転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
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邪神は、地の底で叫ぶ。そして、天蓋竜に与えた力を通して、人間と天蓋竜の戦いを見る。
雷と白槍で駆けまわる人間。巨大な盾と、黒槍、無数の黒線で戦う天蓋竜。
圧倒的な物量を展開する天蓋竜に、人間はただ回避し続けていた。戦いは、天蓋竜が優勢のように見える。
最初のみ傷を許したが、その後は一方的に見えた。
圧倒的な強さを誇る、魔王の姿がそこにある。
……だが。
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……だが、それでも。邪神は叫ぶ。怒りと憎悪を込めて、叫ぶ。
戦いになっては、駄目だった。戦いが成立している時点で、駄目だった。
天蓋竜は圧倒的な存在でなければならないのだ。
抵抗すらさせず、人を殺し尽くす存在でなければならないはずだった。だって、それはそうだ。戦いになって、万が一にでも、天蓋竜が殺されてしまえば──。
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すでに邪神は、天蓋竜に莫大なリソースをつぎ込んでいる。白き神の烙印が刻まれてしまったからだ。このままでは、早晩追い詰められてしまう。
だから、天蓋竜に己の力の三割を注ぎこみ、今回の決戦に挑んだ。邪神の今の力は最大時の六割。それだけの力を使って復活させた天蓋竜が殺されれば、邪神にはもう後がない。
にもかかわらず、その天蓋竜が、蹂躙ではなく戦っている。
あの男──己に烙印を刻み、不死の魔王を殺した人間と。
おのれ、と邪神は憤怒を叫ぶ。何か手はないかと。
どうにかして、あの男を排除しなければと──。
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しかし、そこで、邪神は気付く。何かおかしくないか、と。何のことかと言えば、あの男のことだ。天蓋竜と戦っているあの男。
──あの男の権能、看破系ではなかったのか?
そうだ。邪神は、事前の調査で知っていた。あの男が、看破の瞳を使って不死の魔王を殺したことを。また、先日は恐らくその力を使って、地の底へ辿り着いたことを。
それなのに、男は今、全く違う固有魔法を使って天蓋竜と戦っている。おそらくは、抗固有魔法だ。全く能力の系統が違う。これは権能の応用ではありえない。
看破と、抗固有魔法。一人の人間が、二つの権能を使っている。その不可解な事実に、可能性として考えられることは。
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──祝福だ。邪神は、その長い生涯と経験から理解する。二つある力のうち、どちらかが祝福に違いない。そして状況を見るに、恐らく看破の力の方が祝福だった。天蓋竜の消滅は、祝福で破れるほど軽いものではない。
邪神は、既にあの男の身辺については調べ終わっている。故に理解する。金色の看破の祝福をあの男に与えているのは──。
[──・──]
邪神は、笑う。その脳裏には、金髪のエルフの少女の姿が浮かんでいた。
◆
──邪神の力が、神都に伸びる。そうして、今日この日までに神都周辺に準備してきた仕掛けに手を伸ばした。
邪神が、今日この日、天蓋竜の奇襲のために用意したものだ。天蓋竜の奇襲で神都を滅ぼした後、生き残りを殺し、配下の魔物を強化させるために。
ここ数十日で、都周辺百キロ圏内にある四つのダンジョンに大量の魔物を潜ませ、迷宮核もそれぞれ配備した。加えて、災厄を何体も配置した。離れた所から魔物を運び込めるように、空間魔法持ちの災厄もだ。
これらを一斉に動かせば、神都はパニックになるだろう。阿鼻叫喚の地獄と化し、統制は乱れ、アデプトも対応に動くだろう。
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──邪神は、その隙を突くつもりだった。
学舎内部に手を伸ばし、
邪神は、
天蓋竜のブレスと尾が、神都と学舎の結界を破壊したときだ。邪神はその隙に天蓋竜に潜ませていた力を切り離し、学舎の中に侵入させた。邪神の一割に当たる欠片。天蓋竜の復活に使った三割の中の一割だ。元より、一割は潜入にも使えるよう組み込んでいた。
本来は白き神を天蓋竜が殺した後、確実にその力を吸収するためのものだが、事ここに至っては仕方がない。使えるものを全て使って、
