転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
すみません、ちょっと書き辛かったので、化身のセリフを『』→〈〉に変更しました。よろしくお願いします。
「──コノエ様。私たち、コノエ様に伝えたいことがあって、ここに来たんです」
その言葉は、人気のない中庭に静かに響いた。
テルネリカの言葉と共に、メルミナとフォニアもゆっくりと頷いて。
「このまま伝えられずにいたら、後悔しそうだから。コノエ、少し付き合ってくれる?」
「……うん、私、このままは嫌」
メルミナ、フォニアと口を開く。真剣な顔をしていた。
それにコノエは、数度瞬きして……。
……ふと、表情を緩める。
「……そうか。実は僕も三人にどうしても伝えたいことがあったんだ」
「……え?」
「えっ」
「……ん?」
そうだ。コノエには、どうしても言いたいことがあった。
それは……。
「……僕は、とても大切な事を、伝えてこなかったように思う」
コノエには、伝えるべき沢山のことがあった。
ありがとう、とお礼を言いたかった。テルネリカから、メルミナから、フォニアから貰ったものに感謝したかった。
好きな所が、沢山あった。一人一人に、ずっと思っていた好きな所を伝えて、そして、きっと返したかった。
コノエは神様に伝えたように、皆にも全力でお礼を伝えたかった。
……でも。
「……でも、今は少し時間がないから。次、帰ってきたら、必ず伝えるよ」
「「「────え?」」」
すると、コノエの言葉に、三人は呆然と呟く。
三人は酷く驚いたようにコノエを見て、互いの顔を見て。
──
……その言葉の意味は、コノエにも分かった。百五年前、どれほどのアデプトが天蓋竜の戦いで死んだのかと思えば、当然のことだ。
アデプトと言えども、死地に向かう前には遺書を書き、思い残しが無いようにしてから戦いに向かう。天蓋竜は、それほどの敵だ。……けれど。
「……ああ、次だ」
コノエが、もう一度言う。必ずそうすると、決意したから。
……そのまま、数秒の時間が過ぎて。
「……そっか、そうよね」
メルミナが、大きく息を吐きながら呟く。弱気になってたわ、と苦笑していた。
フォニアも同じような顔をしていて、テルネリカは気が抜けたように笑っていた。
少しの間、穏やかな雰囲気があって──。
「──コノエ様。では、私はここで、お帰りをお待ちしております。どんなことを聞かせて頂けるのか、楽しみに待っておりますね?」
「……ああ。必ず、帰ってくる」
コノエが深く頷くと、テルネリカはニッコリと笑う。
その笑顔に見送られるようにコノエは踵を返し──。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
──そして、海上では。時間稼ぎが、終わりを迎えようとしていた。
『■■■■■■■!!』
「…………」
「…………」
天を覆い隠す竜の咆哮が世界を揺らす。ちっぽけな二つの人影に叫んでいる。
教官とマイコ。二人は、天蓋竜の眼下で肩で息をしていた。
数十分の戦いの結果だ。二人の表情には疲労が色濃く出ている。教官は厳しい顔をしていて、いつもの余裕が見て取れない。マイコは顔色が青を通り越してどす黒くなりかけていた。
『■■■■■■■■■■■■■■!!!!』
竜は叫ぶ。世界を歪めながら叫び、勝利を歌う。そこに疲労の色は見えない。世界を我が物顔で見降ろし、力を使い果たしつつある二人を嘲笑うかのように悠々と空を泳いでいた。
「……」
教官は、ちらりとマイコを見る。マイコは限界を超えて力を使っているため、目から力が失われつつある。これ以上力を使えば、魂を削る必要に迫られるだろう。
教官自身も腕と足を失っては生命魔法で修復するのを繰り返した結果、魔力が底をつきかけている。魂も時間停止を乱用した結果、力を失いつつあった。
「…………っ」
……もって、あと数分。時間稼ぎは終わる。教官とマイコはそれ以上戦えず、撤退するしかない。
