転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第28話 戦い

『──■■■■!!!!!!』

 

 ──天蓋竜の絶叫と、吹き出す血液、落ちていく竜の右腕。

 コノエの槍によって、天蓋竜の腕は、確かに斬り落とされた。

 

「────っ」

 

 コノエは、雷鳴と共に空を駆け抜け、槍を握り締める。

 そうして、追撃に向け動き出す。

 

 コノエは槍に意識を集中する。落ち行く血の飛沫がゆっくりに見えるような時の中で、世界との接続によって生み出された力を、()()()()()()()()()()()()()。そうしなければ、天蓋竜の消滅を破れないからだ。

 

 そう、コノエは確かに天蓋竜の消滅を打ち破り、傷を負わせた。

 けれど、それは決して容易いことではなかった。世界の化身の助力を得て、力を槍に限界まで集中させて、ようやくだ。

 

 世界を滅ぼす最強の魔王の力は、それほどまでに強かった。

 力の維持だけで、かなりの負担があって……槍から手を離すことすら、難しい。プランの一つとして、百五年前のように教官に槍を貸すことも想定していたが、不可能のようだった。

 

「────!」

 

 しかし、それなら自分が殺せばいいだけだと、コノエは力の収束と共に天蓋竜へ向けて踏み出す。時間にして半秒足らず。

 腕を切り落とされ、叫ぶ竜に次の一撃を叩きつけようとして──。

 

『■』

 

 ──その瞬間だった。天蓋竜の顎が開く。そして、何かを呟き──()()()()()()。どろりと天蓋竜から黒い力が流れ出した。

 

『──■■■■■■■■!!!!』

 

 叫びと共に、溢れた黒が形を作る。球だった。天蓋竜の周囲に、数多の球が浮かぶ。

 消滅の黒い球。そこから悍ましい力の波動が放たれ──。

 

「──っ!」

 

 ──コノエは、攻撃を中断して、全力で背後に跳ぶ。

 同時に、球から無数の黒線が撃ち出される。 

 

 四方八方に放たれた黒線が空を抉り取り、海が割る。世界に無数の傷を刻み込む。

 天蓋竜の周囲、全方位を薙ぎ払う。狙われていない。無差別攻撃だ。つまり。

 

(──時間稼ぎか)

 

 コノエは、顔を顰めながら、距離を取る。コノエの抗固有魔法は現在槍に集中させているため、広範囲の攻撃には対応し難い。

 手数を重視した天蓋竜の一手。しかし、そこに込められた力は極めて強大で、アデプトを容易く貫けるだけの力が籠っている。時間稼ぎでありながら、敵を殺し、追い詰める一手でもあった。

 

『■■■■!!』

 

 天蓋竜の周囲を、黒線が走っていく。周囲の無数の黒点一つ一つを起点に、縦横無尽に撃ち出された黒線が、網目のように天蓋竜を覆っていく。

 それはまるで、消滅の力で作り出した檻のように。天蓋竜を閉じ込めるためではなく、守るための檻だ。人が通り抜ける隙間など見えないような、立体的に組みあがった複雑な檻が広がっていく。

 

 幾重にも重なった、潜り抜けるには複雑すぎる檻の中心で、天蓋竜は態勢を整えようとしている。腕の修復も始まっているのか、断面がボコボコと泡立っていた。

 天蓋竜は、コノエを見ている。このままコノエが何もできないようなら、腕が完全に修復するまで中に引きこもる気か。

 

 コノエは、そんな天蓋竜と、張り巡らされた堅固な防壁に──。

 

(────行く)

 

 ──しかし、コノエは、槍を握る。力を高める。当然だ。このまま敵の傷が治るのを見ているなど、ありえない。

 そんな時間など与えない。態勢を整えようとするのなら、整える前に殺す。

 

 ──コノエは、見る。空に立ちながら、眼下を見る。そこは、海だった。

 幸いなことに、()()()()()()()()()()

 

「──」

 

