転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第11話 強襲

『──■■■■■■■■■■!!!!!!』

 

 ──空が黒に隠され、竜は地を睥睨し、叫びは空間を歪ませる。

 ――破滅の力は転移と同時に無数の牙の奥で収束を始め、地を這う人間を消し飛ばさんと唸りを上げる。それは世界を破壊せんとする、憎悪の咆哮だった。

 

 コノエは見る。天を覆う巨大な竜を見る。黒すぎて立体感のない漆黒の体躯。地球の東洋で描かれる龍のような体が渦を巻き、天を覆っている。圧倒的な力と死の気配が落ちて来て──。

 

(──顕現)

 

 ──故に、守護者(アデプト)は武装へ手を伸ばす。竜を見た瞬間から動いていた。

 撃鉄は既に落ちている。生と死の狭間にあって、しかしその思考は何処までも加速していく。

 

 コノエの体を金と白の鎧が包み込む。同時に、体の深奥に雷を生み出す。雷が浸食を始め、体が雷に置き換わっていく。

 雷化──コノエの存在が雷へと変わる。即座に己の在り方を最高速度まで引き上げる。

 

 コノエは動く。隣で天を見上げたまま、反応できていない神様に手を伸ばす。アデプトの使命。他の何よりも優先される使命を果たすために。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『──■■■■!!!!』

 

 ──でも。それでも。それでも、遅かった。コノエが最速で動いたとしても。()()()()()()()()()()()()()()()

 その瞬間には、竜のブレスが、もう──。

 

「──!」

 

 ──しかし、その刹那に、()()()()があった。

 コマ送りのような感覚の後に、切り裂かれた空を追いかけるように銀光が天を走る。

 

 見る。竜の顎がカチ上げられている。同時にブレスが放たれて、神都の上空を漆黒の奔流が薙ぎ払う。何かが割れるような音がして、空が割れ目を見せ始めていた。

 

『──■■■■』

 

 そして、顎を殴られながらも、竜は怯まずその目で教官を睨みつける。

 黒い力が竜の右爪に集まる。即座に目の前の教官──ではなく、学舎に向けて振るわれる。

 

 ──もう一度、銀光が奔る。

 竜の右爪が弾かれる。竜爪から放たれた黒い爪撃が虚空を裂く。また、ほぼ同時に左爪も振るわれようとして、銀が弾いた。……しかし。

 

(──あれは)

 

 コノエは神様を両腕で横に抱え、神衣――守護の権能が籠っている――を外部から展開し、駆けだしながら、見る。

 教官の姿。竜の三度の攻撃を弾いたその姿は……両腕と右足を失っている。竜に触れた部位。それはまるで、以前教官から話に聞いた――。

 

 ────天蓋竜。

 

 伝わってくる圧倒的な気配。伝え聞いた特徴と外見。教官の傷。まさかとは思ったが、間違いない。同一の存在なのかは分からないが、消滅のような力を持っている。

 

(……ならば、何よりも先に神様を逃がさなければ──!)

 

 コノエは加速する。こういうときの対処法はあらかじめ学んでいた。

 神様の執務室を駆けぬけ、私室の扉の向かいにある扉を蹴破る。そこから伸びる通路を一息に走り、突き当りの扉も蹴破った。

 

 そこには、退避用の魔道具が常備されている。最上階の半分を占める巨大な魔道具だ。大国にだけ設置された、使い捨てだが瞬時の国家間移動を許してくれる国宝級の魔道具。

 コノエは部屋の中に入ると、神様を下ろし、魔道具のレバーを上げる。魔道具が動き始める。転移魔法の気配が動き出す。

 

『──■■』

 

 でも、そのときだった。天蓋竜が力の波動を放った。その力は周囲一帯の空間に異常を起こす。

 空間が、捻じれていく。天蓋竜の出現と共に歪み始めていた空間はますます捻じれ。

 

(──魔道具が……!?)

