転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない)   作:ニテーロン

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第35話 エピローグ

 ──天蓋竜との戦いは終わった。邪神の策は阻まれ、神国にはまた平和な日々が帰ってきた。

 災厄も瘴気核も数日以内には収束し、神国はまた歩き始めている。天蓋竜襲来から六十日が過ぎた今となっては、神都にはもうすっかり元の活気が戻ってきていた。

 

「…………」

 

 コノエは、大勢の人で賑わっている街並みを見つつ、修復された学舎の窓から廊下を歩く。

 目的地は、最上階の一室。神様の部屋だった。

 

【いらっしゃい、コノエ!】

「……はい」

 

 部屋に入ると、神様が迎えてくれる。いつもより、少し華やかな衣装の神様。

 それはきっと、これからの予定のためだろう。

 

 ……そうだ。コノエが神様の部屋を訪れたのも、その予定のためだった。コノエは、神様を迎えに来ていた。

 

【ちょうど仕事が終わったところだったの。間に合ってよかった】

 

 神様が少しほっとした様子で息を吐く。見ると、神様の執務机の上には、山のように書類が積まれている。

 戦いの後処理のための物だ。戦いが終わっても、それで全てが終わる訳じゃない。その後の復興作業の方がずっと長い。今回も砦が壊されたり、村が焼かれたりしていた。

 

 ……あと、まあ、それと一応。

 

【もう少しで急ぎの仕事が終わりそうなの。そうしたら、あなたの論功行賞の準備も本格的に進めていくから楽しみにしててね!】

「……その」

 

 ……そう、論功行賞、なんてものもある。天蓋竜に勝利したことへの褒賞だ。

 正直、コノエはしなくてもいいとは思うけれど、しなくてはならないらしい。

 

【沢山表彰するからね!】

「……ええと」

【今、コノエのために新しい勲章を作ってるの!】

「……えっ」

 

 コノエが驚くと、神様がいそいそと紙を取り出す。そこにはなんだか凄そうな勲章の名前が書かれていた。デザインもゴテゴテしている。

 不死の魔王のときより豪華だった。というかあのときは既存の勲章を少し変えたものだったのに。

 

 コノエは、それに……新しい勲章とか、過剰に目立ちそうだなと思う。

 なので、前と同じ勲章でいいんですが、と呟いた。すると。

 

【……う、それは、その……】

「……?」

【……だ、だめ。……後のことを考えたら、これが必要、なの】

「……後?」

 

 神様が少し、しどろもどろ、と言う雰囲気で言う。

 何のことだろうと思っていると……。

 

【……そのね、邪神がああ(・・)なったでしょう? それで、色々本体と他の分体を交えて話をしたの】

 

 ◆

 

 ──邪神が()()なった、という言葉がどういう意味かといえば、迷宮と一体化した、と言うのが一番正しいのだろうとコノエは思う。

 そうだ。邪神はあの戦いの後──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何故そうなったのかといえば、人の手から逃れるために。

 

 ──それは戦いの後のことだった。天蓋竜がまた邪神に生き返らされたりしないように魂を封印した直後。突然、邪神の欺瞞が薄れた。薄れて、少し良く見えるようになって……その結果、以前の接敵時に邪神に生命神の烙印が刻まれていたのが発覚した。

 

 邪神のいる場所が判明し、すぐに教官を筆頭にした討伐隊が組まれた。今から五十日前の話だ。コノエも参加した。

 迷宮に侵攻し、地面を操作する固有魔法持ちで道を作り、邪神を目指した。転移で逃げる邪神を追いかけ、拠点を潰し、段々と包囲網を狭めていった。たとえ何十年かかろうと必ず追い詰めると覚悟を決め、邪神に迫って――。

 

 ──しかし、そのときだった。

 突然、邪神が爆散した。小さい欠片になって、包囲網を潜り抜けて世界中に散らばり、迷宮と一体化した。

 

 後に、調査をしたり、世界の化身から話を聞いた結果分かったことだが、どうやら邪神は、これ以上は逃げられぬと悟って、己を魔物の魂を循環させる存在と化したらしい。

 個を捨てて星の中心と一体化し、力が消えるその日まで魔物を生み出し続ける装置になったと。最期の最期まで人への憎悪を元に行動し続けたようだ。

 

 ……だから、きっとこれからも、魔物の被害は出続ける。また、邪神が他に何も悪意を残していないとも思えない。

 しかし、邪神そのものは消えたようで、世界は良い方に向かっている、と言ってもいいのかもしれなかった。

 

 ◆

 

【邪神が残した影響はまだ未知数だし、迷宮についても調査は必要だよ。でも邪神が確かに消えたことは、間違いないの】

「……はい」

【……その、それでね、分体のみんなで話して……しばらくして、落ち着いたら、もう少し自由にしてもいいんじゃないかってことになって】

 

