転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

156 / 216
※※※注意※※※
※本日は二話同時更新で、こちらは二話目です。一話目を読んでいない方は、前の話から読んでください※

この話は長めです。8000字くらいあります。


第18話 笑顔

 ──それは、何の意味もない行動だった。

 その盾は、何の意味もないものだった。

 

『────!!!!』

 

 ──コノエの固有魔法、白き盾は、天蓋竜を前に何の障害にもならない。なる訳がない。

 

 何故なら、迫ってきているのは、魔王のブレスだ。黒の咆哮。消滅の一撃。

 全てを塗りつぶし、消し飛ばさんとする一撃だった。守護の権能をもつ最高神の盾ですらほんの数秒しかもたない。それ程の力だった。

 

 コノエと魔王では存在としての格が違う。魂の重さが違う。

 天蓋竜のブレスは、神の権能を砕き、人類の守護者たるアデプトを容易く消し飛ばす。その消滅の権能に、只人の権能なんて一瞬でも耐えられるはずがなかった。

 

 故に、意味などない。即座に消し飛び、下にある神様の盾も砕け散る。

 それが、当たり前だった。誰もが予想した結末だった。

 

 ──なのに。

 

『……え?』

 

 魂に傷を負い、都に引き上げていたアデプトは、目の前の光景に呆然と呟いた。

 

 傷の痛みを忘れ、ぽかんと口を開けるほどの衝撃。

 そうだ、あるはずのないことが、起きていた。

 

『……なぜ?』

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 この、奇跡。ありえざる現象。

 それは全て、コノエの固有魔法が特別な力を持っていたから──。

 

 ──ではない。そのようなことはありえない。

 コノエの盾に、天蓋竜の消滅に立ち向かえる力など、籠ってはいなかった。

 

 コノエは、特別な人間ではない。凡人である。そんなコノエの盾に、特別な力などなかった。……いいや、正確に言えば、()()()()()()()()。けれど、天蓋竜に立ち向かえるほど大きな力ではなかった。

 

 なぜなら、コノエは一般人だ。世界を守るアデプトではない、一般人。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 当然だ。だって、それはそうだろう。それが出来るのなら、なぜ、()()()()()()()()()()()

 最初に消し飛ばされた大国の都には、数百万もの人々が住んでいた。海に面した、港町。多くの人が集まり、暮らしていた。

 

 多くの人がいて、多くの家があって──多くの、愛があった。

 彼らもまた、天蓋竜に立ち向かった。妻と子を背に庇い、叫んだ父がいた。我が子を抱きしめ、その背で守ろうとした母がいた。その一閃に未来を捧げ、天蓋竜に剣を振り上げた戦士がいた。教え子を逃がそうと命を捨てた教師がいた。自分の存在──長き人生と研鑽を世界に捧げた賢者がいた。

 

 幾千の固有魔法があった。世界を捻じ曲げんとする想いがあった。己の愛のために世界に叫び、存在を擲ち、天蓋竜に立ち向かって──。

 

『────■■■■』

 

 ──しかし、その全てが、天蓋竜のブレスに薙ぎ払われた。何の痛痒も与えられず、障害にもならず、消し飛んだ。

 それこそが魔王。それこそが世界崩壊。守護者(アデプト)を殺し、人類を絶滅させんとする最強の怪物である。

 

 だから、だ。だから──そんな天蓋竜のブレスを、コノエの盾が止められたのは、完全な()()()()()()だった。

 単純に、()()()()()()()()、止められた。それだけ。

 

 その理由は、そもそもの天蓋竜の権能に関係がある。天蓋竜の願いそのものが原因だった。

 天蓋竜の消滅の力は、憎悪から生まれている。

 

 邪神がこれまでの数千年で集めてきた、魔物の憎悪。その結集体が、天蓋竜だ。

 魔物達は、呪っていた。恨んでいた。憎んでいた。何があったのかはそれぞれ違うが、多くの魔物が、死の間際で人を呪い、運命を恨み、世界を憎んでいた。理不尽な死、喪失、不幸を絶望の底で憎悪していた。

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 消滅とは、否定であり、憎悪である。みんなみんな消えてしまえという破滅の願いである。

 邪神は、憎悪を集めて、纏めて、世界に向けた。

 

 この世界の全てを憎み、全てを消し飛ばす権能とした。邪神の最高傑作。原初も銀も薙ぎ払う、最強の魔物。

 この世界の存在では、まともに傷を与えることもできない。この世界の全てを消し飛ばす障壁を常に纏い、たとえ一度目に僅かに通ったとしても二度目は完全に拒絶する圧倒的な力。それが、天蓋竜だった。

