転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第26話 化身

「…………」

 

 ──そうして、コノエは。

 神様との話の後、思い出部屋から出て、金の権能の導きに従って進む。

 

 その隣に神様の姿は居ない。神様は思い出部屋の扉の前に残った。それは、思い出部屋が避難場所になるからであり、この状況では万が一に備えて、すぐに避難できるようにしておくべきだからだ。

 

 ただ、完全に部屋の中に入ると、守りの加護による支援が出来なくなるので、入り口で待機している。なお、今神様の傍には教官の秘書さんがいて、緊急事態には、彼女──教官の秘書さんだけあって、とても強い──が神様を部屋に入れることになっていた。

 

「………………」

 

 頑張って、と見送ってくれる神様の姿を思い出しながら、コノエは考える。

 それは、先ほど神様から聞かされたことについてだ。

 

【──テルネリカ(あのこ)の権能、今回、明らかに一般人の枠から逸脱してたの】

 

 神様は、そう言った。そして……。

 

【……だって、おかしいよ。なんで、世界から消えたはずの百五年前のあなたを見せることが出来たの? 神からすら記憶を奪う世界からの干渉を、どうやって乗り越えたの?】

 

 神様曰く、冷静に見ると、今回の金の権能の働きはどう考えても異常らしい。今までも驚くほどに強かったが、今回は明らかに神を超えるほどの力を発揮している。

 だから、可能性があるとすれば……。

 

【……外部から金の権能に干渉──いいえ、()()に己と相反する固有魔法に干渉する力はないはずだし、逆かな。()()()()()()()()()()()()()()()()、だと思う】

 

 きっと、あえて()()は金の権能を干渉から外したの、と神さまは言った

 そして、そんなことが出来る、ただ一つの存在とは――。

 

「…………」

 

 コノエは思い出しながら、金の権能の導きに従って進んでいく。

 学舎の校舎を出て、学舎と研究棟の間の中庭へと向かう。

 

 ──そこに置かれた、古くからあるベンチ。神様との記憶が残る場所。

 ──ソレが居たのはそんなベンチの上だった。

 

〈……来たか〉

「…………」

 

 ソレは、人ではなかった。確かにいるが、物体では無い。

 力が集まって人の形をしているだけの、ナニかだった。

 

 その正体は──。

 

「──世界の、化身」

〈ああ、そうだ〉

 

 ──コノエが生きる、この世界の意思そのものが、そこにいた。

 

 ◆

 

「…………」

 

 コノエは、目の前の存在を見る。力の塊。生物ではなく、魔法でもない。

 今まで見たことも無ければ、感じたこともない気配だった。

 

 世界の化身。神様から予想は聞いていたものの、その突然の登場に内心コノエは困惑して……いいや、それは違うとすぐに理解する。今まで見たことが無かったのに、ではなく、今だからこそなのだと。

 

 ──これは、()()()()()()()()()()()()()()()()。副作用と言ってもいいかもしれない。

 固有魔法があるからこそ、コノエは目の前の存在を知覚することが出来る。世界の化身とは、特殊な固有魔法が無ければ、決して認識できなかった存在だった。

 

〈──まず、一つ言っておく〉

「……」

 

 コノエがそんなことを考えていると、ふと、化身が言葉を放つ。

 

〈──我は、()()()()()()()

「…………?」

〈お前たちのどちらが勝つかなど、どうでもいい。人が勝とうが、魔物が勝とうが、神が勝とうが、邪神が勝とうが、我にとっては、些事でしかない〉

 

 まあ、あの竜(てんがいりゅう)は極めて不愉快だが、と化身は呟きつつ。

 しかし、不愉快なだけでもある、とも言った。

 

〈あの竜が消滅で削るものなど、我からすれば極一部に過ぎない。人にすれば薄皮一枚()がされる程度であろう。無遠慮に削られるのは不愉快極まりなく、疎ましいことこの上ないが……まあ、見逃せない程でもない〉

「…………」

〈そして、お前たち人が滅びようとも、我にとってはどうでもいいことだ。お前たちは我の中で生きているだけの存在でしかない。絶滅しようが、我には何の痛痒もない。中で暮らす生き物が、人から魔物に変わるだけだ〉

 

 ──故に。化身はそう言う。

 

〈天秤は、ほぼ釣り合っている。我は、人と魔物の争いに介入するつもりなど毛頭ない。接触するつもりもない。お前たちは勝手に生き、勝手に死ぬ。それだけでしかないのだから〉

「…………?」

 

 コノエは、化身の言葉を頭で咀嚼し、世界の立ち位置の理解に努め……そこで、化身の物言いに、コノエは疑問を覚える。

 ……接触するつもりが無いのなら、なぜ今、こうして?