そうすれば、天蓋竜は動き出し、神国を破壊しながら神都へと向かうだろう。神都も、街も、村も
数えきれないほどの人が死ぬだろう。命も、家族も、全てを奪われるだろう。
神国は、そこに住む住民たちは、今、その全員が死の瀬戸際に立っていて──。
──だが。
「…………ふふ」
それなのに。その絶望の中で、教官は笑った。
それは──
「……そうか、君なのか。この場に来るのは、君なのか」
──それは、彼女が気付いていたからだ。一つの気配に。
躊躇うことなく一直線に向かってくる気配が、確かにあったから。
故に、教官は笑う。笑い、呟く。
期待に少女のように胸を弾ませながら。
「……さて、コノエ、君はいったい、何を見せてくれるのかな?」
──コノエが、その場に一直線に向かってきていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「──────」
──そして、コノエはその両目に漆黒の竜を捉える。
空を踏み、加速し、音を超える速度で近づいていく。
一歩踏み出すごとに、凄まじい力が伝わって来ていた。ただそこにいるだけで、気配が物理的な力を持って襲い掛かってくる。
しばらくその場で戦っていたからか、その周囲は物理法則が崩れ、光は歪み、不気味な極光を見せていた。
空は裂け、虚空を見せている。空間の連続性が失われ、一歩ごとに周囲の気温は変わり、水蒸気に満ちた空間と凍り付いた海面が隣接していた。
虹色に染まった海面には魚が浮き上がっている。邪神の力の影響を受けたのか魔物化し、ゲラゲラと虚ろな目で笑っていた。
──そんな、世界の終わりを思わせる光景の中心に、黒き竜は居た。
『■■■■■■■■■■■■■■!!!!』
天蓋竜は咆哮し、世界を侵す。一つ吼えるごとに、世界の基盤が揺らぐ。
漆黒の竜が天を覆っている。世界を、万象を否定し、人類を殺し尽くさんとしていた。
「────」
コノエは、しかし、その竜の領域に、怯むことなく足を踏み出す。
ただ敵の姿を見据え、一歩、また一歩と距離を詰めていった。
〈……ふん、相も変わらず、不快な竜だ〉
そのとき、ふと、コノエの肩の上で、声が響いた。
世界の化身の声。小人のような小さな空間の歪みが、コノエの肩の上にいた。
化身は小さくなって、コノエについて来ていた。
〈ところで、コノエよ。先程の三人が、お前の言う「日常」か?〉
「……ええ。あと何人か、いますけれど」
大切な日常。守りたい人。傍にいて欲しい人。大事なことを教えてくれた人。
これまでの日々があって、交わした約束があった。
テルネリカと共に暮らし、新しい家に引っ越し、ガラガラの家を埋めようと約束をした。何で埋めるのかを決めるのはきっと楽しいはずだった。
メルミナには、お願いをすると約束をした。一つ、お願いしたいことがあって、でもまだ伝えられていなかった。
フォニアとまた夕陽を見ると約束した。そして、街を一緒に見て回ると。案内がちゃんとできるかは少し不安だけれど、でも楽しみだった。
教官とは、まだ話したいことがあった。教えて欲しいことがあった。いつか、一緒に酒を飲むと約束をした。
神様と出会い、話をし、居場所を貰って……胸の穴を埋めると、約束した。己と神様に決意した。コノエは、神様にいつだって笑っていて欲しかった。
この世界に来て交わした、沢山の約束。
過ごしてきた、大切な日常があった。
――そうだ。コノエは、この世界に来て、地球では持っていなかったものを数えきれないくらい手に入れた。
この世界に来てよかったと思った。過去があったから、なおさら今が輝いて見えた。こんな毎日が、ずっと続けばいいなって思った。
……幸せだなって、空を見上げた。
百五年前と今。この世界のことが、二回、好きになった。
そんな愛おしい日々と、世界をコノエは守りたかった。
そのために、
だから、先ほど化身に、何故その固有魔法を、と問いかけられた時も──。
『──きっと、今の日常が、それを僕にくれたこの世界が、好きだからです』
