転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第4話 違和感

 ──それは、コノエが神様を見つける、()()()

 ──地の底で、闇が動き始めていた。

 

[──・──]

 

 邪神は蠕動し、権能を行使する。邪なる権能、欺瞞の力を使い──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そうして──その回収した力を、()に注ぎ込んでいった。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ──コノエは、見る。学舎と研究棟の間の中庭で。

 

「──────え?」

 

 ──――神様?

 

 学舎の校舎の横に生えた木の陰で、神様が泣いている。

 神様は大きな目を見開いて、ぽろぽろと涙を流し、コノエを見ていた。

 

 コノエは見間違いかと一瞬目を疑って、しかし、神様を見間違えることなどありえない。神様、白い翼が生えた、この世の美を体現したような少女。コノエをずっと見守ってくれた方。そんな神様を、コノエが間違える訳がない。

 

「…………か、神様?」

【……ぁ】

「……どうしたんですか? 大丈夫ですか?」

 

 コノエは驚き、急いで駆け寄る。コノエは今までの二十五年で、泣いている神様なんて見たことが無い。いつも神様は優しく微笑んでいたから。

 だから、慌てて近づいて、何があったのかと問いかける。

 

 ……でも。

 

「……神様?」

【…………ぁ、ぇ? コノ、エ?】

「……え?」

 

 でも、神様からの返事は無くて、ただ、呆然とした様子でコノエの名前を呼んだ。

 目を大きく開いて、涙を湛えてコノエを見ていた。何度か瞬きをして、その度に大粒の雫が(まなじり)から落ちて、頬を流れた。

 

【…………コノエ?】

「……?? えっと。はい。なんでしょう」

【…………】

 

 もう一度名前を呼ばれて、コノエは返事をする。しかし、神様はまた呆然とする。

 そのまま、沈黙の時間があって……。

 

【……………………ぇ、ぁれ? ……ぇ?】

「……神様?」

【……えっと……?】

 

 ……そうして、ふと、神様は何度かぱちぱちと瞬きをする。

 困惑した雰囲気で、右を見て、左を見た。

 

 何が起こっているのか分からない、という感じだった。

 自らの頬に手で触れて、濡れた指先を見て――コノエを見た。

 

【…………ぁ……!】

 

 ――そこで、神様の表情に色が戻る。まるで正気に戻ったかのように。

 

【……ぁ……その、これは】

「……?」

【これは、ち、違うの! 】

 

 神様はあたふたとした様子で顔を押さえ、涙を服の袖で拭く。あまり神様らしくない、乱雑な仕草だった。そして濡れた袖を見て、コノエに背を向ける。

 そのまま何か、ごそごそとして……。

 

 ……しばらくして、ゆっくりと振り返った。

 

【……えへへ。なんで泣いてたんだろう、私】

「……」

【大丈夫。なんでもないの】

 

 振り返った神様は身だしなみを整え――先ほどまでの様子が嘘のように微笑んでいた。

 にっこりと微笑んで、少し小首を傾げている。

 

 頬にあった涙の跡も消えて、いつもと何も変わらないような笑顔だった。綺麗で、優しい、コノエが二十五年見続けてきた神様の笑顔だった。

 

「…………神様」

 

 ……でも、しかし、いつもと変わらないからこそ。

 コノエは、その神様の言葉が嘘だと気づけた。

 

 普段通りに笑っているから、逆にコノエにも分かった。今の神様は、無理をしていることが。神様は、無理に取り繕っている。

 だから、コノエは心配になって……けれど、なんと言えばいいか分からなくて、じっと神様を見る。

 

【コノエ、そんな顔をしないで。私は大丈夫だよ?】

「………………」

【……その、本当に大丈夫だよ? ちょっと夢見が悪かっただけだし】

「……夢?」

 

 神様は言う。少し居眠りをしてしまって、そこであまり良くない夢を見たのだと。

 目が覚めたら涙が溢れてきて、気分転換に外の空気を吸いに来ただけなのだと。

 

「…………」

【それだけだから、大丈夫。……えへへ、悲しい夢を見て泣くなんて、子供みたいだね?】

 

 神様は恥ずかしそうに笑う。そして、ちょっと情けないところを見せちゃったかな、ごめんね、と眉を垂れさせた。

 コノエは、その神様の言葉に少し考えて。

 

「──いいえ」

【……?】

「……いいえ、それは、違います」

 

 コノエは否定する。ゆっくりと首を横に振った。

 情けないなんて、コノエは思わない。

 

 ……だって、コノエは知っている。

 いつだって辛くて、苦しくて、泣きたくなる夢を知っている。

 