 

〈だが……ふん、お前が現れた。()()固有魔法の持ち主が〉

「……」

〈お前の力を、我は知っている。その力を手に入れたのは、お前が初めてではない。……また、百五年前のお前の盾にも、同じ力が籠っていた〉

 

 化身は、コノエの内部を覗き込むように見る。

 そうして、どうやら、百五年前と形は変わったが、力と本質は変わっていないようだな、と。

 

〈百五年前の盾があったからこそ、我はお前に接触した。金の力への干渉を弱め、ここまで誘導した。そして今、問おう。──何故だ?〉

「……なぜ?」

〈お前は、何故その固有魔法を選んだ? 他にも力など(いく)らでもあったであろう。今のお前ならば、選べたはずだ。何故わざわざ、その力を選んだ?〉

 

 ──()()()()()()。そう、化身は言った。

 

〈その答えの如何(いかん)によって──多少の介入はあるやもしれぬぞ?〉

「……!」

 

 コノエは驚く。多少の介入ということは、つまり。

 

「…………」

 

 ……だから、コノエは、真剣に考える。己の固有魔法がこうなった理由について。

 しかしそれは……正直に言えば、簡単に言えることではなかった。

 

 化身は選べたと言うが、コノエの認識では、そうではない。

 コノエの固有魔法が今の形になったのは、コノエのこれまでの人生の結果であって、神様や皆との関わりの中で作り上げられたものだ。

 

 確かに、欠片を取り込んだ後、魂に刻む前に、多少方向性を変えることは出来たかもかもしれない。だが、選ぶようなものではない。

 ……それでも、あえて、方向性を変えなかった理由を言うとするのであれば。

 

「…………」

 

 一つ、コノエの頭に答えが浮かび上がる。コノエの心からの本心だった。

 けれど、その答えはあまりにも単純すぎて、これでいいのだろうかと悩む。

 

 ……しかし、それ以外は浮かばなかった。だから、コノエは口を開き――。

 

「……それはきっと────」

 

 ──その瞬間だった。ふと、風が、吹き抜けた。

 呟いた声が少し聞き取り辛くなるような。そんな風だ。

 

 けれどコノエは、確かに嘘偽りない理由を化身に答えて。

 

〈………………ふん〉

 

 すると、しばしの沈黙の後。化身は、鼻を鳴らすような声を出して──。

 

 ◆

 

 ──そうして、世界の化身との話は終わる。

 気配は消えて、ベンチの前にはコノエだけが残された。

 

「…………」

 

 コノエは、掌を見て……握りしめる。

 顔を上げ、彼方へと視線を向け──。

 

「……え?」

 

 ──そのとき。そこで、コノエは気付く。自分に近づいて来る気配を感じた。

 それも、ただの気配じゃない。コノエも良く知っている気配であって。

 

 ──がさり、がさり、と。

 少し草木を掻き分けるような音がして……()()()()()が、姿を現せる

 

「コノエ様」

「コノエ」

「……コノエ」

 

 三人が、それぞれコノエの名前を呼ぶ。

 金と、赤と、青。テルネリカと、メルミナと、フォニア。

 

 三人が近づいてきて、コノエの前に立つ。

 そして、テルネリカが、言った。

 

「──コノエ様。私たち、コノエ様にどうしても伝えたいことがあるんです」




2025/10/02
すみません、ちょっと書き辛かったので、化身のセリフを『』→〈〉に変更しました。よろしくお願いします。

三巻発売中です! 応援してくれると……すごく嬉しい!
よろしくお願いします! 続編沢山出したい……
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