転生超越者は胸の穴を埋めたい(書籍版:転生程度で胸の穴は埋まらない) 作:ニテーロン
時系列は第四部後、第五部前です。
(※現在カクヨムサポーターにギフトのお礼として短編を先行公開しています。先行公開です。今回の短編のように、一定期間後に全て本編か活動報告で全体公開します。なのでサポーターにならなければ読めない短編はありません)
それは教官の少女化から始まった一件が終わってしばらく経った頃。
ちょっとした用事があって、コノエが学舎に足を運んだ時のことだった。
「──おや、コノエではないですか」
「……? ……ああ」
ふと、後ろから声を掛けられて振り向くと、そこには知っている顔があった。
二十代後半くらいの外見の、線の細い優しそうな顔をした男。アデプトだった。
「……指導官、お久しぶりです」
「もう君の指導官じゃないですけどね。お久しぶりです」
彼は、訓練生時代コノエが何度もお世話になった指導官だった。
神都から遠く離れた街の領主で……しかし、少し特殊な固有魔法──空間系の力を持っているため、模擬戦相手として偶に教官に呼び出されていた人だ。かなり強くて、縦横無尽に転移したり、届かないはずの攻撃が伸びてきたり、こちらの攻撃をそっくりそのまま返してきたりとコノエも散々ボコボコにされたものだった。
また、穏やかな雰囲気だが、気さくな人でもあって、昔からコノエに色々話しかけてくれていた。それなりに長い付き合いなのでコノエもあまり固くならずに話せる相手だった。
「コノエ、色々聞いてますよ。魔王殺しに教官の救出。凄いじゃないですか」
「……はは、その、なんというか」
「うちの街でも君の話題で持ちきりですよ。酒場では君の歌で盛り上がってます」
「……えっ歌?」
歌って何? いつの間にそんな物が? と目を見開くコノエに、男は肩をポンポンと叩く。そして、少し時間があるのでお茶でも飲みながら話をしませんかと学舎内の喫茶店を指さした。
「今、私はアーキノルカへの出国手続きの事務作業待ちでして。時間があるなら付き合ってくれると嬉しいです」
「……それは……うん? アーキノルカ?」
コノエは色々困惑して……しかし、ふと、よく知っている名前が出てきて反応する。
男を見ると、彼は少し嬉しそうな顔をして。
「実は、うちの竜人の嫁がついにこの度妊娠しまして。アーキノルカに里帰りすることになったんです」
「……ああ」
そんな言葉にコノエは、そういえばこの人、竜人とも結婚してるとか言ってたな、と思い出す。
そして、妊娠と里帰りという言葉に、そうなるだろうなと納得もしつつ。竜人の赤子は高度数千メートル級の山の上でしか育つことが出来ないからだ。里帰りしなければ生まれた子が死んでしまう。
……なお、竜人『とも』結婚している、というのは、この人の奥さんが沢山いるからだった。
彼は、ハーレムの主である。それも超巨大な。世界でも有数の規模の。
柔らかい物腰からは考えられないほどの無類の女好きであって、奥さんは数十人、子供は数百人……下手したらもっと居るとコノエは聞いていた。人数が多すぎて神都では暮らし辛くなり、自分で街を造って、超巨大ハーレムを形成したとかいう伝説持ちの人だった。巷ではハーレム王と呼ばれているらしい。世界中に名を轟かせ、男たちから尊敬の目を向けられていると聞く。
……まあ、ともあれ。
話はズレたが、そんな彼のハーレムの一人である竜人の人が今回妊娠して里帰りをすることになった、と。そういうことらしい。
「彼女一人アーキノルカに帰して放っておくわけにはいきませんし、私も彼女に会いたいですからね。私はしばらくの間、神国とアーキノルカを往復することになります。それで今、その手続きをしている訳です」
「……なるほど」
「……本当はずっと近くに居てほしいですし、里帰りなんてさせたくないんですが、子供の命には代えられませんからね」
男は、しかたない、と溜息を吐く。
そして、顔を少し歪め、頭をガリガリと掻いた。普段の彼があまりしないような仕草だった。
「実は街の傍に山を造る計画も考えたんですが、流石に数千メートル級の山は造れなくて……」
「……それは、そうでしょうね」
「森や海は街の中に造ったり、海岸線を変えたりでなんとか出来たんですがね……」
「…………」
……森や海を造った、といえば、それもこの人の伝説の一つだった。
この人の街には、異種族の奥さんや子供のために造られた森や海があるらしい。他にも淡水の湖や、大きな岩山、地下の大空洞まで。
これは種族ごとに住みやすい環境が異なるからだ。
竜人は山の上が暮らしやすいし、エルフは森の加護が篤いので森の傍が暮らしやすい。ドワーフは山の近くが過ごしやすいらしいし、水棲系の種族は水が無ければ生活が出来ない。その他の異種族にもそれぞれ暮らしやすい環境と暮らしにくい環境がある。
それをハーレムメンバー全員分揃えたのが、ハーレム王たる彼の街だった。
ちなみにあまりに多種多様な環境をそろえた結果、彼の街は、どの種族でもゆっくりと楽しめるリゾート地になっていたりするらしい。
「…………」
……コノエは、目の前で「千メートルの山でいいんなら、ギリギリなんとかとかなりそうだったんですが……」と呟いている男に凄いなぁと思いつつ。
一歩離れた場所から、他人事のように見て……。
「む、コノエ。あなた今私のことを他人事みたいに見てましたね? いけませんよ。あなたも考えないと」
「……え?」
「あなたも、ハーレムを作るのでしょう?」
「……ぁ」
コノエはそれに、そういえばこの人は知っているんだった、と思い出す。惚れ薬奴隷ハーレム。一部の人は知っている、コノエが最初に目指したものだ。
というか、彼がコノエによく話しかけてくれるようになったのは、それを知られてからだった。
「人間だけのハーレムを作るつもりならいいですが、異種族の嫁を貰うなら安心して暮らせる環境を作らないと駄目ですよ」
「……その、ええと」
諭すように男が言う。しかしコノエの中では既にハーレムに対する心境も変わっているので、何と返事をしていいか困り、言葉に迷って……。
「たとえば、の話ですが……エルフの嫁、それも貴族なら血が濃いでしょうし、街の中で子供を育てるのなら庭に力の強い樹の数本は欲しいですからね?」
「…………え?」
「あとは……たとえばドワーフなら、普通の血筋でも山の神を祀る祭壇を置いた方が良いですね。子供の夜泣きが減ります」
「…………」
コノエは驚いて、男はそんなコノエの肩をニコニコと笑いながらポンポンと叩く。そして、近くの喫茶店を指さして、「ま、折角ですし、その辺りの話をしましょうか」と言う。
コノエは、促されるままに店の中に足を踏み入れて──。
──
──
──
──しばらくの話の後に。男はそろそろ時間です、と去って行く。
色々話を聞いて、呆然としたコノエだけが、喫茶店に一人残された。
「…………」
聞いた話を反芻しつつ、妙にぐちゃぐちゃとしている頭を抱えながら、テルネリカが待つ家へ向かって歩き出して……。
◆
……その後、それほど間を置かず、天蓋竜の襲撃が起き、一旦コノエの頭からこの一件の記憶は消える。
そうして、騒動が落ち着いた頃に、コノエはもう一度今回の問題と向き合うことになるが……それは、また別の話。
次はまだいつになるか分かりませんが、数か月も空くことは多分ないと思います。
そのうち戻ってくるのでまたよろしくお願いします。
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