 ……自由に、とは? とコノエが首を傾げる。

 すると神様は何故か、目を泳がせて、ぶつぶつと呟き始めた。

 

 私、少しズレちゃったし、とか、まあすぐに元に戻ったけど、とか、でも、あの時のことはもう忘れられないし、とか。よく分からない感じのことを。

 そして、役目を放棄するわけじゃないけど、でも……なんて、神様は呟いて。

 

【……少し自由になれたらね、私……その】

「……?」

【えっと、あなたの功績があればね、きっと、()()、その…………】

「…………はい」

【…………】

「…………」

【………………な、なんでもない】

 

 しばらくの沈黙の後、そう言って、神様は顔を赤くして俯いた。

 そうして……。

 

【……あのね、本当のことを言えば、私にもよく分かってないの】

 

 ……ふと、少し落ち着いた様子で神様は口を開く。

 

 自分は、今までずっと変わらなかったのだと。数千年間、変われなかったのだと。だから少し変わった今の自分の気持ちについて、自分自身、理解できない、と、神様はそう言って。

 

【……ああ、でも、でもね。勘違いしないで、嫌じゃないの】

「……はい」

【あのね、私──今、すごく楽しいの】

 

 神様が、にっこりと笑う。

 コノエはそんな神様に……よくわからないけれど、楽しいのならいいのかなと思った。

 

 神様が笑ってくれているのなら、それで嬉しい。

 今も、かつても、コノエはずっとそうだった。

 

 なので、コノエがそんな感じのことを伝えると、神様はまた少し、頬を染めて。

 

【……え、えへへ。…………え、えっと……そ、そう、呼びに来てくれたんだよね? じゃあそろそろ行こう?】

 

 ◆

 

 ──そうして、コノエと神様は執務室を出る。

 二人並んで、最上階から階段を下りていった。

 

 目的地は、学舎と研究棟の間の中庭だ。ベンチがあった場所。

 そこにちょっとした屋根と結界が設置されている。

 

 階段を下りる途中の窓からも見えて、テルネリカ、メルミナ、フォニアの三人に、教官、マイコ、教官の秘書さん。あと何人かの知っている顔があった。

 

 ──今日の予定。それは、ちょっとしたパーティーだった。公的なものではなく、身内だけが集まっているパーティー。

 まだ全てが片付いた訳ではないけれど、それでも、今回の成果と無事を祝ってのもの。

 

「…………」

 

 コノエは、階段を下りながら、集まった面々を見る。

 ……ここにいる皆とも、戦いの後、色々とあった。

 

 ◆

 

 ──それは、天蓋竜との戦いの直後の話だ。

 

『コノエ様』

『コノエ』

『……コノエ』

 

 コノエは戦いの後、すぐにテルネリカ、メルミナ、フォニアの三人に会いに行った。会って、話をした。出発前、伝えたいことがあると言ったように。

 

 コノエは、三人にそれぞれ全力でお礼を伝えた。感謝して、好きな所を言った。

 ……すると、三人全員から──その、気持ちを伝えられて。

 

 驚いて、とても嬉しくて。でも僕なんかがと思う気持ちが、どうしてもあった。

 しかも普通二人のはずが四人になっている。

 

 ……だから、長く四人で話し合った。真剣に向かい合って。

 その結果、十日くらい前から屋敷にメルミナとフォニアの部屋が出来ていたりもする。

 

 ──また、それ以外にも色々とあった。

 色々と片付いて、少し時間が出来た後、コノエはテルネリカと街へ家具を見に行ったり、フォニアと神都の観光をしに行ったりした。そして──。

 

『……メルミナ、例のお願いについてなんだが』

『…………!!』

 

 そして、メルミナにはついに、例の何でも一つ言うことを聞く、というお願いを伝えた。

 だいぶ遅れてしまったけれど、コノエがメルミナにお願いしたのは──。

 

『──これからも、君の作った料理が食べたい』

 

 それが、コノエの一番の願いだった。それが、コノエの一番大切だった。

 ……まあ、メルミナは、そんなのでいいのかと言っていたけれど。

 

 でもコノエは──。

 

『──上手く言えなかったけれど……僕は、ずっと、君の作る料理が好きだったよ』

『────』

 

 本当は、メルミナの作る料理が、好きだった。訓練生時代、野営地で食べた鍋料理があった。何度もレンガ保存食を取り上げられて、代わりにと料理を差し出してくれた。いつかの汚染地で、夜の鍛錬のときに食べたミートパイもスープも、本当においしかった。

 

 コノエはずっと上手く言えなかったけれど、いつもメルミナの料理好きだなあ、って、すごく美味しいなあって思いながら食べていた。だから。

 そうしたら、メルミナは頷いてくれて。これから定期的に料理を作ってくれることになった。

 