 何度も見てきた。かつての傷を掘り返されて、見せつけられて。治ったはずの傷跡が血を吐いて、膿んだように痛む。……そんな悲しい夢を、痛みを、コノエは見てきたから。

 

 ――だから、情けなくなんてない。少なくともコノエは、そんなことは言えない。

 

【………………そっか】

「……はい」

 

 神様は、頷くコノエに、そう呟いて目を伏せる。

 ほんのちょっとだけ、神様は泣き笑いのような顔をして。

 

「…………」

【…………】

 

 そうして。コノエと神様は少しの間、一緒にいた。

 口を開かず、ただ傍にいた。周囲に人の気配はなく、結界で遮られているので、虫の声もない。通り抜けていく風の音だけがあたりに響いていた。

 

 ……神様は、笑顔ではなく、ぼう(・・)っとした様子で、学舎と研究棟の間の庭を見て。

 

【………………あのね】

「……はい」

【少し、違和感があるの】

 

 ふと、神様がそう呟く。中庭をじっと見つめながら。

 

【……昔ね、ここに、何かがあった気がするの。夢で、思い出したの。なのに、それが何か分からなくて】

「……はい」

【忘れちゃいけないことだった、はずなのに】

「……はい」

【なんでかなぁ……】

 

 神様は、悲しそうに中庭を見る。何かを探すように。

 けれど、何も見つからなかったのか、俯いて、己を責めるように唇を噛んだ。

 

「……………………」

【……………………】

 

 ……また静かな時間が過ぎる。

 神様はずっと俯いていて――。

 

【――――】

 

 ――でも。どれくらい時間が経った頃だろうか、ふと神様が顔を上げた。

 

【……見つけ出さないと】

 

 前を見て、神様はそう言った。忘れたのなら、もう一度、と。

 このまま、無くしたしたままではいられないと。

 

「…………はい」

 

 コノエは、そんな神様に少し安堵したように息を吐く。

 そして、僕に出来ることがあれば、言ってください、と言った。

 

 すると神様は、少し目を見開いて……嬉しそうに頬を緩める。

 

【――ありがとう。じゃあ、コノエ。よかったら少し付き合ってくれる?】

 

 ◆

 

 ──そうして、コノエは神様に促され、一緒に学舎の中に入る。

 前を歩く神様について廊下を歩き、階段を上る。そのうちに、最上階に辿り着いた。

 

 神様は真っ直ぐに自分の部屋へ向かい、扉を開ける。中に入って、そのまま部屋の奥へとまっすぐ歩いていく。コノエも後ろを付いていくと……。

 

【こっちだよ】

「…………?」

 

 そこには、一つの扉があった。いつもお茶会をしている神様の部屋の隅、少し影になった場所にある扉だ。

 観葉植物で隠れていて、コノエも気配から存在は知っていたけれど、近づいたことは無い扉だった。

 

 コノエが、何の部屋だろうかと思いながら見ていると……神様は、ドアノブに手を掛けて、押す。部屋の中の様子が見えてくる。

 正面に沢山の本が詰まった本棚が、見えた。……資料室だろうか?

 

【入って】

「…………」

 

 神様が、コノエに手招きする。

 コノエは、言われるがままに扉へ足を踏み出して……。

 

「…………?」

 

 その瞬間だった。コノエの嗅覚に甘い感じの匂いが伝わってくる。

 甘くて、少し知っている感じの匂い。それは……?

 

 コノエは、部屋の中へ入り、そして見る。部屋の中の様子が分かった。

 部屋の中には沢山の本棚がある。部屋の奥までずらりと並んでいる。最初に見えた物だ。

 

「………………」

 

 ……でも、部屋にあるのは、本棚だけじゃなかった。扉の影になっていた場所に、色んな家具が置かれているのが見えた。

 机、椅子があって、タンスがある。こじんまりとしたソファがあって、お洒落な感じのコート掛けのような物もあって……奥には、ベッドのような物も。生活のための家具が一通り揃っていた。

 

 これは? とコノエが少し混乱していると、神様はふと、コノエの目の前で羽織っていたケープのようなものを脱ぎ、ハンガーに引っ掛ける。

 ……神様が少し薄着になって、コノエに振り返った。

 

「…………その」

【……?】

 

 ……そんな部屋や神様に、コノエは困惑しながら口を開く。

 

「……ここは、なんの部屋ですか……?」

【え? 私のプライベートルームだよ?】

 

 ――すると、神様は、きょとんとした顔で、そう言った。




三巻の予約が始まったのでよろしくお願いします。
9/10です。応援してくれると嬉しい……。
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