コノエは、化身にそう答えた。単純な答え。そんなので良いのかと悩みそうになるような。
……でも、それが、コノエの本心だったから。
〈…………ふん、一つ言っておくが、コノエよ、勘違いするなよ?〉
「……?」
……と、そこで、肩の上で化身が呟く。
〈たとえ問いの答えが何であろうと、お前の固有魔法がアレであったとしても、固有魔法である以上、我にとっては異物でしかない。お前たちはいつも我が物顔で界律を侵し、渇望で
「…………」
〈お前は、他より多少マシなだけでしかない。小さき者よ。それを自覚せよ〉
お前を見つけたのは百五年前の盾の影響だが――ここまで金の力を手助けをしたのは、邪神の策だったとはいえお前を世界から消した補填でもある、と化身は言う。
それも終わった以上、もう手助けをする理由など、どこにもないのだ、と。
〈……まあ、だが。…………ふん、理由はないが、お前はマシな方ではあるし、あの竜は、確かにうっとうしい。異界にまで手を伸ばし、時の矛盾を起こしてまで一度殺した竜を復活させた邪神にも、大いに思うところがある〉
──故に。そう世界は呟く。
──しかたがないな、と。
〈──此度に限り、少しばかり
そう言って、化身はコノエの肩の上から拡散していく。
だが勘違いはするなよ、と念押ししながら。
そして、同時に、コノエの中の力が動き出す。コノエの魂に刻まれた刻印に力が流れ、
力がコノエの中を満たし、溢れ出す。溢れた力は、
『──固有魔法』
──しかし、その瞬間だった。
『■■■? ■■■■!!』
天蓋竜がその気配を察知したのか、ぐるりと首をコノエに向ける。そうして、即座に顎を開き、ブレスを撃ち出した。
黒き奔流が迫る。それにコノエは──。
──雷化。
雷轟が世界に響く。コノエの体が鎧と共に雷と化す。加速し、ブレスの軌道から逃れる。
『──■■■■■■!!!!』
コノエから外れたブレスは虚空を貫く。憎悪の固有魔法によって世界は崩れていく。消滅、世界を否定し、万象を消し飛ばす権能。
世界を侵す渇望は界律を破壊し、世界を捻じ曲げる。
そう、固有魔法とは、渇望によって界律を侵し、世界を己の望む通りに作り替える力なれば。
「…………」
コノエは、さらに一歩踏み出す。雷の如き速度で天蓋竜に迫る。
消滅の魔王に、コノエは躊躇うことなく接近していく。
数十キロの距離は瞬く間に埋まっていく。竜は悠々とした態度で、それを迎える。
余裕の態度。ちっぽけな羽虫を見るかのような。
もう目の前まで迫ったコノエを、天蓋竜は、その爪で薙ぎ払おうとし──。
『■■■■!?』
──その、刹那。天蓋竜は、大きな反応を見せた。それはまるで、
『■■!』
コノエが、十字槍を振るう。天蓋竜は咄嗟に回避行動をとる。
槍の軌道から、その巨大な体を逸らし──。
『──■■!? ■■■■!!!!????』
世界に、天蓋竜の絶叫が響く。
黒ではない赤い血が飛び散る。
『──■■■■!!!!!!』
──
無敵のはずの消滅の権能は破られ、最強の魔王は、確かに傷を負っていた。
「──っ」
それにコノエは、軽く歯噛みする。初手の不意打ちが失敗した。
しかし、後悔している暇はない。すぐに追撃するため、槍と固有魔法に意識を向ける。世界と槍が繋がっていく。より強く。世界を否定する憎悪を打ち破るために。
そうだ、これが、コノエの固有魔法だ。
『
──
それが、コノエが日常を守るために手に入れた力だった。
【雑ステータス】
基礎能力 7500→8000 神威武装Lv5 魂の補完
固有魔法 0~2000 抗固有魔法
祝福 500~5000 ギミック特攻
『
抗固有魔法。万能性ゆえに出力は低い。敵の固有魔法の出力がコノエの出力を超えるときは、完全には消去できず、弱体化させる形になる。力の集中によって出力の向上が可能。世界の化身の助力を受けることにより、爆発的な出力の向上が可能。
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