転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第22話 欠片

 ──それは、百五年前の神様の記憶だ。

 教官が、天蓋竜を討ち取った後の話。

 

【……ぁ】

 

 そのとき神様は、呆然としていた。屋上から地上に降りて、倒れ伏したコノエの隣に座り込んで、ただ呆然としていた。うつ伏せに倒れ、眠るように死んでいるコノエを見ていた。

 

【……コノ、エ】

 

 神様は神様であるが故に、もう手遅れだとすぐに分かった。生命の権能でも、何もできない。魂が壊れている。跡形もなく、砕け散っている。

 コノエと神様の周囲に散らばる、白い欠片。その全てが、コノエの魂だった。魂が、どうしようもないくらいに砕けていた。ただ使い切っただけでなく、粉々に砕けてしまっている。

 

 これでは、ここまで壊れてしまっていては、蘇生どころか──。

 

【──あ】

 

 ──そして、神様は見た。周囲に散らばる破片が、崩れ始めた。世界の修正力だ。世界の歪みが、正されようとしている。

 さらさらと砂のように空気に溶け始めて、小さくなっていって。

 

【……だめ】

 

 それに、神様は呟く。駄目だった。それだけは、駄目だった。

 だって、それは──。

 

【──だめ! やめて!】

 

 神様は、白い欠片に手を伸ばす。コノエと、世界に向けて叫ぶように。

 そうだ、ここまで魂が壊れて、世界に溶けてしまったら。

 

【──コノエ、いかないで!】

 

 ──もう、()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()。それは、死を超えた消失だ。

 全てを使い切り、砕け散った人間の末路。どこまでも残酷な、最悪の結末。

 

【……だめ、だめだったら!】

 

 神様は、そんな最期、認められなくて。絶対に、それだけは嫌で。

 だって、あんなに頑張ったのに。守ってくれたのに。己を喰いつぶしてまで守ってくれたのに。そんな最期だけは迎えさせたくなくて。

 

 神様は、慌てて周囲の魂の欠片を抱え込む。世界から守るように抱きしめる。

 けれど、崩壊は止まらない。どんどん、どんどんと消えていく。

 

 だから──。

 

【──!!】

 

 ──だから、神様は、涙を拭い、魂の欠片を抱えて走り出した。

 自分の部屋へ向け、必死に走った。そこにある、世界でも手を出せない場所にコノエを連れて行くために。

 

 こんな自分でも。生命神のくせに、母なる権能を、守護の権能を持っているくせに、何も守れず、守られただけの自分でも。何も為せなかったとしても。

 

 ……せめて一欠片だけでも、神様は、コノエという存在を守りたかったからだ。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ──そして、現代。コノエは、白い欠片を見る。神様が抱えた欠片。

 金の権能が指し示す先。コノエを導く権能が、白い盾の欠片を指している。

 

【──きっとね、これが、あなたの魂が傷ついていた理由なの】

「……え?」

 

 コノエが白と金色を瞬きしながら見ていると、神様が、ふとそんなことを呟く。

 過去を思い出すまでずっと分からなかったけれど、と。

 

【前々からね、おかしいとは思っていたの。あなたの魂は、あまりにも傷つきすぎている】

 

 神様は言う。神様は数千年間、人の魂を見て、人と言葉を交わしてきた。

 だから、コノエの魂の傷付き方に違和感を覚えていたらしい。

 

 それでも、理由が分からないので、異世界人だからなのかと思っていたそうだが……。

 

【違ったんだ。ここに、あなたの欠片があったから。風化し、世界に溶けたはずのあなたの本質が、一欠片、ここに残っていたから】

 

 きっと、世界が矛盾を解消した際、あなたの魂を完全に元には戻せなかったの、と。神様は言う。また、取り戻した記憶の中でかつてのコノエの魂も見ていたが、今ほど傷付いてはいなかった、とも。そうして。

 

【……あなたが、固有魔法を使えなかったのも、もしかしたら】

「────!」

 

 ──コノエは神様の言葉に驚き、白い欠片を見る。

 目を見開いて、凝視して。頭の中で、神様の言葉を反芻する。これまで学舎で習ってきたことと照らし合わせて、十分にあり得ると理解して……。

 

 ……その上で、思う。つまり、それは。

 

「……その欠片をとりこめば、僕は固有魔法を使えるようになる?」

【可能性は、高いと思う。あなたの魂の力は十分以上に鍛え上げられているから】

 

 コノエはまた、白い欠片をまじまじと見る。固有魔法。コノエが望んでいたもの。

 今まで欲しいなと思っても手に入らなくて、羨んでいた。けれど、どういう訳か全然手に入らなくて、原始魔法まで覚醒した。

 

 ……それが、目の前にあるかもしれない。

 

「…………」

 

 そして、同時に、己の瞳の中で渦巻く力にも思いを馳せる。

 金の権能。コノエを導いてくれた、テルネリカの力。

 

 過去に二度コノエを助け、不死殺しと死の予言回避を許してくれた。

 今回もそうだ。現状の打開──天蓋竜への対処のために行き先を示してくれているはずだった。

 

 ──その力が、目の前の欠片を指し示している。

 

 ここに来るまで、金の権能が自分をどこに連れて行こうとしているのかよく分からなかったが……自分が固有魔法を手に入れるように導いていたということか。コノエはそう思う。

 

 つまりこれは、自分の固有魔法こそが、天蓋竜討伐の役に立つということなのだろうか……?

 

「…………」

 

 ……いや、正直。

 それは、ちょっと信じられないとコノエは思うけれど。

 

 だって、まだ実際見てもいない自分の固有魔法が、()()天蓋竜に効果があるなんて信じられるはずがない。敵は最強の魔王だ。当然だけれど、前回のような異世界人だから消滅が効かない、なんてことは無いだろうし。

 ……というか、そもそも。固有魔法って、かつての自分が使ったあの盾なんだろうか? その可能性はあると思う。でも、盾はあまり使ったことないんだよな……。

 

 ……なんて、 コノエはそんな感じのことをごちゃごちゃと頭の中で考えて──。

 

【──ただ、コノエ、この欠片を取り込むうえで、一つ注意点があるの】

「……え?」

 

 そこで、神様は真剣な顔でコノエを見る。

 

【当然だけど、今まで、仮に同じ人間だったとしても、違う過去を持つ人間の魂を取り込んだという前例はないの】

「……」

【……だから、なにか、問題が起きるかもしれない】

 

 神様は、よく考えて、とコノエに言う。

 コノエはそれに……少し浮ついていた心を諫め、真剣に考える。

 

 リスクとメリットを考え。

 ……そして。

 

「……取り込みます」

【……そう】

 

 コノエは、そう決めた。たとえリスクがあったとしても、金の権能が指し示している。

 コノエは、テルネリカの力を信じていた。

 

 ──そうして、コノエは、白い結晶に手を伸ばす。

 結晶の表面に指が触れると、結晶が淡い光を帯びて……。

 

 ◆

 

「…………ここは」

 

 コノエは、気付けば、見知らぬ真っ白な空間にいた。

 そこまで広くもない、白い部屋。

 

 その中に()()のは……。

 

「………………僕?」

『……ああ、そうだよ、未来の僕』

 

 ──暗い顔をして目を逸らす、男が一人

 ──コノエの目の前に、己と同じ顔の男がいた。




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