 

 バキン、と音を立てて退避用の魔道具が壊れる。空間魔法が捻じれに耐え切れなかったと言わんばかりに。コノエは驚愕し目を見開いて――。

 ――そして、そんなコノエを他所に天蓋竜は同時に動く。その長大な体の尾を振るい学舎を狙った。

 

「――!」

 

 学舎の建物よりも太い尾が、横なぎの軌道で学舎に向けて飛ぶ。その気配をコノエは察知する。否定の力が全てを消滅させんと近づいて来る。

 コノエは即座に神様を再度抱え、目の前の壁を破壊する。外に飛び出して、雷の如き速度で尾の軌道から逃れる。

 

 しかしコノエと神様は逃れたものの、尾は、そのまま学舎とその近くにある転移門を建物ごと薙ぎ払わんとして――そこで、銀光が輝く。コノエと教官の目が一瞬合う。銀の一撃が尾の軌道を上に弾く。なんとか腕を一本修復した教官の一撃。

 

「────」

 

 ──逸れた尾はそのままの勢いで、学舎の屋上近くを抉り飛ばす。

 跡形もなく、抵抗もなく、建物が削れる。不幸中の幸いと言うべきか、人がいた気配はなかった。コノエは、思わず安堵の息を吐き──。

 

『──■■■■』

「……な!」

 

 ──しかし、安堵するのはまだ早かった。

 弾いた尾を、くるりと回転させ、天蓋竜はそのまま神都の街へと振り下ろす。学舎からは逸れたものの、長大な体躯を持つ竜の一撃が、街に落ちていって。

 

「────あ」

 

 コノエは、見る。気付く。尾が向かっている先。それは、繁華街の方だ。

 繁華街。神都の中で、一番人が多く集まっている場所。そして。

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()

 メルミナと、テルネリカと、ノエルがいる場所。今朝も訪れた場所。そこに消滅の力が籠った尾が落ちて行く。

 

「──まっ」

 

 加速した思考。ゆっくりと見える。でも、コノエには止められない。だって神様を守らなくてはならない。だから、止めるために動くことすら出来ないままに、落ちていく。

 神都の各所から尾に向かってアデプトの攻撃が飛ぶ。でもその勢いは全く衰えない。意味もない。そのまま街を、叩き潰そうと──。

 

【────ぁああっ!!】

 

 ──しかし、そこで。コノエの腕の中で神様が叫ぶ。

 白い魔力が溢れ出し、世界を染め上げる。白き盾。人を愛する、母神の権能。災いから子を守るための守護の力。

 

 純白の翼が神都に広がる。神都を包み込むように盾が展開される。

 振るわれた尾と、白い盾が正面からぶつかり合い――。

 

 ──バキバキと。音を立てて白い盾に罅が入り、崩壊していく。

 確かに押し留めつつも、粉砕されていく。そして。

 

【────あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛!】

「神様!?」

 

 神様が悲鳴を上げる。全身から血が噴き出す。

 まるで盾は神様そのものだと言わんばかりに。

 

 純白の盾は、消えていく。空気に溶けるように。僅かな停滞の後に、また竜の尾は動き出す。

 

「────」

 

 ──でも、しかし、その僅かな停滞こそが。

 彼女が動くために必要な時間だった。

 

「────ぬ!」

 

 マイコは見た。見て、叫んだ。

 そうだ。マイコは、ずっと見ていた。天蓋竜の登場からの数秒間。ずっと観察していた。

 

 見ろ、とマイコの戦闘勘が叫んでいたからだ。教官から聞いた天蓋竜の情報。目の前の脅威。肌に感じる圧倒的な力。それに対抗するためには、観察しなければならない。()()()()()()()見なければならない。

 

 マイコは、見た。天蓋竜の長い体を。真っ黒な体を。背に生える(たてがみ)を。

 教官の腕と手甲を消し飛ばした以上、当然肉も金属も消している。真っ黒な体は、おそらく光を消しているからだ。鬣の動きを見るに、風の影響も消している。咆哮も聞いたことが無い音だ、しかし、風を消しているのに音が響いているのは……放った魔力の振動か、消えた場所に空気が流れ込む鳴動か?

 

 マイコは、見る。見続けて、観察して、推測して──だから、気付いた。

 (たてがみ)が、少し垂れている。下に引かれている。

 

 そうか。なるほど。これは、かつての討伐隊にその力の持ち主がいなかったのか、それともあえて効果範囲から外しているのかは知らないが──。

 

 ──おまえ、重力は消してないな?

 

「──ぬううう!」

 

 故に、マイコは作り出す。魂を操る力で、己の魂を塗り替える。新たな権能が魂に刻まれる。

 作り出されるのは、第四の魔法。尾が向かう先、大切な想いを守るための、拒絶の魔法。

 

固有魔法(オリジン)──重力掌握、(あっちいけ)遠々の追放(デカブツ!)

 




3巻のモノクロイラストが公開されました。是非見てもらえたらと。

【挿絵表示】

3巻は9/10です。メロンブックスさんで買うと4pのSS付きブックカバーが付きます。良かったらよろしくお願いします。
リンクも近況ノートにあります。
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