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邪神は、歪に口の辺りを歪めつつ──用意していた仕掛けを、起動した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
──そのとき、神都の人々は見た。天蓋竜に絶望し、それでも動き出していた人々は、都の周囲四か所から噴き上がる黒紫色の瘴気と、現れた巨大な魔物の姿を。
必死に、歯を食いしばって立ち上がっていた人々は、新たな絶望の出現に呆然と膝を突き──。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
──瘴気と災厄を確認した邪神の欠片が、学舎の中で動き出す。
欺瞞の権能により姿と気配を完全に隠した欠片は、金色を探して、学舎の物影を移動する。
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天蓋竜と災厄、氾濫の影響で、学舎の内部は慌ただしかった。しかし、アデプトらしき気配は少なく、邪神にとっては動きやすかった。
まあ、邪神の一割が全ての力を欺瞞に割いているのだから、銀でもなければアデプトがその存在に気付くことなど出来るはずがないのだが。
邪神の一割とは、つまり生命神の分体と同等の力を持つということでもある。欠片は、それだけの力を持っていた。
学舎内に侵入さえできれば、生命神の分体の首狩りをすることも不可能ではないのだ。ただ、欺瞞の力では張り巡らされた結界は騙せないため、都市結界や学舎の多重結界を抜けられないこと、そして、仮に首狩りに成功しても、その後逃走に失敗すれば邪神も一割失うことになるので、今まで実行に移さなかっただけだった。
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邪神は、内部を移動する。地下で接触したときに見た、あの金の気配を探す。
あのエルフを反転するために。殺すのではない。反転するのだ。
殺すのでは駄目だ。殺したのでは、あの男は潰せないかもしれない。
邪神は知っている。邪神は、負の感情を司る存在であるために。
人は、大切な者の死に絶望するが、同時に憤怒も抱く。そして、憤怒は時に力となる。殺してしまえば、あの男は逆に奮起し、今以上の力を出して戦うかもしれない。
それでは駄目だ。邪神は、天蓋竜を殺させないために手を打つのだから。
故に──。
[──!──]
──と、そこで、邪神は学舎の一室で、金色の人影を見つける。隣に赤髪のアデプトがいたが、欠片には気付いていない。
エルフ。間違いなく、あの男から感じた力だった。エルフは部屋で膝を突いて、ただただ祈っていた。
邪神は笑い、部屋の中を欺瞞の権能で切り抜く。エルフを世界から隔離する。
そして──。
──
エルフの女を、反転させるために。
「────あ」
エルフの女に、権能が届く。女が胸を押さえ、ぐらりと揺れる。抵抗はなかった。特別なことなどない。女は、一般人だ。一般人が、邪神の欠片に抵抗できるはずがない。そのまま、音を立てて床に倒れ込んだ。
今、女の中は、憎悪で埋め尽くされているだろう。
憎悪の権能。それは、人の中にある負の感情──憎しみ、恨み、怒りなどを極限まで増幅する力だ。日常の些細な不満を、絶対の殺意にまで引き上げるような力。
邪神は今、エルフの女の中にある、あの男に対する負の感情を限界まで引き上げた。
──そう、それこそが、反転だ。愛ゆえの祝福を、反転させる。
愛を憎悪に塗り替える。祝福を断ち切り、逆に憎悪を届けさせる。
男は困惑するだろう。愛する女が突然己に憎悪を向けるのだ。冷静ではいられないだろう。
人は、愛などという下らないものを後生大切に抱えて生きている。それが突然反転した衝撃に打ちのめされるだろう。
──その状態で、はたしてどこまで天蓋竜と戦えるか?
[──///──]
邪神は笑う。もう価値のないエルフから視線を切り、笑いながら天蓋竜の方へ意識を向ける。
さて、あの男は今、どれ程情けない顔をしているのだろうかと。
[──?──]
──うん?
邪神の欠片は、首を傾げる。男に、変化がない。変わらぬ様子で戦い続けている。
これはどういうことかと欠片は困惑し、男の様子を凝視して。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…………」
──そうだ。だから、邪神の欠片は気付けなかった。困惑していたから
つい先ほど無価値と断じて視線を切ったエルフの女が、震える手を動かしていることに。
己の服に付けていた、
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
[──??──]
──困惑する邪神の欠片の胸を、赤い光線が貫いた。