 コノエは掌の上に、ナイフを作り出す。作ったナイフに、魔力を流し込んでいく。瞬く間に赤熱し、白熱していく。それでもなお魔力を限界まで流し込む。

 そして、海に向けて撃ち出す。莫大なエネルギーが込められたナイフが海中へと落ちていき。

 

 ──ズドン、と。海面が弾け飛ぶ。世界を衝撃が駆け抜け、巨大な水柱が噴き上がる。

 撃ち込んだナイフが海中で爆発し、海水が打ち上げられる。雫が周囲一帯を包み込む。消滅の檻に消し飛ばされながらも、隙間を縫うように天蓋竜の元へと届いて。

 

(────ここだ)

 

 コノエはさらに動く。雷を周囲の水滴に通す。雷が伝播していく。

 コノエの雷が、海水と共に広がる。神の雷が、天蓋竜の元へと走っていき──。

 

「──」

 

 伝う雷が、天蓋竜までのルートを作り出す。そこに、コノエは雷化した己自身を乗せる。訓練生時代、見えぬ空の断裂を生み出す空間魔法使いと戦ったときに編み出した技。

 ──積み重ねた戦闘経験が、コノエの足を前へと踏み出させる。

 

 雷となったコノエが、落ちる雷のような軌道で空を駆ける。槍と共に加速していく。消滅の防壁の隙間を通り抜け、天蓋竜に迫り──。

 

『■■■■■■■■!!????』

 

 ──閃光と共に槍が天蓋竜の体を切り裂く。その巨大な胴体に、深い傷が刻まれた。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『──■■■■!!??』

 

 天蓋竜はそのとき、ただただ、困惑していた。

 刻まれた傷に痛覚を焼かれながら。

 

 このような経験は、天蓋竜には無かった。天蓋竜は、最初から魔王として生まれた。他の魔物のように、弱者から成長したわけではない。邪神に魔王として作り出された、生まれながらの最強。それが天蓋竜だ。

 

 天蓋竜にとって、戦いとは一方的なものだった。敵は天蓋竜をほとんど傷つけられず、必死に逃げ回る。それをどうやって追い詰めるかというのが、天蓋竜の戦いだった。傷の痛みなど、ほとんど知らなかった。なのに──。

 

『──■■■■!!』

 

 ──今、己の前に現れた敵は、消滅を貫くことが出来る。男。あの男だ。百五年前、己の一撃を防ぎ切った男。その男が白き神の使徒となって、襲い掛かってきた。

 腕と、胴体。僅かな間に付けられた二つの傷が疼く。その上、一撃と共に背後に抜けていった男はすぐさま切り返し、さらなる一撃を加えようとしている。

 

 己の首を狙っている。気配で分かる。天蓋竜は咄嗟に、その極めて高い身体能力で躱す。

 男の気配がすぐ横を通り抜けていく。躱さねば、死んでいた。

 

『■■■■■■??』

 

 ──死。天蓋竜は、死を意識する。

 

 男はさらに切り返し、また襲い掛かってこようとしている。凄まじい気配が接近してきている。

 消滅で光を閉ざした瞳にも輝きが映るかのようだった。

 

 死。全てが一瞬で終わった百五年前は、深く意識することも出来なかったものだ。

 迫りくる刃。天蓋竜は、近づいて来る死に触れる。

 

 雷の如く輝く男を、天蓋竜は気配で見て──。

 

『■■』

 

 ──ああ、けれど。これはきっと、だからこそ、だった。

 ──天蓋竜は、()()

 

『■■■■!!』

「──!」

 

 天蓋竜は、回避ではなく、襲い来る刃に牙を以て応じ──。

 

 ──ガギン、という重い音が響く。消滅の籠った牙と、男の槍がぶつかり合っていた。

 力と力の衝突により衝撃が生まれ、世界を薙ぎ払う。雷鳴と消滅が広がり、海を、空を切り裂いていく。

 

 力の余波で男との間に大きく距離が開き、僅かな時間が生まれて。

 

『――■■■■■■!!!!』

 

