転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
第7話 調査開始
──【見た?】という神様の雰囲気について、コノエは少し考える。
見たと言うべきか、見ていないと言うべきか、どちらが良いかと考えて。
「……見ました」
【──!】
嘘をつくのは良くないし、あのタイミングで見えない訳がないので正直に答える。
すると神様は、ショックを受けたような顔をする。
【……うぅ、ごめんね。エレンテンノスの絵画小屋みたいだったよね……】
そう言って肩をがっくりと落とした。それにコノエは、エレンテ……の絵画小屋? と首を傾げ……。
「…………」
……まあ、絵画小屋と言うのだし、つまり絵で埋め尽くされた部屋みたいな感じなんだろうか、と察する。そして、あまり良くない意味で使われている言葉なんだろうな、とも。
【……あのね、最初はこうじゃなかったの。私はただ、写真を飾りたくて……】
神様がしょんぼりしながら言う。なんでも、最初は撮った写真を十数枚貼っていただけだったらしい。何枚か撮って、飾って、それを眺めていただけだったようだ。コノエと教官と神様の三人で撮った写真──論功行賞の話し合いのときのヤツだ──から始まり、論功行賞当日の写真なんかを貼っていた、と。
しかし、あの最初の日から数十日経過して……。
【写真って、絵よりも簡単に沢山作れるでしょ? だから気軽に撮っているうちにすごい枚数になっちゃって……
「…………ああ」
そういえば、何度か一緒に写真撮ろうと言われて学舎の色んな場所で撮ったりしたなとコノエは思い出す。
教官の件の後は特に色々撮った。安心して喜んでる神様と一緒に何枚も撮ったし、進化した鎧を見たいと言われて顕現したら、結構な枚数をパシャパシャしていた。色んなところで撮ったりポーズを取るように言われたりして、少し気恥ずかしかった記憶がある。
【……せっかく楽しい思い出が沢山撮れたのに、飾らないのはもったいなくて……でも段々貼るスペースが無くなっていって……】
ついつい数を増やしてしまって、その調子で限界まで貼っていったら、最終的にああなった、と。神様はぐんにゃりと翼を垂れさせて言う。
そして、小さい声で──それに、どこを見ても楽しいだけの思い出があるのって素敵だなと思って、とも。
【……貼ってるうちに絵画小屋みたいだとは思ったけど、あの部屋には基本的に私以外誰も入らないから、つい】
曰く、あの部屋は神様が招待しない限り誰も入れない特別な部屋らしい。
神様固有の領域であって、本体だろうと他の分体だろうと邪神だろうと世界だろうと触れることが出来ないのだとか。完全に隔離されているようだ。
【私の大切な物を集めた部屋で……今回の写真とか昔描いてもらった絵とか思い出の品がたくさん入ってて……今回コノエに来てもらったのも、忘れちゃった『あの子』の絵とか入ってないか探す手伝いをしてもらおうと思って……】
「……なるほど」
コノエは納得して一つ頷きつつ。……しかし、どうしたものかなと神様を見た。
神様は先ほどから説明しつつ、凄くしょんぼりと翼を垂れさせている。
……そんな神様に、少し考えて。
「……なんというか」
【……? うん】
「……まあ、僕に関しては気にしていないので」
コノエは、そう言った。少し驚いたけれど、それだけではあったし。なので、落ち込まないで欲しいと神様に言う。
すると、神様は目を見開いて。
【……嫌じゃないの?】
「……はい」
別に嫌ではなかった。他ならぬ神様だし。なのでコノエは、はいと返す。
神様は、何度か瞬きしながらコノエを見て。そっか、と。
【……うん、ありがとう。ごめんね。……壁に写真を貼るのは止めるよ。
「……そうですか?」
【うん。……あ、でも、その…………嫌じゃなければ、写真立てに入れて、何枚かだけ飾って良い?】
神様が恐る恐る、という感じで問いかけてくる。……まあ、コノエとしては何枚飾っても文句を言うつもりはなかった。
