思議だが。まあそういうこともあるのかなとコノエは思いつつ。ともあれ、コノエは弟子として、よかったと息を吐いた。

 

 そして、そんなコノエに教官は早速なんだけど、と話を振る。

 

「君へのお礼なんだけど……私からは、家をあげようかと思ってね」

「……家、ですか?」

「そう、家。君、家を探してたでしょう? ……ああ、国からは別にあるから。私個人からのお礼ってことね」

 

 教官がポンと書類をコノエの前に出す。

 それはどうやら神都の地図で、一つの建物に印がつけられていた。

 

 そこは……。

 

「……? ここ、教官の屋敷では?」

 

 コノエは首を傾げる。そうだ、知っている。そこは教官の屋敷のはずだった。

 神都の一等地に建つ大きな屋敷。学舎の窓からも見えるので、コノエも知っている。

 

「そうだけど……使ってないからね。私、基本学舎で寝泊まりしてるし」

「……ああ」

「それにあの屋敷、建物が二棟あるから。片方あげるよ。……君、防備とかも気にしてたでしょ? ここなら私が集めた魔道具があるから、その辺りも万全だし。管理人も一流のが集まってるから」

 

 あまり帰らない家を管理させるの申し訳ないと思ってたし、良かったら貰って、と教官は言う。

 それにコノエは少し考えて……。

 

 ……願ってもない話だと思った。全部貰うのは気が引けるけれど、半分だし。管理人を雇う必要が無くて、何よりも防備が万全というのが良い。

 

「……本当にいいんですか?」

「うん」

「……では、頂きます」

「うん、貰って貰って」

 

 そうして、いくつか権利書をもらったり、説明を受ける。

 屋敷の管理人との最初の顔合わせの話とか、そのときは教官もついて来てくれるらしいこととか。

 

 他にも幾つかの注意事項を聞いて、それが終わったら業務連絡、マイコの話や他国の動き、氾濫後の様子などの話もする。

 コノエは、微妙に目を逸らしている以外は普通な教官と色々な話をして……。

 

「……ああ、そういえば、君に一応伝えておきたいことがあるんだけど」

「……はい」

 

 ──それからしばらく経った頃。

 話も尽きて、ではそろそろ帰ろうかと言う時に、教官がふと呟いた。

 

「……全然大したことじゃないんだけどね?」

「……? はい」

「見てほしいものがあってね?」

 

 教官は目を逸らしながら、言う。

 何だろうとコノエが首を傾げると……教官の体が、銀色の光に包まれて……。

 

 …………光が小さく……!!??

 

「……!? き、教官!?」

 

 コノエは驚愕する。ぽかんと口を開ける。

 それは何故って……光が消えた後、教官が、()()()()姿()()()()()()()()()()。つまり十歳の姿に。

 

「いやー出来るようになったんだよね。あ、もちろん中身はいつもの私だよ」

「…………え?」

「原始魔法なんだけどね。姿だけ子供に戻れるようになったんだよ。……あのデーモンの固有魔法と相性が良かったのかな。同じ時空系だし」

 

 教官は、ぽつりと子供の私の願いも関わってるかも、と言う。

 コノエは、その辺りでようやく驚きから帰って来て、まじまじと見た。

 

 ティカ。一緒に迷宮に潜った少女。

 確かに、今の教官は彼女の姿になっていた。

 

「……そう、なんですか」

「そうそう、あ、戻るね」

 

 教官がぱっと元の姿に戻る。

 本当に自由自在のようだった。コノエは何度も瞬きをする。

 

 教官は、何故かそんなコノエの視線からまた目を逸らして。

 そのまま数秒間の沈黙があって……。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……………………あ」

「…………?」

 

 と、そこで。ふと教官が何かに気付いたような声を出す。

 そして……。

 

「もしかして……今君、外見が変わっても千歳なんですよね、って思った?」

「……いいえ」

 

 突然、そんなことを言い出した。……なにかと思ったら、最近よくあるヤツだった。

 

「……バ、バ……ババア、歳を考えろとか、若作り痛々しいとか思ってない?」

「……いいえ」

「……本当かなぁ?」

 

 教官が疑り深そうな顔でコノエを見る。さっきまで逸らしていたのに、途端に目を合わせて瞳孔の奥を覗き込むようにする。

 コノエはそれに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、思っていませんと言おうとして。

 

「…………」

 

 ……そこで、コノエはふと思い出す。あの地の底でのことを。

 

 スケルトンと戦い、死線を歩いていたあのとき。コノエは後悔する教官に証明すると言った。証明するために、胸を張ると。偉業を成すと。

 鎧を纏って、戦って。その結果、教官は戻ってきてくれた。また銀の輝きを見せてくれた。

 

 ──ならば、出来る限り自分は胸を張るべきでは?

 ――自分の意見を押し隠すばかりではなく、言うべきことは、きちんと言った方が良いのではないだろうか?

 

「……教官」

「なに?」

 

 教官(ほし)を取り戻せた、今のコノエはそう思った。思えた。

 だから……。

 

「……前から思っていたのですが……教官は美人ですし、魅力的な女性なので、年齢で自分を卑下する必要はないと思います」

「………………………………はえ?」

 

 そうだ。最近の教官は、少し年齢での自虐が過ぎる、とコノエは思う。

 勝手な感情ではあるが……コノエは本当はずっと、尊敬している師匠にそんなことを言ってほしくなかった。

 

「………………へ??」

「……?」

「……え、えっと……? そ、そう?」

「……はい」

「……き、気を付ける、よ?」

 

 教官が妙にカクカクとした動きで頷く。

 それにコノエは不思議に思いながらも、言えて良かったと頬を綻ばせ……ではそろそろ、と立ち上がり、部屋から去って行った。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ──そして、部屋に残された普段教官と呼ばれている彼女は。

 コノエが部屋から立ち去って、数十秒間経って――。

 

「~~~~~~~~~~~!!!!」

 

 声なき声で叫んだ。なんかとんでもないことを言って去って行った弟子に。

 

 ──なんなの、あの子? なに真顔であんなことを言ってるの?

