転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
カクヨムのサポーターで二か月前に投稿したものです。
時系列は前半第三部後、ラストほんのちょっとだけ第四部後です。ネタバレになる部分もあるので未読の方は注意してください。
(※現在カクヨムサポーターにギフトのお礼として短編を先行公開しています。先行公開です。今回の短編のように、一定期間後に全て本編か活動報告で全体公開します。なのでサポーターにならなければ読めない短編はありません)
──それは、論功行賞の少し前の話だ。
「──どうしようか」
その日、コノエは学舎の一室でどうしたものかと首を捻っていた。
何に悩んでいるのかと言えば、目の前にある一束の紙のことだ。ほんのつい先程、国の財務局に所属しているという人から渡されたもの。
紙には目録と書かれていて、色々な文字と、すごい桁数の数字も書かれている。
「…………」
その数字が何かと言えば、報奨金だった。魔王討伐の報奨金。
数十日後の論功行賞で渡される予定の金額になる。
「…………うーん」
コノエは、その数字としばし見つめ合った後、次に紙束を一枚めくる。
すると、そこには仰々しい名前の勲章について書かれていた。そして勲章の名前の下にはまた桁数の大きい数字が書かれている。
それは、これまた論功行賞で渡される予定の勲章であって、数字は勲章に付いてくる年金の額だった。勲章を持っているだけで毎年貰える金額。
「…………どうしようか」
コノエは、そんな金額の書かれた紙を前に、もう一度どうしようかと呟く。
コノエは悩んでいた。貰える金を見て悩んでいる。それはなぜかといえば……。
「……出来ることなら使ってくれと言われてもな」
先程、財務局の人に目録を渡された際に、どうか、出来る限り使って欲しいと地に頭をこすりつけて頼まれたからだ。いきなり土下座──なお、この世界、土下座の文化は元々なかったが、異世人との交流の過程で何故か流入したらしい──されて滅茶苦茶驚いた。
官僚の人曰く、これだけの金を死蔵されると経済的に良くないらしい。金は市場に出回っているから価値があるらしい。流れない金は腐ってしまうらしい。あと、その他にも色々と説明していた。図とか表を示して熱心に。
専門用語も多くて、コノエには言っていることの半分くらい理解できなかったが、国の立場としては、出来る限り使って欲しいということだけは理解できた。
「…………うーん」
それで、コノエとしてもそこまで言うのなら、と使い道を考えて……そうして今に至っている。
コノエは目の前の数字を見て、次に数か月前からテルネリカと見ている家のカタログを思い出す。カタログに書かれていた一番大きい金額と、目の前の金額を比べて……。
「………………」
桁が全然違うんだよなと。そう思う。あのカタログは魔王討伐後、防犯上の理由からもう使えなくなったが、しかし、一等地の高級住宅が載っていた。それでも大きな差がある。
そして次に、他に使い道が何があったかとテルネリカ用の魔道具を思い出して……これも桁が全然違う。
「…………はぁ」
コノエは、目の前の紙から視線を切って、天井を見る。
コノエは困っていた。元々欲が強い方ではないし、突然降って湧いた大金に混乱しているのだろう。まあ、金の使い道に困るとか贅沢過ぎる悩みではあるが、しかしコノエはそういう人間だった。
……というか、欲しいものがあるから金を使うんであって、金を使うために金を使うとか訳がわからないなと思ったりもする。
「……僕じゃわからないし、テルネリカにも相談するか」
なので、自分一人での解決を諦めて、コノエは宿に戻ることにする。
資料を抱えて立ち上がって、そのまま学舎から出て行こうとして──。
「──ん?」
──そこで、コノエは壁の掲示板に貼られていた一枚のチラシに気付いた。
◆
「……とまあ、そういう感じだった」
「……なる、ほど。そうなんですね……」
コノエがテルネリカの前に資料を並べると、テルネリカは何度か瞬きしたり、ぎゅっと目を数秒瞑って開いたり、指で目頭を揉んだり、紙に書かれている数字の桁数を一つ一つ数えたりした後、少し遠い目になった。
