転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
突然ですが、本日は二話同時更新です。
こちらが一話目なので、この話から読んでください
──天蓋竜の放つ槍が一斉に放たれる。数百の黒い十字槍が機銃掃射のようにコノエの居る地点を薙ぎ払い、コノエは、槍を大きく後方に飛ぶことで回避する。
続く追撃の黒線からも大きく後ろへ移動することで回避し、天蓋竜とコノエの間に大きく距離が空いた。
──
コノエは雷を大量に放ち、それを分割していく。
警戒するように唸る天蓋竜の前で、コノエの雷が五つに分かれる。
分かれた雷は形を成していき──雷光が消えた後には、五体の鎧の姿があった。
『■■■■■■!!??』
思い出すのは、百日ほど前の記憶。汚染地で戦った、茸の姿。
あの日、茸はコノエの雷を掻い潜るために魂を分け、分身した。
──それを、コノエも雷で模倣する。
神威武装の鎧を五つに増やすことで気配と形を作り出す。本来一つの物を複数作り出す無茶は、渇望の力で押し通す。願いが魂を満たし、力を顕現する。
そうして、五体の鎧は一斉に動き出す。
散開し、天蓋竜を囲み──。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『■■■■■■!!??』
天蓋竜は、突然増えた気配に驚愕し、叫ぶ。五つに増えた、敵の気配。そしてすぐに移動を始め、分身たちは天蓋竜を中心に半円の形を描くように立った。
分裂したのか、それとも偽物を作ったのか。いや、人はスライムのように分裂できないはずだから、やはり偽物か。
天蓋竜は、どれが本物だ? と困惑し……そうしている間に敵は動き出す。
五体の鎧が雷と化し、金色の光の線となって同時に天蓋竜に向けて迫る。鋭角で複雑な軌道を描きながら五方向から近づいて来る敵に、天蓋竜は盾を挟むことが出来ない。つまりは、同時に多方面から攻めることで、一つ辺りの攻撃を薄くし、防御を突破する狙いか。
天蓋竜は、それに、五つのうちどれが本物か判別──。
『■■!!』
──いいや、判別しない。ただ、全力で力を解放し、黒線を超広範囲に向けて放つ。どれが本物かを判別するより、全てを消し飛ばした方がいい。
今までにない広さ、これまでの数十倍の規模の攻撃。男が策を練る裏で、天蓋竜も策を練っていた。己の力を隠し、機会を探っていた。
力を全力で解き放ち、五つの敵全てを狙う。空を覆い尽くさんばかりの黒線が敵を襲う。
超広範囲、高密度の黒線が男を消し飛ばそうとする。
──最初の一射で、五体の分身のうち、二体が消し飛んだ。
そして、さらに続けて繰り出した二射目でも、一体が消し飛ぶ。
『■■』
残り、二体。けれど、距離は最初の半分以下になっている。天蓋竜は数を減らしつつも着実に近づいて来る敵を見る。けれど、決して焦らず、冷静に三射目を放った。先の三体分の力も他に割り振って放った、さらに高密度の一撃を撃ち込み──。
──その黒線は、しかし、敵には当たらず海に突き刺さった。
『■■■■?』
天蓋竜は唸る。今の一射を避けた敵の動きが、明らかに良くなっていた。
数が減ったことで分身の操作が容易くなったためか。天蓋竜は、即座に黒槍を動かす。二体に向かって一斉に放つと──片方は機敏に避けたが、もう片方は槍に貫かれて消えていった。
残ったのは、一体。これが本物だ。距離はもうすぐ近く。あと一手で迫る距離。だが──。
『■■!!』
──だが、確かに天蓋竜の方が速かった。
盾を挟みこみ、黒線を集中させる。槍を造り出し、一斉に掃射し、薙ぎ払う。近づかれたのは痛いが、逆に天蓋竜も追い詰めやすくなっている。
集中した超高密度の攻撃が、一帯を蹂躙する。
そして──。
『■■■■!!■■!!』
──黒槍の一本が、回避しようとする敵を捉えた。
動きを止める敵に、黒線を集中させる。
原型を失った鎧が消えていくのを、天蓋竜は確認して──。
『──■■?』
…………え? なぜ、中に何も──?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──
作り出した五つの鎧が、天蓋竜によってすべて破壊されるのを、外から見ていた。
そうだ、つまり──五つの鎧は、全て偽物だった。
コノエは、驚愕する天蓋竜の驚愕を突くように、海から現れる。そこはもう、天蓋竜の目と鼻の先だ。
──コノエは、天蓋竜が鎧と戦う間、操作しながら海中を移動していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
これは──このある意味単純とも言える策に天蓋竜が引っかかったのは、天蓋竜の戦闘経験の浅さ故、だけではない。
天蓋竜が周囲を知覚する方法に問題があった。
天蓋竜は、気配で周囲の状況を見ている。もっと詳しく言えば、第六感のようなものだ。
光で物を見ていない。光を使った攻撃を消滅の権能で消すためだ。
聴覚で音を聞いていない。音を使った攻撃を弾くためだ。
嗅覚や触覚、味覚で判断していない。触れたものをすべて消し飛ばすからだ。
天蓋竜は、常に己の体を完全に消滅の権能で覆っている。だから五感は使えない。第六感だけを残している。つまり逆に言えば──その第六感さえ誤魔化せば、天蓋竜を騙すことが出来るということ。
コノエは、そこを利用した。己と同じ気配を放つ鎧を五つ生み出し、そして、コノエ本体は気配を消した。気配を消して、海中を移動することで、天蓋竜から姿を隠した。
力を遠隔操作し、鎧を動かした。五つ同時は極めて難易度が高く、鎧は簡単に破壊されてしまったが、それでもコノエが移動するだけの時間は稼いでくれた。その結果、今コノエは天蓋竜の前にいる。
……もし、仮に。天蓋竜が五感を残して戦っていたら、こうはならなかった。
仮に目が見えてさえいたら、鎧の手や足の動きがおかしいことに気付けただろう。外見はあまり取り繕っていなかったからだ。もしくは、移動するコノエによる海面の乱れを見つけられたかもしれない。耳が、肌が、何らかの違和感を伝えてきたかもしれない。
本来、抗固有魔法を持ち、槍と雷で戦うコノエだけを相手にするのなら、光や音を消す必要はなかった。
けれど、天蓋竜は全てを消し続けた。全身に消滅を纏い続けていた。外から攻撃してくる第三者を警戒する必要があったからだ。天蓋竜が戦っているのは、コノエだけではなかったから。
天蓋竜だけと戦っていたコノエと、コノエだけでなく全人類を相手にしていた天蓋竜。
──両者の明暗を分けたのは、きっとその違いだった。
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海中から姿を現したコノエは、抗固有魔法の力を収束しながら天蓋竜の前に立つ。
天蓋竜はすぐに気づき、対応しようとするが──。
──コノエは既に槍を構えている。
構え、繰り出すのは最速の一撃。師と共に鍛え上げた、始まりにして最強の一撃。
(──一の槍)
十字槍が天蓋竜の胸を穿つ。槍を通して、雷が通る。
──天蓋竜の内部を、神の雷が貫いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──そして、天蓋竜は雷に焼かれる。
臓腑が焼かれ、食い破られていく。その激痛の中で。
『■■』
──天蓋竜は、ふと、かつての記憶を思い出した。
百五年前、己の前に立ち塞がった、一人の女のことを。