コノエが頷くと、神様は嬉しそうに笑って。
【ありがとう。じゃあ──特別カッコいいコノエの写真を飾るね?】
「………………」
【えへへ、沢山あるから頑張って選ばないと】
神様はどうしようかな、と楽しそうに言う。
そんな神様にコノエは少し目を逸らしつつ……なんだか、そう言われると照れるな、と思った。
◆
──そして、しばしの話の後。
神様とコノエはもう一度扉の前に立つ。
【改めて、『あの子』を探すのを手伝ってもらっていい?】
「……はい」
コノエが頷くと、神様の領域の扉がゆっくりと開く。……二人は中へと入っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
──場所は変わって、研究棟の一室。
そこでは、教官とフォニアとマイコが大きな机を囲んで座っていた。
机の上には研究棟の資料室から運んできた百十年前の資料が積まれている。謎の『誰か』の調査は、まずは資料調査から始まっていた。
調査系の力の持ち主が来るまでに時間が必要なので、それまでの事前調査になる。
……なお、マイコの魂の力についても、以前メルミナの記憶を戻したことがあるので試すのが決まり、百十年前から学舎で働いている者の中で志願者を募る予定だった。ただ、魂をいじる以上、万が一があってはならないので教官は対象者から外れている。
「………………」
「………………」
「………………」
ともあれ、本格的な調査が始まるのはもうしばらく後だった。しかし、何もしないのも時間の無駄なので、現在三人は資料と向き合っている。
教官は百年前から百二十年前までの研究棟の名簿を確認していて、フォニアは同時期の研究成果のリストを見ている。マイコは一人だけ違うことをしていて、異世界についての勉強をしていた。マイコは異世界のことを知らないからだ。
「……やっぱり、
「こちらもです」
「ぬ、こっちはざっと把握した」
教官とフォニアは少し残念そうに首を横に振り、まあこれで分かるとは思ってなかったけど、と頷き合う。マイコは覚えた、と召喚されたばかりの異世界人向けの教本──その教本が最も二つの世界の差を簡潔に説明しているからだ──を閉じた。
そうして……教官は、では、と呟く。次にすることは。
「次は……それほど多くは時間がないし、範囲を絞って調査することにして。実はちょっと確認したいことがあるんだよね。……否定の魔王、天蓋竜についてなんだけど」
「……ぬ?」
教官の言葉にマイコは不思議そうにして……フォニアは少し考えた後、納得したように頷く。
なので教官は、マイコにどういうことかと言えば、と説明を始める。
「まず、今回の一件は邪神が関与している可能性が極めて高い。そして、邪神が関与している以上、必ず何かろくでもない目的がある」
まず前提として、これは絶対だった。
マイコも元魔物なりに異論はないらしく、教官の言葉にコクコクと頷いている。
「それに加えて、今回の『誰か』は百十年前。天蓋竜が現れたのが、百五年前。時期が近いよね?」
「ぬ」
「もちろん時期だけで、現状ではそれ以外は何も関係ないし、他にも色々起きているよ。……でも、経験上、邪神相手だと最悪を想定して行動した方が万が一の時に対応しやすいんだよね」
「ぬ、なるほど」
納得するマイコに、じゃあまず天蓋竜から調査するよ、と教官が資料を机に置く
「マイコは、天蓋竜との戦いについては知ってる?」
「……ぬ、あんまり」
「そっか、じゃあ、マイコに説明しながら確認していく形にしようかな」
教官は、マイコの前に百五年前の地図を広げる。神国を中心に大雑把に周辺国の情報が書かれていた。
そして、まずそのうちの一つ、神国から三つ離れた所を指差す。
……かつて確かに存在して、今は全土を汚染地に飲み込まれてしまった国を。
「……百五年前、天蓋竜が現れたのは、ここから三つ隣の国。私のお師匠様──一般に原初のアデプトと呼ばれる人がいた国だった」