転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第5部 5章
第25話 気付き


【……お、お返し……? 私の、胸の穴……?】

「……はい」

 

 神様は呆然と呟き、混乱しているように目を泳がせる。

 目を閉じて、ぎゅっとして、また開いて。口をぱくぱくと何度か開いたり閉じたりして。

 

 ……そうして、しばしの沈黙の後に。

 

【………………コ、コノエ、でも、それは】

「……?」

【……それは、お返しは、必要ないよ】

 

 神様は言う。私は、当然のことをしただけだから、と。

 

【私は、生命神の分体で、人を導き、守る神格で……だから、私があなたに出来たことがあったとしても、それは当然のことなんだよ?】

「…………」

【コノエ、いいの。お返しなんて、考えなくてもいいの。私は、あなたが笑っていられるなら、それだけで嬉しいんだから】

 

 そう、神様はゆっくりと、諭すようにコノエに言う。

 それにコノエは、少し考えて……。

 

「……神様、ありがとうございます。……でも」

【……?】

「……でも、僕は必要だから神様にお返しがしたいわけじゃないんです。僕が、神様に返したいから、泣いてほしくないから、笑っていて欲しいから、返すんです」

【──────】

 

 ――神様の笑顔が、好きなんです、と。

 

 先程何度も重ねた言葉を、もう一度コノエは言う。

 ……すると、さあ、と神様の顔が赤く染まって。……やっぱり、恥ずかしいことを言っただろうかとコノエは思う。でも、それが本心だった。

 

 コノエは、神様が笑っていてくれたら、それだけで嬉しかった。

 ……だから。

 

「……だから、神様。僕は行きます」

【……え? …………!!】

 

 コノエは、意識を思い出部屋の外に向ける。そこでは天蓋竜が今も暴れ回っているのだろう。

 ……中に入ってしばらく経った。教官とマイコが時間稼ぎをしてくれているはずだが、あとどれくらい時間が残されているかは分からない。

 

【……そう、だね】

 

 神様が、目を伏せ、唇を噛む。そんな顔をさせたくはないが、しかしまず今は天蓋竜を乗り越えなくてはならない。

 そのためにも……。

 

(……この固有魔法を、使いこなさなくては)

 

 コノエは、手に入れた力に意識を向ける。魂に刻まれた魔法が起動する。どれほど通用するか、とはもう考えない。自らの最善を尽くす。力を使いこなし、使えるものは何でも使い、策を立て、そして、必ず討ち滅ぼす。そう決意する。

 コノエの内部を魔法が満たす。それが僅かに外側へ溢れて──。

 

 ──その瞬間だった。

 

【──うひゃあ!!??】

「えっ!?」

 

 ──突然、神様が大きく反応した。酷く驚いたように叫ぶ。

 自らの体を両手で抱きしめて、キョロキョロと周囲を見て……。

 

【……え? え!? なんなの? なにが起きたの!?】

「……なにが。…………あっ」

 

 ただならぬ様子にコノエは警戒を強め……そこで直感的にコノエは気付く。違う。敵じゃない。敵じゃなくて──やらかしたのは、自分だ。

 そうだ。ここは、()()()()()()()()。こんなところで()()固有魔法を使ったから。

 

「……す、すみません!! 」

【……え? え?】

 

 頭を下げるコノエに、神様は目を丸くしつつ。

 コノエが状況を説明し……また、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、今度は混乱を忘れ、ぽかんと口を開けて……。

 

【……それが、あなたの固有魔法なの? ……え、それ、もしかして天蓋竜に届──あ、いや、でも……たしか前例と研究があったような……?】

「…………」

【……そう、その力は珍しいけれど、今まで同じ力が一度も無かった訳じゃない。……アデプトは、初めてだったと思うけど】

 

 前例があるし、二十五年前に記憶が消されるまで行われていた天蓋竜研究──対消滅研究でも、その力は検証の対象だったのだと神様は言う。

 ……しかし。

 

【……えっと、結論としては、出力に大きな問題があるから打ち破るのは難しいって……】

「……はい」

 

 神様の言葉に、そうだろうなとコノエは頷く。その問題点に関しては、コノエも固有魔法の力を理解してすぐに自覚した。まず間違いなく、天蓋竜相手には出力が足りない。使うのがアデプトでもだ。

 なので、そこをどう補うかとコノエは考えていて……。

 

【……あれ? でも、そういえば、その力、備考欄の過去の事例に……うん?】

「…………?」

【……えっと、そう考えれば…………え? まさか、そういうことなの?】

 

 神様が、翼を小さく揺らしながら、あれこれと呟く。

 コノエを見て、上を見て……コノエの瞳を覗き込む。何度か瞬きして。

 

()()()()()()()()()()()()? ……可能性は、あるの? ……コノエ、一つ聞きたいんだけど】

「……はい」

【今も、テルネリカ(あのこ)の権能は、どこかを指してる?】

「……金の権能ですか?」

 

 それは……この思い出部屋の、入り口の方だった。つまりは外。導きはまだ続いていて、コノエも神様との話が終わったら向かうつもりだった。出力に関しても何かあるかもしれないし。

 なので、そう伝えると、神様は……。

 

【……これ、まさか……!】

 

 ──神様の表情が、驚きに変わり、次に納得に変わった。

 そして、最後に真剣な顔に変わる。

 

【──コノエ、聞いて。これは推測でしかないけれど、その導きの先に()()ものについて、分かったかもしれない】

「……え?」

【あなたは知って、その上で会いに行くべきだと思う。そうすれば──】

 

 神様はコノエの目をしっかりと見つめて。

 

【──もしかしたら、状況が良い方に動くかもしれない】

「…………!」

 

 そうして神様は口を開く。……あのね、実は話を聞いてから疑問に思ってたことがあるの、と。

 それが何かといえば──。

 

【──テルネリカ(あのこ)の権能、今回、明らかに一般人の枠から逸脱してたの】

 

 ──だから、恐らく、金の権能に力を貸している存在がいる。そう神様は言った。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ──そして、その同時刻。

 所変わって、神都から離れた海上では。

 

「……ぬ……ぬ」

『■■■■■■■!!』

 

 ──天蓋竜のブレスが海を割り、地を引き裂き、星に風穴を開けていた。

 マイコの水塊弾と消滅がぶつかり合い、莫大な質量の消滅と共に世界が歪み、バキバキ、メキメキと悲鳴のような音を立てる。

 

 教官とマイコの時間稼ぎ。教官は疲弊していくマイコのカバーをしながら、圧倒的な力で世界の全てを否定する天蓋竜を相手に遅延戦闘を行っていた。

 戦闘が始まって、早数十分。刻一刻と限界は近づいて来ていて、このままでは遠くないうちに天蓋竜が動き出すことになるのは明らかだった。

 

「…………ふむ?」

「……ぬ?」

 

 ……けれど、そんな中で。教官がふと呟く。それは、隣にいるマイコが不思議に思うくらいに、先程までとは違う雰囲気だった。

 教官は戦いの中、ちらりと神都の方を見る。それは、教官の勘に伝わってくるものがあったからで──。

 

「──マイコ。もう少しだけ、頑張ろうか」

「……ぬぬ?」

「いやなに、僅かだけれど、流れが変わったなと思ってね」

 

 教官は、少し表情を緩める。

 そうだ。教官の勘には──確かに、事態が動いた気配が伝わってきていた。




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