そして、財務局の人間から渡された資料を読み始める。コノエとは違い、内容を理解しているようで何度か頷いていた。途中、この資料機密じゃないんですか? と恐る恐る聞かれて、テルネリカになら見せて良いと言われた、と返したりして。
「………………」
「……ありがとうございます。読み終わりました」
そうしているうちに、テルネリカは資料を読み終わる。
大きく息を吐いて、ではどうしましょうかとコノエを見る。
そこでコノエは、学舎から帰ってくるときに見つけたチラシを取り出した。
事務室で余ってたら欲しいと貰って来たものになる。
「……これは、どうだろうか?」
それに書かれていたのは……シルメニアという文字だった。
そして、シルメニアの復興のための投資を募集している旨が書かれている。氾濫で破壊され尽くした街の復興支援だ。街中の建物と畑を直すための資金を募集しているらしい。
「……! それは」
「……使い道に困るくらいなら、必要としているところに送ったほうが良いと思う」
もちろん報奨金全額じゃなく、一部ではあるけれど。それでもかなりの額だし、きっと復興の助けになる。
シルメニアはコノエにとっても思い出深い土地ではあるし、なによりもテルネリカの故郷だし。メイドとか騎士団長とか知っている人もいるし。
そもそも魔王討伐自体テルネリカの助けがあってのものだから、ちょうどいいのではないかと思った。
「……! …………あ、その、えっと」
「……?」
テルネリカは一瞬ぱあ、と嬉しそうな顔をして……しかし、何故か、すぐに困ったように目を泳がせた。
コノエはそれに首を傾げて。
「……その、嬉しいです。コノエ様がシルメニアのことを考えて下さって、とても嬉しいんです。……でも」
「……でも?」
「本当に、それで良いのかと思ってしまって。このお金はコノエ様が為されたことに対するお金ですから。コノエ様のために使った方がいいのではないでしょうか」
「…………」
テルネリカは申し訳なさそうに目を伏せる。そして、このチラシに関しては私も前から知っていました、と言った。今回の件で私も幾ばくかお金を頂くことになりましたし、近いうちにコノエ様に相談して、よろしければそれを送ろうと思っていました、とも。
なので、このお金はコノエ様のために、とテルネリカは眉を垂れさせて笑う。
それにコノエは少し考えて……。
「なんというか……」
「はい」
「……僕の為でも、あると思うんだ」
「……え?」
驚くテルネリカに、コノエは頭の中で言葉を選びながら、口を開く。
「……このチラシを持って、学舎から帰る途中に思い出したんだ」
コノエの頭に浮かんでいるのは、あの金色のひと時の後のことだった。
竜と戦って、錬金工房で約束をして、その後。
テルネリカと二人街を歩いて……もう一つ、約束をした。それを、思い出した
──シルメニアの特産の聖花は食用にも栽培していたのだと。聖花のジャムは一度食べてほしかったなとテルネリカは言って、それにコノエは。
『……では、いつか。また作れるようになったら、食べさせてほしい』
確かに、そう言ったから。
「──思い出したんだ。君が美味しいと言っていたから、僕も食べたいと思った」
「────!」
いつかまたジャムの美味しい食べ方を教えてくれる、と。あの日、そんな約束をした。
……そして、その日が早く来るのなら、きっとこれは僕のためだ、とコノエは思った。
だから……。
「……どうだろうか」
「はい。……はい!」
すると、テルネリカは頷いてくれる。
私も一緒に食べたいです、とテルネリカは嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑ってくれた。
◆
そして、そのしばらく後。
教官の一件を乗り越え、帰ってきたコノエは、テルネリカと共に窓口へ向かった。
神銀貨が詰まった袋の重みを感じながら、きっと無事に復興しますようにと祈りながら手続きをして──。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──ずっと未来のある日。
コノエとテルネリカの元に、山のように積まれたジャムの瓶と、投資した金額が割増でやってきて。
ジャムをたっぷり塗ったパンを食べながら、このお金はどうしようかと話し合うのは、また別の話。