 天蓋竜は、叫ぶ。知らない感情が天蓋竜の中で渦巻いていた。全てが憎悪に満たされていた天蓋竜は、知らなかった感情。

 その感情のままに、天蓋竜は力を行使する。このままでは、()()()()、と思った。

 

 理解する。今までの戦いは、戦いではなかった。そして今、己は戦っている。

 天蓋竜は男を見る。己の前に立ちふさがり、己を殺そうとしている男を見る。百五年前と、今。その姿を思い出す。

 

 ──莫大な黒い力が放出され、周囲で渦を巻く。造る分の質量は、己を削る。尾の先端から、天蓋竜の体が消えていく。激痛を無視する。これは、知っていることだ。かつて、目の前の男もしていたこと。

 そうして、黒い渦が消えた後、姿を現したのは。

 

『■■■■■■■■■■■■!!!!!!』 

 

 ──巨大な盾だった。二つの山のような大きさの盾。天蓋竜の前に、漆黒の盾が二つ浮遊していた。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 コノエは、竜が持つ二つの盾を見る。装飾のない武骨な盾が出現した。

 そして──天蓋竜の纏う雰囲気が変わったことを、理解する。

 

「──?」

 

 ふと、天蓋竜の周りの黒線の檻が、消えていく。守るための檻が消える。

 線が消え、線の起点となっていた黒点だけが残り。

 

 ──次の瞬間。黒点が、分裂する。倍加する。そうして、その一瞬後には、さらに倍加。どんどん、どんどんと増えていく。天蓋竜の周囲を黒点が埋めていく。空を黒点が埋め尽くし。

 

 ──無数の黒い光線がコノエに向かって放たれた。

 

「──!」

 

 コノエは全力で加速し、黒線を躱す。超広範囲に広がる黒線をなんとか回避する。回避しながら天蓋竜へと軌道を変え、反撃の一撃を叩き込もうとして。

 ――見る。天蓋竜とコノエの間に、盾が置かれていた。一枚をコノエとの間に置き、もう一枚を体の近くに留めている。

 

『■■■■■■!!!!』

 

 コノエの前を、数百メートル規模の盾が塞ぐ。そして同時に、新たな黒線がコノエに向かって撃ち出される。超巨大な盾が進路を塞ぎ、保険まで置いている。黒線を檻ではなく攻撃に使い、コノエを追い詰めようとする。

 

 ──つまり、天蓋竜が作り出した盾は、守りを固めるためのものではなく、攻めるための盾であるということ。

 

「…………」

 

 単純だが、厄介で効果が高い戦法だった。先ほどのコノエに戦い方を変えた結果だろう。

 コノエは、黒線を回避しながら考える。敵の守りは堅い。しかも、厄介なことにコノエの継戦能力は高くない。固有魔法の使用に慣れていないからだ。

 

 ……あまり時間はない。コノエは、どうしたものかと思い。

 

『──■■■■■■!!!!』

 

 そのときだった、天蓋竜の体から、何か小さいものがはがれだす。形状的に鱗か。その鱗は空中で次々と形を変え――。

 

 ――今度は、天蓋竜の周囲に槍が出現する。

 ()()()()()。コノエが形に少し驚くと、その間に槍は僅かに輝き。

 

「──!」

 

 ──一瞬後には、コノエの目の前にあった。

 コノエは、黒槍を弾く。かなりの速度。黒線よりも遥かに速い。そして。

 

 ──その黒槍が、数百単位で天蓋竜の周囲に浮いている。

 

「────」

 

 コノエは、行く手を遮る盾と、溢れる黒点、輝き始める黒槍を見据える。

 死地にありながら、どこまでも冷静に。凄まじい速度で思考が巡る。

 

 雷と権能の出力を高めつつ、コノエは目を細め──。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ──コノエと天蓋竜の戦いは過熱していく。

 守るために、生きるために、目の前の敵を打ち倒さんとしていた。対等に。命を賭して。武器を手に取り、全力で戦っていた。

 

 ……しかし、一方で。

 その戦いを黙って見ていられない存在がいた。

 

[────―、──!]

 

 ──邪神である。




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