 

 だが、しかし──ここに、邪神の予想していなかったイレギュラーがいた。

 

 そうだ、()()()()()()()()()。異世界の存在。

 ()()()()()()()()。この世界の存在ではない。この世界から、外れた人間。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……邪神の計画は、完璧だった。世界の内側では、何であろうとも、太刀打ちできないものを作った。それは、天蓋竜の百年後に死ぬことになる不死の魔王もそうだ。死の界律を完全に超克した化け物。この世界の人類では、決して殺せない怪物だった。しかし、一人の異世界人によって全てが狂った。

 

 つまり、これは──天蓋竜のブレスが止められるその瞬間まで、邪神の頭の中に異世界人という存在が無かったから、潜り抜けただけ。

 特別ではないコノエが天蓋竜を止められたのは、ただそれだけの話だったのだ。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『──■■■■■■■■!!??』

 

 ──天蓋竜が驚愕する。己の消滅をもってして、砕けぬ白い盾。ありえざる事態に困惑し、権能とブレスをさらに強化する。

 全てを消し飛ばす破滅の咆哮が、何でもないはずの只人に向けられる。

 

 それにコノエは──。

 

『──ああああぁぁぁぁぁあああああ!!!!』

 

 ──己の全てが崩壊しそうな衝撃に、叫びをあげた。

 これもまた、当然の結果だった。確かに、消滅の権能はコノエには効果が無い。しかし──天蓋竜は、消滅の力が無くてもなお、極めて強大な魔物である。

 

 最強の竜。皇竜。全ての魔物の頂点に立つ存在。その力は固有魔法がなくとも災厄に当たる。街を容易く消し飛ばし、国を揺るがす怪物だった。

 

 ──消滅などなくとも、一般人の固有魔法など容易く打ち破れる力を持っている。

 

『──ああ、ぁぁあああああ!!』

 

 コノエに、盾から衝撃が伝わってくる。盾が悲鳴を上げる。ビキビキと(ひび)が入っていく。壊れる。壊れていく。コノエの魂の力を全て込めた盾が、崩壊していく。直そうにも、もう力が残っていない。今にも砕け散りそうになって──。

 

『……ぐ、ううううぅううぅうぅ!!』

 

 ──しかし、それは駄目だった。それだけは駄目だった。盾の下には、神様がいる。

 神様だけは。何を犠牲にしても、神様だけは、死なせたくなかった。だから。

 

『──────!』

 

 コノエは、()()()()()()()()。そして、固有魔法に焚べる。方法は理屈ではなく、魂で理解した。盾を維持するために、己の本質とも言えるものをコノエは炎に焚べていく。

 

 一瞬ごとに、盾が壊れていく。コノエは魂を削いで、補修する。

 壊れて、削いで。壊れて、削いで。壊れて、削いで。

 

 欠けていく。コノエが欠けていく。記憶が欠け、感情が欠けていく。

 コノエをコノエたらしめていたものが、何もかもなくなっていく。

 

 力が入らなくなっていく。五感が消えていく。己が立っているのか、横になっているのかも分からなくなる。耳が聞こえなくなる。目も見えなくなる。……しかし。

 

『──■■■■■■■■!!!!』

 

 天蓋竜のブレスは、終わらない。コノエの盾を打ち砕かんと、むしろ威力を増している。

 コノエの魂はどんどん小さくなる。消えていく。

 

 全てが失われていく。もうすぐにでも盾は砕け散ってしまいそうになって──。

 

【──コノエ!】

『…………』

 

 ──ああ、でも、そのとき。声が聞こえた、耳が聞こえなくなったはずのコノエの心に、声が聞こえてくる。コノエにとって、何よりも大切な──。

 

(──かみさま)

 

 コノエは、思い出す。それは、何もかもが失われていった中で、たった一つだけ残していたものだった。一番最後まで、手放したくなかったもの。本当に、大切なもの。

 

 ──コノエ、今日は何の話をしてくれるの?

 ──コノエ、今日はおやつを作ってきたの。食べる?

