転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
「…………」
──そうして、コノエは。
神様との話の後、思い出部屋から出て、金の権能の導きに従って進む。
その隣に神様の姿は居ない。神様は思い出部屋の扉の前に残った。それは、思い出部屋が避難場所になるからであり、この状況では万が一に備えて、すぐに避難できるようにしておくべきだからだ。
ただ、完全に部屋の中に入ると、守りの加護による支援が出来なくなるので、入り口で待機している。なお、今神様の傍には教官の秘書さんがいて、緊急事態には、彼女──教官の秘書さんだけあって、とても強い──が神様を部屋に入れることになっていた。
「………………」
頑張って、と見送ってくれる神様の姿を思い出しながら、コノエは考える。
それは、先ほど神様から聞かされたことについてだ。
【──
神様は、そう言った。そして……。
【……だって、おかしいよ。なんで、世界から消えたはずの百五年前のあなたを見せることが出来たの? 神からすら記憶を奪う世界からの干渉を、どうやって乗り越えたの?】
神様曰く、冷静に見ると、今回の金の権能の働きはどう考えても異常らしい。今までも驚くほどに強かったが、今回は明らかに神を超えるほどの力を発揮している。
だから、可能性があるとすれば……。
【……外部から金の権能に干渉──いいえ、
きっと、あえて
そして、そんなことが出来る、ただ一つの存在とは――。
「…………」
コノエは思い出しながら、金の権能の導きに従って進んでいく。
学舎の校舎を出て、学舎と研究棟の間の中庭へと向かう。
──そこに置かれた、古くからあるベンチ。神様との記憶が残る場所。
──ソレが居たのはそんなベンチの上だった。
〈……来たか〉
「…………」
ソレは、人ではなかった。確かにいるが、物体では無い。
力が集まって人の形をしているだけの、ナニかだった。
その正体は──。
「──世界の、化身」
〈ああ、そうだ〉
──コノエが生きる、この世界の意思そのものが、そこにいた。
◆
「…………」
コノエは、目の前の存在を見る。力の塊。生物ではなく、魔法でもない。
今まで見たことも無ければ、感じたこともない気配だった。
世界の化身。神様から予想は聞いていたものの、その突然の登場に内心コノエは困惑して……いいや、それは違うとすぐに理解する。今まで見たことが無かったのに、ではなく、今だからこそなのだと。
──これは、
固有魔法があるからこそ、コノエは目の前の存在を知覚することが出来る。世界の化身とは、特殊な固有魔法が無ければ、決して認識できなかった存在だった。
〈──まず、一つ言っておく〉
「……」
コノエがそんなことを考えていると、ふと、化身が言葉を放つ。
〈──我は、
「…………?」
〈お前たちのどちらが勝つかなど、どうでもいい。人が勝とうが、魔物が勝とうが、神が勝とうが、邪神が勝とうが、我にとっては、些事でしかない〉
まあ、
しかし、不愉快なだけでもある、とも言った。
〈あの竜が消滅で削るものなど、我からすれば極一部に過ぎない。人にすれば薄皮一枚
「…………」
〈そして、お前たち人が滅びようとも、我にとってはどうでもいいことだ。お前たちは我の中で生きているだけの存在でしかない。絶滅しようが、我には何の痛痒もない。中で暮らす生き物が、人から魔物に変わるだけだ〉
──故に。化身はそう言う。
〈天秤は、ほぼ釣り合っている。我は、人と魔物の争いに介入するつもりなど毛頭ない。接触するつもりもない。お前たちは勝手に生き、勝手に死ぬ。それだけでしかないのだから〉
「…………?」
コノエは、化身の言葉を頭で咀嚼し、世界の立ち位置の理解に努め……そこで、化身の物言いに、コノエは疑問を覚える。
……接触するつもりが無いのなら、なぜ今、こうして?
〈だが……ふん、お前が現れた。
「……」
〈お前の力を、我は知っている。その力を手に入れたのは、お前が初めてではない。……また、百五年前のお前の盾にも、同じ力が籠っていた〉
化身は、コノエの内部を覗き込むように見る。
そうして、どうやら、百五年前と形は変わったが、力と本質は変わっていないようだな、と。
〈百五年前の盾があったからこそ、我はお前に接触した。金の力への干渉を弱め、ここまで誘導した。そして今、問おう。──何故だ?〉
「……なぜ?」
〈お前は、何故その固有魔法を選んだ? 他にも力など
──
〈その答えの
「……!」
コノエは驚く。多少の介入ということは、つまり。
「…………」
……だから、コノエは、真剣に考える。己の固有魔法がこうなった理由について。
しかしそれは……正直に言えば、簡単に言えることではなかった。
化身は選べたと言うが、コノエの認識では、そうではない。
コノエの固有魔法が今の形になったのは、コノエのこれまでの人生の結果であって、神様や皆との関わりの中で作り上げられたものだ。
確かに、欠片を取り込んだ後、魂に刻む前に、多少方向性を変えることは出来たかもかもしれない。だが、選ぶようなものではない。
……それでも、あえて、方向性を変えなかった理由を言うとするのであれば。
「…………」
一つ、コノエの頭に答えが浮かび上がる。コノエの心からの本心だった。
けれど、その答えはあまりにも単純すぎて、これでいいのだろうかと悩む。
……しかし、それ以外は浮かばなかった。だから、コノエは口を開き――。
「……それはきっと────」
──その瞬間だった。ふと、風が、吹き抜けた。
呟いた声が少し聞き取り辛くなるような。そんな風だ。
けれどコノエは、確かに嘘偽りない理由を化身に答えて。
〈………………ふん〉
すると、しばしの沈黙の後。化身は、鼻を鳴らすような声を出して──。
◆
──そうして、世界の化身との話は終わる。
気配は消えて、ベンチの前にはコノエだけが残された。
「…………」
コノエは、掌を見て……握りしめる。
顔を上げ、彼方へと視線を向け──。
「……え?」
──そのとき。そこで、コノエは気付く。自分に近づいて来る気配を感じた。
それも、ただの気配じゃない。コノエも良く知っている気配であって。
──がさり、がさり、と。
少し草木を掻き分けるような音がして……
「コノエ様」
「コノエ」
「……コノエ」
三人が、それぞれコノエの名前を呼ぶ。
金と、赤と、青。テルネリカと、メルミナと、フォニア。
三人が近づいてきて、コノエの前に立つ。
そして、テルネリカが、言った。
「──コノエ様。私たち、コノエ様にどうしても伝えたいことがあるんです」