 ──あんな……美人とか、魅力的とか。

 ――突然なに? あの子に何があったの?

 ――というか、地の底(あのとき)も似たようなこと言ってたよね?

 

「ぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

 小さい声で叫びつつ、彼女は頭を抱える。

 頭の中がぐちゃぐちゃで、混乱していた。いろんな感情が頭の中でぐるぐるしていた。

 

 とんでもないことを言われた。……それでなくても最近、とある感情を植え付けられて混乱していたのに。何とか頑張ってたのに。

 そこにあんな言葉が飛んできたから、もうめちゃくちゃで。

 

 そうだ。そもそも彼女は、つい最近とんでもない感情を植え付けられている。子供の頃の自分──ティカの感情を。

 あの一件の後、彼女の中にはティカの記憶がそっくり丸々残っていた。共に歩いた記憶も。コノエが己を想って呟いた言葉も、笑った顔も。全部覚えていた。なので、ティカの恋心も、そのまま残っていた。

 

 ――ティカの、恋心。

 千年後の(きょうかん)が好きなコノエが好き、というティカの気持ち。それを千年後の(きょうかん)が持っている。つまりはそんな状態だ。ぐちゃぐちゃである。訳が分からない。

 

「……もうどうすればいいの……!」

 

 とんでもなく重い感情を植え付けられた。びっくりするくらい拗らせている。色々、面倒くさすぎるんじゃないだろうか。

 

「…………」

 

 ……それに――本当は、ティカ以外の彼女自身の想いも、無い訳では、なくて。

 己のために地の底で叫んだ弟子に、何も思わないなんて、ある訳が、なくて。

 

 だから彼女は、このところずっと混乱していて、でも愛弟子に情けないところを見せたくなくて必死に平静を取り繕っていたのに、そこにあの言葉だ。

 

「……あーーーーーもーーーーーー!」

 

 なんなのあの子、あんな簡単にとんでもないこと言って。そう思う。

 嬉しい。嬉しかった。嬉しくない訳がない。でも、困る。困っている。

 

 どうすればいいか分からない。こんなの千年の人生で一度も記憶がない。

 彼女は頭を抱えて悩む、自分はどうすればいいのだろうかと。

 

 悩んで、悩んで、悩み続けて………………。

 

 …………

 …………

 …………

 

「……………………でも」

 

 ……でも、そんなとき。ふと思った。

 こんなに胃の辺りが重くならない悩みも、久しぶりだなって。

 

「………………」

 

 誰も傷ついていない悩みだ。何も失っていない悩みだ。

 大変なことになっているけれど、自分の感情もよく分からなくなっているけれど、でも辛い悩みじゃない。

 

 ……嬉しいことで満ちている悩み。

 叫びながらも、でも口元は綻んでいるような、そんな幸せな悩みだった。

 

 そうだ。それが、コノエが彼女にくれた物だった。

 あの、地の底で証明してくれたことも含め、自慢の弟子が、彼女にくれた物だった。

 

「……はぁ」

 

 彼女は、小さく息を吐く。天井を見上げる。

 肩が少しだけ、軽くなった気がした。後悔は消えなくても、それでも。

 

「………………うん、よし」

 

 彼女は立ち上がって、軽く背伸びをする。

 悩みはとりあえず棚上げすることにして。

 

 机の上にあったカレンダーを手に取った。今年ではなく、来年のもの。彼女は忙しいので、一年後のことまで考えて予定を立てているから、来年のものがあった。

 

 彼女はその中から一つ、予定を見つけ出して……バツを書く。

 印を付けて、机に戻して……じゃあ、そろそろ仕事に戻ろうかな、と。

 

 彼女は部屋から出ていく。軽い足取り。

 扉がぱたりと閉まって──。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ──誰もいない部屋に、残されたカレンダー。

 バツで消された場所には、見合い、と書かれていた。

 




これで第四部は完結です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
第四部はコノエ君から教官への思いを書きたくて始めた話でした。楽しんでもらえたのなら嬉しいです。
今は無事最後までたどり着けて、ただ安堵するばかりですね。皆さんの応援のおかげです。ありがとうございます。
次はついに最終第五部、神様ルートです。完結に向け、これまでの伏線をどんどん回収して行きたいと思っていますので、是非お付き合いいただければと。出来たら七月中に始めたいな……(自分を追い込むための宣言。

今後の予定ですが、まだ人物紹介が全く書けてないので、6/27(金)までには何とか書き上げて更新したい……と思っています。いつもどおり初出の情報も多いと思いますので、是非来てもらえたらと。
その後はカクヨムサポーターで先行公開していた短編なども公開していきたいと思いますので、頻度は下がりますがしばらくは更新があります。よろしくお願いします。

また、今回もXでアンケートします!ぜひ参加してもらいたく!
誰も投票してくれないと作者がとても悲しみます。

そして……最後に、これまでも宣伝してきましたが、第二巻発売中です!
一巻共々応援してくれると嬉しい……とても嬉しい……よろしくお願いします!

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