 ──コノエ、今日ね、面白い本を読んだの。あなたにも見せてあげる

 

 神様との思い出が、コノエの脳裏に浮かぶ。十年、傍にいてくれた。笑いかけてくれた。語り掛けてくれた。なんでもない話をした。

 全てが燃え消えていく中で、その記憶は、神様の笑顔は、何よりもまばゆく輝いていた。

 

 楽しかった。本当に楽しかった。明日が来るのを楽しみだと思えた。

 だから──。

 

(……かみ、さま、ぼくは)

 

 ──ああ、そうか。コノエは、理解する。最後の最後で、理解する。

 たった一つの想い。コノエが、今までずっと知らなかった……。

 

(……ぼくは、かみさまのことが、すきだったのか)

 

 そのことに、コノエはやっと気づけた。それが恋と呼べるものだったのかは分からない。分からないけれど……神様の笑顔があったから、温もりがあったから。コノエは前に向かって歩けた。この十年、笑っていられた。

 

 ──コノエは、神様の笑顔が、何よりも好きになったから。

 

『………………』

『──■■■■■■■■!?』

 

 だから、コノエは、神様の笑顔の為なら、どんな苦しみも耐えられる気がした。

 

 欠片ほどの魂から、もう少しだけ力が溢れてくる。

 盾が、もう少しだけ頑張れる。ブレスを、もう少しだけ抑えられる。

 

 時は遠くなり、一秒が千秒にも感じられる中で、コノエは神様を想い──

 

『──■■、■■』

 

 ──そうして、大気の鳴動が、終わる。歪められた世界の悲鳴が、終わる。

 天蓋竜のブレスが、止まった。万象を消し飛ばすブレスは、全て打ち放たれて。

 

『………………』

 

 しかし、白き盾は、残っていた。元の形も分からないほどボロボロだったけれど、その下にある神様の翼は、無事だった。

 

【────、──────!】

 

 コノエは、もう何もかも分からなくなった状態で、誰かの声を聴く。心に伝わってくる声。

 それに、よかった無事だったのかと、僅かに微笑んで。

 

 ──盾は、力を失い、落ちていく。

 

 コノエの魂そのものと言える盾が、地面に落ちて行く。

 落ちて、ガシャン、と砕けて──。

 

 ──そうして、コノエは、死んだ。

 ……屋上から必死に手を伸ばす神様の顔が、笑顔ではなく、悲痛に歪んでいることを知らぬままに。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『……■■■■■■■■』

 

 天蓋竜は、そんな一人の男に困惑していた。何だったのかと。

 数秒間の空白があって。

 

『……■■■■!』

 

 けれど、すぐに切り替え、またブレスを放とうとする。何だったのかは分からない。けれど、あの男は死んだ。それなら、考えるのは後でいい。

 何よりもまず、この神都を今度こそ消し飛ばそうとした──。

 

『──■■■■!?!!??』

 

 ──その瞬間だった。そこで、天蓋竜は地上に恐ろしい気配が現れたのを感じ取った。

 見ると、地上にいるのは、これまで幾度も見てきた銀色だ。

 

 強くはあった。でも、今まで己に傷をつけられなかった人間。

 ……それなのに、そのはずなのに。

 

 今その人間から感じる気配は、今までの物とは全く違っていて──。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『──コノエ』

 

 ──そして、教官は。アーキノルカから転移門を潜り、コノエの戦いの最後を見た教官は。

 コノエの名を、呟く。倒れ伏した姿を見る。守り抜いた神様の姿を見て。

 

『……ごめんね。使()()()()()()()

 

 一言謝り……手の中の、コノエの盾の欠片を握りつぶす。

 コノエの魂の欠片を握りつぶして──。

 

 ──()()()()()()()()()

 

 教官の手甲が、白き盾の欠片を纏う。天蓋竜の消滅の力を弾く、異界の物質を纏う。つまりそれは。

 

 ──これで、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

『──■■■■■■■■!!!!!!』

 

 ──本能で、天蓋竜が叫ぶ。そして、権能の力を全力で高める。消滅の力が、世界を侵す。

 界律が乱れ、空間が歪んでいく。世界が裂け、虚空を見せる。上と下が無くなり、地は天に落ちていく。

 

 ()()()()()()()()

 

 天蓋竜は、教官の脅威を理解した。だから、全力で守る。逃げられない。時を操る相手からは逃げられない。ならば守るしかない。世界を歪め、己の盾とする。

 そうして──必ず、一度、耐える。一度耐えれば、敵が何だろうが適応し、効かなくなる。それが、天蓋竜の権能である故に。

 

『────』

 

 そんな天蓋竜に、教官は静かに構える。銀の光が、溢れ出す。

 希望の象徴。人類を永きに渡って守り抜いてきた輝きが世界を照らし──。

 

『──固有魔法』

 