 ◆

 

(……本当に、色々あったな)

 

 コノエは、一歩一歩歩きながら、改めて思う。この六十日は私生活の面で激動だった。

 三人との関係については、こんなの許されるんだろうかと今でもよく思う。しかし、嫌なのかと言えば、そんなことあるはずもなくて。

 

 ……教官から何か言いたげな目でじっと見つめられた時は、胃が痛くなったけれど。でも、数日前に今度絶対一緒にお酒飲もうね、と誘ってもらえたので、今は安堵していたり。

 

「…………」

 

 ──そして、そんなことを考えている間に、学舎から中庭に下りる。すると、集まっていた皆の視線がコノエと神様の方を向いた。

 すぐに、テルネリカたち三人が近づいて来る。

 

【……私も、きっといつか、あの娘たちみたいに】

「……え?」

 

 と、そこで神様がポツリと呟いた。コノエが聞き返すと、神様は【ううん、なんでもない、今はね】と言って──。

 

 ◆

 

 ──コノエと神様は、会場へと入る。教官からのちょっとした挨拶があって、乾杯をして、パーティーが始まった。

 

 身内だけが集まっているので、堅苦しいことを抜きにした時間。

 

 思い思いに会話をして、食事をして。

 机には様々な料理が並んでいて、見ているだけでも楽しいくらいで。

 

 メルミナの新製品があったし、フォニアがアーキノルカから持って来た特産品があった。

 あと、いくつか妙に美味しい料理が混ざっていて、それが、教官が作った料理だったりもして。やっぱり教官って何でもできるなと頷いて。

 

 ……それと、会場の一角に、いつかの綿菓子製造機を置かれていたりもしたか。

 百五年前のコノエが作ったものだ。今神国で出回っている物の方が精度は良かったが、神様が是非と。

 

 事前に少し練習していたコノエが作って「……美味しいと、いいんですけれど」と神様に差し出す。すると神様は目を見開いた後、なんだかすごく嬉しそうに笑って、受け取って。

 見ていた他の皆にも求められたので、作って、配って──。

 

 ──

 ──

 ──

 

 ──のんびりとした時間が過ぎる。穏やかで、温かい時間。

 

【──ねえ、コノエ】

「……はい」

 

 コノエがぼうっと皆を見ていると、神様の声がコノエに届く。

 神様の温もりが心の奥に触れた。

 

【その、ね。実は、もう少し自由になったら、分体がそれぞれの名前を持とうって話になってるの】

「…………?」

 

 何のことかと思ったら、聞くところによると、今までは信仰を偏らせないために、分体の名前をあえて付けなかったらしい。でも今回近しい人だけなら良いんじゃないか、ということになったようだ。

 それで、名前は各々が決めることになったそうで……。

 

【私はね……イリスって名前にしようと思うの。どう思う?】

「……とても良いと思います」

【ありがとう。じゃあ、いつかあなたもそう呼んでくれる?】

 

 コノエが喜んで、と言うと、神様は嬉しそうに微笑んでくれる。

 そんな神様に、コノエも自然と笑って──。

 

「…………」

 

 ──ふと風が吹く。心地いい風。コノエはそれに、目を細めた。

 

 空を見ると、快晴だった。清々しい空。

 気持ちが良くて、コノエは空に向かって、やっぱり好きだなと呟き。

 

〈────〉

 

 …………思う。異世界に来て、色々とあった。

 十年と二十五年。転生はきっかけだったけれど、それ以上でもそれ以下でもなくて、その中で色んな人と出会って、気付けば共に歩んでくれる人が出来て、そうして今がある。

 

 周りには、笑っている皆の姿。目の前の光景が何よりも嬉しくて、楽しくて。ずっと続いていくように頑張りたいと思う。

 

 ……そして、そう思えたことが、コノエは、何よりも嬉しかった。




これで全五部に及ぶコノエ君の物語は完結です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。コノエ君の日常はこれからも続いていきますが、物語としては、一旦ここで終止符を打たせて頂きます。
全部で173話。ここまでたどり着くことが出来て、今は只々安堵するばかりです。最後まで走り切れて本当に良かった……。それもこれも、読者の皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。いやもう、本当に良かった。

これからの予定ですが、まず来週の月曜に登場人物紹介を投稿し、さらにその一週間後にカクヨムサポーターで投稿していた短編を載せようと思っています。
そのあとは、ちょっと休憩を挟んでの後日談ですね。中編を幾つか投稿することになると思います。最初は多分マイコ編かな……?

また、完結したので、よかったら感想とか評価とかここ好きとか貰えると嬉しいな……本当に嬉しい……お願いします!
あとXでアンケートしますので、そっちも! 来てくれる人が少なかったら、作者の酒の量が増えます。

それでは最後に。みなさん、ここまで本当にありがとうございました!

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