 ──世界がブレ、銀の閃光が奔る。世界を断ち切るように。

 その結果は……。

 

『……■、■?』

 

 ……結果は、言うまでもないことだった。世界の誰もが知っている。教官は、それだけのことを成し遂げてきた。

 そうだ。どれだけここまでの戦いで消耗していようとも、たとえ一撃だけであろうとも。物理攻撃が通用するのならば──。

 

 ──教官(さいきょう)に敗北など、ありえない。

 

 世界を塗りつぶさんとした黒は銀の輝きに塗り替えられる。

 こうして、否定の魔王はその命脈を断たれ、地に堕ちた。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ──そして。

 

【…………】

 

 ……戦いの後。

 数日の時が過ぎた。 

 

【…………】

 

 天蓋竜は死んだ。

 いくつも国が滅んだが、魔王は確かに討滅された。

 

【…………】

 

 世界は滅びを回避した。

 人の世は、きっとこれからも続いていくだろう。

 

 世界は、神国は、失ったものの多さを嘆きつつも、生き延びた喜びの声に満ちていた。

 

【…………】

 

 街からは、喜びの声が聞こえてくる。

 神様のいる学舎にまで聞こえてくるような、そんな声だ。

 

【…………】

 

 ……しかし、その一方、神様は。

 戦後処理に忙殺されていた。

 

 これほどの戦いの後だ、国の頂点に立つ神様には、しなければならないことが山積みになっていた。

 

【…………】

 

 沢山の人が死んだ。沢山のモノが失われた。

 

 アデプトが死んで、騎士も死んだ。その補償をしなければならない。

 また、国は滅んでも、人が全て死んだわけではない。生き延びた人々を回収し、家と食料を与えなければならない。

 

【…………】

 

 沢山の、やることがあった。

 だから、神様は、ただ仕事をしていた。

 

 失われたものはとても多くて、大きくて。

 でも、泣き言を言っている暇なんて、神様には無かった。だって、人を導く神なのだから。母なる神の分体として、頑張らなければならない。

 

【…………】

 

 神様は、黙々と、淡々と、ペンを動かしていて……。

 

『神様、少しよろしいですか?』

【……?】

 

 ──そして、部屋にノックの音が響いたのは、そんなときだった。

 

 声は、教官の秘書のものだった。

 返事をすると、扉が開き、何か大きなものを抱えた彼女が部屋に入って来て……応接用の机の上にゴトリと置いた。

 

 神様は何だろうと思い、立ち上がって近づく。

 すると、なんだかそれはとても奇妙な形をした魔道具だった。

 

 大きな囲いがある魔道具で、その中に、回転する機構と、火をつける機構と、金属製の筒があった。筒にはたくさん小さい穴があって……なんだろうか。少し甘い匂いがしている。

 

『これは、研究員コノエの研究室に残されていた魔道具です』

【……え?】

 

 ──あの子の?

 驚く神様に、秘書は言う。これは、お菓子作りの道具のようです、と。

 

【……お菓子?】

『はい、部屋に発注用の図面が残っていました。……どうやら、十年目を祝うパーティーに向け作っていたようですね』

【────!!】

 

 ……パーティー。コノエの、十年目を祝うための。

 本当なら、楽しく祝っていたはずの、でも、天蓋竜が現れて、開けなかったパーティー。

 

『ただ、どのようなお菓子を作るために使うのかは分かりませんでした。お菓子の名前は書かれていたのですが、聞き覚えのないものでして。異世界のものなのでしょう』

【…………】

 

 神様は、渡された図面を見る。そこに書かれていたお菓子の名前は、神様も聞き覚えが無いものだった。この世界の物じゃないし、十年間で聞いたこともない名前。

 

『……研究員コノエは、随分と熱心にこの魔道具の設計をしていたようです。疑問に思った魔道具職人が問いかけたところ、神様にお礼がしたいと、神様に食べて喜んでほしいと、言っていたようです』

【──!】

 

 なので、ここに持ってきました、と。そして、そこまで言って、では失礼します、と秘書は部屋を出ていく。

 後には、魔道具と図面を呆然と見つめる神様が残った。

 

 お礼。この魔道具は、そのために作ったのだという。神様は魔道具をまじまじと見る。食べて喜んでほしいと、これを作ったのだという。……しかし。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その魔道具は、現代日本にある機械と比べれば、とても原始的な形をしていた。

 けれど、確かにそのお菓子を作るだけの性能があった。

 

 使い方は、こうだ。単純だが、少し難しい。

 まず、小さな穴の沢山開いた筒に、粒が大きめの砂糖を入れる。次に、筒の下には発火の魔道具があって、それに点火する。

 

 筒を火で炙りながら、回転の魔道具を起動すると、筒が回り出して──すると、遠心力で、小さい穴から熱で溶けた砂糖が糸状になって出てくる。

 その糸状の砂糖を棒などでからめとり、塊にする。このとき、上手く形にするには、それなりの練習が必要かもしれない。

 

 そうして、塊をそれなりの大きさに出来れば、完成だった。

 つまりこれは、そんな道具であって──。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

【……コノエ。これじゃ分からないよ】

 

 ──しかし、神様には、分からなかった。この魔道具をどう使えばいいのかも、出来上がるお菓子がどんなものなのかも。

 不思議な形をした魔道具。使い方の想像も出来なかった。お菓子の名前しか分からない。

 

【……コノエ】

 

 でも、お菓子は分からなくても、神様には一つだけ分かることがあった。

 それは、そのお菓子を差し出すときの、コノエの顔だ。

 

『──神様、これを、どうぞ』

 

 ……きっと、いつものように、笑っていたのだろう。控えめに笑いながら、お菓子を差し出したのだろう。十年見てきたのだ。簡単に想像がつく。

 

 そうして、これはどんなお菓子なの? と問いかけると……彼は一拍置いて、頭の中で言葉を整理して、話し始めるのだ。

 

『……ええと、ですね』

 

 これは、何々というお菓子で、こういう材料で、こういう風に食べるんですよ、と。

 食べてみてください、と。

 

『……美味しいと、いいんですけれど』

 

 ちょっと自信なさげに渡してきて、それを自分は食べる。美味しいのだろうか。美味しいのだろう。そうに違いない。

 自分は笑って、きっとコノエも、嬉しそうに笑うのだ。

 

【……コノ、エ】

 

 ──そうだ。それが、パーティーの日にあったはずの光景だった。

 楽しくて、幸せで……そして、これからも、ずっと続いていくはずだった光景。

 

 ……それなのに。

 

【……コノ……エ】

 

 ──ぽたり、と雫が図面に落ちる。ぽたりぽたりと落ちて、瞬く間にまだら模様を作っていく。

 神様は、その図面を濡らしたくなくて、慌てて、胸に抱きしめて……。

 

 ……その場に、座り込む。

 もう、そんな未来は二度とやってこない。

 

 コノエは、死んだからだ。自分を庇って、守って、死んだ。

 盾の固有魔法で魂を全て使いきって、死んだ。

 

 二度と、会えない。どこにもいない。

 異世界の話も、してくれない。遺したこの魔道具の使い方も分からなくて──。

 

【──ねえ、コノエ。これじゃ分からないよ。

 ──()()()()って、どんなお菓子なの? どうやって作るの? ……どうやって……どうやれば……】

 

 ──教えてくれなきゃ、分からないよ、と。

 神様はそう呟き、涙を落とす。けれど、当然返事は無くて……。

 

【────っ】

 

 ……だから、神様の慟哭は、その後しばらく響き続けた。止められる者は、もう、どこにも居なかった。

 




これで過去コノエ編は終わりですが、三章はあと一話あります。
この後からどうやって現代に繋がるのかの話です。
なお、裏話ですが……異界の物質としてコノエ君の血などを使った場合、強度が足りないので天蓋竜を貫く前に蒸発します。

また、そろそろ三巻発売なので、一点連絡を。
三巻はテンポ重視の改稿をしているため、いくつかテンポが悪いなと思ったところが変わっているのですが……それとは別に一か所、後の展開に繋がる重要な部分が無くなっています。
これは、四巻以降出せれば、とあるキャラのテコ入れに使う予定ですのでよろしくお願いします。ちょっと不遇キャラがおりますので……役目をあげないと……

そして、9/10に三巻が発売します! よろしくお願いします!
四巻五巻と出したい……メディアミックスもしたい……よろしくお願いします!初週売り上げが大事です!

メロンブックスさん(SS付き)のリンクも貼っておきますね……
メロンブックス
アマゾンさんも置いておきますね……
amazon

『このライトノベルがすごい!2026』の投票が開始しています。
ここでいい順位を取ることが出来れば、認知度が上がって売り上げも上がって続巻込みで今後にも関わってくるので、よかったら投票をお願いします!

ランキングに載りたいし、五巻まで行きたい……
リンクを置いておきますね……
『このライトノベルがすごい!2026』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。